- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065347430
感想・レビュー・書評
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砂川文次『ブラックボックス』講談社文庫。
初読み作家と思っていたが、どうやら2作目のようだ。この作家の先に読んだ第164回芥川賞候補作『小隊』が面白くなかったことを思い出す。
元自衛官の作家による第166回芥川賞受賞作。
バブル崩壊後の失われた30年と言われる長い不景気、新型コロナによる社会に漂う閉塞感。いつの間にか不安定な非正規雇用が当たり前という時代になってしまった。そんな嫌な雰囲気の中で物語は展開する。
前半は読む限りでは、主人公のサクマが現代の非正規労働に苦しむ若者たちの姿と重なり、可哀想に思った。しかし、中盤過ぎの展開からサクマが何事にもだらしなく、直ぐにキレて暴力を振るうが故に仕事が長続きしなかったのだと知ると同情心は粉々に砕けてしまった。
物語の構成は少し変わっていて面白い。唐突に主人公のサクマの現在の置かれた状況を描いてから、何故そういう状況に陥ったのかが描かれるのだ。
特に唐突だなと思ったのが中盤過ぎの展開で、何故かサクマは刑務所に収監されているという場面だ。小さな山谷があるくらいで、眼を見張るような展開は無い。では、出所してからのサクマが描かれるのかと思えば、そうでもなく、結末が曖昧なままに小説は幕を閉じてしまう。
自衛隊の辞め、次に勤めた不動産会社も辞め、その後もアルバイトを主とした職業を点々とし、今は都内で自転車メッセンジャーの仕事に就いているサクマは焦りと苛立ちを感じ始める。
そんな中、同棲中の彼女が妊娠し、サクマはさらに焦りと苛立ちを募らせる。
場面は変わり、サクマは刑務所に居る。一体何が……
定価682円
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サクマの衝動的な言動の数々が、単調な日常から生じる将来への不安や、社会不信からくるものなのか、それとも先天的な性質なのか、、
とにかく、彼の極度に自制心を欠いた行動には驚かされた。 -
Audibleにて。
前半は、「ケーキの切れない非行少年たち」を連想させる内容であった。「推し、燃ゆ」の少女もそうだが、生まれ持った何らかの苦手さがありそうだ。
しかしその特性に気づき、何らかの工夫を凝らせばこの特性を苦手さにしないことは可能なのだ。各種認知特性に対するユニバーサルデザイン、色覚に難を持つ人に対して作られた最近のゲーム(例えばぷよぷよ)のような合理的配慮が求められる。(倫理資本主義の観点から言っても、これは素晴らしい試みだと感じる)
必要なのは、コグトレなのか環境整備の方なのか。おそらく両方だが、個人的にはコスパ&タイパ的に、後者重視で良いんじゃないか?と思う。
明日はどうなるか分からない。この強烈な不安感から逃れるために、人は「黙過」を必要とする。
黙過は、どうしたらよいか分からない時に許された一人で生き抜くための防衛機制だ。「人間」ではなく、「人」である時の生きる手段、それが黙過ではないか。 -
行き場がない閉塞感。
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【選書No】173
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もがきながらも生きようとしている姿が印象的でした。様々な人の世界も知ることは大事だと思いました。
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2024.02.25
読んだのは『文藝春秋』の芥川賞受賞のもの。今どきな世界観。話がどう転ぶのか、読んでいて全然想像がつかなかった。 -
相手や社会の仕組みを理解しきるのって難しいと思ったし、自分の中の印象と相手が生きる現実は想像以上に乖離していることを思い出した。見えない壁が、制度にも人間同士の生活にも認識の中にもいくつもが層になって社会で生きるときに存在するんだろうと感じた。サクマが自身の衝動性について考えるようになるのが良かった。