帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087443448

作品紹介・あらすじ

2021年 LINEジャーナリズム賞受賞!
東日本大震災から10年以上経った今でも、住人が1人も帰れない「村」がある。東京電力福島第一原発から20〜30キロ離れた「旧津島村」。
かつて人気番組でアイドルグループ「TOKIO」が農業体験をした「DASH村」があった地域だ。
数々のノンフィクション賞を受賞した気鋭のライターが、原発事故で引き裂かれた人々の苦悩を描く。反響を呼んだ『南三陸日記』に連なる記念碑的ルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • 2019年3月、著者の「文庫版 南三陸日記」を読んで、私はおそらく生涯で1番読書で泣いた。大震災直後の赴任先での、コラムと写真の記録だった。

    本書は、岩手県ではなく福島県浪江町「旧津島村」の「(放射能で)100年は帰れない」と言われたその後の元村民たちを取材した記録である。3年半のWEB連載だった。「南三陸」同様のコラムと写真で構成されている。けれども、私は読書中一度も涙を流すことはなかった。代わりに、どんどん塞ぎ込みたくなった。

    前著は、「直後」ということもあって、町民たちの心が、未来が激しく動いていた。悲しいことがたくさんあったからこそ、展望を持とうとしていた。一方、10年後の「旧津島村」帰宅困難区域の人たちは、もう悲しみ尽くして涙さえ枯れ果てている気がする。全編展望が感じられない。怒りと悲しみはでてくるけど、未来が見えない。

    それでも前書きで、三浦英之さんは写真と共に書いている。
    「僕たちはすぐに多くのことを忘れてしまう。(略)でも、それは仕方ないことなのかもしれない、と僕は思う。僕たちには僕たちの生活があるし、人生をかけて夢を追っている人もいれば、大切な人を守っていかなければならない人もいる。(略)だから、少しだけでいい。この小さな本を読み終わった後に少しだけ、福島について考えてほしい。今も自宅に戻れないでいる、「帰れない村」の人々に心の中でエールを送ってほしい。「僕らはちゃんと知っています。日本には人の住めない『村』があることを」そう知ってくれただけでも、彼らはきっと喜ぶはずだ。なぜか?彼らが1番恐れているのは、人々の記憶から消し去られることだからだ」

    2019年の東電旧経営陣への無罪判決に憤る春江(60)さん。
    満州引き上げ者が多かった津島村。国によって、半世紀も経って2度までも家を追われたチヨ(90)さん。
    秘密にされていたTOKIOのDASH村は、実は津島村だった。「撮影は無理でも、当時使われていた古民家を復興の足掛かりにできないか」と未だに草刈りの手入れをしている宝次(84)さん。いつになるのかわからないのに。
    気がつかず子供たちに牛乳を飲ませてしまった酪農家の女性(62)、3月14日子供たちの「お手伝い」を応援していた児童クラブの職員(58)。今も激しい後悔に苛まれている。
    精神科医は言う。「神経の覚醒が継続していて、相撲で言えば、『はっけよい』『見合って、見合って』の状態がずっと続いている」←時々私はひょんなことで不眠症になるけれども、それが目が覚めていても24時間続くということだろうか。

    写真は「南三陸」よりも倍ぐらい多くなっている。しかし、暗い写真が多い。なぜなんだろ。と思ったら、三浦さんは一度もフラッシュを焚いていないのである。

    今年も3月11日がやってくる。
    涙は一滴も流れない。
    悲しみが続く。

  •  原発事故で帰還困難区域になった福島県浪江町津島地区(旧津島村)。本書は、離散した旧津島村の人々を追ったルポタージュです。
     著者の三浦英之さんは、この旧津島村に線量計を持ちながら3年半(2017年秋~2021年春)通い続けました。そして、多くの元住人から丁寧に話を掬い取り、自然豊かで美しい村が存在していた事実を記録し続けました。本書は、2020.9.16〜2021.3.31に、朝日新聞及びデジタルサイトに掲載された記事の書籍化で、元記事が「帰れない村(withnews)」でカラー写真とともに読むことができます。

     基本的に、一人につき見開き2ページの記事と見開き2ページ×2枚のモノクロ写真のセットで構成されています。わずか2ページに凝縮された文章から、東電への憤り、帰還できない無念さや望郷の想いがひしひしと伝わります。また、モノクロ写真の陰影が、より深い哀しみを伝えている気がします。
     震災から12年が経過し、コロナ禍もあり徐々に震災が忘れ去られようとしているのは紛れもない事実でしょうが、本書は、時間の流れに抗い、記憶の風化に立ち向かう一冊だと感じました。
    
