- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062931663
作品紹介・あらすじ
2015年春、2019年日本ラグビーワールドカップの開催地が発表。釜石はその決定地の筆頭として全世界に発信された。スタジアムの建設地は、中学生・小学生が全員助かり「釜石の奇跡」とも言われた釜石の沿岸・鵜住居である。同時に鵜住居は多くの尊い人命も失われた。被災地の気仙沼出身で、著名ラグビーライターの大友氏はその誘致の大きな力となったスクラム釜石のメンバー。震災の現実、復興の困難とラグビーワールドカップ実現への道を現場から描く。
釜石開催は復興のシンボル。未曾有の困難を乗り越えた人々の姿を全世界に伝えよう。―日本ラグビー協会理事、元・日本代表監督 平尾誠二
”バックアップ”と”フォロー”。震災復興のフィルターを通じ、ラグビーの本質「献身」を教えてくれる一冊だ。―作家 堂場瞬一
―著者・大友信彦より―
「身の丈に合ったスタジアムを」
これは本書に何度も登場する言葉です。人口36000人の、震災で深く傷ついた小都市に相応しいスタジアムとは? 釜石に住む人たちや釜石を応援する人たちは、立場の違いを越えて、スタジアムの姿を、スポーツイベントの意味を、さらに地域のアイデンティティとは何かを考え、理想の姿を見つけるために議論を重ねていました。次世代に負債を残してはいけないけれど、未来への希望は必要。市民は不自由な暮らしの中で未来を思い、行政は市民感情を気遣い、対話を重ねて合意点を探す。その双方の姿勢に感銘を受けました。実際はすべてがきれいごとで済むわけではないにしても、本書の校正作業をしている時期に国政の焦点にまで発展した新国立競技場問題とは対照的なプロセスだと思います。(中略)本書で紹介した人々の姿や行動が、一人でも多くの方が東北を、釜石を訪れてくれるきっかけになれば幸せです。
感想・レビュー・書評
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鉄と魚とラグビーの町、岩手県釜石市。2011年3月11日、大きな揺れと津波に飲み込まれ壊滅的な被害を受けた。釜石市は、かつて新日鐵釜石ラグビー部が全国制覇7連覇を成し遂げたことによって市民のラグビーへの思いは強かった。震災により、何もかもを失った町に再び夢と希望を取り戻すために必要なものは何だろうか。「釜石でワールドカップできませんかね」、そんな小さなつぶやきが始まりだった。しかし、復興の目途も立っていない、家も家族も失った人たちは明日のことも分からない。ましてや人口3万人程度の釜石には、会場とできるスタジアムもない。だが、被災した人たちには夢が希望が必要だった。未来に向けた復興のシンボルとして。「釜石と言えばラグビー」、多くのラグビー関係者が釜石の、そして東北の復興のために、そしてワールドカップ誘致のために動きだす。2015年ラグビーワールドカップ日本大会開催地決定までを描いたノンフィクション。2019年、見事に立ち直った釜石でラグビーワールドカップが開かれる。
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かつて、V7を成し遂げた新日鐵のラグビー部があった岩手県釜石市。東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた釜石が再び立ち上がり、2019年のラグビーワールドカップの招致に成功するまでを描いたノンフィクション。
釜石ラグビーの未来の新たなスタートラインとなるのか…
自分が釜石で過ごしていた2年間は新日鐵釜石の全盛期で、市内は大層な賑わいを見せており、学校のクラスメイトの親の殆んどが新日鐵釜石の関係者だった。
街は絶えず製鉄所のウーンといった唸るような音に溢れ、製鉄所の煙突が絶えず白い煙を吐き出し、製鉄所専用の鉄道を走る貨車は真っ赤に焼けた鉄の塊を運んでいた。日本の産業は重厚長大から軽薄短小へと変化し、新日鐵釜石もその役割を終え、次第に衰退して行く。
東日本大震災後に釜石を訪れた時に見た光景は忘れられない。自分の住んでいた街は全てが破壊され、かつての面影が全く無かった。そんな釜石が市民とラグビー関係者の努力により、再びラグビーの街として世界に名乗りを上げたのは本当に嬉しいことである。
本書に中で同級生の名前を見付けたのにも驚いた。彼は新日鐵釜石のV7後の主力選手だったようだ。 -
宮城県気仙沼出身のスポーツライター「大友信彦」が、東日本大震災の被災地の現実、復興の困難とラグビーワールドカップ実現への道を現場の視点から描くノンフィクション作品『釜石の夢 被災地でワールドカップを』を読みました。
「村上晃一」作品に続きラグビー関係の作品です。
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2015年春、2019年日本ラグビーワールドカップの開催地が発表。
釜石はその決定地の筆頭として全世界に発信された。
スタジアムの建設地は、中学生・小学生が全員助かり「釜石の奇跡」とも言われた釜石の沿岸・鵜住居である。
