累々

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717358

作品紹介・あらすじ

デビュー作『カモフラージュ』を超える衝撃。待望の最新小説発売。

本当の私は誰。
結婚、セフレ、パパ活、トラウマ……。不穏さで繋がる全5編。
たくらみに満ちた、著者の新境地。

【著者プロフィール】
松井玲奈(まつい・れな)
1991年7月27日生まれ。愛知県豊橋市出身。著書に『カモフラージュ』。

感想・レビュー・書評

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  • 松井玲奈の2作目は短編連作集。4人の女性の様に見えるが、実は一人の人物のことが描かれている。全く異なる(ように見える)性格を描き分けて一人に集約できる著者は、前作同様凄い作家だと思った。

  • 登場人物への自分の投影や共感などいらない。
    加害者もいなければ被害者もいない。

    小説のために、人を動かし、出来事を起こすのではなく、人が動き出来事が起こる。
    過剰な説明を剥ぎ落した短文が、読み手の想像をかきたてる。

    時系列も操りながら、主人公の女性について周囲の人物が次第に露わにしていく。
    短編が累々と重なり、彼女の「本質」が剝き出しになっていくのか、はたまた加えられていく意外な彼女の一面それぞれが彼女の「本質」なのか。
    いずれも彼女そのもの。

    人間が持つ脆さや狡さ、抱える寂しさや劣等感、たおやかさ等、奥行きや弾力性を作家の価値判断を抜きに呈する。
    周囲の登場人物たちのパーソナリティや背景も輪郭を際立たせるあざとさがない。巧い。

    第1章で彼女が結婚を逡巡する心の行きつ戻りつが丁寧に言葉で描かれ、最終章にしっかり繋がる。
    頁を閉じた後の彼女の心の内を想像すると、余韻でさらに愉しめる。
    お見事だった。面白かったあ。

  • 「小夜」という女性を巡る連作短編集。
    ずっと柔らかいトゲでチクチクされてるかのような作風は健在。
    今どき女子が詰まってるような作品というイメージ。
    前回・今回と、なかなか癖の強い作品なので、違う作風も読んでみたいです。
    すっかりファンになってしまいました。

  • 絹の手触りだ、と思った。
    あるいは、片栗粉を指で擦った時に感じる微粒子。
    細やかな心理描写。

    まだ23歳の小夜(さや)が、今度30歳になる葉(よう)さんに正式にプロポーズされてのゆらめき。
    今は、一歩進める良いタイミングなのだろうと思いながらも、どうしてもその一歩が踏み出せない。
    親友の深鈴(みすず)は、出来ちゃった婚した。
    傍から見て、まだやりたい事があっただろうに、と思ったのは事実。
    では自分はどうしたら・・・

    結婚して母になる親友と、だんだん話が合わなくなる。
    何気なく言った言葉が相手にとっての地雷。
    あるある。

    人と人は、分かり合えないのが当たり前だと思うのが、私見である。
    この作品でも描かれている。

    ①「分かっているよ」と善意で示されたのが自分が思っているのとは別の解釈だった。相手に悪意がないだけに、否定できなくてモヤモヤ。
    ②分かっていない、分からない・・・ことを自覚しているのにもかかわらず、気に入られようとして「分かったふり」をする人。付き合いたくない。
    ③「(今まで)分かっていると思ってたけれど、分かっていなかったんだね」と認めることこそが理解。

    小夜は、今の自分はプロポーズを受けていいのかどうか悩んでいる。
    けどそれを簡単に「マリッジブルー」という言葉で片付けてほしくないのだ。

    そんな複雑な気持ち、分かる分かる、と読み進んでいくと、なんだか怖いことになってくる。
    振り返れば、いろんな伏線が描かれていて。
    小夜がこういう女の子になったのはこういう理由があったのだなと理解する。

    ただ・・・
    このままで終わるのかなあ〜?
    と、ちょっと勘繰ってしまう。
    何か起こりそうではありませんか?

    パパ活のお話が一番気に入った。
    人と人との理解はこういう形もある。

    あの、松井玲奈さんがどういう小説を書いているの?
    という興味で手に取りました。
    新鮮な切り口、ほんのりホラーが香る美しい世界観。何かの賞をもらってもいいんじゃないかと思った。


  • 個人的な読後感としては、何か煮え切らない
    歯噛みの悪さが残りました。
    近しい読後を感じたのは、乾くるみさんの
    イニシエーション・ラブとセカンド・ラブ。


    〜〜〜
    小夜は付き合って2年目の葉からプロポーズ
    されるが、なんとなく返事を濁してしまう。

    少しピントがズレてるが誠実な葉との結婚に
    なぜ二の足を踏んでるのか、どんなトラウマが
    隠されてるか探りつつ短編を読み進める。

    短編ごとに、小夜、パンちゃん、ユイ、ちぃ、
    呼び名もキャラクターも違う女性が現れ、
    ラストに近づくにつれて、現在から過去へ
    遡っていたとわかり。

