聖なるズー (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087443219

作品紹介・あらすじ

衝撃の読書体験! SNS、ネットで話題沸騰!!
2019年 第17回 開高健ノンフィクション賞受賞作ついに文庫化。

「2020年Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」「第19回 新潮ドキュメント賞」「第42回 講談社 本田靖春ノンフィクション賞」「第51回 大宅壮一ノンフィクション賞」各賞ノミネート!


犬や馬をパートナーとする動物性愛者「ズー」。
性暴力に苦しんだ経験を持つ著者は、彼らと寝食をともにしながら、
人間にとって愛とは何か、暴力とは何か、考察を重ねる。
そして、戸惑いつつ、希望のかけらを見出していく──。

【開高賞選考委員、驚愕!】
・「秘境」ともいうべき動物との性愛を通じて、暴力なきコミュニケーションの可能性を追い求めようとする著者の真摯な熱情には脱帽せざるをえなかった。――姜尚中氏
・この作品を読み始めたとき、私はまず「おぞましさ」で逃げ出したくなる思いだった。しかし読み進めるにしたがって、その反応こそがダイバーシティの対極にある「偏見、差別」であることに気づいた。――田中優子氏
・ドイツの「ズー」=動物性愛者たちに出会い、驚き、惑いながらも、次第に癒やされていく過程を描いたノンフィクションは、衝撃でもあり、また禁忌を破壊するひとつの文学でもある。――藤沢周氏
・人によっては「#Me Too」の「先」の世界の感性があると受け取るのではないか。この作品を世間がどのように受容するのか、楽しみである。――茂木健一郎氏
・多くのファクトに翻弄された。こんな読書体験は久しぶりだ。――森達也氏
(選評より・五十音順)


【著者プロフィール】
濱野ちひろ( はまの・ちひろ)
ノンフィクションライター。1977年、広島県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒業後、雑誌などに寄稿を始める。
インタビュー記事やエッセイ、映画評、旅行、アートなどに関する記事を執筆。
2018年、京都大学大学院人間・環境学科研究科修士課程修了。現在、同研究科博士課程に在籍し、文化人類学におけるセクシュアリティ研究に取り組む。

感想・レビュー・書評

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  • 動物性愛についてという、センセーショナルな題材のノンフィクション。とにかく文章がうまく、ぐいぐい読んだ。
    いやらしさは全くなく、むしろ真摯で感動的。動物、考え方の違う他者との関係性について考えさせられる。
    この本を読んだ後、動物をただ可愛がって性欲を無視する方が、ある意味虐待じゃないかとも思った。

    文庫版あとがきに、「人間は共感すべき対象を無意識にあらかじめ選択しているのかもしれない」という問題提起もあり、興味深かった。
    そっちの方面の研究を押し進めた本も、ぜひ著者の濱野さんに書いてほしい。

  • 読んでよかった!!!
    不思議な納得感とあわせて、最後愛について痛烈に批判した後、しかし果たして「愛なしで対等でいられたことがあったのか」「むしろ人間同士の方が対等であることの方が難しいのでは」と裏返っていくのが興味深い。

    言及されているように、「対等性」が自分にとっても一番大きい問題点だったようにおもう。
    言語や体格や種を凌駕して対等であるには、「動物は動物である必要がある」点こそ、「対等性」を解決しているようで、結局「支配」ともとれる余地を内包してしまっている。

    >ズーたちにとって、ズーであることは、「動物の生を、性の側面も含めてまるごと受け止めること」だった。

    これから生きていくにあたって、↑の文章が心に刻まれたのは間違いない!


  • 人間の性愛、動物との関係性に関する自分の中の常識や思い込みに、まったく違う視点が与えられた気がします。
    DV被害者である著者が、犬や馬をパートナーとする、いわゆる動物性愛者へのインタビューを通じ、人間の性愛や暴力性について思索していくノンフィクション作品です。

    動物性愛という言葉自体は初耳でしたが、世の中にはいろいろな性があるから、動物に性的興奮を覚える人もいるのだろうな、ということはなんとなく考えていました。

    一方で獣姦という言葉や行為も自分は知っていて、そうした人たちと、その行為を半ば無意識的に自分の中で結びつけて、そうした人を一種の性的倒錯者のように思っていたところも、今思うとあったように思います。

    実際に読んでみると、動物性愛者の人たちは決して異常な人ではない。LGBTの人たちが自身の性自認に悩んだように、彼らも自身の性自認に悩み、パートナーに対しても、決して性的快楽を得るための道具として扱うのではなく、人間のパートナーと変わらない愛情や慈しみを注ぐ。

    その姿は人間そのものだと思うし、著者自身も思うようにある意味では人間の関係性以上にロマンチック、あるいはイノセンスなものを感じさせる気もします。

    実際に読んでいると、自分たちは動物と性というものを切り離して考えていることにも気づかされます。日本ではペットの去勢は普通のこととして受け取られているものの、それは倫理的に正しいのか。動物であるパートナーの性を考えている彼らの方が、ある意味では動物愛護の姿勢としては正しいのではないか。
    社会の常識、自分の中の概念が、そんなふうに揺らぐことが読んでいるうちに何度もあったように思います。

    性的志向や関係性は暴力や支配とも結びつきます。著者が取材した動物性愛者の団体「ズー」はドイツにありますが、ドイツでも動物とのセックスは動物愛護法と人々の自由や権利との間で揺れ動いています。もちろん動物性愛者に対しての視点は社会的にも厳しいのが現状。

    動物たちは本当に人間との性的関係を望んでいるのか? そこには全く暴力的なものも、支配の感覚もないのか?

