踊る菩薩 ストリッパー・一条さゆりとその時代

著者 :
  • 講談社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065292556

作品紹介・あらすじ

不幸で、嘘つきで、どこまで優しく。昭和の男社会を「溢れるしずく」を武器に、その身ひとつで生き抜いたストリッパーの本格評伝。
ウーマンリブが台頭してきた時代、わいせつ裁判を通して、図らずも「反権力の象徴」に祭りあげられた一条。普通の生活がしたいと願うも、周囲はそれを許さず、本人もまた酒と嘘と男に溺れていく。
極貧の幼少期、絶頂期、刑務所暮らし、夫の自死、大やけど、生活保護、ドヤ街での暮らし、孤独死……。ひとりの女性としては幸せだったと言えないかもしれないが、芸人としては最高の人生だったと、生前の彼女を知る者は口を揃える。
人間が持つ美点と欠点を、すべて曝け出しながら駆け抜けた彼女の生涯を描く。

プロローグ 中田カウスの恩人
第一章   溢れるしずく
第二章   一条さゆりの誕生
第三章   警察との攻防
第四章   時代が生んだ反権力の象徴
第五章   芸術か、わいせつか
第六章   塀の中、束の間の平穏
第七章   暗転
第八章   釜ケ崎に暮らす
第九章   ドヤ街の酔いどれ女神
第十章   過ぎゆく日々のなかで
第十一章  見事な最期
エピローグ 拝まれる人

感想・レビュー・書評

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  • 伝説のストリッパー、一条さゆりの評伝。
    今の時代に出すにあたり、ストリップの実態から、時代背景まで、わかりやすく説明。
    彼女は、ストリッパーとしては、客へのサービスに注力するあまり、周りに利用され最後は逮捕・収監される。
    社会運動のシンボルとして、利用されたことも本人にとっては悪影響となる。
    好きになった男たちともうまくいかず、商売をしても主婦業をしても、最終的には破綻。生活保護をうけるようになっても、それでも人に対する気遣いを忘れない。
    著者との会話において、”これは彼女の嘘であろう”という表現が散見され、直接会った人の方が情報整理に混乱するような人であったのだろう。
    ただひたすら読み進められた。ここ数年に読んだノンフィクションの中でもトップクラスに面白かった。

  • 自分の持てる何かを、誰かに与えて、互いに喜びを得る。

    それが、パンやお金なら数に限りがあるけれど、歌手の歌声、ダンサーの踊りは、その人の身体があれば、限りなく幸せな時間をひとに与え得る。
    美声や鍛え抜かれた四肢でなくても、たとえば、誰にでも出来るちょっとした慰めの言葉やサービスも、そうといえるかもしれない。

    それらを総合して…
    ある女が、自分の声と肉体を使い、特出しのサービス精神で、男たちを慰める。
    限りあるモノの施しではなく、自分の身体一本勝負で。与える女も、与えられる男も、渾然一体の喜びを原動力に、出し惜しみしない。なぜなら、誰かを幸せにする菩薩がそこにあるから。

