今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (120ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065295403

作品紹介・あらすじ

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約100ページで教養をイッキ読み!
現代新書の新シリーズ「現代新書100(ハンドレッド)」刊行開始!!

1:それは、どんな思想なのか(概論)
2:なぜ、その思想が生まれたのか(時代背景)
3:なぜ、その思想が今こそ読まれるべきなのか(現在への応用)

テーマを上記の3点に絞り、本文100ページ+αでコンパクトにまとめた、
「一気に読める教養新書」です!
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全体主義に警鐘を鳴らし続けたハンナ・アレント。

人々を分断し、生活基盤を破壊し尽くす「全体主義」。
ごく普通の人間が巻き込まれていく、その恐怖を訴え続けたアレント。
格差が拡大し、民族・人種間の対立が再燃し、
テクノロジーが大きく進化を遂げる今日の世界、
形を変えたディストピアが、再び現れる危険性はあるのか――。
全体主義のリスクから逃れるために、人間には何ができるのか。

スリリングな論考です。

本書の主な内容
●反ユダヤ主義から始まった民族の殲滅
●「普通の人々」こそが巻き込まれる恐ろしさ
●国民国家の解体と階級・階層集団の消失
●互いに無関係・無関心な人間の集合=「大衆」の誕生
●事実よりもイデオロギーがまかり通る世界
●「潜在的な敵」の摘発と「慈悲による死」
●政治の世界で跋扈する隠蔽と虚構
●全体主義に対抗できる二つの主体
●「共通の世界」を守り抜く

全体主義をもたらしたさまざまの要因は今日においても存在し続けている。グローバリゼーションの名の下で進められているモノ、カネ、人の国境を越えた移動や交流は、経済的な格差の拡大やそれにともなう民族、人種間の対立を生み出しつつある。経済発展と手を携えて進行する科学技術・テクノロジーの進展は、それまでの人間の生活のあり方を変容させつつある。そうした状況の中で「全体主義」が形を変えて再び登場する危険はむしろ拡大している(本書より)

感想・レビュー・書評

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  • このまま新書は絶滅するのか…講談社現代新書が出した「一つの答え」(青木 肇) | 現代新書 | 講談社(1/6)
    https://gendai.media/articles/-/98950

    今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢 牧野 雅彦(著/文) - 講談社 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784065295403

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「全体主義」とは何か? 人間の「基盤」を破壊する「恐ろしい思想」についてハンナ・アレントから学べること(牧野 雅彦) | 現代新書 | 講談...
      「全体主義」とは何か? 人間の「基盤」を破壊する「恐ろしい思想」についてハンナ・アレントから学べること(牧野 雅彦) | 現代新書 | 講談社
      https://gendai.media/articles/-/105216
      2023/03/10
  • 「100分de名著」ならぬ、「100頁でハンナ・アーレント」という挑戦的な一冊。
    ハンナ・アーレントを100頁にまとめるというのは、なかなか難儀な挑戦だが、それでも「全体主義」というキーワードを中心に据えながら、できるだけ簡潔にまとめようという著者の意図は伺えた。またこの挑戦はある程度奏功しているように思われた。

    ただ強いて言えば、展開される議論の全体における位置づけが不明瞭に感じられる所があったり、(これは著者の文体の癖かもしれないが)「〜ではない」といった否定語で議論を進めている箇所が散見され、これが読みにくくさせているように思われた。全体のマップを示しつつ、思い切って肯定文体で踏み込んでゆけば、全体がもう少し明瞭になったのではないか。

    いま私たちの社会には、体に纏わりつくような湿っぽく生暖かく重い風がゆっくりと吹いている。「空気を読む」というときに使われる「空気」、まさにその均質で重い空気が社会に垂れ込め、私は窒息しそうな苦しさに悶える。ある人は「新しい戦前」と言ったが、全体主義的社会に傾くこの空気を打破する小さな小さな営みの一つとして、わたしはハンナ・アーレントを読み続けようと思う。難解な書物が多いけれど、少しずつ 少しずつ読み続けようと思っている。

  • 去年飲み友だちのまりちゃんが「最近アレントが流行っているし、私も買ったんだよね」と話していて、私はアレントはかろうじて聞いたことがあるくらいだったから、相槌を打つのに焦った。そして、その夜まりちゃんと解散して一人で家の近くのバーに入ったら、アレント関連の本が数冊置いてあった。このバーには何度も来ていたけど、今まではなかったはず。バーテンダーに聞いてみたら、彼のお父さまがアレントに憧れてやまない学者さんらしく、確かに置かれた本のうちの数冊には彼と同じ苗字の著者の名前も見られた。ウクライナ戦争で再びアレントのことを思い出している人が多いらしく、バーテンダーも店に置く本を入れ替えることにしたらしい。

