学校であった怖い話 3 水曜日 (ビッグコロタン) (ビッグ・コロタン)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784092591363

作品紹介・あらすじ

恐怖は連鎖する…新本格学園ホラー第3弾!

摩訶不思議な都市伝説や、恐ろしい噂で彩られている鳴神学園。その小等部の6年6組には、なぜか個性的で不思議な子どもたちが集まっていた。

ある日、6組にやってきた転校生に対して、彼らは学園に伝わる怪奇現象や不思議な話、自分が体験した説明不可能なできごとを語って聞かせるのだった。

間中愛は、ケータイのバグ探しに夢中になったあげく、地獄へつながる電話番号を見つけてしまった少女の末路を。

戸浦愛梨は、交換日記を続けていたトモダチとの、悲しく切なく薄ら寒い別れの物語を。

小門宇宙は、ネットでのバイトを通じて知り合った、正体不明の「かぐやちゃん」と、実際に会ってしまった体験を。

葛町龍平は、友人家族が格安で入手した一戸建てにまつわる、ある動物たちの怨念の恐ろしさを。

富樫黎雄は、それをなめれば夢が叶うという「飴玉」をめぐる子どもたちの凄惨な悲劇を。

そして、少年少女たちの語りは、木曜日へと続いていく……

【編集担当からのおすすめ情報】
大好評「学校であった怖い話」シリーズ第3弾!
新しく出てくるキャラクターに加え、おなじみの面々も再登場し、舞台をもりあげてくれます。
また、日丸屋秀和氏描き下ろしのイラストも、満載。
今回の表紙は、シリーズ初の男子・葛町龍平くんです。

感想・レビュー・書評

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  • 「現代」といういつかの時代では、小学生は怖い話も都市伝説だって語る。

    名作ゲームにしてブランド『学校であった怖い話(略称:学怖)』から派生して誕生した小学館版『学怖』。
    重ねて申し上げますが、売り上げその他の問題によって「水曜日」でシリーズは打ち切りとなりました。 
    とはいえ児童書学怖の展開を、ここであきらめるのはシリーズ・ファンとしてもいささか悔しい。

    というわけで本シリーズの版権を持つ原作者「飯島多紀哉」氏は本作を『小学校であった怖い話(略称:小学怖)』と改題しました。その上で別販路での完結を目指す旨やその他もろもろの商品展開を進めているようです。
    具体的には「月曜日」および「火曜日」の私個人のレビューである程度お話しさせていただいたので今回は割愛させていただきますが、興味のある方はお目通しいただけますと幸いです。

    余談ながら月曜日・火曜日に比べここ「水曜日」の出回っている冊数は少ないと察することはできます。
    『学怖』の関連書籍等は時間経過によって値段が高騰していく傾向にあるようですが、本作もその例外ではなかったようです。そもそも入手自体が難しいため、ことさら適正価格の判断が難しいのですが。

    特にネットサプライの中古本市場の値段はあてにならないと先に言っておきますが、私が観測し始めたここ2020年第三四半期では五桁台と高止まりしていました。多少話題になろうとも、過度に財布の中身を軽くするのはファン層にとっての痛打にほかならないので何らかの形での現状の打破を期待したいですね。

    まぁそれはそうと。ふたたび余談を先に回してしまいましたが、各話を簡潔に紹介してみましょう。
    ところで「水曜日」は放課後を含めても月、火曜日とは違って話数は一つ減っての五話+αとなっています。
    この辺にも諸般の事情はあったようですが、ページ数自体は据え置きなのでご安心ください。

    『ホームルーム』:百瀬毬絵
    「六年六組」クラス担任の毬絵先生による、クラスの皆さん(+読者)に対する周知の時間です。
    今回は今までの話を小ネタを拾った部分も多く、比較的なごやかに進むかもしれません。
    相変わらず毬絵先生自体が優しくも怪しすぎるということはさておいて、一週間(シリーズ・第一シーズン)を終えた後の来週(第二シーズン)についての前振りを置いていると想像して楽しかったと記憶しています。

