医療崩壊 真犯人は誰だ (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065264171

作品紹介・あらすじ

「世界に冠たる日本の医療」などと、医療提供体制の充実ぶりを誇っていた我が国が、なぜ、世界的には「さざ波」程度の感染者数増加で、このように簡単に医療崩壊を起こしたのか、その謎に迫る。
7人の容疑者(原因の仮説)を挙げて、一つ一つ謎解き仕立てで話を進める。現在、国民の間では、なぜ、こんなに簡単に医療崩壊が起きたのか、一部の医療機関が頑張る中で、まったく何もしていない医療機関があるのはなぜなのか、医師会や専門家会議はなぜ、緊急事態宣言で経済をストップすることばかり提言するのかなど、医療提供体制への不信感が渦巻いている。まずはそれらへの疑問に答えるのが本書の目的である。
また、今後もしばらくウィズコロナの時代が続くので、パンデミック時の医療崩壊を防ぐためにどんな手立てがあるのか、アフターコロナ時代の平常時の医療をどのように改革すべきかという点も議論、政策提言を行う。

感想・レビュー・書評

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  • コロナ禍で、医療崩壊の危機に陥った日本。何が「世界有数の医療大国」を追い込んだのか?我が国の医療体制を分析し、“真犯人”―原因を突き止める書籍。

    2020年4月の第1波の際、全国のコロナ新規感染者数が257人という状況で、首都圏では早くも病床が逼迫した。緊急事態宣言解除後の第2波では大きな感染拡大はなかったが、秋の第3波では感染爆発が起き、医療は再び逼迫状況に陥った。

    2021年春の第4波、夏の第5波では、感染力が強い変異株によって感染者数が激増した。深刻な医療逼迫が起き、療養先が見つからない「医療難民」、自宅療養者が大量に生じた。
    しかし、そんな状況でも確保病床数はあまり増えなかった。

    日本は、諸外国に比べ感染者数が少なく、医療提供体制も充実している。にもかかわらず医療崩壊の危機に瀕したのは、コロナ病床として利用できる病床が少なかったためである。

    医療崩壊の危機を招いた原因は、例えば次のようなものだ。
    ・多過ぎる民間病院:
    日本の医療提供体制は民間病院中心で、その多くは政府の要請に従わない。また、民間病院に行政命令を出す権限が、政府や都道府県にない。
    ・小規模の病院が多い:
    医療機器やコロナ専用フロアーの整備などを行えるのは大病院に限られるが、日本の病院の圧倒的多数は中小病院が占めている。
    ・病院間の不連携・非協力体制:
    患者がどこの医療機関に行ってもよい「フリーアクセス」制度のため、医療機関は互いが商売敵であり、連携・協力関係が進みにくい。
    ・政府のガバナンス不足:
    パンデミックを想定した「政府行動計画」を策定済みだったにもかかわらず、「事前準備」が全くできていなかった。

  • 〇新書で「コロナ」を読む⑥

    鈴木亘『医療崩壊 真犯人は誰だ』(講談社現代新書、2021)

    ・分 野:「コロナ」×「医療体制」
    ・目 次:
     はじめに
     第1章 世界一の病床大国で起きた「医療崩壊」
     第2章 容疑者1:少ない医療スタッフ
     第3章 容疑者2:多過ぎる民間病院
     第4章 容疑者3:小規模の病院
     第5章 容疑者4:フル稼働できない大病院
     第6章 容疑者5:病院間の不連携・非協力体制
     第7章 容疑者6:「地域医療構想」の呪縛
     第8章 容疑者7:政府のガバナンス不足
     第9章 医療体制改革の好機を逃すな
     おわりに

    ・総 評
     本書は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって「医療崩壊」に陥った要因を、日本の医療体制から分析したものである。著者は学習院大学の教授で、これまで行政改革や規制緩和に関する会議の委員も務めてきた人物である。
     欧米に比べ、はるかに少ない感染者数・重症者数であったにもかかわらず、なぜ日本の医療は逼迫したのか――本書では、7つの「容疑者」を取り調べ、その「真犯人」を特定しようとしている。その内容については、以下の3点にまとめられる。

    【POINT①】「開業医・小規模・民間病院」中心の医療界
     コロナ患者の治療には一定の設備投資が必要なため、効率的にコロナ病床を確保するには、大病院にコロナ患者を集中させ、それ以外の入院患者を中小病院に転院させるなどの連携・協力体制が必要であった。しかし、日本の医療界は、歴史的経緯もあり、小規模の民間病院を経営する開業医の割合が非常に高い。さらに、患者はどの医療機関に行ってもよい制度(フリーアクセス)を採っているため、大病院と中小病院は日頃から「商売敵」の関係にあり、このコロナ禍でも連携・協力体制が築けなかったと指摘する。

