- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087606614
作品紹介・あらすじ
フィンランド郊外の村の雪原に横たわる惨殺死体。被害者はソマリア移民の映画女優で、遺体には人種差別を思わせる言葉が刻まれていた。容疑者として浮上したのは、捜査の指揮をとるカリ・ヴァーラ警部から妻を奪った男。捜査に私情を挟んでいると周囲に揶揄されながらも真相を追うカリだったが、やがて第二、第三の殺人が起きてしまう。暗闇と極寒の地を舞台に描く、フィンランド発ノワール・ミステリー。エドガー賞、アンソニー賞、ストランド・マガジン批評家賞ノミネート作。
感想・レビュー・書評
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フィンランド在住のアメリカ人作家のデビュー作。
ハードボイルドな雰囲気は確かにアメリカっぽい。
フィンランドの国情が一番の読みどころです。
フィンランドの北の町キッティラ。
警察署長のカリ・ヴァーラは、アメリカ人のケイトと再婚している。
雪原で、映画女優の死体が発見された。ソマリア移民でその美貌で二流のスターになった女優だったが。
愛人の富豪セッポに逮捕状が出るが、この男はかってカリの妻ヘリが夫を捨てて走った相手。
13年前に終わったはずの因縁が、カリの行く手に影を落としてくる‥
復讐のために逮捕した、と非難される警部。
今の妻ケイトは1年半前に、スキーリゾート施設の総支配人になるためにやってきた有能な女性。
ほとんど太陽が昇ることがない長い冬に倦み、妊娠中の不安もあって悩んでいる。
さらに事件が起き‥
きびきびと簡潔な語り口は、いかにもアメリカの私立探偵もの風。
事件はえぐいので殺人事件が無理な人には無理でしょうが、ミステリを読み慣れている人にとっては全体が短めということもあって、そこまで凄い描写でもないかな。
スリルがある内容をガシガシ読み進みたい気分なら、オススメ。
福祉国家で自然も美しい国というイメージの強いフィンランド。
大量の移民や人種偏見、そして飲酒の問題は大きい。
長い冬を飲んだくれてやり過ごす人も多いという。
首都ヘルシンキが最南端にある理由がわかりますね。
作者はフィンランド大学で修士号をとり、フィンランド女性と結婚して、在住15年になるという。
フィンランド人の思いを主人公に、アメリカ人の目から見たフィンランドをケイトの口から語らせているあたりが面白かったです。
美しい自然は、これを見たから神を信じている、ほどのものだそうですよ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
初フィンランドミステリー。事件はソマリア難民の女性が斬殺され、その検視の描写に耐え切れず読み進められなかった。が、北方のラップランドが舞台でその描写は興味深かった。
p5 気温マイナス40度は、スキーをするのには寒すぎる
p26 サーミ人、つまりラップランド人はこのあたりではひどい偏見をもたれている。アラスカのイヌイットと同じだ。
p29 ポロンクセマは、ラップランド人の距離の単位で、トナカイの小便、という意味。トナカイはそりを曳いている時は小便ができないので、時々止めて小便をさせる。その距離が約15キロ、そりで走って30分の距離
p31 ここの空は半球形で、春と秋は紺青か紫で、太陽は何時間もかけて沈む。夕日はくすんだオレンジ色の球体になり、雲を照らして、緑が銀色に輝く赤と紫の塔になる。冬は一日中、無数の星がきらめく。
p50 ヘルシンキのやつらは知識人きどりで、ラップランドに住む俺たちを無学な低能のように扱う。俺たちを、トナカイ食い、と呼ぶことさえある。
フィンランド北方、キッティラ警察署長の40歳のカリが主人公。カリはサーミ? 妻ケイトはアメリカ生まれの29歳リゾートのレヴィ・センターの総支配人を務める。
著者のジェイムズ・トンプソンはアメリカ生まれだが、フィンランド人の妻とともにヘルシンキ在住。ヘルシンキ大学でフィンランド語を学ぶ。 本の設定が男女逆になっているが、アメリカ人の著者がフィンランドに住んで感じたことが描写に出ているのだろうと思う。
