国民とは何か (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (88ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065278574

作品紹介・あらすじ

「国民の存在は日々の人民投票である」――
この有名な言葉が見出される本書は、エルネスト・ルナン(1823-92年)が今からちょうど140年前、1882年3月11日にパリのソルボンヌで行った名高い講演の記録です。
文献学者として出発したルナンは、その手法を用いて宗教史に取り組み、コレージュ・ド・フランスの教授に就任しましたが、イエスを「比類なき人間」だと断言したことで物議を醸しました。その主張は1863年に『イエスの生涯』(邦訳・人文書院)として出版され、たちまち大ベストセラーとなって名を馳せます。
そんなルナンが、なぜ「国民」について論じることになったのか? そのきっかけは普仏戦争(1870-71年)での祖国フランスの敗北にあります。第二帝政の崩壊、パリ・コミューンの騒擾、そしてアルザス・ロレーヌの割譲といった政治的悲劇を目のあたりにした宗教史家は、にわかにナショナリストとしての顔を見せ始め、政治的な発言を積極的に行うようになりました。その白眉とも言うべきなのが、敗戦から10年あまりを経て行われた本書の講演にほかなりません。
振り返れば、フランス革命に起源をもつとされる「国民国家」の根幹をなす「国民」とは、いったい何なのでしょう? ルナンは、人種、言語、宗教、さらには利害の共通性、国境など、さまざまな要因を検討した上で、それらのいずれも「国民」を定義するには不十分であることを明らかにします。そうして至りついたのが「国民とは魂であり、精神的原理です」という主張でした。国民という「魂」を形成しているものは二つ――過去の栄光と悔恨の記憶、そしてともに生きていこうとする意志です。これら二つを現在という時の中に凝縮した形で述べた定義が、冒頭に挙げた「国民の存在は日々の人民投票である」だったのです。
本書は、フィヒテの『ドイツ国民に告ぐ』(1808年)と並ぶ「国民」論の古典中の古典として読み継がれ、アーネスト・ゲルナー『国民とナショナリズム』(邦訳『民族とナショナリズム』岩波書店)、ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』(邦訳・書籍工房早山)など、20世紀のナショナリズム研究を生み出す基礎になりました。その流れは、グローバリズムの進展の中で逆説的にも国民国家が存在感を増している今日もなお継続されています。
にもかかわらず、本書は日本では文庫版で読むことができずにきました。最適任の訳者を得て実現した明快な新訳は、現代世界を理解するために不可欠の1冊となるはずです。

感想・レビュー・書評

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  •  「国民の存在は日々の人民投票である」。
     政治学を学んだ者であれば、一度は耳にした言葉ではないだろうか。この言葉は1882年、フランスのソルボンヌ大学で、エルネスト・ルナンが行った講演で発せられたものである。

     ルナンは、なぜ「国民」について論じる、このような講演を行ったのか。直接のきっかけは普仏戦争による祖国フランスの敗北、(ドーデ「最後の授業」でも有名な)アルザス・ロレーヌの割譲といった事件であった。
     「国民」とは何なのか。ルナンは、人種、言語、宗教、国境などの要因、属性を検討した上で、その結論として、「国民とは魂であり、精神的原理である」とする。そしてそれを端的に表現したのが、冒頭の言葉である。

     ナショナリズム論の古典が簡易に読めるよう文庫化されたのはありがたい。ルナンのナショナリズムの問題点や、現代の先端的な学的状況について、詳細な解説が付いているのも、大変勉強になる。

     

     本文だけならば38ページ、解説まで含めても80数ページ、近年稀な薄さの文庫なのが、ちょっと面白い。

  • 1882年3月11日、ソルボンヌで行われた講演
    ルナンの「国民とは何か」:
    ルナンの生い立ち
    「国民とは何か」という書物
    晋仏戦争アルザス問題
    フィヒテとルナン:
    フィヒテの国民論
    国民と世界市民
    ルナンのレイシズム
    その後のナショナリズム研究:
    近代主義とその批判
    二分法を超えて
    ミラーのリベラル・ナショナリズム
    マナンの国民国家論
    シュナベールの共和主義
    再びルナンへ

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著者プロフィール

1823-92年。フランスの宗教史家・文献学者。主な著書として、本書(1882年)のほか、『キリスト教起源史』(1863-83年)など。

「2022年 『国民とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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