江戸前エルフ(5) (マガジンエッジKC)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065261095

感想・レビュー・書評

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  • 神は細部に宿り、エルフは細かいところで遊ぶ。

    神は細部に宿ると申しますが、それはエルフがご祭神を務める神社でも同じこと。
    エルフが東京、大阪、金沢に社を構えていらっしゃる歴史を辿ってきたここ日本。すなわち彼女たちがリアルタイムで生きた歴史を語ってくれるのがこの作品世界における日の本の特権です。

    というわけで単行本ならではの特典を先に紹介です。
    巻末には先に挙げた三社についての、遊び心満載の御朱印がすべて収録されています。
    この巻では家紋について触れられる回もあったりなので、なかなかタイムリーな話題といえましょう。

    私自身の、二巻までのレビューで基本路線についての説明は終えたと察するので本作についての紹介は割愛させていただきます。
    ここ五巻自体は三巻からの路線に乗っかった安定志向といえるかもしれません。

    とは言え、この巻の特色を取り上げるとすれば先ほど申し上げました家紋についての話。
    それから、開運と辻占についての話の中で小道具として用いられたおみくじの内容がすごくゆるかった。
    それに家紋の話に導く前提として紹介された「撤下神饌」がクッキーだったり、などと……。

    主人公の「エルダ」の人となりに根差す、舞台となる「高耳神社」の取り巻く事情について色々な切り口から触れられることが多かったですね。先の巻を振り返れば一巻巻末の資料の裏付けが得られたとも。
    「ハレの日」たる神事とは違った意味で神宿る「神社」の掘り下げが行われたとも言えましょう。

    エルダ自身もいつも通り現代サブカルで遊んでますが、今回はどちらかといえば江戸文化の紹介の方に比率を傾けているでしょうか。神遊びといえばまた違った意味を示しますが、それはさておき。
    神社の日常が違った切り口から見えてきて、本殿深くに座すエルダの親しみやすさもいっそう増します。

    と、順番は多少狂いましたが、冒頭のエピソードについても語っていきます。
    四巻の引きからやってきた、遠射の神事である「弓耳祭(御弓神事)」は予告通り射人をもうひとりの主人公である「小糸」が務めます。的役のエルダとの噛み合わなさが噛み合っているやり取りは必見かと。
    しかして。表紙からわかる通りに、神職らしく立烏帽子に狩衣装束の小糸が凛々しいですね。

    弓引く女子はやはり美しい。
    あんまり締まらないようですけど、エルダとの信頼を表すかのような結末も素晴らしい。
    しっかり故事も踏まえていますし、まさに過去と現在が交差するこの作品らしい〆かと。
    そう言えば、舞台となる「月島」が漁労の町だってことは早くも一巻時点から示されていたのですね。

    また、四巻収録の(四十年ぶりの)大掃除回を踏まえたからこその壊れたプラモと探偵ごっこの回。
    それから、赤ん坊が苦手だからお宮参りもやっぱり苦手だという、結構前の巻での先立ってのカミングアウトを回収するかのように、この巻の引きが親戚の赤ん坊を預かろう! という回だったりと。

    具体的な時間軸は不明ですが、なんだかんだで時間は進んでるんだなと思わせます。
    総じて、積み重ねてきたからこそできる話で、歴史のみならず作品自体の奥行き感じる五巻といえるかもしれません。
    四百年以上、立ち代わり入れ替わり続けるゆりかご時代の人々を見つめてきたエルダのこわごわ視線が新たなる赤ちゃんにどう向けられるのか? 期待できそうな六巻の幕開けと相成りそうです。

    それでは最後に、巻末の御朱印に先立って20Pの番外編について触れることで今回のレビューは〆とさせていただきます。
    なお構成上、四巻と合わせて読めばほか二者のエルフと巫女の人となりもより良く見えて素敵でしょう。

    というわけで、四巻では大阪におわすご祭神エルフ「ヨルデ」のエピソードが触れられましたが。
    五巻では金沢のご祭神エルフ「ハイラ」とお付き巫女の「いすず」のエピソードが取り上げられます。
    ハイソで優雅だけどギャンブル狂の残念エルフのハイラさまと、インスタ映えを求めるカリスマ・インフルエンサー、だけど最推しはハイラないすず、このふたりの関係性がしっかりと見えてきます。

    たとえば園芸を嗜むハイラだからこそ出てくる江戸文化の講釈があったりと、どちらかといえば本編の延長に似たエピソードの採り方になっていますが、また異なった信頼のあり方を示せていると思います。
    お子様とお世話役に似た大阪コンビのほっこりさや、最近は一体で楽しんでいる感のある東京コンビのゆるさと比べると根底では通じているけれど、保護者(大人)と子どもに似た金沢コンビなのかもです。

    このふたりはボケツッコミの構図がさらに明白で正反対に思えるのに、実は似た者同士で馴染んでいる。
    互いの好意の見せ方がより直接的なのが、金沢のふたりの特色と言えるのかも。

    不老と定命という時の洗礼を前に、取り残されていく二者のズレの切なさを語ってくれるのはなにか?
    きっと横顔の寂しさだけとは限らないのでしょうね。微笑みが教えてくれるものもある。
    ということで金沢コンビもまた強い組み合わせでした。ドタバタ寄りの流れだった本編の流れに楽しさと切なさが表裏一体の差し色を取り入れてくれたことで作品に奥行きを出してくれるのはあまりに強い。

    そんなわけで早くも五巻な『江戸前エルフ』でした。まだまだ続きそうだと思う反面、その時が来たら「もう?」と思ってしまいそうな日常は引き続き健在ですよ。

    疾くと過ぎ去っていく人間がズルいのか。
    未だ来ない果てにまで佇むエルフの方がズルいのか。
    いいえ。変わらないものの頼もしさに甘えてしまいそうだけど、向こうからも甘えてくれるエルフの方がもうちょっとだけズルいのかもしれませんね。

  • 最近読んだ中では上位かな⁉️
    85点位かな

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