2009発表 原作は英語で書かれているのかな。
2013.2.25第1刷 図書館 -
ヘルシンキあたりを舞台にしたものとえらくノリが違うけど、「氷結」(ベルナール・ミニエ)もパリのエスプリ()からはだいぶかけ離れていたし、「ご当地小説」というのが国のみならず地域も含むと考えたらこんなもんかな。横溝正史の地方の素封家ものがドロドロしてるのと同じことかw
やたらグロい、住民が変人ばっかり、いっつも暗くて寒い…と、典型的な「ひと昔前の北欧ミステリ」。特色は、一人称だというところ。
ただこの主人公、そういうキャラなのか翻訳のせいなのか(これは少しはありそう)妙に思考が生硬で、なんというか人間味を感じない。一人称で視点人物に魅力がないというのは、それなりに致命的かと。地元フィンランド人でも鬱かアル中になる北極圏の田舎である自分の出身地にアメリカ人の妻を閉じ込めて、ビタイチ譲歩する気がないのはどうかと思う。「アメリカ移住は論外。ヘルシンキへの引っ越しなら、考えんでもない」じゃねーよ。
ネタの面でもいまいち硬いというか、要素が有機的に融合していない感じがした。「この件は殺人事件に関係があるはずだ!」と主人公が断じ、実際そうではあるんだけど、なんというか取って付けたよう。自然な因果には感じられず、いかにも作家が頭で考えたフィクションにしかなっていないと思えた。
2022/2/9〜2/12読了 -
登場人物が分かりやすく、読みやすいと思った。
紹介の妻を奪った男ってところ勘違いしてた(笑) -
フィンランドを舞台に黒人女優の殺害事件を追う刑事の姿を描いたミステリー。
北欧諸国といえば福祉国家のイメージが強くて、なんとなくですが住みやすそうな印象があります。フィンランドも自分にとってはそんなイメージの強い国です。
しかし、この作品ではそうしたフィンランドが抱える暗闇の面を事件と絡めて描いています。被害者の女性はソマリアからの移民で、人種差別や移民問題、宗教が事件の背景にあることをうかがわせます。また性犯罪をうかがわせるところもあり、そのようにさまざまな面から事件の闇だけでなく、国が抱える闇をうかがわせます。
また、捜査を指揮するカリ警部の妻はアメリカ出身なのですが、彼女の見方からフィンランドという国の国民性を描いているあたりも良かったです。解説によると、著者はアメリカ出身で現在はフィンランド人の妻とともにヘルシンキに住んでいるとのことらしいですが、そのあたりの経験が存分に作品に生かされているように感じられます。
犯人の闇の部分が描き切れていない点と、ラストのカリの行動についてはちょっと不満が残りました。また人種差別や宗教観、女性観の問題をもうちょっと盛り込んでも良かったかな、と読み終えて思いました。
しかし、フィンランドが抱える闇に挑む、という著者の意気込みがとてもよく伝わってきて、作品にとても引き込まれました。また事件の経過の描き方や警察内での政治的な駆け引きなど警察小説としてもサスペンスとしても予想以上に優秀な作品でした! そして読み終えてみると『極夜』という邦題がピッタリな作品だったな、と感じます。
カリを主人公とした次作も翻訳されているみたいなので、そちらもそのうち読んでみようと思います。 -
極夜の季節のフィンランドで、一人の移民女優が惨殺死体で発見される。
被害者は事件捜査を指揮するカリの元妻を奪った男の愛人で…。
主人公カリの妻にアメリカン人女性を配置することで、作者がフィンランドに感じている違和感のようなものが前面に押し出されている。
ちなみに作者はフィンランド人を妻に持つヘルシンキ在住のアメリカ人。
この辺のつくりは悪くなかっただけに、捜査が頭の中で組み立てられたことに重点を置いた手法であったことが残念。
ミステリとして単純に感じられてしまって、もう少しあれこれあってよかったんじゃないかと。
政治的駆け引きとか、人種差別とか、盛り込んだ割にはあっさり。
猟奇的な死体も扱いが軽くいし、犯人の反社会的な部分も書ききれていないし、なんか全体的に薄い印象。
ただ極夜のざわざわした感じはどういうわけだかこちらに伝わってきた。
