この部屋から東京タワーは永遠に見えない

著者 :
  • 集英社
3.33
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087880830

作品紹介・あらすじ

東京に来なかったほうが幸せだった?
Twitterで凄まじい反響を呼んだ、虚無と諦念のショートストーリー集。

「3年4組のみんな、高校卒業おめでとう。最後に先生から話をします。大型チェーン店と閉塞感のほかに何もない国道沿いのこの街を捨てて東京に出て、早稲田大学の教育学部からメーカーに入って、僻地の工場勤務でうつになって、かつて唾を吐きかけたこの街に逃げるように戻ってきた先生の、あまりに惨めな人生の話をします。」(「3年4組のみんなへ」より)

「『30までお互い独身だったら結婚しよw』。三田のさくら水産での何てことのない飲み会で彼が言ったその言葉は、勢いで入れたタトゥーみたいに、恥ずかしいことに今でも私の心にへばりついています。今日は、彼と、彼の奥さんと、二人の3歳の娘の新居である流山おおたかの森に向かっています。」(「30まで独身だったら結婚しよ」より)

「私、カッパ見たことあるんですよ。それも二回。本当ですよ。桃を持って橋を渡ると出るんです。地元で一回、あと麻布十番で。本当ですよ。川面から、顔をニュッと目のところまで突き出して、その目で、東京にしがみつくために嘘をつき、人を騙す私を、何も言わず、でも責めるようにじっと見るんですよ。」(「カッパを見たことがあるんです」より)

14万イイネに達したツイートの改題「3年4組のみんなへ」をはじめ、書き下ろしを含む20の「Twitter文学」を収録。

【推薦コメント】
面白すぎて嫉妬した。俺には絶対に書けない。
――新庄耕さん(作家,『狭小邸宅』『地面師たち』)

【著者略歴】
麻布競馬場(あざぶけいばじょう)
1991年生まれ。

感想・レビュー・書評

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  • Twitter文学の先駆け!
    くり出される「今年で30歳になります。」のパンチライン! 彼らの失望の、その先は。

    Twitter(現X)、noteにアップした文章を集めた、20作の超短編集。

    各話にそれぞれつながりはなく、主人公は性別も経歴も違う。
    しかし彼らの『ペルソナ』はまったく「同じ」だ。しつこいほどに。

    地方出身。努力して有名私大に入学、またはそれなりに有望な会社に就職するも、つねに拭いきれない劣等感を持ち、他人と比較して満たされず、鬱鬱としているアラサー。
    メンタル病みすぎやって….。

    形はそれぞれでも、その承認欲求が満たされることはなく、自己肯定感、自己効力感もない。
    あるのは死にたくなるほどの劣等感。地元にも東京にも居場所のない疎外感。

    とにかく鬱屈として、上か下の価値観しかない世界観。。


    個人的には、自分との「属性」の近さゆえに、同族嫌悪的な感情を抱いた。
    実体験と、描写される空気感や情景がリンクし、心をかき乱された(クスっと笑わせられる部分もあったが)。


    ・・・自分と向き合うのって、苦痛だよな。
    そう思いつつ、大江戸線の地下を、深く深く潜っていくワタシ。
    たどり着く部屋からも東京タワーは永遠に見えない。なんてね。

  • 東京を舞台にした短編集。地元や家族から離れたい一心で進学や就職を機に上京し、結局東京でも空回りしてしまう話が多かった。恵まれたように見える他人と自身の境遇を比べ卑屈になったままで終わる話が多く、読後感はあまり良くない。学歴や見た目、住んでいる場所、勤務先など、分かりやすい指標だけで一喜一憂する主人公が痛々しかったし、そうした指標が現実以上に大袈裟に扱われている印象を受けた。

  • どこかの地方から夢を抱いて東京にでてきた若者らが独白体で語る、その後のストーリー。
    栞のようにはさまれる「今年で30歳になります。」の一文がしんどい。
    こうして読んでいると、人生というのは案外"その後"のほうが長いよなぁなんて思う。
    しかも山月記を読み返したばかりだからか、自分は特別だと思い込み周りを見下げる独りよがりな彼らが、ほとんど李徴と重なって感じられる。
    ここに書かれているのは、東京という都市で虎になってしまった者たちの咆哮。他人からはみえない血を未だに垂れ流し続けるふさがらない傷口の痛み。
    いやぁ〜この人間の惨めさ&滑稽さがTwitter文学の妙味、侘び寂びですよ。刺さる人には刺さる。これ読んで嘲笑って本当は心の中で泣いて、また斜に構えながらみんなで傷を舐め合っていこ。
    東京って、本当しがみついてないと振り落とされそうだなと感じることが未だにある。私にとってもやっぱり特別な場所。
    東京で何かを渇望することはもうほとんど失くなって、ここに来て何をしたかったのかさえ忘れてしまったけれど、こうして東京タワーが部屋から見えたって今もただ永遠にぼんやりと眺め続けている。

