臆病な都市

著者 :
  • 講談社
2.95
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (162ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065204290

作品紹介・あらすじ

新型コロナ感染拡大の前に書かれた、新鋭による問題作。

鳥の不審死から始まった新型感染症流行の噂。
その渦中に首都庁に勤めるKは巻き込まれていく……。
組織の論理と不条理、怖れと善意の暴走を生々しく描く傑作。

組織の内部を描くという点で、物凄い洞察力を持った作家だ。
                      ――亀山郁夫

コロナがこうなる前に書かれているというのに凄みを感じる。
                      ――安藤礼二

まったく、なんだってあんな根拠のないものにそうすぐ振り回されてしまうのだろう。
それとも本当に、ただ自分のあずかり知らぬところで未知の病気が広まりつつあるのではないか、とも考えてみたが、やはり実感は湧かない。
家々から漏れる灯りがそこここに生活が在ることを教えてくれる。言い知れぬ不安が、影のように自分のあとを追ってきている気がした。 ――本書より

感想・レビュー・書評

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  • 今そこにある危機、をひしひしと感じさせる物語だ。一つ一つは小さなことで、そのこと自体は問題となっていることに対しては正しいことである。しかし、その意思決定は役所の理屈によっておこなわれ、本質とは関係ないところで対処されていく。こういうことが積みあがっていくと、本書に示されたような社会になっていってしまうのだろう。かなりコミカルであるが、うすら寒い社会であるが、ここに描かれているテクノクラ―トやビューロクラティック、ポピュリズム、xxポリスなど、一つ一つのことは、今の日本の社会にそのまま存在する。それら今ある要素の組成を少しかえてみるだけで、ここに描かれたデストピアに至ってしまう。そんなことを強く意識することで、極めてリアルな恐怖を感じる。これは、優れた警鐘の書である。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    わからないものに対する畏怖が
    人々のパニックを作り出す

    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)

    新型コロナ感染拡大の前に書かれた、新鋭による問題作。

    鳥の不審死から始まった新型感染症流行の噂。
    その渦中に首都庁に勤めるKは巻き込まれていく……。
    組織の論理と不条理、怖れと善意の暴走を生々しく描く傑作。

    組織の内部を描くという点で、物凄い洞察力を持った作家だ。
    ――亀山郁夫

    コロナがこうなる前に書かれているというのに凄みを感じる。
    ――安藤礼二

    まったく、なんだってあんな根拠のないものにそうすぐ振り回されてしまうのだろう。
    それとも本当に、ただ自分のあずかり知らぬところで未知の病気が広まりつつあるのではないか、とも考えてみたが、やはり実感は湧かない。
    家々から漏れる灯りがそこここに生活が在ることを教えてくれる。言い知れぬ不安が、影のように自分のあとを追ってきている気がした。 ――本書より



    ⚫︎感想
    コロナ禍を経験する前に書かれた本書。
    コロナ禍を経験したから、あり得る、わかると思いながら読める。が、これがコロナを経験しないで読んでいたら、ここまで身にせまって考えることは難しかったのではないだろうか。砂川さんの先見の明に感銘した。今でこそコロナの実態を理解し落ち着いているが、コロナが流行り始めた頃、買い占めや、マスク不足、罹患した人への差別など、人はわからないものに対して過剰に反応するものだということはよく覚えている。それに対して、政府の対応はどうだったか?奇しくも、この物語を証明するのが、コロナ禍だ。

  • 『臆病な都市』は、新型感染症に対する集団ヒステリーと官僚組織の不条理を描いた小説だ。

    『臆病な都市』の中で描かれている新型感染症に対する集団ヒステリーや、大衆の行き過ぎた正義感は、現実世界のコロナ禍でも起こった出来事だ。コロナ禍をモデルにした小説かと思いきや、この小説はコロナ禍が深刻になる前に群像に掲載されている(2020年4月号)。中編小説なので、書かれた時期自体は新型コロナが話題になり始める時期よりも前のことだろう。『臆病な都市』はコロナ禍を予見した小説でもあるのだ。

    『臆病な都市』が描いたのは新型感染症に対する大衆のヒステリーだけではない。東京都庁を舞台に組織の不条理を描き、システムを無批判に受け入れることがどんな惨事をもたらすかについて警鐘を鳴らしている。

  • 154ページという薄さでどう話を持っていくのか心配だった。読んでみると感染症がどうこうではなく、その対応を淡々とこなしていく役人の内面を綴った物語。

    あるものをあると証明することは出来ても、ないものをないと証明することは難しい。あると信じてる人にはあるだろうし。
    不安が膨れ上がり追い込まれた人たちの描写を読んでいるとコロナの時のマスク警察を思い出す。あと他県ナンバーに文句をつける人とか。

  • うわっ!すっげぇ。

    それが、この本を読み終わった時の印象ですね。中身を読みかえれば、いまの新型コロナウイルス感染症にまつわる騒動の事を書いていると思えなくも無いですが、本書の中では事態はより深刻になっていきます。

    いや、新型コロナウイルス感染症の話だけではないかもしれませんね。一部の行政手続きに関する、強烈な皮肉かもしれません。

    そのくらい既視感があるのは気のせいでしょうか?

