日本経済の奇妙な常識 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881289

作品紹介・あらすじ

増税の前にできること、あります。人気エコノミストによる新しい日本経済論。

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。2004年に日銀は大幅な市場介入をし、円安を守っている。円を安くするため、円で米国債を大量に買う。アメリカはその国債で赤字財政を続けられる。以前はコモディティ(資源)の先物は国債とあまり関係なく変動していたため、暴落時のリスクヘッジとして使われるようになった。それが一般化するとコモディティの価値がファンドの価値とリンクするようになってしまい、リスクのヘッジにならない。
    世界的なカネ余り、資源の高騰、アメリカの大きな赤字国債から発生しているのだが、それを買っている責任の大きな一端が日本にもあったとは、知らなかった。。

    ・日本や中国のように「経常収支が黒字の国」が稼いだ外貨をグローバル投機の原資として供給し、アメリカのように「経常収支が赤字の国」が(国債発行により)お金の借り手となる。ドイツを除外した上で一国で大きな比重を占めているのは中国、日本、アメリカだけ(ドイツを除外するのは、ユーロ圏全体のマイナスの規模がドイツのプラスと同程度のため)。

    ・まず日本は、量的には「貿易依存度」が低い事を知るべきです。特に輸入依存度が世界有数の低さです。輸入依存度は、国内のフローの経済活動規模を示すGDPを分母、同じ期間のモノとサービスの輸入額を分子として計算されます。原油価格が1バレル100ドルを超えた2008年には17.4%まで高まりました(ただし、翌2009年には12.3%に下落しています)。それでもなお、20%を下回る輸入依存度は、世界では有数の低さです。日本より低い事がある国は、ブラジルとアメリカぐらいしかありません。参考に2009年の先進諸国の輸入依存度を比較すると、日本12.3%、アメリカ14.0%、イタリア24.3%、フランス25.0%、イギリス30.1%、カナダ30.4%、ドイツ35.9%、スウェーデン41.9%となっています。

    ・1990年から1998年の資源価格は輸入物価が7.1%の下落に平均の輸入依存度8.2%を掛けて輸入物価による国内物価への影響はマイナス0.6%です。それなのにこの期間に国内物価は6.2%上昇しています。
    次に1998年から2008年の10年をみると輸入物価が26.9%上昇し、平均の輸入依存度12.1%をかけるとプラス3.3%です。ところが国内物価はこの10年で14.5%も下がっています。なんらかの国内要因が17.7%も物価を下げたのです。
    問題は、資源価格が高騰している時期に、たまたまそれを打ち消すような日本国内の要因があったというわけではなく、国際的に資源価格が高騰したからこそ、日本国内で激しいデフレ要因が生じた、という点です。
    「2008年中小企業白書」を見ると、6割前後の中小企業が原油価格上昇を価格転嫁できていないと答えている。1~20%と答える企業も3割弱、半分も転嫁できていない企業が9割です。中小企業は日本の企業数の99.7%を占め、日本の雇用者の69.7%を占めます。
    原油価格が何倍にも跳ね上がった中で価格に転嫁できない6割の企業は、いったいどうやってコスト上昇を吸収しているのか。その基本的な方法は、労働者の賃金カットしかありません。実際に賃金指数というデータを見ると、1998年を100として2009年までで6.5%も下落している。

    ・おおまかに見て1989年から2007年までアメリカの労働者は年平均で4%程度の賃金上昇を得、消費者物価は年平均3%上昇しています。ところが日本では1990年台後半から賃金の変化が消費者物価に負けるようになります。デフレで消費者物価が下落するようになった2000年以降は、物価下落よりも大幅に賃金が下落している。

    ・日本で中小企業の労働者の賃金引き下げによるコスト吸収が行われやすいのは、日本の労働組合が欧米型の職能型組合ではなく、企業別組合であることが原因の一つです。

    ・アメリカ連邦政府の債務残高は2011年5月に14兆2940億ドルに達しました。ざっくり15兆ドルとして、アメリカ政府内。アメリカの民間、アメリカ国外で5兆ドルずつ保有しており、アメリカ国外分で日本と中国が約1兆ドルずつ持っている。外国為替市場では二営業日後に通貨の受け渡しを行う「スポット」取引でかつ片方が米ドルとなる取引だけを見ても1日に1兆1877億ドルが取引されている。