  • 「閉鎖的な田舎と開放的な都会」、ネットで散々ネタにされていて、もはや神話として語られているレベルであるが、実際には、進学、就職を機に東京に移り、一生を終える人生も珍しくなくなってきた。私は大学進学を機に東京に出て、就職で故郷とは別の地方都市に移り住んでいるが、東京に住んでいたとき、「東京にはたくさんの人が移り住んでくるが、彼らは果たして幸せなのか?」という疑問が常に頭の中にあった。東京で暮らした時期は、私にとって大変豊かな時間であったのは確かだが、その一方で、常に周囲との競争がついて回り、とても苦しかったような記憶がある。こうした思いもあって、「タワマン文学」の源流である本作を私はとても楽しみにしていた。

    しかし、いざ本書を読んでみると、地方出身者の葛藤的なところはかなりリアルに描かれているのだが、東京での暮らしに生きづらさを感じているであろう各ストーリーの主人公は、私よりも遥かに高スペック、高年収で、ストーリーに共感できるところが少なかった。個人的には、「これは十分満足できる状態なのでは...?」と思ってしまった。素直にエンタメとして楽しむためのステータスが自分には備わっていなかった、と自覚することで、読者は本作で描かれる「地獄」を追体験する。なかなか、面白い構図である。時折、「もう一度、東京に住んでみたい」という思いが湧き上がるが、そんな時はこの本を読んで、「向こうには向こうの地獄があったな」と、自分をクールダウンしてみようか。

  • 最初の作品「3年4組のみんなへ」をチラ見して、「これはおもしろい。素晴らしい」と思って読み始めたけど、その後の話はぜーんぶ同じで、同じ顔をした人間が、同じような愚かな価値観のもとに行動して失敗し、自分も含めた周囲の人間全員を蔑みながら生きる、という話で、ウンザリを通り越して、よくまあこんなにも同じ話ばっかり同じスタイルでエンドレスに同じ種類の毒をまきちらし続けることができるものだな、とそのしつこさ、粘性に驚愕してしまった。

    東京、港区、高卒の母、慶応ワセダ、A判定だったのに、などなど、全話通して登場する繰り返しワードにかなりゲンナリ。

    たまには違う人間の違う話を書いてみたいとか思わないあたり、まさかこの人、本気でこんな価値観で生きてきたんだろうか。ほかの種類の人間が目に入らないくらいに。
    そんなことないよね? 違うよね? と信じたい。

  • 所謂、"タワマン文学"を図書館で借りて読了。

    今の若者が置かれてる承認を巡るキツさは分かる、言いたい事も伝わらないでもないけれど、僕には刺さりませんでした。

    ある程度同じ学歴と境遇、そして実際に住んでる身からすると、東京って住んでるだけでは幸せにはなれないし、むしろその場に人間関係があるかどうかでしょう。

    "Wakkatteをクローズします"が1番面白かったかな。

  • 最初の方は面白いけど似たような話ばっかりで途中からもう読みたくなくなる
    学歴、出身地、育ち、容姿などにとにかくコンプレックスを持っていて東京にきても不幸な人たちの話

  • 自らに鞭打って競り勝ったレースで切ったゴールテープの先の物語。

    若者の話、のように見えて、「標準化」され「量産」されてきた世代にこそ言葉の澱が残る作品だと思う。

  • タイトルが気になって借りました。

    だいたい30代の主人公で、今までの価値観と違った東京での生活とか、思い通りに人生は進まないよって事を独特な雰囲気で綴ってる。

    そう綴ってるって感じ。詩みたいに。

  • 良くも悪くもTwitterで流し見するくらいが丁度良い軽さと薄っぺらさ。
    でも自分も上京した当時は、大学より東京に行くことが目的だったし、この登場人物たちと大して変わんない痛い奴だったな。と思うのは、そこそこ大人になったからでしょうか。
    なので20代で読んだら変に感化されたかもしれない。危ない。

    今はSNSもあるし昔ほど東京と地方が遠くないと思うので、東京に憧れる人って減ってそうな気がしてるけど、実際どうなんだろ。

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麻布競馬場の作品

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