量子力学の多世界解釈 なぜあなたは無数に存在するのか (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065303856

作品紹介・あらすじ

あなたが本を読んでいるとき、居眠りをしているあなたも同時に存在している! SFとしか思えない世界像が、なぜ合理的と考えられるのかを、ごく自然ななロジックだけで解説。量子力学で最もエキサイティングな解釈問題について、一般向けに書かれた決定版!

感想・レビュー・書評

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  • 2022年ノーベル物理学賞が、ベルの不等式にまつわる量子力学の実験的検証とその成果に与えられたことは記憶に新しい。
    一般に「量子もつれ」と呼ばれる、私たちが日ごろ当然のように理解している物体の存在の仕方を根底から否定するような、微視的空間における存在の振る舞いかたが遂に実験的に示されてしまった。

    これは、私たちが日ごろ感じている存在に対する「在る」という認識が根本的に誤りであることを示唆している。少なくとも微視的な(つまりミクロレベルでの)世界では。
    しかし、私たちの身体も身の回りのモノもすべては無数の原子の組み合わせから成っている以上、
    私たち自身の存在のしかたもまた量子力学と切り離すことはできない。

    存在する、とはどういうことか?
    その答えを筆者は「量子力学の多世界解釈」という観点から丁寧に解説し、紐解いていく。
    これは少なくとも現段階では複数ある解釈の一つに過ぎず、科学的にエビデンスが得られた内容ではない(そもそも科学的にエビデンスを得ること自体が可能かどうかさえ疑わしい)のだが、
    存在理解について大きなヒントを与えてくれる書であることは間違いない。

    量子力学の研究成果がもたらした最大の功績は、
    従来の私たちが日ごろから信じて疑うことのなかった“存在そのもの”の認識について「コペルニクス的転回」を余儀なくさせたところにある。
    そのエッセンスを数式に頼ることなく平易に実感させてくれる良書。

    ただし、コペンハーゲン解釈に対して批判的な立場を取る著者による説明であることに注意を要する。
    私にとっては多世界解釈のほうが個人的に納得感が強いので好感が持てたが、必ずしも科学的に公平に書かれた解説書とは言い切れないと感じた。

  • 量子力学の何が不思議で、観測事実は何であるかが ある程度系統立てて説明されていて、一般向け入門書としては良い本だと思う。
    コペンハーゲン解釈と多世界解釈のどちらが良いかはさておき、粒子と波の両方の性質を示す実験結果から、辻褄の合う理論体系をつくるのは大変だ!
    ・波の収縮:コペンハーゲン解釈では、人が見たら(認識したら)波の性質はその時点で消える
    ・エンタングルメント:一つのミクロな粒子が二つに崩壊すると、二つの粒子は必ず反対方向に飛び出す。片方の粒子の方向を観測すれば、もう片方の粒子の方向も判明する。
    ・デコヒーレンス:多世界解釈では、観測後も波は収縮せず、あらゆる状態は共存する。しかし観測した人を含めた状態は他の状態から干渉を受け無くなり独立に振る舞う。観測した人を含めて、状態は分岐したと考える。
    ・確率則:一回限りの出来事の確信度(競馬のオッズ)と、無数の対象についてのもの(相対頻度)がある。

    昔から不思議に思っていることに、競馬のオッズは相対頻度に近づく事象がある。これも量子力学で説明できないのだろうか?

  • 「爆発物処理班の遭遇したスピン」を読んで、量子力学の概念的なものがわかる本がないかと思い読んでみようかなと。たまたま「三体0【ゼロ】 球状閃電」の次に読んだので、お、これは量子力学繋がりじゃないのと、最初はふむふむと読み始めたものの、多世界解釈のお話に及ぶにつれて、頭の中には?????と、?がポコポコ浮かんでくる。しかし、多世界解釈というのが、古典SF的なロマンではなく、あくまで論理的な解釈であることはなんとなくわかったということで、自分を納得させることにします。

  • 量子力学は一般常識では理解困難な現象を取り扱うが、その解釈の仕方に人間の認識に伴って波の収縮が起こったという実証主義的なコペンハーゲン解釈と、観測者としての人間の存在など関係なく観測機器も含めた宇宙全体が量子力学の対象であるとする実存主義的な多世界解釈があるという。

    本書の著者は後者の立場だが、理論の中核に認識したかしないかという人間の主観を位置づける前者よりも、シュレジンガー方程式という中核定理を以って全てを説明しようとする後者の方が純粋理論的に真摯で自然だとする著者に共感する。

    量子コンピュータや量子通信の元となる量子もつれとの親和性も高い後者にいずれは収斂しそうにも思うが、キリスト教の人間中心主義を考えると簡単でもないかもしれない。

  • ブクログの懸賞で当たった本です。
    「シュレディンガーの猫も取るに足らない問題」と豪語されている興味深い本。
    難解な数式を用いず、わかりやすく理論立てて説明してくれているので、概念は理解しやすい(と思っているだけ?)解説本だと思います。
    結論から言うと、解釈の問題であり、専門家の間でも統一が図れていない問題なのだが、矛盾の少ない解釈なのならそちらのほうがいいのかなと。
    デコヒーレンスの解説を読んでるとき、一卵性の双子はDNAが同じなのに、完全に同じにならないのはそのせいなのかもとふと思ったのだが、その解釈はアリ?

