泣けない魚たち (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 101
レビュー : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062760904

作品紹介・あらすじ

僕とあいつだけの、秘密の場所がある

僕にザリガニの味を教えたのは、6年生の春に転校してきたこうすけだった。クラスの誰ともしゃべらないこうすけと僕の間には、2人だけの秘密があった。ひと夏を共に過ごし、成長する少年たちの姿をみずみずしく描く表題作ほか2編を収録。坪田譲治文学賞、椋鳩十児童文学賞をダブル受賞したデビュー作。

感想・レビュー・書評

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  • 小学生と川と魚と、そして大人の紡ぐ物語。短編3篇。
    YAというカテゴリーから選んだ一冊だったが、YAというよりはむしろ大人向けのような気がした。
    それは、作者の小学生時代の思い出が色濃く反映された内容だからだろう。
    矢作川。懐かしい川の名前でまずオオとなり、昭和の小学生の描写に、郷愁と懐かしさを感じる。実際には、自分はその年代よりは少し後年に育っているのだが、昭和の気配は僅かながらに覚えているので、ああ、あの時代ね、と知りもしないのにやけに時代を感じながら読んだ。

    1篇目の「かいぼり」では、かいぼりという一網打尽系の魚とりと、町長の家から南京袋を盗むという悪事に内心ドキドキしながら読み進めたが、最後の終わり方は意外。三木卓さんの解説の「やはり町長は町長」という一言に尽きる。特に自然破壊やら都市開発やらに言及をしているわけではないが、時代とそれらの流れで起こった一連の出来事が頭の中を駆け巡る。私が小学生時代を過ごした田舎町も、数年前に20年ぶりに訪れたら、栗を拾いツタでぶらんこをした林は綺麗になくなり、池はなどは跡形もなかった。私が小学生の時でさえ、池のほとりに魚が大量死していることがあった。そういう時代の変化を、とても感じる作品。

    2篇目の「泣けない魚たち」は表題作にもなっているが、とても心に残る作品。「ぼく」と転校生のこうすけが、二人だけの秘密の場所で友情を育む。そう言ってしまうとそれまでだが、この瑞々しく繊細な感覚は、読んでみなければ味わえない。「ぼく」の小学生らしく素直でまっすぐな性質と、こうすけのキリキリと研ぎ澄ましたような空気が心地よく、お互いに必要とし馴染んでいく様がまた心地よい。
    川や魚釣りを中心に話は進んでいき、私は魚釣りや川遊びにそこまで熱心だったわけではないので、そういうものに深く共感が出来たわけではないが、それでも河童淵の水や隠れ家の様子、川魚の姿を想像し、楽しむことは出来た。
    子どもにしかわからない、大人は敵、というスタンスでないことも嬉しい。作中ゴジラというあだ名の担任教師が、こうすけとぼくの工作(石斧と鳥の巣)を「気に入ったからどうしてもほしい」と言ってもらい受ける場面などとてもよかった。大人でも、分かってくれる人はいる。そういう人が出てくる作品は、1人の大人として単純に嬉しい。
    こうすけからのはがきはすでに角が丸くなっている。どれだけ読み返しただろうか。胸が熱くなる。

    3篇目の「金さんの魚」も心に残る話。
    こちらは1、2作目とは少し様相を違え、戦争の記憶が出てくる。正直、私は昭和生まれながら、直接戦争を感じるような出来事、人、物に出会うことなく、(実際には出会っているだろうが、それを深く聞く機会を持てなかった)今日まで来てしまった。金さんの満州は…。結末に、ショックと切ない思いが隠せない。だが、金さんは金さんのままである。初めて金さんと出会った時に味わったトマトの味が夏の記憶を包み込む。

