- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062879606
作品紹介・あらすじ
ヤマトタケルの神話、僧侶と女装の稚児の恋、歌舞伎の女形、江戸の陰間茶屋、夜の新宿ネオン街…"女装"を抜きに日本文化は語れない。
感想・レビュー・書評
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キワモノ系の本かと思って読んだら、かなりアカデミックな内容で驚いた。著者は、戸籍上は男性で、M t F のトランスジェンダー(性別越境者)で、社会・文化史研究家。日本最初のトランスジェンダーの大学教員となった。
本書は、「古代から近代までの日本の歴史の中の現れる女装に関するさまざまな事象を取り上げ、社会・文化史的に説き明かすとともに、現代における女装コミュニティや性別認識を分析し、さらに世界の女装文化の比較文化論的位置づけにまで及ぶ。日本初の女装に関する専論書として井上章一、原武史、松岡正剛など知識人・読書人の評価が高く、現代風俗の領域での独創的な研究に対して授与される第19回(2010年度)橋本峰雄賞(社団法人・現代風俗研究会)を受賞した」(Wikipediaより引用)。
LGBTへの偏見差別は、明治中期以降に欧米文化(特にキリスト教)の影響というか、導入によるもの。明治初期までは、日本ではLGBTに対して「おおらか」な社会であった。変態(ヘンタイ;変質者とかいわれる)は、大正期に翻訳された「変態性慾心理」に由来していることがわかった。
そして、あとがきにあるように、性別を超えて生きようとすることを社会悪とした19世紀以来の欧米の精神医学、この基本思想がいまだに息づいていること。「変態性慾」、「異常性欲」、「性的逸脱」、「性同一性障害」と名称こそ変えてきたものの、あいまいな性の存在を許さない性別二元制と異性愛絶対主義が今なおはびこっている。
本書の巻末には多数の参考文献が掲載されており、勉強になること請け合い。いわゆるLGBT法案に反対したり、危惧したりしている議員さん達には、ぜひとも読んでいただきたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
女装したヤマトタケルのクマソ討伐の逸話にはじまり、江戸時代の陰間・女形、明治以降の近代化と女装に対する世論の変化、そして新宿のコミュニティに代表される現代の女装文化の発展など、自信も女装家であり性社会史研究者でもある著者が日本の”女装史”を紐解いています。写真・新聞記事・絵画など図版も豊富で、わかりやすい一冊です。”女装”という隠された日本文化について、手軽に知ることができる良書。
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一冊の中に神話の時代から現代までぎっしり内容が詰まっていて面白い!日本は異性装に寛容であったことが歴史からよくわかる。
明治の戸籍制度の始まりによって女装した男性が男性と共に生活していくことができなくなったというのも納得だった。 -
分厚いので今まで拾い読みばかりしていたのですが、今日ふと最初から最後まで読み通したくなって読んでみました。
「ザ・日本女装史!」って感じの力作。加えて、「トランスジェンダー当事者の目線から紡いだ日本女装史」となれば、もはやこの本が最初にして最高傑作かもしれません。
三橋先生の場合はやはり「女装者を生きた人だなぁ」とページをめくるごとに感嘆が漏れます。
特に女装している時の感覚をすごく細かく詳しく描かれているところは、とてもうなずけるというか共感できるところが多い。
ライフヒストリーもなかなか濃いどころじゃなく、ガチの歴史的瞬間の証人みたいな場にもしっかりおられますからね。そうでなくても、踏んできた場数の多さと豊かさはすごく読んでいて圧倒されます。所々出てくる日常会話の引用を読むだけでも、素早く頭を回転させて機転が利いた返しが出来る人だなぁと。
とにかく、ただただ尊敬です。私からすれば大先輩ということにもなるので、読みながら「はい、はい」とつい改まってかしこまりながら聞く感じになりました。 -
2008,三橋順子,「女装と日本人」講談社現代新書
日本で、古代よりどのような場面で、どのような人が女装を行ってきたか、社会はそれを、どのように受け止めていたか、というところが序章。そこから、近世、近代、現代と時間をたどっていく。
勉強になったのは、西欧諸国以外の世界では、かなり女装の男性が活躍している、ということ。西欧では、宗教(キリスト教)によって異裝者が弾圧されてきた、ということ。日本の古代は広く女装(異性裝)が行われてきたが、明治期以降の西欧医学の導入で、「変態性欲」とみなされ、「風紀を乱す」として規制され、アンダーグラウンド化した、ということ。とくに、異性裝者(もしくはホモ・セクシャル)に寛大だと思っていた西欧社会に対する認識は、180度変わった。
こうした歴史の流れを本書に沿って読み進むと、確かに筆者が豊富な経験をもとに主張するように、男性・女性の2元論は極端に見える。とくに、「男性が表現する女性の妖艶さ」という表現には、異性裝者に間近で遭遇した経験もないのに何故か納得できた。
コミュニティによって、あるいは、共同幻想によって性別が規定される、という視点も興味深かった。「あなたが男性なのは分かっているけれど、俺にとっては女」という、女装者とともに、対峙者も一緒にトランスジェンダーする、という認識には始めて触れた。
「曖昧な性」という、終章での著者の思想は、本書を読むまではおそらく極論に見えた。しかし、本書を読み終えた後ではそうはいかない。男/女を極めて強力に規定する社会の極端さがはっきりするからだ。 -
女装を歴史観点からと著者本人の観点から見た本。
卒論の参考にもさせてもらったけど、扱わなかった部分のほうが面白い。
は~、みんなこうやって女装してるのか…。
著者本人の写真も結構載ってて実感する。
んで、最後のほうに書いてあったけど。
著者は自分のことを「性同一性障害」ではなく「あいまいな性」としている。
女装するけど性転換手術も戸籍転換もしない。
無理やりどちらかにつくんじゃなくて、中間地点を選んでる。
医者側からすれば「中途半端な君を治してあげようと
せっかく手を差し伸べてるのに拒むなんてばかなの?」というのは
ただの押し付けであって「偏見・差別」なんだと。
自分の考え=他人の考えではないのだ。 -
日本のなかで広く容認されている、女装者の姿に迫った本。
ニューハーフが外を歩いても安全なのは、日本とタイだけだそうだ。
それを歴史的背景から説いており、とても興味深い内容になっている。
なにより著者自身が性的越境の女装者なので、一つ一つに説得力もあり、体験談も楽しく読める。 -
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神話から現代までMtFを中心に丁寧に解説された本。少し古い書籍ですが、楽しめました。
なんで興味を持って読み始めたかは覚えてないんですが、まあ現在LGBTQをはじめ様々な議論が巻き起こっている世界なんでね。
この本を読んで感じた雑な感想で言えば人間の認識や常識、価値観なんて簡単に変わるんだなぁってことですね。まあ日本は昔はすごかった!とかいう気はまったくないんですけども。西欧文化って強い。 -
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