官能小説の奥義 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087204100

作品紹介・あらすじ

官能小説とは、一体何なのか。世には渡辺淳一の『失楽園』や『愛の流刑地』があり、高橋源一郎にはそのものズバリの『官能小説家』という作品がある。また、平野啓一郎の『高瀬川』や重松清の『愛妻日記』は十分に濃厚なエロスに満ちている。しかし彼らの作品を、官能小説とは呼ばない。官能小説とは、読者の淫心をひたすら刺激するために、官能小説家たちが独自の官能表現を磨き、競い合ってきたものである。その精魂傾けた足跡をたどり、日本語の豊饒の世界を堪能する。

感想・レビュー・書評

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  • 官能小説を真正面から扱った、珍しい本です。かつて「エロ小説」などと呼ばれていた戦前からの歴史を紹介し、その独特の文体を、たくさんの実例を交えて紹介しながら整理、分析していきます。そして、官能小説にある「物語性」に踏み込み、最後に「書くための10か条」を掲げています。
    このような小説に文学的アプローチは似合わないという風潮は、確かに世の中にはあるような気がします。著者いわく、文壇の中でも官能小説家は「離れ小島」のような存在だそうですし、編集者の中にもそういった扱いをする人もいると著者は言います。しかしだからこそ、こういった小説の世界があるということをあえて紹介したい、というのが、著者の執筆意図であったようです。その意味では、本書は彼の目的を十二分に果たしていると言うことができるでしょう。
    「はじめに」で著者はこう言います。官能小説は文学ではない、むしろ、文学性を排除したところに存在している、と。しかし、そのような物語たちを「文学する」ことができるということを、本書は身をもって実証しているように私には思えます。性を描写することに特化したこのジャンルの物語たちは、間違いなく読者の認知と感情とに分かりやすいほど働きかけ、特に男性に対しては生理的変化までもたらします。それは、物語の側からすれば、本書が紹介するような文体や描写の妙があればこそなのですが、一方の読む側からすれば、「物語の受容」という体験を、もっとも認識しやすい形で体験しているともいえないでしょうか。
    物語や「ディスコース」への文学的、あるいは心理学的アプローチにおいて、最近「身体化 embodying」という概念が脚光を浴びています。もしかすると、「身体化された物語世界」をこれほど鮮明に読者に生み出す書物は、官能小説以外に無いのではないか、などと考えてしまいました。…もっとも、官能小説の読み体験にアプローチするには、倫理面での高いハードルがありそうで、とても無理でしょうが。

    (2008年入手・2010年1月読了)

  • 人間とは不思議な動物で、フェロモンなどの化学物質もなく発情する。映像でも、音声でも、あまつさえ意味を知らなければ模様に過ぎない、文字情報でも発情する。しかも年がら年中ですよ。これこそ「高等生物」の定義にしてみたらどうだろう。

    その、文字をして読者に情景を妄想せしめ、情欲をかきたてるのが、官能小説という分野です。効果的に情欲を刺激するためのプロットを、どのようにして組み立てるか。多方面に展開するエロティシズムの生々しさをどう表現するか。プロットを封じ込めるストーリー展開の技法。などなどを、豊富な実例を示しながら解説していきます。

  • 官能小説の手引き書。
    官能小説の楽しみ方から書き方まで、過去1万冊以上の官能小説を読んできた作者が解説する。
    日頃一段以上も蔑まれ、文壇からは無視されている世界にこれほどまでの努力と苦悩が詰まっているのかと思うと、なんだか素直に頭を垂れてしまう。
    その一方で読み手を興奮させると言う一点にあらん限りの情熱を燃やすその姿勢に苦笑を禁じえなかったりもする。
    あまり目にしないこともあって、引用文には驚くばかり。いろんな意味で凄い。
    あなたの知らない世界だ。

