さよなら、サイレント・ネイビー ――地下鉄に乗った同級生

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087813685

感想・レビュー・書評

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  • 本書はオウム真理教による地下鉄サリン事件を題材にしたノンフィクションである。

    地下鉄サリン事件は、1995年3月20日の朝の通勤時間帯に、東京の地下鉄の丸ノ内線、日比谷線、千代田線の車両に、猛毒のサリンガスを撒くテロ事件である。14人の方が亡くなり、6,300人の方が被害に遭われている。
    実行犯の1人、豊田亨は東京大学大学院理学研究科で物理学の修士を取得し、博士課程に進もうとしていたところで「出家」し、オウム真理教の活動に深く関わることとなり、実行犯として本事件に関わることとなる。豊田は裁判で死刑が確定し、2018年7月に死刑が執行されている。
    本書の副題は、「地下鉄に乗った同級生」であるが、筆者の伊藤乾は、東大の学部時代・修士時代の同級生・友人である。

    最初に書いた通り、本書は地下鉄サリン事件を題材にしたノンフィクションであるが、事件の経緯や背景を描く種類のノンフィクションではない。
    筆者の本書でのスタンスは一貫している。それは、「真の原因究明」であり、それを通じた「再発防止」だ。
    それを綴った、本書の話の流れと筋は2つある。
    筆者も豊田と同級生であるということは、物理学を志した科学者であるということだ。1つの筋は、本事件の重要ファクターである、マインド・コントロールを科学者として科学的に調査をしていることだ。
    もう1つの筋は、なぜ、筆者が「真の原因究明による再発防止」が重要と考えるのかということを、太平洋戦争での教訓を例に引きながらの主張を展開していることである。
    若干、話が跳んでいるのでは?と思ったり、あるいは、文章が分かりにくいなと思う部分もあったが、全体としては、とても迫力のあるノンフィクションに仕上がっていると思う。

    題名の「さよなら、サイレント・ネイビー」の、"ネイビー"は、太平洋戦争中の大日本帝国海軍のことだ。多くの海軍軍人たちが、敗戦後、「潔く」黙って戦争責任を引き受けたように筆者には思えるが、そうではなくて、実際に戦争ではどんなことが起こっていたのかを語らないと「真の原因究明による再発防止」が出来ないということ。そして、それが、裁判中も多くを語らない豊田亨の姿にだぶっていることが、題名の由来だ。

  • 「死刑が一番重い罪ではない。ただ簡単に死刑と言う判決を下してしまうよりも、事件をもっと深く考えるためにも、罪を償うという意味で、加害者には罪を償わせる意味がある」と言うことは。個人的にもこれを読む前からある考え方だったし、さほど珍しく、新しい考え方ではない。その上で、しかし…と言う難しい問題だ。で、結局この本を読んで得た物は、改めてその事について考えさせられた事ぐらいだった。
    結局著者は何が言いたかったのだろう。東大出身者の難しい言葉、専門用語に騙されてはいけない。それを覗けば、この本には中身が全くない様に感じた。オウムの信者だった親友(それも怪しい)と著者の学生時代のエピソードや事件について、上っ面の部分が書かれているが、肝心な確信や中身が無い。結局何を訴えたかったのか分からない。個人的にも、豊田被告と同じ様な立場、心情であろう信者の裁判を傍聴した事があるが、それはそれは考え深い物だった。そして、あの被告の心情、考えがどんな物か知りたいと思った。
    親友と言う立場なら、それを聞くことができたのではないか。それは第3者の私たちには出来ない。それが出来るのは著者や親族など一部の人しかいないのだから、それこそがこの本に書き連ねられるべき物なハズ。それもなく、新聞で知りうるような事柄を並べて、改めて事件について考え直せと言われても無理がある。インテリの戯言の様な本だった。

