興亡の世界史 スキタイと匈奴 遊牧の文明 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062923903

作品紹介・あらすじ

講談社創業100周年記念企画「興亡の世界史」の学術文庫版。大好評、第2期の5冊目。
人口・経済力の点では圧倒的に劣勢なはずの遊牧国家は、隣接する定住農耕社会にとっては常に大きな脅威でした。ペルシア帝国の絶頂期を現出したダレイオス一世をもってしても征服することのできなかった部族集団スキタイ。漢の皇帝たちと対等に闘う軍事力と、李陵や張騫など有能な人材を受け入れる寛容さを持ちあわせていた匈奴。モンゴル高原から黒海北方まで草原を疾駆した騎馬遊牧民にとっては「ヨーロッパ」も「アジア」もありませんでした。定住農耕地帯の文化・社会・道徳とはまったく正反対の騎馬遊牧民。その自然環境、歴史的背景を踏まえ、彼らがいつ頃誕生し、強大な権力を持つようになったのかを明らかにし、ユーラシア大陸の東西に1000年のスケールで展開する騎馬遊牧民の歴史を描きます。
スキタイや匈奴は文字を持たず、自らの歴史を記録することはありませんでした。しかし、幸いにも東西の「歴史の父」と称される稀代のストーリーテラー、ヘロドトスと司馬遷によって、彼らの実力と暮らしぶり、習俗が書き留められています。興味深いことに両者の語るスキタイと匈奴の風俗習慣は驚くほどよく似ていることがわかります。本書では、史書に記された事柄を発掘資料とあわせて騎馬遊牧民の真の姿を浮かび上がらせていきます。
「都市」のない遊牧社会は、「文明」とは無縁の存在、むしろ対極にある「野蛮」の地と思われがちですが、それは定住農耕社会からの一方的な決めつけにすぎません。発掘された草原の覇者たちの装飾品には、豪奢な黄金の工芸品や色鮮やかなフェルト製品などがあり、その意匠から、ギリシアや西アジアの影響を受けながらも、独特な動物文様や空想上の合成獣グリフィンなど独自の美術様式を生み出していたことがわかります。
ソ連崩壊後に可能になったユーラシア草原地帯の発掘調査で、次々と蓄積されている新たな考古学資料。フィールド調査を積み重ねてきた著者ならではの視点で、「もうひとつの文明」の実像に迫ります。
原本:『興亡の世界史02 スキタイと匈奴 遊牧の文明』講談社 2007年刊

感想・レビュー・書評

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  •  興亡の世界史シリーズの1冊。本書は歴史学というよりは、考古学に近い内容であった。スキタイ、匈奴、フン族など、世界史で耳にしたことがある用語を、改めて考古学という観点から、歴史を紐解く。個人的に印象的なのが、ローマ帝国に影響を及ぼしたアッティラの情報である。アッティラの死因は、はっきりとは分からず、いくつかの憶測が飛び交うが、それが英雄叙事詩や文学に影響を与えたのだという。騎馬遊牧民なかでも、カリスマ性のある人物であったことがうかがえる。

  • ユーラシアの遊牧民であるスキタイと匈奴を中心に据えた内容。時代としては紀元前9世紀頃から紀元後5世紀頃のフン族まで。

    コロナ禍で都市に定住する生活が見直される中、遊牧民について知るのは面白かった。彼らは基本的に定住せず、家畜がある一帯の草を食べ終わると次の場所へと移動する。支配地域に集落が出来ることもあったが、そこに住むのはさらってきた農耕定住民や交易のための商人。いま話題?のノマドも遊牧民を意味する。

  • HT3a

  • 騎馬遊牧民・スキタイと匈奴の歴史を、主として、遺跡資料の考古学的分析、あるいはヘロドトスの『歴史』や司馬遷の『史記』といった文献資料の読み解きから明らかにしようとするもの。


    スキタイ文明部分の大半は、考古学的分析に費やされているところ、資料の乏しさもあって必ずしもその全体像がはっきりしないが、遊牧民の移動・文化的交流・勢力争いといったものが見えてきて面白い。

    匈奴については、中国側の資料が豊富であり全体像はつかみやすいが、その政治や文明にはまだまだ謎が多い。

    全体を通して、地図・写真が豊富であり、理解を助けてくれる(個人的には、ユーラシア大陸の地理をかなり学び直すことができた)。

  • 興亡の世界史シリーズ(2006~10年)の講談社学術文庫化。

  • 後半の匈奴はともかく、前半のスキタイは考古学資料に基づく記述が全体のほぼ8割を占めています。
    それゆえに推論が多く、スッキリしないことがしばしば。
    でも「興亡の世界史シリーズ」の中でも紀元前7世紀と極端に古いので、文献資料が少ないのは仕方のないことです。