    公序良俗の線引きは、"女性に与える喜びがなく苦痛を伴う場合に限る" というわけにはいかないんだろうな…。


  • 波瀾万丈な生涯を送った
    一条さゆりさんというストリッパーさんのルポ。



    扇情的なコピーが並んでますが、
    この本の真髄はそこじゃありません。

    彼女はたまたま不器用で、
    転落人生を送ってしまったけど、
    心がピュアな女性こそ、
    彼女の気持ちや行動が痛いほど理解できると思います。

    打算的な気持ちがどこにもなく、
    見返りを求めずにただただ人に尽くす彼女の生き方に、
    心打たれました。

    作者さんの綿密な取材に感謝したいし、
    講談社さんもありがとうと言いたい。


    今年読んだ本の中で、
    ベスト1.2というくらいいい本でした。








  • 育った環境が悪かったんだろう。気の毒。

  •  かつて全国で300を超えたストリップ劇場は20を切っている。ストリップはパチンコと並ぶ、庶民向け娯楽の王様だった。歌謡界に美空ひばり、プロ野球に長嶋茂雄がいたように、ストリップには一条さゆりがいた。小倉孝保「踊る菩薩」、2022.8発行、371頁、ストリッパー・一条さゆりとその時代を描いたノンフィクション。伝説になるまでの過程、逮捕・収監、芸術かわいせつかの論議、ドヤ街の酔いどれ女神、転落の人生。1937.6.10、キューポラの町、川口市に誕生、さゆりは吉永小百合からか、1997.8.3、肝不全で没。

  • 一条さゆりという、いまから50年ほど前に活躍したストリッパーの評伝。現在、振り返られるとしたら神代辰巳の映画か、ストリップは娯楽か犯罪かで最高裁まで争った事件で名前が出るくらいかもしれない。

    一条は「特出し」と呼ばれる、陰部を見せるストリップで人気を博したらしい。それが逮捕の原因となり、最終的に実刑になる。時代背景もあって全共闘やウーマンリブの活動家が支援していたそうで、いまでも一条を「反骨のストリッパー」として、反権力やフェミニズムの象徴のように扱う記事もあった。

    しかし、一条本人はせいぜい「自分を応援してくれるひとたち」くらいに思っていたようで、お上に逆らう気もなければ、女性解放運動にもさらさら興味はなかったとのこと。
    そもそも学生運動にせよウーマンリブにせよ、活動の主体となったひとびとは戦後教育で平等や民主主義を叩き込まれた世代、それも教育水準の高い家庭で育ったようなひとたちである。
    一条は幼くして口減らしで奉公に出され、かんたんな漢字さえ書けるかどうか怪しく、年齢的にも終戦時点ですでに働きはじめていたような世代である。本書でも何度となく書かれるが、家庭に入って夫を支えるような生活を願っていたとのこと。

    そういう価値観も含め、読んでいると一条は戦前生まれであることが強く意識される。成功から転落し、借金を重ねたり狂言自殺をしたり、最後は大阪西成という日雇い労働者の街でひっそりひとりで死んでしまうことになるのだが、そこからはせつなさよりもたくましさのようなものが見えてくる。一条はストリップも食べるためにやっていたに過ぎない。

    一条には強いサービス精神がある。(それが一世を風靡した理由でもあり転落した原因でもある)
    本書では中田カウスや小沢昭一などの著名人に話を聞いており、彼らの一条への評価はさまざまだが、一貫しているのはストリップ=芸として見なしてのもので、一条を芸人としてみての評価である。
    その評価の根本は一条の強いサービス精神に依るところが大きいと思うが、芸という部分に関しても一条はどこか無関心なように見える。芸がどうとか観念的な講釈を垂れず、ただただ客を楽しませようとしているだけである。


    一条には思想もないし、得意げに芸への一家言を語ることもない。嘘もつくし、行動の一貫性もない。主体的な意思も弱く、他人本意で動いてしまっている。
    芸能関係者にせよ活動家にせよ本書にせよ、一条は空虚な中心で、その穴にそれぞれがいろんな思惑を仮託してしまうんだと思う。
    一条の人生は悲しいようにみえても、本人の人柄のせいか、あまり悲壮感は覚えない。ただ、その空虚さだけはもの悲しい。

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著者プロフィール

1964年滋賀県生まれ。88年毎日新聞社入社。カイロ、ニューヨーク両支局長、欧州総局(ロンドン)長、外信部長、編集編成局次長を経て論説委員。2014年、日本人として初めて英国外国特派員協会賞受賞。『柔の恩人 「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界』(小学館)で第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞最優秀賞をダブル受賞。著書に『十六歳のモーツァルト 天才作曲家・加藤旭が遺したもの』(KADOKAWA)『踊る菩薩 ストリッパー・一条さゆりとその時代』(講談社)など。

「2023年 『中世ラテン語の辞書を編む 100年かけてやる仕事』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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