勘定奉行 荻原重秀の生涯 ―新井白石が嫉妬した天才経済官僚 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087203851

作品紹介・あらすじ

膨大な著述を残した新井白石によって、一方的に歴史の悪役に貶められた勘定奉行・荻原重秀。五代将軍綱吉時代後半の幕府財政をほぼ掌中にし辣腕をふるった。マイナスイメージで伝えられる元禄の貨幣改鋳だが、物価上昇は年率三%弱にすぎず、それも冷害の影響が大きい。金銀改鋳以外にも、各種検地、代官査察、佐渡鉱山開発、長崎会所設置、地方直し、東大寺大仏殿建立、火山災害賦課金など、実に多彩な業績を残している。本書は、金属貨幣の限界にいち早く気づいた荻原重秀の先駆的な貨幣観に着目しつつ、悪化の一途をたどる幕府財政の建て直しに苦闘し、最後は謎の死を遂げるまでの生涯を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 貨幣改鋳で悪名高き荻原重秀の名誉回復の書。水際だった手腕で時代的困難をクリアする手際が非凡です。狷介な白石の言うことを鵜呑みにはしませんが、処罰が苛烈でよく暗殺されなかったなと思いました。私腹を肥やしたという風説もなく、また、死を痛む記事も見つからないところに人となりが伺えると思います。

  • 江戸の初期、ケインズの貨幣論の200年前に、金属本位の実物貨幣から政府が信用の裏打ちする名目貨幣を持ち込み幕府の財政を救ったのを始め、佐渡金山の排水工事を指揮して増産させ、長崎奉行所の改革、全国的な検地、地震や飢饉などへの対応など、斬新な方法で財政を切り盛りする姿は、現代の政策論からも妥当性が高く、『人生、何回目?』のレベルではなく、『異世界転生モノ』のレベル感。
    新井白石から蛇蝎の如く憎まれ、(おそらく)暗殺され、死してなお、白石の膨大な著述の中で悪評を残され、後世では失策の人として教科書に乗る。
    歴史とはそういうもんやなぁ、などという訳知り的な言い訳せず、こういう方々の業績をキチンと理解したい。

  • 序章 評価分かれる荻原重秀/第1章 新規召出ー出生、家族、幕吏への登用(十七歳)/第2章 延宝検地ー「検地条目」の新規立案、新方式の検地で頭角を顕す(二十二歳)/第3章 代官粛正ーわずか三ヶ月の会計調査で、勘定奉行を総退陣に追い込む(三十歳)/第4章 佐渡渡海ー大規模排水工事で、佐渡に「近江守様時代」をもたらす(三十四歳)/第5章 金銀改鋳ー「貨幣は国家が造るもの、たとえ瓦礫であっても行うべし」(三十八歳)/第6章 長崎会所ー銅の輸出で、運上金と金銀流出阻止の一石二鳥を狙う(四十二歳)/第7章 増収模索ー元禄の地方直し、東大寺大仏殿再建、富士山宝永大噴火(五十歳)/第8章 解任失脚ー緊急避難の銀再改鋳、新井白石による弾劾、御役御免(五十五歳)/第9章 〓(ゆう)下断食ー荻原重秀の死因は本当に自殺だったのか?(五十六歳)/終章 荻原重秀死去後のこと

  • 『月華の銀橋』の元となっただろう萩原重秀の研究。田沼意次と同様に歴史史料によってイメージが歪んでいる重要参考人。


     本当にキレッキレの財務官僚の手腕炸裂って感じ。

     ケインズよりも早く貨幣経済の本質に気づいていたってところがクール。兌換貨幣じゃなくて不換貨幣としての金貨の流通の機能について感づけるとか、経済センスが半端ない。重秀ハンパないって!

     異次元の金融緩和を続ける2018年の日本。貨幣の供給を増やしてどうなるのだろう。
     ここで重秀と現代の違いを考えよう。
     重秀は貨幣改鋳の後にきちんと財政改革を次々に打ち出した。長崎貿易改革、地方直し、できなかったけど俸禄を減らして武士への支出をへらしたかった。劇薬である貨幣改鋳による出目創出だけでは問題の根本解決にはならないことはわかっていた。だから財政改革もしようとした。これがその後の幕府体制の基盤になったのは間違いない。
     この後も幕府は改鋳を時々行っているし、この頃から商人に対する課税とかも増やしていったし、重秀が政治に与えたインパクトは計り知れない。
     しかし、現代の政治では黒田バズーカの後にドラスティックな改革をおこなえていない。できれば、年金の停止とか、税制の消費税一本化とか、公務員の大幅削減とか、そういうことを一緒にやってれば効果があったのになぁ…と思う。残念である。
     日本はどうにも大きくなりすぎた。だから政治改革を劇的に行うことができない。これは先進国の辛みだなぁ。

  • 問答無用に面白い
    歴史って最高です
    再評価すべき人物ですよん

  • 2007年刊。著者は金沢大学教育学部教授。◆江戸時代、4代将軍家綱から6代将軍家宣までの約35年、幕府勘定方で辣腕を振るった荻原重秀。貨幣改鋳で経済を混乱に陥れたという評に対して、商品経済の進展から貨幣の大量発行が必要とされていた時代の趨勢に従った優れたセンスの持ち主との評もある。本書は最近の史学での経済学的視座の重要性に立脚し、後者に沿った重秀像を開陳する。儒学者白石には理解し得なかったことが容易に想像できる上、田沼等、同時代人から酷評される江戸期の人物を色眼鏡で見てはならないことを教えてくれる書だ。