    『バグを見つけた方、ご連絡ください』:間中愛
    大人びていたり、やたら浮世離れした女子が特に目立つ本シリーズですが、ラブちゃんの愛称で親しまれているこの「間中愛」という子は明確に子供っぽく、小学生らしいデザインを志向したキャラクターとなっています。
    話口調も少々馴れ馴れしいと言えるくらいにはフレンドリーで、話の要点を押さえつつ時々気まぐれにすっ飛ぶ展開などなど、等身大でイマドキの小学六年生が教えてくれる「現代の怪談」の雰囲気という意味では随一かと。

    ただし話自体は実体験で、かつ紙一重で助かった系なので語り手本人の明るい性格に助けられている感はあるかと思います。一方ラブちゃんの軽妙な語りが沈むことで、当時の緊迫感が伝わるのも演出として効いてますが。
    ちなみに都市伝説・怪談系の話なのですが、彼女のトレードマークでもある「スマホ(携帯端末)」の怖い話ということで、電話系都市伝説に企業や心霊、ネットロアなどが加わり重層的な読みごたえを実現しています。

    話の閉じ方も小学生女子の身では深入りできないのでかろうじて助かった後の余韻が効いてくるタイプですね。
    複数の都市伝説の型を組み合わせているので、この手の話に詳しい方なら話の漠然とした像は結べると思いますが、裏を取ることはできないので真相がこうだ! と断言はできないといった具合でしょうか?
    この辺も深く考えない語り手の人柄に助けられて、尾を引かない恐怖体験を純粋に抽出できるといった体ですね。

    『わすれない』:戸浦愛梨
    「月曜日」から再登板しましたのは、人形を愛するお嬢様「戸浦愛梨」ちゃんです。
    「火曜日」の藤森さん共々、転校生である聞き手相手の怖い話ふたたびということで自分の存在を念押ししたあとに、少しだけ距離が縮まったことを実感させてくれます。あとこの辺の前置きもここからの語りに効いてきます。

    それと結論から言ってしまえば時代を選ばないタイプの話です。ついでに言えば普遍性も相当に高いです。
    ノートと筆記用具、それと志を同じくするふたりの人間さえいれば近代以降の文学作品なら、もちろん現実世界であっても紡ぐことができます。ページをめくるあなたにとっても共感の一手になるでしょう。

    なにより人形、絵、物語……自分の手で何かを生み出すことに喜びを覚える愛梨ちゃんだからの話なのですから。
    今回の題材は「交換日記」。愛梨ちゃんが「木戸さやか」という親友と紡いできた、五年間の思い出の記録はふたりの記憶そのものでした。ですが、もし……どちらかが消えてしまったらどうなるのでしょうか?

    シビアなことを言ってしまえば人間の記憶なんてものすごくあやふやなものです。

    生と死という残酷な現実もあります。
    脳でも心でもどちらでもいいですが認識のゆらぎもあります。
    もっと単純に時間や距離の隔たりが風化させてしまう部分もあるんです。

    そして時には「もし自分が誰かの空想の中の住人だったら」というおののきさえあります。
    人ならぬものとも遊べる愛梨ちゃんの口からこの言葉が出るからこそ重いんです。
    少しだけ難しい言葉を言えば、メタ構造。
    つまりは物語の中の住人があなたに話しかけてくると実感させてくるので、他人事と笑い飛ばせなくなります。

    それでも、どこか寂しげで儚げな横顔を抱えた少女の「わすれないで」という願いを、読者たる「私」は幾年かの時を隔てて忘れてしまいました。なおさら愕然とします。物語の中の住人は忘れられない限り死なない。
    故人は生者に思われる度にその胸の中で息づき続けるというのはよく聞く言葉ですが、それと同じなのですから。

    そうしてまとめるに、この話は戸浦愛梨という少女の内面あってこその話です。
    話の中で起こる超自然説明に原理不明ということもあってなすすべなく翻弄されるさまを順を追って教えてくれるわけですが、この辺は聡明ながらにふわふわしている本人の性格があってのものですね。