  • 1

  •  あれこれ政治に口出しする陸軍と違い、海軍には黙って任務を遂行し、黙って責任を取る「サイレント・ネイビー」という言葉があったらしい。
     大都会の地下鉄にサリンを散布するという、未曽有のテロを実行した犯人の一人は、エリート科学者の卵として最高学府の難関専攻で著者と机を並べたとの事。
     実際にサティアンの跡を訪ね、同時刻の地下鉄に乗車を体験する。音響や薬物の影響、認知に先立って行動を起こす人間の行動特性、視覚と脳の血流なども調べながら「マインドコントロール」の可能性を探る。
     遂に動機も解明されないまま、幕引きが図られようとしている、オウム裁判。かつての同級生と接見を繰り返しながら、人類が繰り返してきた過ちと同じ本質があるのなら、黙るのでなく、2度と起こらないように解明すべきと、著者は説く。 

  • 戦争という行為は理屈を越えた感情が関わっていると思っていたけど、そこに東大を代表とするキレる人たちが大きく影響していたのは驚いた。作者が豊田亨の友人であることから個人的な想いが含まれることは避けられないが、自我を持った個人でも所属する集団によって変わっていく様子は学校や会社に置き換えることもできるかもしれない。

  • 最初の50ページくらいまでは はっきり言って私にはとても読みにくかった。それ以後は良かったですね。

  • 論点が広範囲にわたるので、少し散漫な印象。でも、冒頭の地下鉄の場面他、筆者の「主観」を中心に展開されていくところが、心をぐっと掴まれる。ただ、こういう、「感情」の強くこもったメッセージには動かされやすい、っていうのも、マインドコントロールの元になっている仕組みなのかな。。

  • 飽た。

  • 「さよなら、サイレント・ネイビー」読んだ。犯罪の再発防止という観点でオウム事件と太平洋戦争を扱っている、ちょっと珍しい本。内容は散漫だけど、死刑制度へ問題提起しており、今読んでおいてよかった。あと、戦史・研究書以外で「回天」に触れてる本を初めて見た。覚醒剤のくだりも興味深い。

  • ★ならではのオウム記★まず著者のことを勘違いしていた。音楽もやる物理学者だと思っていたが、博士号を取ったのは表象文化であり、物理の素養のある作曲家・音楽研究者だった。

     地下鉄サリン事件の実行犯である豊田死刑囚は、「天才の墓場」とも称される素粒子の研究室に在籍し、著者とは同級生で実験パートナーでもあった。地下鉄に乗って事件実行の追体験をする冒頭を読み、特殊な関係性にだけ依った話かと一瞬興醒めした。ところが、射程は思ったより広かった。
     「耳から得た情報は気づきに先立ち意思を決める」という知見からマインドコントロールのカギを探る。肉体の異常反応は宗教とは関係なく生じる(見田宗介ゼミ)実体験、麻原の相手に目を読ませないからこその強さ、などは納得した。そして「東大の物理研究者」という肩書をオウムが求めたために豊田は出家させられたのだ、と指摘する。根底に流れる豊田とのつながりが第三者では書けない文章の強靭さを持つ。だからこそ、再発を防ぐために豊田に「話せ」と迫る。無言が償いではないと。

     村上春樹に対する反発は興味深い。「エリート」「応用物理学者」と豊田を称したことに激しく反発する。確かに分かる。理論物理を追究したからこその顛末であり、村上の分析はあまりに表面的かつ誤解に満ちている。そして、理論専攻では修士論文ですら、既往研究のレビューしか許されず、髪の毛一本ほどのオリジナリティーも発揮できない研究室の窮屈さもひしひしと伝わってきた。

     もうひとつ、オウム信者が体験したような不思議な肉体の動きは宗教とは無関係に生じるという。貧乏ゆすりや嚥下のように、意図とは別に肉体は動く。この不随意的な神経経路は「錐体外路系」と呼ばれ、これを解放する「活元」(野田晴哉の生態法)を著者は東大の見田宗介ゼミで体験した。これが「宗教的体験だ」と言われると、確かに危うく納得しかねない。誰に学ぶかはその後を左右する。

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著者プロフィール

1965年生まれ。作曲家=指揮者。ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督。
東京大学大学院物理学専攻修士課程、同総合文化研究科博士課程修了。第一回出光音楽賞ほか受賞。東京大学大学院情報学環・作曲=指揮・情報詩学研究室准教授。『さよなら、サイレント・ネイビー』(集英社)で第4回開高健ノンフィクション賞受賞。

「2009年 『ルワンダ・ワンダフル!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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