    【POINT②】厚生労働省の「待ちの姿勢」と活かされなかった「政府行動計画」
     コロナ禍による医療逼迫が迫る中、政府の統制力の弱さも問題となった。医療機関間の連携を促す施策でも、厚生労働省は「都道府県への丸投げ」という「待ちの姿勢」が目立った。だが、医療機関に言うことをきかせるための「武器」(法律・予算・診療報酬)は厚労省が握っており、都道府県が主導権を握るのは困難であった。さらに、こうしたパンデミックに備えた「政府行動計画」が事前に策定されていたのにもかかわらず、平時の準備不足のため、その知見が「台無し」になったと指摘する。

    【POINT③】次のパンデミックに備えて
     非常時の医療体制において、最も重要なのは「病院間の役割分担と連携・協力」であった。そのために必要なのは、行政と地域の医療機関が平時から情報共有などを通じて人的つながりを構築し、非常時に際しては、行政のリーダーが決断と調整を行うとともに、最後の責任は行政がとるという覚悟を示すことだと指摘する。また、こうした取り組みは「金と指示」だけでは展開できず、実際に問題に取り組んだ経験者たちの技能伝授やアドバイスといった「人的支援」が行政(政府・厚労省)が求められるとした。

     コロナ禍での医療逼迫を引き起こした「主犯級の主犯」は「政府のガバナンス不足」であり、その背景には、強力な政治力を有する日本医師会の主張に抗しきれず、厚労省が医療政策で「失策」を重ねてきた過去の経緯があった。その上で、今回のコロナ禍での教訓を活かし、行政主導で医療体制改革を推進すべきだと指摘する。
     日本医師会を「抵抗勢力」として描き、積極的な「行政改革」を支持する著者の書きぶりに抵抗感を覚える人もいるかもしれない。ただ、あの怒涛な日々の中で、何が議論されていたのかを整理する上で参考になる一冊である。
    (1230字)

  • 本書の主張 医療崩壊の犯人は、小規模病院の多さ、フル稼働できない病院、病院間の不連携と非協力体制、政府のガバナンス不足である。
    基本的に同意。しかし、政府のガバナンス不足は医療に限ったことではなく、そういう政府をつくるような政治を選ぶ国民こそが主犯であると考える。著者も中小病院の成り立ちについてふれる中で政治と医師会の関係について述べられているが、地方議員には医師会、医師は大きな影響力を持っていて、その見えざる力こそがコロナのような大局観を要する対応もねじ曲げてしまっている。残念ながら、著者のような方には、そういうホントのことは伝わらない。

  • 新型コロナによる医療崩壊の原因を探る。結局厚生労働省と医師会の問題のように思えるがそこまで強くは主張できないのだろう。

    1.少ない医療スタッフ
    2.多過ぎる民間病院
    3.小規模の病院
    4.フル稼働できない大病院
    5.病院間の連携・非協力体制
    6.「地域医療体制」の呪縛
    7.政府のガバナンス不足

    それぞれを解説する。
    この機会に医療体制改革なくして日本の未来はないだろう。
    もっと本書のような内容の積極的な議論が対処療法とは別に必要だろう。
    医師会の存在がある限り実現しないだろうが。日弁連と共に日本の癌。

  • 東2法経図・6F開架:B1/2/2642/K

  • 498.021||Su

  • 医療界の「中小企業問題」を真犯人の一つとして指摘。コロナの医療崩壊だけでなく、平時の医療費抑制の観点からも中小企業問題は解決されるべき。鈴木先生には、引き続き医療、社会保障の分野で、厚生労働省、日本医師会の欺瞞にメスを入れてほしい。

  • 【蔵書検索詳細へのリンク】*所在・請求記号はこちらから確認できます
     https://opac.hama-med.ac.jp/opac/volume/460821

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著者プロフィール

1991年生まれ。現在、東京大学大学院人文社会系研究科助教。専門は美学。主な論文に、「ランシエールの政治的テクスト読解の諸相──フロベール論に基づいて」(『表象』第15号、2021年)、「ランシエール美学におけるマラルメの地位変化──『マラルメ』から『アイステーシス』まで 」(『美学』第256号、2020年)。他に、「おしゃべりな小三治──柳家の美学について 」(『ユリイカ』2022年1月号、特集:柳家小三治)など。訳書に、ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『受肉した絵画』(水声社、2021年、共訳)など。

「2024年 『声なきものの声を聴く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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