    そのなかで、だからこそ起こった興味深いエピソードがあります。
    もとは盗掘。

    「遊牧民は一般に地面を掘ったり耕したりすることを嫌う。
    それは草原を傷つけたくないという気持ちと、土地に縛りつけられた農耕民を軽蔑する気持ちからきている(中略)
    盗掘が大々的、組織的に行われるようになったのは、古墳になんのしがらみも感じないロシア人がシベリアにやって来てからのことである」
    最初にロシア人の盗掘が記録されたのは1669年のこと。

    「墓泥棒は春になると200~300人からなる徒党を組んで草原に出かけ、
    めぼしいところに着くと小グループに分かれ、お互いに連絡を取り合って盗掘に精を出した」
    単独で行くと、現地の人たちにボコボコにされるからです。
    盗掘者たちはその中から金銀だけを選び出し、
    それが17世紀から18世紀のヨーロッパの金製品のもととなったらしい。

    余談ですがこれを読んでいるとき福岡で3億8千万円強奪事件がありました。
    それも「金塊」を買い付けるためにもっていたとか、犯人たちのうしろに「組織」があるのではないかとかで、
    「歴史はくりかえされるんだなあ」と興味深く聞いていました。

    さて興味深いエピソードというのは「アルタイの奇跡」というものです。
    金銀だけ持ち去られた後の盗掘の穴から雨水が流れ込み墓室の底が水浸しになりました。
    それが冬に凍結し、夏にも溶けず、冷凍保存という非常に良い状態になってしまいました。
    そこでは通常では望むべくもない貴重な遺物が次々と出土したのです!

    でも、だからといって盗掘を推奨するわけではありません。
    このところ凍結保存になる可能性が低い、温暖化ということもあります。
    そしてちょうど昨日知り合ったかたからTEDを紹介していただき、
    https://www.ted.com/talks/sarah_parcak_help_discover_ancient_ruins_before_it_s_too_late?language=jaを拝見しました。
    現代のインディ・ジョーンズの異名を持つ考古学者のサラ・パーキャックさん

    世界には、数知れない失われた古代遺跡があり、土に埋もれて隠されています。
    彼女はそれを盗掘者よりも先に発見しようと心に決めています

    「世界中の何百万という 未知の考古学遺跡が 発見できますように
    21世紀版の世界探検家の 一団を結成し 人類全体の回復力と創造力の 手がかりを秘めた 世界にまだ隠されている遺産を
    どうか見つけ出し 守れますように」彼女の願いです。

    だいぶ話がそれてしまいましたが、著者の林俊雄さんの言い訳によりますと、
    考古学というものは新たな遺跡の発見・遺物の出土によって、一夜にして覆ってしまうことがあります。
    この本についても文庫化されたことによりいくつかの修正がされています。
    「古すぎるためにどんどん変化するのが考古学」なんですね。

  • 2018/4/3
    ユーラシアの広範囲を支配した騎馬民族は文字を持たなかった。頼る資料はギリシャと中国の資料、そして古墳から発掘される考古学的資料。彼らが文字を持っていたら、もっと詳しく正確な歴史が残されていたのだろう。文字を持つ文明との接触もあったはずなのになぜ受け入れなかったのだろう。なぜそうしたのかさえ、今となっては確かめようも無い。

  • 紀元前,ユーラシアの平原に現れ,きえた騎馬遊牧民スキタイ.紀元前後の北アジアで強勢を誇った漢のライバル匈奴.どちらも歴史資料は限られているが,考古学的な知見を加えることによって彼らの実像を描こうと試みる.一般向けとはいえ,相当にとっつきにくい.歴史記述は淡々とした引用と要約が主で,表紙と題から想像したわくわくするような歴史の面白さを体験するまでには至らなかった.しかし,スキタイと匈奴で一冊の一般書が出ること自体にきっと価値があるのでしょう.

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著者プロフィール

1949年東京都生まれ。創価大学名誉教授。著書に『スキタイと匈奴 遊牧の文明』『ユーラシアの石人』『グリフィンの飛翔』ほか。

「2021年 『砂漠と草原の遺宝 中央アジアの文化と歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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