- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062881456
作品紹介・あらすじ
日本の電力業界はビジネスモデルの大転換が求められている!緊急出版!3.11以後のエネルギー政策。エネルギー産業史研究の第一人者が電力政策の最適解を提示。
感想・レビュー・書評
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「原発断固反対」でもなく,「原発断固推進」でもなく,中立的に日本の電力問題を考察してみたい読者にお薦め。一読すれば,金子勝先生や大阪市長のtweetに対しても,少しは客観的に批評できるようになれるかな。
筆者・橘川武郎先生の主眼は,電力業の歴史的経緯を踏まえたうえで,「電力改革や原子力改革の方向性をポジティブな(積極的な)形で明らかにすること」(8頁)にある。そのために,①日本の電力業の産業体制,②電力の需給構造,③原子力に関する政策に対する各改革の方向性を問うている。とりわけ,長期的な原発政策については,使用済み核燃料の処理問題を根本的に解決するのは困難という立場から,第1章のタイトルにもあるように,「リアルでポジティブな原発のたたみ方」を提唱している。
一般的に,特定の産業や企業が直面する深刻な問題を根本的に解決しようとするときには,どんなに「立派な理念」や「正しい理論」を掲げても,その産業や企業の長期間にわたる変遷を濃密に観察しなければ,効果をあげることができない――と筆者は語る。福島第一原発事故を契機に,産業・企業が置かれた歴史的文脈と,適切な理念や理論とを結びつけて,問題解決を図る必要性が求められている。こうした応用経営史の手法が注目されるのは,経済史分野の実体経済への貢献にもつながるし,同業の後輩としても,研究のやりがいを強く感じる次第である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
応用経営史の電力業界への適用を謳った本。若干説明が冗長で、最後の主張につながるロジックが弱いと感じた。これが応用経営史なの?でもこの業界の変遷はファクツとして勉強になった。
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【読書その265】「今後のエネルギー政策に関する有識者会議」、「総合資源エネルギー調査会基本問題委員会」等の委員を歴任する、一橋大学商学部教授の橘川武郎氏の著書。
エネルギー政策をめぐる、これまでの歴史的変遷を学ぶ。「リアルでポジティブな提案」という言葉にひかれる。 -
電力・エネルギー問題の専門家である橘川先生の本。
一番現実的な案(30年以内を目処に原発を縮小)
発送電部門を一体化したままの電力改革を主張 -
釜石でお世話になっている橘川先生。
我が社のこともちょっと触れられてます。 -
著者はまず、自らが主張する「リアルでポジティブな原発のたたみ方」を実現するために、日本の電力産業の歴史を検証する。かつての日本にはいくつもの電力会社が存在し、激しい競争を繰り広げていた。戦争、経済成長、オイルショックなどを経て、現在のようないびつな電力業界になっていく。
著者の「原子力発電事業を電力会社の経営から切り離す」という提案は、一考の価値のあるものだと思う。原子力事業のリスクが非常に高いことが福島の事故で明らかになったし、核兵器に応用することも可能な原子力は、やはり国やそれに準ずる組織が管理すべきものなのかもしれない。 -
筆者は「日本電力産業発展のダイナミズム」などの著書がある電力・エネルギー産業の研究者。経済産業省「総合資源エネルギー調査会基本問題委員会」委員を務めていた。
筆者は基本的な認識として、ビジネスモデルの歴史的大転換が必要と訴えている。そのために「リアルでポジティブな原発のたたみ方」を提唱している。
電力改革を論じるにあたって、まず電力の大部分を供給している電力会社(ここでは行政用語でいう「一般電気事業者」、東京電力などの十の電力会社のみを指します)をどう変えるか、を検討しなければならない。本書はその議論のスタート地点を提供してくれる。
電力会社はどう変わっていくべきか。
「電力会社は経営の自律性を取り戻すべき」だと筆者は結論づけている。日本の電力供給は、戦時中の一時期を除いて一貫して国営ではなく民営だった。戦後は1)民営2)発送電一貫3)地域別九分割4)独占、の四つの特徴を持つ「九電力体制」(沖縄返還以降は沖縄電力が加わり「十電力体制」に)に基づいて運営されてきた。
九電力会社の国営化が考えにくい以上、民間企業としての経営の自律性を取り戻せば国全体のエネルギー・セキュリティにもつながる、という筆者の見解には全面的に賛同する。
石油危機以前には、九電力体制にも「黄金時代」があったという。電力会社は戦時中の国営復興を企む経済企画庁の特殊法人「電源開発」との競争や他の電力会社との低価格・安定供給競争を戦っていた。その日本の高度経済成長への貢献は計り知れない。
では、競争を拒む現在の九電力会社の姿はどこから来るのか。
筆者はその主因を国策民営方式の矛盾に求めている。
電力会社にとって原子力発電は、立地する地域住民・自治体との関係構築やバックエンドといった問題が付随することにより、国家と足並みを揃えることを余儀なくされる電源だ。
原子力発電をその手札に加えたことで、電力会社は国家と同調し官僚化することを余儀なくされた。
端的に言えば、今日の九電力会社への不信の要因は彼らが市場競争を拒み始めたことにあると言える。地域独占が確立されていたとはいえ、石油危機の頃までは九電力会社は政府がつくった特殊法人「電源開発」や他の電力会社と競争していた。
今はPPSとの競争を拒む官僚的組織に成り下がり、メディアと大衆から蛇蝎の如く忌み嫌われる要因を提供してしまっているのは周知の通りだ。
このような日本の九電力体制の現状を踏まえた上で、筆者は目指すべき改革の方向性を本書の中で示している。「歴史的大転換」を論ずるだけあって、あらゆる側面を網羅していて電力改革に関心を持つ人々が手にとって損はない本に仕上がっている。特に原発推進・反対の善悪二分論に辟易している人にとって、原子力発電が占める重みは原子力発電それ自体によって決まることはないという指摘は耳を傾けるに値するに違いない(p14)。
本書を読むことで以下の二点の重要さを改めて認識できた。
まずは改革の前に、現状を正確に把握することの重要さ。改革を求めると、今起きている変化にばかり目が行きがちになりだ。しかし、目に付きやすい変化の外で厳然と変わらない要素群を含めた全体像を把握することが、改革を成功させるのに重要なのは言うまでもない。
次に数十年先のことを議論する際に、必要以上に悲観せずに希望を持って難問に向き合うことの重要性さ。その希望の一例も、最終章でもれなく示されている。地域経済活性化にエネルギーが果たせる役割に関心がある方は、この章にぜひ目を通していただきたい。
(最後に筆者のインタビューが載った新聞記事を紹介します。筆者の見解を大まかに掴むのに役立つでしょう)
西日本新聞「九電 九州考:『普通の会社になって』」2012年7月4日
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/feature/article6/20120704/20120704_0002.shtml
了