  •  江戸時代についてはあまり知らなかったが「勘定奉行荻原重秀」というあまり聞いたことがない名前と、「新井白石が嫉妬した天才経済官僚」という副題を見て、ちょっと興味を持って本書を手にとってみた。
     「国家の経済」という「マクロ経済」と「家庭の経済」が全く違うことは、現在でもなかなか理解しにくい。
     江戸期においては関東の小判などの「金経済」と関西の「銀経済」との二本立てという複雑な制度だったことぐらいは知っていたが、本書で初めて江戸時代の元禄期に「日本史上初めての大規模な貨幣改鋳を指揮」した人物がいたことを知った。
     しかし、かんじんな業績のみならず、その後の生き方をも含めて不明な点が多すぎる。
     「考察」としてはちょっと資料が少なすぎたのではないか。
     著者としては現存する資料を駆使したつもりなのだろうが、推測と想像で「論理」をつなぐのでは、評価しにくい。
     金の裏付けのない「管理通貨」という概念すらもないだろう時代の「貨幣改鋳」という大冒険。
     様々な軋轢があるだろう大規模な検地。
     佐渡の金山における大規模排水工事という事業の再構成。
     それらの施策のための政治的行動による出世と失脚。
    「考察」というよりはほとんど「推測」かもしれないが、著者は、あとがきで「歴史ノンフィクション」と自称している。
     たしかに「歴史書」とは言い難いと思えた。

  • 時代を先んじてる人間は、当時の人からその先駆性が理解されない。

    荻原重秀の功績(検地・金山・貨幣改鋳)は、この本を読むまで知らなかった。

    それ故に益となった。

  • 副題は、新井白石が嫉妬した天才経済官僚。
    ケインズより200年も早く今日の貨幣経済を
    先取りした男の謎。
    萩原重秀の辣腕がなければ元禄期の財政難は
    切り抜けられられなかった。

    荻原重秀は、江戸幕府の役人である。勘定所
    に出仕後、累進し勘定吟味役や佐渡奉行、勘
    定奉行となった。
    徳川綱吉の基で、貨幣改鋳を行ったことが、
    有名であるが、それ以外の事は、あまり良く
    知られていない。
    著者は、丹念に史料を調べ、その事績を描い
    ている。

    本書を読む前は、漠然と悪い人というイメー
    ジ(新井白石を主人公とした、藤沢周平の市
    塵を読んだ影響もあるが)であったが、本書
    を読むと、幕府を支えた能吏であった事がわ
    かる。「仕事をするために立身する」という
    感じで、仕事の報酬は仕事というタイプだっ
    たのであろう。
    萩原重秀の辣腕には容赦がない。無能な同僚
    は容赦なく粛清する。その非情さが、まわり
    まわって、自分に返ってきて、晩節を全うで
    きなかったのではないか。

    なかなか面白くお勧めの1冊である。

  •  日本史の教科書では、元禄期(綱吉の時代後半)に貨幣改鋳を行ってインフレを招いたとして否定的に書かれていることの多い勘定奉行・荻原重秀。本書はそんな荻原が200年前にケインズの学説を実践し、幕府の財政危機を救った人物であるとして再評価するものである。

    荻原重秀の具体的な実績
    ・延宝の検地(80年ぶりの検地。農業技術の発達に伴う石盛の再検討)
    ・代官の綱紀粛正
    ・産出が落ち込んでいた佐渡金山の再生
    ・貨幣改鋳(元禄金銀)
    意義1:幕府(政府)の金銀が商人(市中)に出回るようになり、緩やかなインフレ(年3%弱)のもと経済成長を遂げた
    意義2:富裕層の貯蓄の価値を減らすことによる富の分配。実質的な富裕層、商業への課税
    ・長崎貿易改革(長崎会所の設置による直轄化、銅輸出による金銀流出や生糸価格高騰の阻止)
    ・東大寺大仏殿の再建(財源は大名および天領への賦課)
    ・火山災害賦課金の創設(同上)

     貨幣改鋳に関して言うと、米価はむしろ改鋳前のほうが高かった。元禄期の財政赤字も、元禄地震、宝永地震、宝永の富士山噴火といった相次ぐ天災が起こったことによるものであった。

     荻原に汚点があるとしたら、6代将軍・家宣の時に行った非公式の銀改鋳ぐらいだが、だからといってそれまでの彼の実績は否定されるべきではない。

     荻原の悪評は家宣、7代将軍・家継の時代に幕政を担った新井白石によるものと言って過言ではありません。彼の日記である『折たく柴の記』で「26万両の賄賂を受けていた」(注:これは根拠なし)、「天地開闢以来、荻原ほどの悪人はいない」、「荻原の部下を罰するぐらいなら、奴の墓を暴いて晒すのが先だ。最も、荻原ほどの悪人は死体をズタズタに切り裂いても足りない」と書き残す。松平定信も田沼意次をここまで貶めなかっただろう。

     さらにこの人、6代将軍の家宣が荻原を引き続き勘定奉行にしたことが気に入らなかったらしく、幕僚に何度も荻原の悪評を言って罷免に追い込んだ。自分の正しさを信じて疑わない人間というのは恐ろしい…

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