    良質な3篇のお話だった。

  • この表紙はいいなあ。最近表紙の話しばっかりしていますが、この写真だけでもジンとしてしまいます。昔はいつも川や田んぼで泳いでいました。魚を釣り、虫を取り、ザリガニを取りいつも何かにワクワクして過ごしていました。昔は中野区の辺りも虫が沢山居たし、夏休みは千葉か埼玉の親戚の家に入り浸っていたので、日夜生き物の捕獲に勤しんでいました。
    この本も基本は川と少年たちの話しで、友情と魚の話しに終始します。これが何とも瑞々しい文章で、この人心に小学生がきっちり住んでいるなと、その小学生の心情を大人がいい文章で形にしてくれているという風情です。
    いいよいいよ本当にいい。大事に取っておいてこっそりまた読もう。これは児童文学じゃなくて、おっさんホイホイ文学ですよ。子供の頃に戻りたいなんて全然思わないけれど、思い返せば暗黒と思っていた子供時代にもきらきらした想い出はありますね。

  • 自分が育ったすぐ近くの話。
    妙に親近感。

  • D坂文庫。秘密基地!矢作川!

  • 【あらすじ】
    僕にザリガニの味を教えたのは、六年生の春に転校してきたこうすけだった。
    クラスの誰ともしゃべらないこうすけと僕の間には、二人だけの秘密があった。
    ひと夏を共に過ごし、成長する少年たちの姿をみずみずしく描く表題作ほか二編を収録。

    坪田譲治文学賞、椋鳩十児童文学賞をダブル受賞したデビュー作。

  • 川とともに少年は成長していきます。
    そして大人の世界も垣間見るのだなあ。

    夢中になって遊んでいるのがいいなあ。

    ざりがには、そういえば食べてはいけないといわれていた気がする。
    でも作者が言うように、きっとそれなりにおいしいのだろう。
    犬を食べる人もいるくらいだから、試せばなんでも食べられるのかもね。

    2012/05/31

  • 2012/10/25 読了

  • 川遊びする少年たちの3つの物語。まだ戦争の影が色濃い昭和の時代だけど、子どもたちは生き生きとして逞しい。かいぼり(川の一部をせき止め水をくみ出して魚をとる)や幻の魚サツキマス、巨大な草魚を釣るシーンにたちまち引き込まれた。ときにほろ苦いストーリーに胸がつまった。小学校高学年から大人まで。

  • 2011/12

  • 僕にザリガニの味を教えたのは、六年生の春に転校してきたこうすけだった。クラスの誰ともしゃべらないこうすけと僕の間には、二人だけの秘密があった…

    P124「おれもさ、聞いたことがあるんだよ。『毎日毎日、川を見て、毎日毎日、魚のことばかり考えていれば、わかるようになる』ってさ」

    P145「先生は魚のどこが好きなの?」
    「どこって・・・すべてだな。よし、さとる。いいか、質問だ。魚は泳ぐとき、どこを見てる?」
    「うーん、上流だな」
    「そうだ。魚はいつも上流をにらんで泳いでいるんだ。そこが、いいな。それに、止まっているときでさえ、流れの中では、泳いでいるんだ。わかるか」
    「なんとなくわかる」
    「そうか、よしよし。それに魚は、眠っている時でさえ、目を閉じないんだ。きっと、なにかを見てるんだ。わかるか」
    「むずかしいな」
    「そうか、さらに魚は、実に機能的な携帯をしている。ナマズもウナギも、メダカもフナも、みんなわけがあってあんな形をしているんだ。なにしろ、人間の祖先だからな。そういったすべてに、魚の魅力を感じているのさ。わかるか」
    「よくわかんない」

    P151「すごいな。やっぱり川漁師だよ。サツキマスの生態を、こと細かに話してやったんだが、しっかり聞いたあとで、あいつ、いうんだよ。本に書いてあることはいいから、先生が、川で観たことだけ聞かせてくれってな」


    矢作川
    長良川

    サツキマス

    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%BF%E9%83%A8%E5%A4%8F%E4%B8%B8

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著者プロフィール

1960年愛知県生まれ。名古屋芸術大学を卒業後、幼稚園絵画講師、書店店長などを経験。『泣けない魚たち』で第11回坪田譲治文学賞・第6回椋鳩十児童文学賞をダブル受賞、『ライギョのきゅうしょく』が2000年全国読書感想文コンクール課題図書に選ばれた。『オタマジャクシのうんどうかい』で第14回ひろすけ童話賞を受賞。『オグリの子』は、NHKでドラマ化された。

「2018年 『ゲンちゃんはおサルじゃありません』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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