東京医大「不正入試」事件 特捜検察に狙われた文科省幹部 父と息子の闘い

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065301722

作品紹介・あらすじ

贈収賄の見返りは息子の医学部「不正合格」? 東京医大を舞台に、女子受験生への入試差別など社会を巻き込んだ文科省汚職事件の真相に迫る。

事件は最初から異例の展開を辿る。東京地検特捜部による捜査の過程で、図らずも東京医大の入試で女子学生が不当に差別されていたことが判明。その余波は他大学にまで及ぶ。
そのなかで、大人たちの思惑により、本人も知らぬうちに入試の点数に10点を加算されていた文科省キャリアの次男。だが、公判で明らかになったのは、加点がなくても次男は合格できていたという事実だった。
特捜検事による取り調べへの恐怖から、罪を認めるような調書を取られていた東京医大の理事長と学長は公判で全面否認に転じる。将来の事務次官候補と言われたキャリアも一貫して容疑を否認。事件の中心人物として「霞が関ブローカー」と報じられた男にいたっては、特捜部は一通の調書も取れせないまま公判が始まる。
4人の被告が全員否認する一方、特捜部が縋る唯一の証拠は、隠し撮りされたある会食における会話の録音データのみ。
しかも、事件の背後には森友学園事件や、政府の不正を告発した前川喜平文科事務次官に対する官邸の怒りも見え隠れする。
緊迫の法廷劇、特捜検察に狙い撃ちされた親と息子はどう闘ったのか。

【著者略歴】
田中周紀(たなか ちかき)
1961年、島根県生まれ。上智大学文学部史学科卒業。共同通信社社会部で95~97年、テレビ朝日社会部で2006~10年の計5年9ヵ月間、国税当局と証券取引等監視委員会を担当。10年にテレビ朝日を退社し、現在はフリージャーナリスト。
著書に『巨悪を許すな! 国税記者の事件簿』(講談社+α文庫)、『実録 脱税の手口』(文春新書)、『飛ばし 日本企業と外資系金融の共謀』(光文社新書)、『会社はいつ道を踏み外すのか 経済事件10の深層』(新潮新書)など。取材・構成に横尾宣政著『野村證券第2事業法人部』(講談社+α文庫)などがある。

感想・レビュー・書評

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  • 「東京医大不正入試事件」と聞いて多くの人が記憶しているのは、女子の受験生や多浪生に不利な得点調整を実施していた大学入試の実態だったのではないでしょうか。しかし、これは一つの裁判事象の副産物に他なりません。その本筋となる事象が、本書で詳細に述べられています。
    「文部科学省官僚佐野氏が自身の息子の東京医大入試での得点加算を賄賂として、東京医大が応募する事業への優遇処置をとった」というのがこの贈収賄事件のあらましです。なんともありきたりで陳腐なこの構図は東京地検特捜部が描いたシナリオで、そのシナリオに沿って調書が作成され、関係者が有罪に仕立て上げられるプロセスが克明に描かれています。
    そもそも佐野氏は息子への加点を望んでもいないと証言し、大学サイドが求めた優遇についても「できない」と明言しています。さらに佐野氏の息子さんは試験での加点などという処置も知らされずに受験し、そして加点されない点数であっても合格するだけの点数を実力で獲得していました。
    東京地検特捜部は令状もないままに関係者宅に押しかけて取り調べ、「特捜部の意向に沿う証言をしないと有罪にする」と恫喝して自身のシナリオに沿う証言をさせ、関係者の自白のみを自身のシナリオに沿ってつぎはぎして立件しています。
    「検察が狙えば証拠など、どうとでもでっちあげて有罪にできてしまう」という事実に日本は本当に法治国家なのか、と疑いを感じてしまいます。佐野氏の息子さんは自力で合格しているのにも関わらず、本件の報道後にネット上で「裏口入学者は出ていけ」、「一家心中しろ」等々のバッシングを受けながらも現在も大学で医者を目指して努力を続けています。
    本件で佐野氏の有罪が確定した日、息子さんに冤罪を晴らすことができなかったことを詫びた父に対して「お父さんが無実だということは僕が一番よく知っている」と答えた息子さん。この親子を含め本件で有罪となった関係者の冤罪が晴らされる日が一日でも早く訪れることを祈らずにはいられません。

  • そりゃあ面白い。ちょっと事実・印象と違うかなという点はあるけれど。ほくそ笑んでる人も多いと思うが、それはそれとして、司法については公正で理知的であって欲しいとも思う。でもまあ、やっぱりこういうエリートの世界は人脈が大事で、とてもやりこなせなかったなと今更ながら思った。