同時に鵜住居は多くの尊い人命も失われた。被災地の気仙沼出身で、著名ラグビーライターの「大友氏」はその誘致の大きな力となったスクラム釜石のメンバー。
震災の現実、復興の困難とラグビーワールドカップ実現への道を現場から描く。
釜石開催は復興のシンボル。
未曾有の困難を乗り越えた人々の姿を全世界に伝えよう。
―日本ラグビー協会理事、元・日本代表監督 「平尾誠二」
”バックアップ”と”フォロー”。
震災復興のフィルターを通じ、ラグビーの本質「献身」を教えてくれる一冊だ。
―作家 「堂場瞬一」
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先月、パシフィック・ネーションズカップ2019 第1戦「日本」vs.「フィジー」が開催された、岩手県の釜石鵜住居復興スタジアム… ここがラグビーワールドカップ(RWC)2015の会場に決まるまでの物語や、このスタジアムが建設された思い等が伝わってくる作品でした、、、
現場で当事者のひとりとして活動した著者の作品だけに、説得力がある内容に仕上がっていましたね。
■序 章 釜石の夢
■第一章 スクラム釜石
■第二章 戦いの季節
■第三章 瓦礫からの夢
■第四章 鵜住居
■第五章 富来旗
■第六章 二〇一九年、その先へ
■終 章 東北
■謝辞──あとがき
『第五章 富来旗』で、ラグビーワールドカップ(RWC)の組織委員会等が会場誘致先の各都市・スタジアムを視察する場面があるのですが、ワールドラグビーの「アラン・ギルピン統括責任者」が釜石鵜住居復興スタジアム建設予定地を視察した際に、北風をはらんだ富来旗が大きく揺れ、はためくのを見ながら、
「ファンスタスティック」
「素晴らしい光景だった。
人々が、この地でワールドカップを開きたいという熱い気持ちに心を打たれた」
とコメントする際は、読みながら胸が熱くなりましたね。
身の丈に合ったスタジアムを… 人口36,000人の、震災で深く傷ついた小都市に相応しいスタジアムとは?
釜石に住む人たちや釜石を応援する人たちが、立場の違いを越えて、スタジアムの姿を、スポーツイベントの意味を、さらに地域のアイデンティティとは何かを考え、理想の姿を見つけるために議論を重ね… 次世代に負債を残してはいけないけれど、未来への希望のために と行動していく姿には心を打たれました。
そして、一人のラグビーファンとして、何かできることはあるのかな… 考えるだけじゃなくて、行動しなきゃダメだよな… 複雑な感情に包まれましたね。 -
2019年のラグビーワールドカップの盛り上がりは記憶に新しいところです。多くの試合会場が賑わいましたが,中でも釜石市鵜住居スタジアムでの開催は、大都市が多くを占めた会場の中でも独特の存在感がありました。
人口4万人足らずの地方都市で、開催地立候補の段階ではまだスタジアムの建設も始まっていないという状況から、開催が決まるまでの経過と、それに奔走した多くのスタッフの方々の記録です。
開催地立候補の動きは東日本大震災直後の2011年から開始されていました。釜石と同じく阪神大震災で被害を受けた神戸市に本拠地を置く日本選手権7連覇の実績を持つ神戸製鋼ラグビーチームと、釜石に本拠地を置き、かつて日本選手権7連覇を達成した新日鉄釜石の流れをくむ釜石シーウェイブスとの交流戦など、さまざまな試みが実行されました。
本書は2015年に出版されており、2019年の開催に期待を込める形で締めくくられています。その中で惜しまれるのはワールドカップ誘致にも尽力され、神戸と釜石との懸け橋にもなられた平尾誠二氏が、2019年大会を待たずにご逝去されたことです。本書でも平尾氏の釜石でのワールドカップ開催に対する大きな貢献が描かれています。 -
新日鉄と釜石市は公害や諸所の問題で互いに手を取り合ってきた訳ではないが、それでも旧成人の日(日本選手権決勝が行われる1/15)は、まだ長い冬休み中の地元の子供たちまでテレビにかじりついて“オラが新日鉄釜石”を応援する程、特別な存在だった事は偽らざる事実である。
震災の時、釜石シーウェイヴスのメンバーが救援物資の段ボールを運ぶ姿や身体の不自由な人を運ぶ姿はメディアでも報道されたし、福島第一原発の放射能漏れに対する大使館からの帰国要請を断り、釜石の為に尽くした外国人メンバーもいた。(2015年ワールドカップで豪州代表としてプレーしたスコット・ファーディーがそのひとり)
何がそうさせるのか?
ラグビーのフォワードと東北人は共通性がある。
派手さは無く、辛い事を口に出さず、文句も言わずじっと耐える。それを淡々と繰り返すことが出来る。いわば我慢強い。
震災で釜石はラグビーの街であることが改めて再確認されただけで、震災が無かったとしても、きっと2019年ワールドカップは釜石で開催されているんだろうと思うし、されなくてはいけないのだと思う。 -
被災地が夢を見ることは許されないのか? 新日鐵釜石時代に七連覇を達成したラグビーの町・釜石は復興か、招致かで揺れる。実現不可能だと思いながらワールドカップ招致に向かって立ち上がったラガーマンと、被災民でありながら地元開催に町の未来を見る市民を赤裸々に描くノンフィクション。