勘定奉行 荻原重秀の生涯 ―新井白石が嫉妬した天才経済官僚 (集英社新書)
- 集英社 (2007年3月16日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087203851
作品紹介・あらすじ
膨大な著述を残した新井白石によって、一方的に歴史の悪役に貶められた勘定奉行・荻原重秀。五代将軍綱吉時代後半の幕府財政をほぼ掌中にし辣腕をふるった。マイナスイメージで伝えられる元禄の貨幣改鋳だが、物価上昇は年率三%弱にすぎず、それも冷害の影響が大きい。金銀改鋳以外にも、各種検地、代官査察、佐渡鉱山開発、長崎会所設置、地方直し、東大寺大仏殿建立、火山災害賦課金など、実に多彩な業績を残している。本書は、金属貨幣の限界にいち早く気づいた荻原重秀の先駆的な貨幣観に着目しつつ、悪化の一途をたどる幕府財政の建て直しに苦闘し、最後は謎の死を遂げるまでの生涯を描く。
感想・レビュー・書評
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貨幣改鋳で悪名高き荻原重秀の名誉回復の書。水際だった手腕で時代的困難をクリアする手際が非凡です。狷介な白石の言うことを鵜呑みにはしませんが、処罰が苛烈でよく暗殺されなかったなと思いました。私腹を肥やしたという風説もなく、また、死を痛む記事も見つからないところに人となりが伺えると思います。
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江戸の初期、ケインズの貨幣論の200年前に、金属本位の実物貨幣から政府が信用の裏打ちする名目貨幣を持ち込み幕府の財政を救ったのを始め、佐渡金山の排水工事を指揮して増産させ、長崎奉行所の改革、全国的な検地、地震や飢饉などへの対応など、斬新な方法で財政を切り盛りする姿は、現代の政策論からも妥当性が高く、『人生、何回目?』のレベルではなく、『異世界転生モノ』のレベル感。
新井白石から蛇蝎の如く憎まれ、(おそらく)暗殺され、死してなお、白石の膨大な著述の中で悪評を残され、後世では失策の人として教科書に乗る。
歴史とはそういうもんやなぁ、などという訳知り的な言い訳せず、こういう方々の業績をキチンと理解したい。
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序章 評価分かれる荻原重秀/第1章 新規召出ー出生、家族、幕吏への登用(十七歳)/第2章 延宝検地ー「検地条目」の新規立案、新方式の検地で頭角を顕す(二十二歳)/第3章 代官粛正ーわずか三ヶ月の会計調査で、勘定奉行を総退陣に追い込む(三十歳)/第4章 佐渡渡海ー大規模排水工事で、佐渡に「近江守様時代」をもたらす(三十四歳)/第5章 金銀改鋳ー「貨幣は国家が造るもの、たとえ瓦礫であっても行うべし」(三十八歳)/第6章 長崎会所ー銅の輸出で、運上金と金銀流出阻止の一石二鳥を狙う(四十二歳)/第7章 増収模索ー元禄の地方直し、東大寺大仏殿再建、富士山宝永大噴火(五十歳)/第8章 解任失脚ー緊急避難の銀再改鋳、新井白石による弾劾、御役御免(五十五歳)/第9章 〓(ゆう)下断食ー荻原重秀の死因は本当に自殺だったのか?(五十六歳)/終章 荻原重秀死去後のこと
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問答無用に面白い
歴史って最高です
再評価すべき人物ですよん -
江戸時代についてはあまり知らなかったが「勘定奉行荻原重秀」というあまり聞いたことがない名前と、「新井白石が嫉妬した天才経済官僚」という副題を見て、ちょっと興味を持って本書を手にとってみた。
「国家の経済」という「マクロ経済」と「家庭の経済」が全く違うことは、現在でもなかなか理解しにくい。
江戸期においては関東の小判などの「金経済」と関西の「銀経済」との二本立てという複雑な制度だったことぐらいは知っていたが、本書で初めて江戸時代の元禄期に「日本史上初めての大規模な貨幣改鋳を指揮」した人物がいたことを知った。
しかし、かんじんな業績のみならず、その後の生き方をも含めて不明な点が多すぎる。
「考察」としてはちょっと資料が少なすぎたのではないか。
著者としては現存する資料を駆使したつもりなのだろうが、推測と想像で「論理」をつなぐのでは、評価しにくい。
金の裏付けのない「管理通貨」という概念すらもないだろう時代の「貨幣改鋳」という大冒険。
様々な軋轢があるだろう大規模な検地。
佐渡の金山における大規模排水工事という事業の再構成。
それらの施策のための政治的行動による出世と失脚。
「考察」というよりはほとんど「推測」かもしれないが、著者は、あとがきで「歴史ノンフィクション」と自称している。
たしかに「歴史書」とは言い難いと思えた。 -
時代を先んじてる人間は、当時の人からその先駆性が理解されない。
荻原重秀の功績(検地・金山・貨幣改鋳)は、この本を読むまで知らなかった。
それ故に益となった。 -
副題は、新井白石が嫉妬した天才経済官僚。
ケインズより200年も早く今日の貨幣経済を
先取りした男の謎。
萩原重秀の辣腕がなければ元禄期の財政難は
切り抜けられられなかった。
荻原重秀は、江戸幕府の役人である。勘定所
に出仕後、累進し勘定吟味役や佐渡奉行、勘
定奉行となった。
徳川綱吉の基で、貨幣改鋳を行ったことが、
有名であるが、それ以外の事は、あまり良く
知られていない。
著者は、丹念に史料を調べ、その事績を描い
ている。
本書を読む前は、漠然と悪い人というイメー
ジ(新井白石を主人公とした、藤沢周平の市
塵を読んだ影響もあるが)であったが、本書
を読むと、幕府を支えた能吏であった事がわ
かる。「仕事をするために立身する」という
感じで、仕事の報酬は仕事というタイプだっ
たのであろう。
萩原重秀の辣腕には容赦がない。無能な同僚
は容赦なく粛清する。その非情さが、まわり
まわって、自分に返ってきて、晩節を全うで
きなかったのではないか。
なかなか面白くお勧めの1冊である。