 この旧津島村は、かつて日テレ系テレビ番組でアイドルグループ「TOKIO」が住み込み、農業体験をした『DASH村』でした。「TOKIO」もメンバー3人で新「株式会社TOKIO」を立ち上げ、福島県西郷村に土地を購入。「TOKIO―BA」として福島へ恩返しをするべく、新プロジェクトを始動させているとのことです。こちらも見守っていきたいと思います。

  • 東日本大震災から12年…未だに住民が「帰れない村」、旧津島村…。福島第一原発からは20~30km離れた山間に位置していたため、地震と津波の被害から逃れるための避難所として住民が押し寄せた…。その後福島第一原発事故が発生、放射能は風に運ばれ雪雨となり現地に降り注がれることになる…。避難をしていた被災者と現地の住民にその事実が知らされたのは翌日のことだった…。その日から今日まで「帰れない村」は、許可なく立ち入ることは住民でもできない…。

    かつての旧津島村は、豊かな自然に囲まれご近所との顔の見える関係があったため、住民のふるさとに寄せる思いは強い…なぜ、自分たちの土地が?なぜ、自分たちが住み慣れたこの地を去らなければならないのか…せめて、もっと早く放射能汚染が迫っている情報が入ってきていれば…。住民たちの、やり場のない思い、葛藤、諦め…、そんな住民たちの今を取材と写真によってひとつずつ紡ぎ出したのが本作品です。

    「白い土地」を読んだ後で本作を読めたのもよかったと思います。そして、本作の写真は表紙以外すべてモノクロなのですが、猫丸さんのレビュー中のURLをクリックするとカラーでも見られます!!猫丸さんありがとうございます。そして一部本作品に掲載されてなかった写真も見られたりもします(表紙のチヨおばあちゃん、「希望は捨てない」と自筆で書かれたボードを持って穏やかな表情をみせていました)。震災から12年経ち、地震や津波の被害を受けた地域は復興したけれど、福島第一原発事故による放射能汚染の被害地域の時は止まったままです。ここまで4冊三浦英之さんの作品を読みましたが、この4冊はいつでも手の届く場所に置き、読み返すことで忘れないでいようと強く感じました。

    • かなさん
      猫丸さん、
      ありがとうございます(^^)
      猫丸さん、
      ありがとうございます(^^)
      2023/03/17
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      かなさん
      にゃ〜ん
      かなさん
      にゃ〜ん
      2023/03/19
    • かなさん
      猫丸さん、
      コメントありがとうございます=^_^=
      猫丸さん、
      コメントありがとうございます=^_^=
      2023/03/26
  • 突然、故郷を捨てなければならなくなった方たち。

    原発近くに住む人たちのため、避難所に選んだ村はいつもなら風向きで被害に遭わないはずなのに。
    なぜか、その時だけ風向きが違い、放射能が吹き付けてしまった。

    避難所の外で炊き出しをしてたら、防護服に身を包んだ人たちが来て「何をしているんだ!建物の中に入れ」と。
    え?どーして、放射線量が大変だと教えてくれなかったんだろーか。
    子どもたちも、外でお手伝いをしていて。
    頑張ってと声をかけてしまってた…
    そんなこと知ってたら、違うとこに避難してたとか
    いろいろな後悔が出てくる。
    そんな人たちの思い。

    帰れるように除染してから、村を返さなきゃいけないと思うが。除染作業をしなくても避難指示を解除できる…
    大丈夫なのか??

    あれから、11年なのか
    まだ、11年なのか

  • 2022年150冊目。
    日テレの人気番組「DASH村」があることで知られた福島県浪江町津島地区の震災後の様子を綴ったルポ。
    浪江町の中心部が少し前に帰宅解除となったが、山間部にある津島地区は未だ除染が行われず、帰宅困難地域となっている。
    住んでいた住民は住み慣れた土地を離れ、散り散りになり、震災後亡くなる方も年々増えていると言う。
    浪江町は縁ある土地であり、番組で秘匿されている時からDASH村の存在は知っていた。
    地元の人たちは番組出演者やスタッフ達と良好なコミュニケーションを取り、テレビ画面から伝わってくる以上にDASH村を愛していたと思う。
    それが原発事故と言う未曽有の事故により、ある日突然奪われた日常。
    DASH村は隣町である葛尾村に場所を移し、米作りを再開したが、津島地区は2011年3月11日で時間が止まったまま。
    政府も除染作業を行う予定がないとのことを、この作品で知った。
    そして、津島地区はシベリア抑留から引き揚げて来た後、住んでいる人が多いことも。
    戦争で一度土地を奪われ、原発事故でまた土地を奪われ、見知らぬ土地で終える命。
    今も津島地区に帰ることを諦めない人たちにも、心を揺さぶられた。
    普通に暮らしている自分に今出来ることは何なのだろう?
    何年経っても忘れない。
    常磐道を通る度に、戻れない人たちに思いを寄せる。
    それが何になるのだろう?
    答えが見つからない。
    そんなもどかしい思いだけが残った。