    なんかめっちゃ考えさせられる作品でした。

  • 役所の仕事の仕方がリアル。

  • 鳬(けり)の不審死が続いている。首都庁の総務局で働くKは役所的に対応する。会議のための会議。国、都、市の連絡調整。
    鳬が死んでいくのは新型感染症であり、人への感染も広まっていると巷では噂になっていくが、まったく具体的な対策はない。そもそも、けり病(鳬を不審死させ、人へも感染するとされる感染症)など存在しない、と首都庁の人々は思っているが、市民たちの対応として意味のない健康診断を行い、条例が作られ、市民たちを規制していく。

    -----------------------------------------------

    安心と安全のための不自由。会議のための会議。
    意味のないことばかりだけれど、組織のなかで個人の考えなどは何の役にも立たない。大きな流れに逆らわないよう、不自由な規則のなかで生きていくことが社会の掟。
    感染症なんて存在しないとわかっていても、形式上の対策を行わなければならない行政。不安や怒りを行政に向ける一般市民。そして行政はしかたなく難解な文言で対応を先送りにしたり、謝ってみたりする。自身に火の粉が降りかからなければそれでよし。


    ディストピアだなあと思うが、コロナウイルスによる混乱の初期は似たような騒動が起きていた。集団パニック、集団ヒステリーのような大きな流れ(民意)が生まれてしまったら、もう誰も逆らうことはできないから、流れにうまく乗っかるしかないんだな。

  • コロナ騒ぎを想起させる“けり病”、検査済み証のワッペン、恐ろしい無邪気な善意の拡大。義務を権利と言い換えて、静かに進行する狂気が行き着く先は収容施設…「これからもふざけた態度をとったり悪態をついたりはするだろうが、よもや仕組みにも最大公約数にも逆らいなどしない。ぼくの安全と安心が保障されるのなら、他に何もいらない」主人公の最後の呟き。だめでしょう。長期化するコロナ対応に関心持っていないと社会はどんどん変質していってる。みんなの意思で…

  • あるのかないのかはっきりしない「けり病」。専門家ははっきりと「ない」というが、中にはきちんとした肩書きを持つ人間が「ある」と言っているところもある。
    過剰に反応した市民に合わせて、収束を求め「どうにかしなければ」という思いだけで作られた条例に首を絞められていく首都庁職員たち。

    ここに書かれた構図は、コロナ禍を経験した私たちにとって、とても身近なものとして感じられるはずだが、これは実際に患者が出ている新型コロナとは少しだけ離れたところにある問題だ。
    例えば、ステイホームを守るか否か、マスクをするか否か、ワクチンを接種するか否かーーこれらの二手に分かれる出来事において、自分とは異なる選択をする人に対してヒステリックな反応を示す人たちの話でもある。
    (なるほど、その時の公人たちはこうやって蚊帳の外から見ていたわけか、などと思ってしまうのは余談である。)

    ありもしない病のためにセンターまで作ってしまうのはいささか大袈裟だとしても、国民の顔色だけを窺う政治家や公務員と、何かあればすぐ国に対処を求め国に依存した国民という構図は薄らとした危機感と共にじわじわと心の中に侵入してくる。

    難しい言葉で煙に巻こうとする国家公務員たちをうまく皮肉っている作品にもなっていて、なかなか面白かった。

  • 地方公務員(区役所の人とか)ってやっぱこんななんだ・・・
    市役所に勤めていた友人も、9時5時でお気楽な感じだったもんな・・・
    コロナ渦の今だと、下界(私のいる医療業界とか)はてんやわんやなのに、保身第一で働いているのか・・・
    お役所のへんな理屈で税金の無駄使いをジャブジャブしているのか・・・

    フィクションだけど、誇張されているんだろうけど、きっと都庁とか区役所勤務の公務員ってこんななんだろうな、って思ってしまうわねー。

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著者プロフィール

1990年、大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞。他の著書に『戦場のレビヤタン』『臆病な都市』『小隊』がある。

「2022年 『ブラックボックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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