    ・ビッグマック購買力平価でみると2011年の日本円は1ドル=78.7で、実際値が78.4円のため、ほぼ適正。20年も経てば円ドル共に、過去と実質価値が全く違うので、「戦後最高値」かどうかで大騒ぎするのは、馬鹿げている。

  • お金
    経済
    社会

  • 経済は難しいので、筆者の主張が全般的に正しいのかどうかわからないが、国内需要の緊縮は労働賃金の減少であるとは思う。また、「デフレの正体」で言っているように労働人口の減少であることも正しいのではないか。財政破綻を想定したプランを立てるべき、という主張は、今の政治家では無理だろうな〜。

  • 私の力では、本書の内容を正確に要約することもできないし、筆者の見解を検証しながら読むこともできない。
    でも、ここに書かれていることは衝撃的だった。

    日本の稀有なデフレ期は、日銀=日本政府の過度な円安誘導のためであったのか。
    国際金融論の見地からはそうなるのね…。
    そして輸出産業は潤ったものの、内部留保だけが増え、社会にお金が回ることはなかった、と。
    その一方で、多くの企業(中小企業)は価格転嫁を悪とみなす風潮に逆らえず、人件費の切り下げでの対応を余儀なくされ、国内の経済格差は拡大した、と。

    自分自身もみてきたことがパズルのピースのようにはまって、絵が見えてきたような感じがした。

    最後の提言は、なかなか過激。
    「出社が楽しい経済学」の後番組、「オイコノミア」にも、他のNHKの番組にも、この人が出なくなってしまったのは偶然ではないのかもしれない。

  • 2011年刊。

     どこかで名前を聞いたことある著者だな、と思っていたら、メインバンクの立場を利用した中小企業へのデリバティブ取引強要の箇所で思い出した。
     本書は巷に蔓延る経済常識の是非の解読を目的に、広範なテーマをガッツリ叙述する書だ。

     個人的に興味を惹くのは、
    ① 現代でも原油等資源価格の高騰が日本国内の物価上昇を来すのか(現代版石油ショックは真実?)。
    ② 国債等の債券価格に関し、フロー参加者ではなく、ストック参加者(つまり今は購入者として競合していないが、その可能性ある存在)の財産規模と行動を無視できない。
    ③ 日と米の1998年転機説。
    ④ 製造業の立地は生産面ではなく、今もしくは将来に市場拡大が見込める地に移っていっている。
     その中で、労働分配率が下がり購買力の低下している日本には、市場としての魅力が低く。メーカーも立地しない。
    ⑤ 消費者物価指数の下落幅以上の賃金下落という日本の実情。
    ⑥ 21Cにて進展する資源価格高騰を価格転嫁できない中小企業は、生き残りのため賃金減少や解雇を選択(影響度のレベルには疑義はある)。
     その損失を吸収できた大企業との格差拡大。
    などなど。

     なお、本筋とは関係ないが、著者のいう、EB債をして、資力と知識に乏しい消費者や中小企業に対する販売が、刊行当時においてすら続いている事実に驚愕。まだやっているのかだけでなく、メガバンクらの、自らのリスクヘッジの意図と、顧客にリスクテイクさせようとの意図を隠蔽し続けている不実さに加え、プットオプションの売りという危険性ある地位に顧客を立たせること自体、流石に不都合が大きすぎる問題を継続させているのでは、との強い危機感を覚える。

  • 1998年頃から、格差が拡大しはじめた。

    日銀の円高対策(為替介入)と金融緩和が、やりすぎであったため、グローバルマネーの循環を通じて、まわりまわって消費不況を賃金デフレを招いた。

    貯蓄過剰が、グローバル投機の原資となっている。

    世界の為替取引規模から見れば、積み上がった外貨準備はたいした量ではない。

    ストックに注目するか、フローに注目するか。

    アメリカ国債は、ストックの需給で価格が決まりやすい。その結果、ストックが膨大にあるため価格が暴落しにくい。

    グローバル投機マネーが拡大すると、一定の部分はアメリカ国債に向かう。したがって、需要はなくならない。
    コモディティも、株式と連動するようになった=コモディティの金融商品化。