    帯の[もう誰かのための自分にはなりたくない]
    理由が明らかに。

    誰かのための自分にはなりたくない、
    わかる気もするが、だからと言ってなんでも
    奔放にして良いのか。
    それは結局、自分の受けたことを同様に外に
    向けてやってるだけではないのか。
    疑問をもった最後のシーンでした。

  • 噂のアイドルさんがどんな作品書いてるのか気になって読んでみた。

    ほええええこんな感じなのかといい意味で驚き。
    二話目であれ?これもしかしてそゆこと?と思い三話目で確信。同じ女の子の内側を掘り下げているようで逆に全然彼女のことがわからなくなるような迷路のような連作短編集。

    たとえば松井さんのファンの女の子の年代ならばなかなか理解が難しいような女のえぐさを淡々と描いていてそれにより評価が割れそう。

    わたしはこういう普通の女の子の皮を被ったちょいクレイジーな女は大好物なので楽しんで読めました。

    特にパンダが頭だけになるまでキーホルダー使い続ける執念と狂気がツボでした。ボロボロになって頭だけになったパンダを見て彼女はなにを思うんだろう。

    しかし葉という男は、こんな自分の手に余る女を手に入れてこの先どんな幸せを歩むのだろうと下世話な好奇心がふつふつと残る。

    これからはアイドルでも女優でもなく彼女を作家だと認識することにします。


  • 松井玲奈、おそるべし。もはや「アイドル」作家というカッコは必要ないな。

    前作『カムフラージュ』がすごくよかったので二作目はどうかな、ちょっとアレを超えるのは無理かな、なんて思いながら読み始めた自分が恥ずかしい。
    タイトルも章の構成もすばらしい。当然内容も。

    本の紹介にある「本当の私は誰」という言葉。そうか、そういう意味の「私」か、と。
    彼氏にプロポーズされたのに結婚をためらう「私」と、彼氏の友だちとセフレの関係を持つ「私」と、お金に困ってないのにパパ活をしている「私」と、初恋が実らずに涙する「私」と、そして、今日結婚式をあげる「私」と。いろんな「私」の物語。いくつもの顔。いくつもの私。いくつもの「関係」。

    人はだれでもいくつもの「顔」を持っている。時間によって変化する顔も、相手によって変化する顔も、気分によって変化する顔も、ある。そんな「私」の「顔」をなんと鮮やかに切り取るのか、松井玲奈は。
    それでも、そのたくさんの顔の、その時による変化の、そのすべての裏側に、もしかすると絶対に変わらない思いがあるのかもしれない。いや、きっとあるのだろう。その変わらない思いへの作者の祈りを感じた。

  • 彼氏からプロポーズを受けた小夜。しかし、なかなか一歩を踏み出すことができずに混沌とした気持ちのままでいる。
    私はこのまま結婚してもいいのか?
    その人と長くいることで、段々と相手の本性が露わになります。それでも好きになれるのか。様々な「好き」の形が垣間見れます。

    全5章の連作短編集ということですが、最初独立した短編集かと思っていました。しかし、段々と読み進めるにつれて、同一の名前が登場し、これは一人の女性の恋愛物語なんだということがわかりました。
    ただ、同じ名前で別々の女性の物語としても楽しむことができるので、多種多様な味わい方がありました。

    普段テレビで拝見する松井さんとは違い、小説家としての顔では、想像以上に「女」としての恋愛模様を描いていて、新たな一面を垣間見ました。

    時折、登場人物の心理描写を描いた後に情景描写が綴られるのですが、それが良い余韻を残してくれます。文章が透明感で美しく、気持ちがプツッと切れることなく、持続した感じにしてくれるので、心地よかったです。

    それぞれの章で、違ったアクセントを演出しているので、それぞれ違った面白さがありました。
    個人的には、第3章が面白かったです。恋愛シミュレーションのような選択肢を用いた構成は新鮮味がありました。

    それぞれの章で魅せる別々の「私」。結果として別々に見えてしまうが、現実でも、会う人によって、対応を変えていると考えると、自然なことだと思います。

    お互い仲良くなり、本性をさらけ出しても好きでいられるか。最終章では、温かい結末で良かったです。それまでは冷たい雰囲気で、悲しい状況だった分、最後は自然と拍手したくなりました。

  • すごい。満足感が大きい。
    これからこれを読む人は、なるべく間隔をおかず数日で読むことをおすすめしたい!

  • 著者をみてエッセーかと思い手に取ったらまさかの小説。会話が多いからかあっという間に読み終わりました。
    ちぃの章の周りが見えなくなる感覚は少し苦しくなるけど懐かしい。
    あんなに結婚を迷っていたのにわりと急に結婚式の話になったので、もう少し小夜の葛藤が読みたかったな〜
    みんな多少なりとも違う顔も持ってるけど、葉さんだけは、小夜に魅せる顔だけであってほしい。
    続きがありそうな、このままで終わらなそうな最後だと思った。

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著者プロフィール

役者。1991年7月27日生まれ。愛知県豊橋市出身。著書に小説『カモフラージュ』『累々』(ともに集英社)がある。


「2021年 『ひみつのたべもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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