    個人的にズーの人たちの言い分は説得力あるものもあるし、同意できないものもあります。ただ著者はそこで思考停止するのではなくさらに思索を深め、人間が持つ性に対する偽善的な部分や、支配・被支配、力関係、暴力性に焦点をあてていきます。

    著者自身の体験によるものもあると思うけど、その思考があるからこそ、この本は下世話な表層的な部分で終わるのではなく、人間の本質の部分に触れるような作品になったように思います。

    正直最初は、自分も下世話な好奇心からこの本を手に取ったところがあります。それでも読み進めていくうちに、この本が問いかけたかったものが心の中に降りてきて、否が応でも考えさせられたように感じます。

    第17回開高健ノンフィクション賞

  • 愛と暴力の違いとか、相互理解とか、性的マイノリティーとか…とにかく読みながら考え続けて、でも簡単に答えは出なくて、大変な研究してるなと思った。題材が異色なだけに構えて読んだが、読み進め易かった。気軽に勧められる本ではないけれど、良かった。

  • 理解出来たかと読み終わってかなり考えてしまいました。差別はしないし、批判もしないけれど…本当の意味で理解は出来ていないのだと思います。日本だから攻撃とか酷い批判が無かったのではないか、と考えました。アロマンティック・アセクシャルがドラマのネタになるくらいなのでこの本も理解はされづらくはあっても批判は来ないのかもしれません。

  • 頭がカチ割られます。
    愛とは、絆とは、、当たり前の事を自分に問いたくなります。

  • ここ数年でいちばん面白く、刺激的な本でした。
    2〜3ページおきに目から鱗が落ち続け、この3日でデスク周辺に鱗の山ができた気がします。生まれ変わったように、視界が開けた。
    濱野氏の冷静で穏やかな取材は、言葉を引き出すに止まらない深い観察眼を得て、この研究に辛く苦しい動機を持つ彼女にしか到達できない知の淵に我々を泳ぎ着かせてくれます。
    すべてのセクシャリティ問題に、社会的マイノリティ問題に、性役割問題に、アンコンシャスバイアス問題に、これまで考えたこともなかった、重大かつ本質的な視点があることに気付かされる内容でした。
    衝撃的な内容ですが、とても平易な言葉で読みやすく、構成も見事で引き込まれます。

  • 知らなかった世界を垣間見る。
    構成が平易でわかりやすい。著者とともに、考えていく過程を辿っているかのように感じた。
    人とは、人間とは何かを改めて考えることになる。人と動物の関係だけでなく、社会の在り方そのものへの、問題提起。
    著者の取材にも脱帽。ドイツのセクシュアリティ状況も、日本からは考えられない。
    犬を連れている人を見ると、少し考えてしまう。
    しかし人間は裏切るが、動物は裏切り らない。友情は理解することであり、理解されること。動物にもパーソナリティがあり、それを発見することが愛なのか。

    ホロコーストの対極の動物愛護のナチス、価値観だけでは計り知れないセクシュアリティは、今後も深く考えていく必要がある。想像以上に刺激を受けた作品。

  • ズーや性に関する、筆者のインタビュー活動を基にした文章はまるで論文を読んでいるかのよう。
    性にまつわる過去の傷があったからこそ、ズーを通してそれを考え直すことを選んだそう。
    動物にも性欲があるのか…。「彼らがそう主張しているだけでは?」と思ったが、確かにたまに発情期とか見る。
    これから拡大し、議論が起こっていく性的指向であることは間違いなさそうだ。

  • ドキュメンタリーであるが、筆者の文章や描写が非常に上手く小説のように読めた。
    愛や対称性ついてなど…いろんな角度から考えることの多いテーマだけど、読む価値あり。おすすめできる一冊。

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著者プロフィール

濱野 ちひろ (はまの ちひろ)
ノンフィクションライター。1977年、広島県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒業後、雑誌などに寄稿を始める。インタビュー記事やエッセイ、映画評、旅行、アートなどに関する記事を執筆。2018年、京都大学大学院修士課程修了。現在、同大学大学院博士課程に在籍し、文化人類学におけるセクシュアリティ研究に取り組む。2019年『聖なるズー』にて第17回開高健ノンフィクション賞受賞。

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