    この日に二度もアレントが私の前に現れたという偶然を逃したら、私はアレントを読まないまま死ぬに決まっていると思った。それで本屋に平積みになっていたこの本を読んだのだけど、100ページだからあっさり読み終えてしまったし、あまり歯ごたえも感じられなかった。バーテンダーにそう話すと笑われた。
    「アレントの解説書でしょ。それじゃわかるわけないよ。人間の条件くらい読まないと」

    というわけで、次は「人間の条件」に挑戦する所存です。私の現在の恋人はアレントの名前も聞いたことがないらしく、今後の付き合いを考えてしまいます。

  • コンセプトがはっきりしており、分量も短くて読みやすかった。もちろん、あとがきにも書かれているように、ある思想の概要を可能な限りコンパクトにまとめるという作業は非常に困難だろうし、これだけを読んでわかったつもりになってはいけないのだろうとは思った。
    全体主義について、何となくの言葉のイメージはもっているつもりでも、暴政や権威主義体制といった他の体制との違いや、全体主義の中にいる人はどのような状態になるか、等の新たな発見があった。一方で、共通の感覚が失われる、リアリティを信じられず、想像力、一貫した論理を信じる、といった、全体主義がもたらす状態は、少しだけでも理解できたようにも思うが、では、本当に人間がそうした状態に陥ってしまうのか、そこに至るプロセスをもっと詳しく知りたいようにも感じた。
    また、全体主義への抵抗手段として「事実の真理」があり、ただそれを証明する段階で、結局のところ多数決等の脆弱性のある方法によらなければならないというのも、イメージがついたように思った。さらに、アレントは歴史学や人文系の学問にこそ価値を見出していたという。確かに、「事実」だけを告げられるのか、そこに(もちろん虚偽ではない)ある程度の物語性というか背景も含めた語られ方というか、そうったものが必要となるようにも思うが、そのような理解で良いのだろうか。
    最初に書いたように本シリーズ「現代新書100」のコンセプトはわかりやすく、ぜひ読んで教養を深めたい、との気持ちにさせてくれる。一方、個人的には、「なぜその思想がいま必要とされるのか」の観点はなくても良く、その分もっとその思想そのもの等について紙面を割いてほしいとの感想をもった。
    なぜなら、その思想に触れて、それを現代のあるいは現実の世界にどう還元していくかは、読み手の判断によるべきと考えた。また、それは言い換えれば、「今こそ読まれるべき」でなければ、見過ごされてよい思想があるという発想は、かえって危険ではないかと私は思った。もちろん、現代にどう応用できるかについても書かれていればもっとより理解できるとは、思うのだけれども。
    さらに言えば、読書は、読まれる「べき」という視点ではなくて、読みたいものを読まなければいけないとも思う。

  • ジャンルで言えば「全体主義」についての本ということで「社会」にあたるのでしょうけど自分は「思想、考え方」寄りの内容と捉えました。
    前半の方はアレント入門といったテイストでしたが、4章から趣が変わりアレントの考え方を引用した著者自身の全体主義というものの考え方というか向き合い方の主張?のような内容となっているように思います。私自身はアレント自身について書かれた本は何冊か読んだことがありますがその思想についての本はほぼほぼ読んだことがなく、そこの知識がないので入門として読むのに良かったです。
    しかしあんまり理解できなかった気がする。著者の方は、多分私のように興味はあってもなんの知識もない人間のために出来るだけ分かりやすくポイントを要約しつつ書かれたのだろうと思いますが(いかに噛み砕こうか、という表現の工夫は感じられました)私の頭が悪いのか知識がなさすぎるのか…もう一回読んでもきちんと理解できる自信がない。
    ただ、3章を読むと、とても十九世紀の話しとは思えない今の日本の話では?と思うような不穏な内容で、今の日本の社会に警鐘を鳴らすべく今発刊されたのかなというふうに自分には感じられました。
    巻末にもっとアレントの思想を深く知りたい人のための読書リストが挙げられており、そちらを読もと思われるような人には本書は物足りなく感じられるんでしょうね。
    意外と読者層を選ぶ一冊かも。私は多分あんまり呼ばれる読者じゃなかったんですね。