  • 福井県浪江町津島地区(旧津島村)は、かつて日テレのバラエティ番組「鉄腕DASH」の「DASH村」が在ったところ。2011年の福島第一原発事故の時、風下だった旧津島村は放射能に汚染されてしまい、今も帰宅困難地域のまま。人が住めるようになるまでに100年かかるとも言われているという。

    旧津島村の現状と避難住民の思いを写真と文章で綴るルポ。文字は少なく写真が圧倒的に多い。

    「鉄腕DASH」の「DASH村」企画、面白くて夢中になって見てた。三瓶さんとか村の人々が朴訥で優しくて、知恵もあって、住んでみたくなるようないい村だったよな。本書からも、かつての村のホノボノとした雰囲気が伝わってくる。「人と人とが気兼ねなく交流できる地域コミュニティーが持つ温かさ。それは決してお金では買えないものでした」。村の記憶、風化させちゃいけないな。

  • 三浦英之『帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年』集英社文庫。

    東日本大震災の福島第一原発事故による放射能の影響で10年以上も故郷へ帰れない人びとの苦悩を描いたルポルタージュ。

    変わり果てた故郷の現在と過去の幸せな日々を写した写真も多数掲載。

    福島第一原発から20~30キロ離れた浪江町の旧津島村は、アイドルグループのTOKIOがテレビ番組の中で農業体験をしたDASH村があった地域である。県庁所在地の福島市の隣が川俣町で、その隣が浪江町なので福島県の中心からそう遠くない場所にある。一瞬にして消えてしまった幸せな日常。

    あれから10年以上が過ぎ、世間の関心は新型コロナウイルス感染禍に移り、原発事故のことなど忘れ去られようとしている。当時はあれほど原発の再稼働に反対の機運が高まっていたのに、喉元過ぎれば熱さ忘れるの如く次々と各地で原発が再稼働している。福島第一原発の廃炉作業も捗らず、今度は溜まりに溜まった汚染水を浄化して海に放出するらしい。結局のところ、原発事故の犠牲よりも利便性の方が重要なのだ。

    あの福島第一原発事故の際、当時の総理大臣だった菅直人が現場をかき乱し、官房長官の枝野幸男が「直ちに影響はない」と戦時中の大本営発表のような大嘘を吐き捲ったことを忘れてはならない。

    2021年LINEジャーナリズム賞受賞作。

    本体価格620円
    ★★★★★

  • 私が読む三浦英之氏著書の6冊目。
    本書の表紙の女性は、私が2冊目に読んだ『白い土地』に出てきたあの方だとすぐにわかった。
    私は「DASH村」のテレビ番組は観たことがないが、浪江町の状況については『白い土地』で詳細を知ることができていた。
    浪江町については、やはり本書を読む前に『白い土地』を読んでおく方が、本書の重みをより感じ取れると思う。

  • 10年帰れぬ故郷、不安・孤独・絶望……原発避難続くDASH村のいま | withnews(2020/9/16)
    https://withnews.jp/article/f0200916003qq000000000000000W0f710601qq000021687A

    福島を語る(4)「帰れない村」の現実 | 連載コラム | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス
    https://imidas.jp/olympic/?article_id=l-89-020-22-01-g787

    帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年/三浦 英之 | 集英社 ― SHUEISHA ―
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-744344-8

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      <東北の本棚>思いに忠実な老芸術家 | 河北新報オンラインニュース / ONLINE NEWS
      https://kahoku.news/ar...
      <東北の本棚>思いに忠実な老芸術家 | 河北新報オンラインニュース / ONLINE NEWS
      https://kahoku.news/articles/20220509khn000007.html
      2022/05/09
  • 大きく変わってしまったひとりひとりの人生を取り上げるルポルタージュ。
    重い。重いけど知ること、忘れないことが大事だと著者は書く。

    「そう、僕たちにできることはあまり多くはない。
    だから、少しだけでいい。この小さな本を読み終わった後に少しだけ、福島について考えてほしい。今も自宅に戻れないでいる、「帰れない村」の人々に心の中でエールを送ってほしい。
    「僕らはちゃんと知っています。日本には人の住めない『村』があることを」
    そう知ってくれただけでも、彼らはきっと喜ぶはずだ。」
    〜プロローグより〜

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