なんとも評価しにくいミステリだったなぁと。
これは続きを読んでみないとだな。 -
本書はフィンランドの極北ラップランドを舞台に、その地の警官が凄惨な殺人事件の捜査にあたるミステリーです。
と言っても、著者は生粋のフィンランド人ではなく、アメリカ生まれのアメリカ育ち。
後書きによればハイスクール卒業後、ボストンの酒場でバーテンダー(時には用心棒)として働き、フィンランドへ移住。
ヘルシンキ大学を卒業したり、現地の女性と結婚したりで、かれこれ15年間同地で暮らしている人物です。
つまり、本書は第3者的な視点からフィンランド社会を見ることも出来る内容となっており、また同社会の影の部分へ焦点を当てたストーリーから同国の保守層の反発を招いたとの事です。
では前置きはこの位にして以下であらすじをご紹介。
ソマリア難民2世の黒人女優が、ラップランドにて人種差別を伺わせる凄惨な他殺体で発見される。
被害者の美貌とその殺害方法からブラックダリア事件になぞらえた報道が相次ぐ中、現地の警察署長カリが捜査の指揮にあたる。
捜査の結果、容疑者はすぐに判明。
さっそく逮捕されるが、実は容疑者は13年前にカリの妻を寝取った男だった。
私怨から捜査を歪めたのか?と言う報道が出てくる中、新たな容疑者が浮上し、捜査は混迷を極める。
再婚相手のアメリカ人女性(妊娠に加え、慣れぬフィンランド社会に疎外感を覚えている)との関係も危機を迎える中、カリは事件の真相を明らかにできるか?
1日中太陽が出ない長い極夜とそれを切っ掛けに蔓延するアルコール中毒。
これらのフィンランド社会の影を受け入れ、静かに苦しんでいるカリとその影に疑問や異を唱える彼の妻との対話が緊迫感を伴う中、捜査陣が二転三転する事態に疲労していく姿が描き出されており、読んでいて自然と「耐える」と言う言葉が連想されるストーリーです。
しかし、その一方で日本で見られるメディアスクラム等と言ったマスコミの「独善さ」が浮き彫りになる描写は極めて限定的であり、さながらラップランドの極寒で"浄化"されたと言った感じもします。
まとめてみると、この様になんだか不思議な感じがしつつも、しかし、ゴツン、ゴツンと容赦なくカリを、そして読者を打ち据えてくるミステリと言った所でしょうか。
十二分に楽しめるミステリですので、ちょっと刺激のあるストーリーを読みたい時などにおすすめです。 -
フィンランド北部の激寒の冬に起こった、ソマリア人女性の殺害事件から、次々と起こる殺人、その中で、フィンランドに住む人々の気持ち、そこにやってきた人の気持ち、混じり合った気持ち、カリとケートの今後が愉しみです ミ(`w´彡)
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「ブラック・ダリア」を思わせる第一の殺人は一見派手に見えるけれども、全体を通して地味で重い、そして芯が通っている。これは北欧ミステリに共通する印象。フィンランドという国を知ってほしいという作者の隠れた意図があるのかないのかわからないが、ちょいちょいそう思わせるシーンやエピソードが登場する。でもストーリーの邪魔にはならずに、うまく溶け込んで馴染んで更に深みを増していくので、作者の技量が上回っているのだと思う。
これは小さなコミュニティの話。人生を狂わされた犠牲者の物語──そう書くと陰惨で重苦しいが、さらりと読めるし、どちらかと言うとソフト路線。謎解き目線で見ると弱い。伏線が繋がることもなく、唐突に突破口が開いたりするので軽く唖然としてしまったが、潔く崩壊する様がかろうじて相殺してくれたかな。宗教や思想や欲望やらをごった煮にして、人って愚かで悲しいなあって思うけど、読後の余韻は悪くない。
シリーズの一作目なので荒削りなのは許容内で、自然と次回作が読みたくなった。全体を通して感じる暗闇と極寒の雰囲気がなかなかよいかも。ハードボイルドやノワールの雰囲気もあり、ハリー・ボッシュやクルト・ヴァランダーとはまた違ったタイプのシリーズになりそう。ストーリーとしても面白かったが、フィンランドって複雑な国だなーという余韻が尾を引く作品でした。