  • アーレントを100ページで紹介する入門書。

    アーレントは屈折の多い思想家なので、100ページにまとめるのは無理だろうと思いつつ、読んでみたら、かなりいい線でまとまっていると思った。

    もちろん、議論はかなりフォーカスされていて、「全体主義の起源」を中心に説明されている。あとは、それに関連するところとして、「人間の条件」がすこし、ポスト・トゥルースの時代に参照されることが多くなった「真理と政治」や「政治における嘘」に言及。そして「エルサレムのアイヒマン」を紹介という感じかな。

    つまり、全体主義の歴史解釈とそれと比較的関連性の高いものにフォーカスされているということ。アーレントのコアな政治哲学的なところはあまり言及していないので、まとめることができたということかな?

    とくに「権威主義体制」、「専制」と「全体主義」の違いをイメージ図で整理しているところが、秀逸。

    アーレントの本はある程度読んでいるので、そこまで驚く話しはないのだが、面白かったのは、「共通感覚」や「判断」の話しが「政治」や「活動」との関係で語られるところ。

    「判断」といえば、アーレントの書かれなかった「精神の生活」の第3部を思い起こさせる。「判断」が、「活動」で生まれる公的空間や政治、そしてそれを定着化させる政策、事実の真理などなどと関係づけられて議論されるところが頭の整理になった。

    アーレントの入門書としては、わかりやすくてよいのではないかと思う。

    ただ、前半の「全体主義の起源」関係の説明が、歴史的な事実の説明なのか、アーレントの解釈による説明なのか、著者の読解による説明なのか、あいまいな印象があった。基本、アーレントの説明についての著者の解釈なのだろうと思うが、もうすこし原著との関係を明示してほしかった。(これもやりすぎると読みにくくなるのだが。。。)

  • 全体主義の芽は個人の心の中にある。独裁者を熱狂的に、あるいは冷淡に、姿勢は違えど支持するのは民衆。インターネットの普及でさらに個人がアトム化した現代にもこの警告は十分すぎるほど通じる。

  • この本を読んでいて『朗読者』という小説を思い出した。登場人物の彼女も偶然「ハンナ」という名前。全体主義の恐怖は、気づいたときにはどうしようもなく、自分の意志では生きていけなくなること。言論も封じられ、人々の思考は画一的になる。権力も財力も名誉も何も持たない市井の人々が、意図せず巨悪に与して他人を縛っていくことは、うっすら現代でも感じられる。『朗読者』中の登場人物も全体主義の犠牲者だった。彼女は服役中に様々な知識を得て、その蔵書の中にハンナ・アレントのルポも含まれていた、という話だった。
    過去の過ちを何年も繰り返し振り返り、文学や哲学で現代人に語り掛ける姿勢はドイツ人に学ぶべきだと思う。日本の政治家はよく記憶をなくすし、記録も残さないし、国民も忘れっぽい。私は大多数に流されず、細部に「こだわる人々」の声を聴くようにします。

  • 積読になっていた、講談社現代新書の『ハンナ・アレント』をようやく読了。

    全体主義的な様相を呈しつつある現代において、誰もが画一的な「行動(behavior)」をするのではなく、自らの意志に基づいて行い、他者との相互関係によってその結果が左右されるという意味で予測不能であるところの「行為(action)」をすることで、全体主義に抗うことができる。

    そういった「行為」は、その時々で意味がわかるのではなく、後から振り返ってみることでようやく意味がわかる(解釈される)。だからこそ、正確に語り継がれなければならない。「行為」の記憶を、新たな可能性への希望とともに語り継いでいかなければならない。

    ……行為の伝承に関して感じたことは、

    日本において総合診療(家庭医療)が、近年になってようやくその存在や意義を認識してもらえるようになってきた背景には、総合診療(家庭医療)を実践し、広げていこうとしてきた数々の先人たちの「行為」が語り継がれ、その意味を解釈し、そしてそれを踏まえて「行為」がこれまでに続けられてきたのだろうな、と。

    僕たちも「行為」を続けて、記録し、それを語り継いでいかなければ。

  • 全体主義は拠り所を失った人々に首尾一貫した説明を与えます。依拠できる指針を求める人は荒唐無稽な説明を受け入れます。孤立した個人を巻き込んでいく運動が全体主義の本体です。これに抵抗するには絶対に揺るがない真実や事実といった拠り所が必要となります。

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著者プロフィール

広島大学法学部教授

「2020年 『不戦条約 戦後日本の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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