  • あとがきによると、官能小説コラムのために1万冊は読んでいるとのこと。それだけでもすごいことだし、いくつかの角度からの分析、分類は頭が下がる。基本的に行為のゴールは一つなわけで、よくもまあ、さまざまなバリエーションが生まれたものだと思う。言葉選びとシチュエーションが作家の腕の見せどころ。オノマトペがある日本語は言葉選びの点では幅が広がるのではないか。なんとなくのイメージだけど、シチュエーションの幅も日本人は他国と比べて広くて細分化されているのではないかと思う。最終章の10か条に書かれていることは普通の小説でも当てはまることがあるのだろう。読者のイマジネーションをいかに膨らませるかという点では普通の小説と同等かそれ以上に難しそうだ。ざっくりと感じは分かったので類書は読まなくてもいいかな。

  • 2007年刊行。引用が多いだけで、著者が指摘する特徴を浮かび上がらせているかは疑問も。

  • 雑誌「ダカーポ」でコラムを連載している人の著作。「ダカーポ」はたまーに読むことがあるのですが、そういえばそのコラムもいつも笑いながら読んでいました。

    タイトルは「奥義」とありますが、内容はこんな表現もありますよ、こんな設定もありますよ、というような、官能小説初心者向けガイドブックのような感じになっている。

    確かに、プロの人たちの表現は時に笑ってしまうほど、幅広くて想像力豊かだ。それをピックアップして羅列してあると、なるほど確かに、と唸らされる。
    女性器、男性器、オノマトペの表記、ジャンル、設定、などがまとめられた最後に、「官能小説の書き方十か条」なるページがある。それは別に官能小説だけに限らず、小説を書こうとするなら読んでも損はない十か条だと思う。


    ……とはいえ、買うほどのものでもないような気がしますが(笑)。
    でもこの筆者の「ダカーポ」での「くらいまっくす」というコラムは面白いので、「ダカーポ」を買ったら読んでみてください。
    ※「ダカーポ」終わっちゃいましたね。残念です。

  • 著者は、「フランス書院文庫」や「グリーンドア文庫」などの小説を「純官能小説」と呼びます。純官能小説とは、「読者の性欲を刺激し、オナニーさせる小説であり、さらに重要なのは、人が心の底に持っている淫心をかきたて、燃え上がらせるための小説」だと述べられます。本書はこうした純官能小説の表現を分類・解説した本です。

    序章は、官能小説の歴史について、ごく簡単に解説しています。

    官能小説特有の表現を解説している第1章から第3章は本書の中心です。多くの作品から引用がなされており、官能小説家たちの新しい表現への努力を知ることができます。

    第4章は官能小説のストーリー展開がテーマで、斉藤晃司『同級生のママと僕』(マドンナメイト文庫)、櫻木充『僕の新しい先生』(フランス書院文庫)、藍川京『炎』(幻冬舎アウトロー文庫)、舘淳一『目かくしがほどかれる夜』(幻冬舎アウトロー文庫)の4作品のストーリーが解説されています。ただ、なぜこの4作品が取り上げられたのか理解できず、分析も中途半端だという印象を受けます。

  • 官能小説とは、ただひたすら、読者の股間を熱くさせることに特化したジャンル。物語も重要だけど、大事なのは擬音語の使い方と執拗なまでのフェティシュ。自分が何に興味を惹かれるのか、官能小説を見て、あるいは自分で書いてみて探ってみるのも、悪くないかもしれない。

  • 男女の性器、前戯、性行為、フェティッシュについて、色んな作家の色んな作品から引用しながら具体的に解説している本です。

    官能小説作家を目指している人にはとても参考になる本ではないかと思いました。

    官能シーンは早めに出す、オノマトペを使う、性の優しさや切なさを知っておく、執筆中はオナニーをしない…etc

  • 引用が多いのはいいがもう少しひとつひとつ分析してほしかった

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著者プロフィール

1933年東京生まれ。官能小説を40年以上にわたり、年間300篇あまり読みこなし、新聞、雑誌などに紹介している第一人者。著書・編著に『官能小説用語表現辞典』(ちくま文庫)、『教養としての官能小説案内』 (ちくま新書) 、『日本の官能小説』(朝日新書)、『官能小説「絶頂」表現用語用例辞典』『官能の淫髄』シリーズ(河出i文庫)、『日本性愛小説大全』全3巻(徳間文庫)などがある。

「2016年 『官能小説の奥義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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