  • 量子力学の解釈問題にコペンハーゲン解釈と多世界解釈があり、この本は多世界解釈を解説したものである。自分の理解力が足らないのですっきりとは分からなかった。エンタングルも量子コンピュータの話題などで出てくるが、分かったような分からないような不思議な感じではある。それで星三つです。

  • ブクログのプレゼントで当選した本。
    量子力学の解釈について重点が置かれている。なので、「シュレディンガー方程式」という文字列は何度も出てくるのに、式は全く出てこないというもので、あくまで解釈について終始論じられている。そのあたりは「これぞ新書」と感じた。
    ある程度、物理を勉強できた大学生以上にオススメしたい。別物として学んだ力学・波動・粒子・電磁気学が絡み合ってくる本書は、吸い込まれるような学びを覚える。
    また、あくまでも「解釈の一つ」として論じられているのも親切。まだまだ研究が進行中の分野と思わせ、今後のノーベル賞などのニュースにも楽しみが増す本、本の魅力になっている。

    個人的にも、量子力学はいくつか方程式を学んだものの、だから何だというレベルで終わっていたので、学びがあったと感じている。まだまだ「量子力学は分かっているよ」と言うには自信がないが、この本を読んで、理解に進歩はあったかと。

  • 一般の人向けな量子力学の本でした。もちろん難しくて理解できない事もたくさんあったけど、分かりやすい言葉や想像しやすい例え話などがあって、諦めずに読み終えた。

  • 総じて、前半は前期量子論の復習になるように思われた。高校物理だと、普通、一貫校でない限りは、高校3年の2学期頃に行うと思われる、原子分野(大概が前期量子論)であるが、時間がないので大概飛ばしがちであり、難しいテーマであるため体系的に学べないことにより微妙に勉強しづらい分野でもある。古典力学や古典電磁気学のようにあまり時間をかけて履修しないので、こういう本で復習するのもありかと。それにしても、電子の粒子と波の二重性については観測者の出方によって変わるということが信じがたい方もおられると思うが、その解釈については見ていないときは確率的な波として存在し、見ると一つの点に収束し粒子としてふるまうという、いわゆる「コペンハーゲン解釈」ということで一応棚上げされているが、「コペンハーゲン解釈」も当時の哲学(考え方)に影響を受けているらしく、現在ではそれが変わってきているようである。もう少し探究したい分野である。

  • 原子構造などのミクロな世界で成り立つ量子力学の法則。本書前半では、その成立の歴史や内容について数式を使わずに比較的分かりやすく説明してくれています。この辺を一読するだけならよく書けていると思う。
    本書中盤ではさらに、量子力学の理論と観測結果がよく一致することは受け入れた上で、我々の巨視的なスケールでの直感に反する量子力学の解釈問題へと読者を誘ってくれます。この30年ぐらいの量子力学研究の最先端の状況を俯瞰できるでしょう。個人的には、理論をどう解釈したって、結果が一致しているならどうでもいいよ、と思っていたのですが、近年、理論の解釈の仕方によって結果が異なってくる実験が行われ、解釈が重要となっていて、それがノーベル賞受賞にも繋がっている。最近流行している「量子コンピュータ」の背景にも通じる量子力学の解釈の最先端には、SFなどで取り上げられる「多世界解釈」が真剣に議論されているようです。
    本書終盤ではこの「多世界解釈」が科学的に何を意味しているのか、それ以外の解釈と何がどう違うのか、ということを何とか説明しようとしてくれています。でも、残念ながら門外漢にはさすがに簡単にその内容を理解できるようなものではなかったし、「多世界解釈」には無理があるんじゃないか、そう考えたところで現実の世界以外の他の世界が「干渉」してこないんじゃ証明できないわけで、考えて無駄じゃないのかなぁ、と思ってしまった。

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著者プロフィール

成蹊大学非常勤講師、元・東京大学大学院総合文化研究科専任講師。理学博士。1949年、千葉県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。専門は理論物理。研究テーマは、素粒子物理学、宇宙論、量子論(多世界解釈)、科学論など。

「2020年 『物質の究極像をめざして』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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