- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065201787
作品紹介・あらすじ
紫綬褒章受章作家・稲葉真弓がかつて「倉田悠子」の別名義で著した、『くりいむレモン』の絶品ノベライズ。今なお色褪せぬ伝説の名作、ここに復活!
日本中が軍国主義に染まった昭和16年。大学生・村上正樹は、奇妙な求人に導かれ、僻遠の山奥に佇む豪奢な洋館 “黒猫館”を訪れる。女主人の冴子とその娘・有砂、メイドのあや。蠱惑的な女たちと織りなす陶酔と頽廃の宴の果てに、正樹を待ち受ける罠とはーー。(『黒猫館』)
高度成長期もピークを迎えた昭和45年。奔放な過去と決別するかのように、正樹は弁護士を生業としていた。しかし、桜の香りに誘われた彼の前へ、あの“黒猫館”がふたたび姿を現し、30年前の倒錯の日々が甘やかによみがえるーー。(『続 黒猫館』)
“倉田悠子=稲葉真弓”を自ら明かしたエッセイ「私が“覆面作家”だったころ」を特別収録!
解説:久我真樹(英国ヴィクトリア朝およびメイド文化研究者)
感想・レビュー・書評
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「貞淑な私」と「いけない私」が同じ人間のなかに同居している
享楽的な体感…すなわち
エディプスの(実質的な)死によって、その事実が露呈されたとき
それぞれの「私」が反発しあうように
過剰さを増していくということもあるだろう
そうやって分裂・乖離した自己に収集をつけるべく
人の世を離れ
滅びの道を突き進んでいくというストーリーを
必ずしも昭和の遺物と断ずることはできまい
例えばそれをダシにして
覆面作家の身に起こりえたもう一つの未来を幻視することは可能であり
そこに見いだされたビジョンが
この作品を再び世に出したのだとも思える
そしてそのように滅んでいった一家から
ほうほうのていで逃げ出したにもかかわらず
彼女らを救えなかったという後悔に囚われ続ける竿役主人公は
享楽のおこぼれを今なお待ち望んでいるとは言わないにせよ
戦争で死ねなかった三島由紀夫に同様
あくまで、滑稽な戦後の狂言回しでしかありえないのだった
稲葉真弓さんは、谷崎賞や川端賞など
そうそうたる受賞歴を持った有名作家であるが
駆け出しの80年代には、「倉田悠子」の筆名で
ポルノアニメ「くりいむレモン」のノベライズに携わっていた
それが明かされたのは2014年
彼女の晩年である
ちなみに
倉田悠子の時代を経て書かれた代表作「エンドレス・ワルツ」は
過剰に愛しあい
傷つけあって死んでいく男女の物語であった詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
倉田悠子さんの「黒猫館(1987)」と続編「続 黒猫館(1993)」を復刻したもの。アダルトアニメビデオ作品「くりいむレモン」シリーズの同名作品のノベライズ版です。戦前と戦後の山奥に佇む洋館「黒猫館」を舞台に、主人公と女主人の冴子、その娘・有砂、メイドのあやが繰り広げる官能の世界を描いた作品。「耽美」「退廃」「官能」という言葉が、これほど似あう作品も多くないはず。2014年に「倉田悠子」は、稲葉真弓さんがかつて使用していた別名義であることを明かしています。
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本書は、アダルトアニメ『黒猫館』(1986年)、『続黒猫館』(1993年)のノベライズ作品で、絶版となっていた当該2作品を1冊に収録し、復刊したものである。作者である倉田悠子の正体が、紫綬褒章受賞者である小説家・稲葉真弓であったことが話題にもなった。(これは氏が亡くなる直前に、氏自身の手記(雑誌への寄稿)により明かされた。)
舞台は、太平洋戦争を目前に控えた、昭和16年の戦中の日本。大学生の村上正樹は、新聞に掲載されていた不思議な求人に応募し、山奥の「黒猫館」に滞在することとなる。その館には、女主人の"冴子"、娘の"有砂"、メイドの"あや"ら、3人の美しい女たちが住んでいた。そして、毎日のように繰り広げられる、女たちの甘美な宴に引き込まれる正樹。彼の辿る結末とは――――。
隔絶された山奥の館で繰り広げられる「耽美+ミステリー」と言ったところか。元々が短編のアダルトアニメなので、ミステリーは雰囲気作りのシーズニング程度。謎を解き明かすよりも、テキストが紡ぎ出す世界に浸って楽しむ作品と感じた。しかしながら、元々がアダルトアニメとは思えないレベルの筆致には本当に驚かされる。(まあ、蓋を開けてみれば、実際、凄い実力者が執筆していたという訳だ。) -
メモ
長い付き合いだった。うたい文句に惹かれて購入してから二月ほど、ついに読み終えた。
限りある時間を惜しみ、あるいは、抗う。そんなものが根底にあったように思う。
ただ、やはり長かった。 -
退廃と絢爛、背徳の渦巻く「館物」の原点にして真祖。30年経ってもその輝きは色褪せることがない。