    リスク管理の徹底が、暴落リスクを高める=損切りによって暴落が加速する。
    連続下落の最中だからこそ、暴落する可能性がある。

    EB債で、リスクを金融機関外に押し付ける。

    ビッグマック購買力平価。

    現代は既に通貨戦争に入った。その口火を切ったのは、日本の円高対策(為替介入)と低金利。

    日本の中小企業構造、職能別ではなく企業別の組合、などによって、中小企業の賃金引き下げによるコスト吸収が行われやすい。

    米ドルが基軸通貨、というよりもアメリカ国債が基軸通貨になって、アメリカに資金が還流している。
    アメリカ国債が大量発行されても、受け皿があるので暴落しない。

    今の世界経済は、生産力ではなく消費力、で経済力が決まる。
    生産は、消費が増えれば他国からやってくる。

    労働者の賃金をあげる=製造業ではなく、サービス業から。

    国債の多様化で、政府資金調達を図るべき。

    日本の国債のストックは金融機関が66%。だから、日本国債を売れない。

  • 表題ほど突飛な内容ではない。最近の2011年までの日本の経済状況は、1998年(頃)を境に大きく変わったと説く。また、円高対策と金融緩和が不十分なのでデフレになったのではなく、それらのやりすぎがデフレを招いていると主張している。これらのために、70ものグラフや表を用いている。そのため、斜め読みには適していない。難しい理論が出てくるわけでもないし、債券や為替の基本的な仕組みについての丁寧な説明もあるので、経済に興味があってもっと知りたいけど、どこから手をつければいいのか?と悩む経済初心者には、これなんかどう?と薦めていい本だと思う。理解しながら読めばいい勉強になるだろう。

  • 吉本さんの本は基本的に当たりが多い。
    この本も目からウロコ的な内容が色々と。

    (内容メモ)
    デフレ対策として日本政府や日銀が行った経済政策の副産物としてグローバル投機マネーが育ち
    →投機マネーが米国債や資源に向かう
    →米の財政赤字増大&資源高騰

    新興国の成長により資源高騰との意見があるが、世界全体で原油生産量は大して向上していない。

    資源高騰したが日本ではデフレが進んだ
    →理由は資源高騰分を価格転嫁しなかったから(出来なかったから)
    →その分人件費をカット
    →物価デフレ以上に賃金デフレが進み、結果生活苦が進み、その悪循環から抜け出せない。
     (特に中小企業の従業員)
    ※90年代前半までは賃金の伸びが物価上昇を上回っていた。
     しかしそれ以降は賃金の下げが物価下落を上回っている。

    則ち、デフレ対策の政策→資源高騰→賃金デフレ
    となっており、狙いの逆になっている。
    デフレ対策が不十分だったわけではなく、政策そのものの誤り。

    株式市場において、暴落は連鎖する。
    確率的に殆ど無いような暴落は、一定の期間(例えばリーマンショック時)に集中していた。

    91~08年の間、発生確率0.07%で1000日に約1回しか起きない1000円以上の暴落は3回とも前後に大きな下落を伴っている。
    そのうち1回は0.32%しかない七営業日以上連続下落の七営業日目に起きている。(92年1月7~13日)

    サブプライム危機において日本の金融危機のダメージは小さかったが、関連投資が少なかったわけではなく、関連投資を引き受けず顧客に押し付けていたから。
    →大学や企業のデリバティブに関わる大きな損につながっている。

    現金を溜め込んでいたため、村上ファンドに狙われた「東京スタイル」は銀行の支援で自社を守ったが、、、
    →現在、東京スタイルは貯めこんだ現金が、大量のデリバティブ商品に変わり(買わされ!?)
    →大損。洒落にならない状態になっている。
    →銀行に助けてもらったと思っていたら、気づいたら銀行に殺されていた、、。

  • 内容に対して吟味(取捨選択)できるだけの素養がないのでとりあえず評価なし。

    資源価格が高騰しても物価に反映されない分は中小企業の人件費で吸収されている、というのは(物証も反証も自分は持っていないけれども)納得しやすい流れだと思う。
    結局の所、経済、金融とはリスクの押し付け合いなのかもしれないけれど、リスクを見えない状態にしたりただ弱い立場に押しつける、というのは問題だろう。ただこれには日本人の異常なノーリスク要求もどうにかしないと難しい気はする。

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著者プロフィール

エコノミスト

「2016年 『学校では教えてくれない経済学の授業』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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