  • 元共同通信のフリージャーナリストである著者の取材力がすごい。結論としては、官邸に慮る検察の横暴ということだが、政治家、ブローカー、役人、医師といった上級階級者の魑魅魍魎とした日常が描かれている点が面白く、一気に読み終えてしまった。こんな世界に自分は近づきたくないが、金、権力が欲しければ、不可避の世界なのだろう。

  • この事件の報道があったとき、「未だにこんな官僚の収賄があるのか。しかも文科省の幹部が不正入試の依頼をするなんて。」と思った記憶がある。
    しかし、読み終えた今、逆に「未だにこんなことが起きているのか。」と驚いた。厚労省の村木さん事件などのえん罪、検察や取り調べの改革を受けても何も変わっていないんだ。
    確かに、合格発表の前に入試結果を知り得たり、得点の説明を受けたりするのは優遇だろう。監督庁の公職の身で子息が受験する大学の理事長と会食を重ねるのも、李下に冠を正さずだ。
    それでも、疑わしきは被告人に利益に、ではなかったのか。こんな事件が繰り返されることが悲しい。
    本書にも記載があるとおり、本件が最終的に無罪になるのは難しいのだろう。せめて、息子さんが初志貫徹されますように。

  • p26 東京帝国大学、京都帝国大学で教育を受けた教授陣が東京帝大、京都帝大、九州帝国大学、東北帝国大学で黒糖教育としての医学教育を行った

    これと並行して5年で臨床医を速成する非大学の医師養成機関として全国7校の官立高等中学校のうち5校に設置された医学部 (1901年に医学専門学校=医専に名称変更)と各府県立の医学校の流れを汲み、病院を母体とする医学専門学校も存在していた

    つまり明治から大正半ばにかけて医師養成は大学れベイルの帝国大学と専門学校レベルの医学専門学校という2系統で行われていた


    1919年の大学令施行で帝国大学医学の官公私立大の設置が認められると、従来の医科大学は帝国大学のような総合大学では医学部、医学部だけの単科大学は医科大学と称されるようんいなる

    1919 阪大 20 名大 21 京都府立医大 22-29 官立の岡山、新潟、金沢、千葉、熊本、長崎の書く医学専門学校が医科大学となった(これを旧六医大と呼ぶ)

    私立 1920 慶応 1921 滋慶 1926 日本医大

    日本全国の大学医学部は現在国立42校、公立大8校、私立31校 文部省の管轄外の防衛医大の合計82校

    旧制7帝大(北海道、東北、東京、名古屋、京都、大阪、九州)、旧制医大7校(新潟、金沢、千葉、居と府立、岡山、長崎、熊本)旧制私立大(慶応、慈恵医大、日本医大)の合計17校が、伝統ある難関校として、ひろく認知されている

    p33 なによりも特筆すべきなのは、私立大医学部の入学者のほとんどが補欠繰り上げ合格者であるという点だ

    p42 一般に補欠合格者と聞くと、ごく少数の例外的な扱いに聞こえるが、入学者に占める割合でみると、むしろ正規合格者の方が少数で、大半が補欠合格者だったことがわかる

    p126 私立大医学部に正規合格するには、国立大医学部に合格するくらいの偏差値でないと難しいといわれています。私立大医学部の正規合格者は国立大との併願組がほとんどで、併願組は(学費の安い)国立大学に合格するとそちらに流れてしまいます。実際には私立大医学部の入学者の大半が補欠合格者であるという事実は、受験雑誌などでは常識なので、仮に息子が合格するなら補欠だと思っていました。

  • 酷い、本当に酷すぎる
    そのせいで人生に消えない傷をつけられた人がでた

    まずは知ること、そして考え行動に移すこと

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著者プロフィール

田中周紀(たなか ちかき)
1961年、島根県生まれ。上智大学文学部史学科卒業。共同通信社社会部で95~97年、テレビ朝日社会部で2006~10年の計5年9ヵ月間、国税当局と証券取引等監視委員会を担当。10年にテレビ朝日を退社し、現在はフリージャーナリスト。
著書に『巨悪を許すな! 国税記者の事件簿』(講談社+α文庫)、『実録 脱税の手口』(文春新書)、『飛ばし 日本企業と外資系金融の共謀』(光文社新書)、『会社はいつ道を踏み外すのか 経済事件10の深層』(新潮新書)など。取材・構成に横尾宣政著『野村證券第2事業法人部』(講談社+α文庫)などがある。



「2023年 『東京医大「不正入試」事件 特捜検察に狙われた文科省幹部 父と息子の闘い』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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