    そうやって、彼女は私たちが生きている現実ですら薄氷の上だと教えてくれるわけなのですが。
    怖い話と定義することすら難しい不思議な話なので、読み返すタイミングと解釈はお任せします。
    味付けとしては薄いと思われるかもしれませんが、先に申し上げた通り時代を選ばない話なのでご安心ください。

    『小学生アルバイト情報』:小門宇宙
    「水曜日」における再登板組はもう一名、「火曜日」で宇宙人と対峙しました「小門宇宙」くんの登場です。
    二度目の登場となるとさっきの愛梨ちゃんのように超然とした姿の後に等身大の子供らしさを見出せたり、冷徹な物腰を軟化させたりと色々ですが、宇宙くんの場合は等身大の少年らしさをより深化させたものとなっています。

    そんなわけで浮世離れした話の後は少々生臭い小学生のお小遣い事情から話は発展します。
    金欠に悩んでいる宇宙くんが友達のマッド君から紹介してもらったのは、ネット上の顔を見えない繋がりを介して教授/受講するネット授業のアルバイトでした。

    同じクラスでも家庭事情はさまざまだということがわかりますね。
    ついでに火曜日における宇宙くんの話『絶対に百点取れる熟』の恐るべき仮説を補強する判断材料が増えたのですが、ひとまずそれは置いておきましょう。

    で、このネット授業という発想、少しだけ本作発表時の現実から進んだテクノロジーも加えられているものの、コロナ禍に四苦八苦する2020年現在を思えば時代を予言しているようで実感が湧いてきた最近はとみに驚きました。
    宇宙くんは小学生ながらに天文、宇宙などの専門分野に対する舌鋒が冴え、また未知の世界に対する順応力と挑戦を崩さない元気な姿勢が本当に頼もしいので読んでいて楽しいってのも大いにあります。

    そうやって宇宙くんの失敗混じりな挑戦を追っていった後に、物語は奇をてらわず、ひとりの少女「かぐや」との顔を見せない「ボーイ・ミーツ・ガール」に発展するのです。
    「振り返るなのタブー」など古典的なギミックも織り交ぜつつ、背中合わせに声を交わし合う一幕の破壊力が非常に高い。解釈の余地こそ残したものの切なくも晴れやかな読後感が実に素敵でした。

    小学生が渡るには危険な橋を渡っていると何度も釘を刺されているので正直真似はできないのですが、一筋縄ではいかない事件を何度か潜り抜けた宇宙くんにとってはこれくらいの救いがあってもいいのかもしれません。
    もちろん、そんな彼の勇姿に元気づけられたかぐやちゃんにとっても。

    ちなみに「水曜日」の巻末には『北からの手紙』という種明かしを兼ねた掌編が収録されているのですが、こちらでは伏せられていたかぐやちゃんの正体を明かすものになっています。
    収録を見送る案もあったようですが、私個人としては余韻を削いだとは思ってはいません。

    むしろ彼女個人の具体的な像と人となりが結ばれたので話がこう運んだことに納得が生まれ、再会は難しくても希望も示すものになっているので喜ばしいと感じました。
    ちなみに配慮の面もあり具体的な病名は伏せられているのですが、ここで語られたのは実在する病気だそうです。

    『格安物件』:葛町龍平
    「水曜日」というこなれてきた折もあり、またホームルームの伏線もあるいいタイミングでしょう。
    「葛町龍平」君、特技として「心霊写真」を持つにせよ、ここに来てニュートラルな視点を持ち、居合わせた事件を本人のバイアス抜きで紹介してくれるという語り手は貴重ですね。逆にキャラが立っている気がします。

    今回は「住宅事情」、それもいわくつきの物件の話ということもあって家庭内の事情に深くかかわるのですね。
    すなわち大人の視点が加わらないと解決ができない結構込み入った事件だったりするのです。
    よってカメラ片手に朴訥な調子で語る長身男子、葛町くんの話では児童たちの保護者が解決に乗り出します。

    具体的には『学怖』シリーズ本流のレギュラー格として「恵美(十中八九旧姓が倉田の方の彼女)」、それとこの巻のラブちゃんの話でも登場し、見事に霊的現象を解決してくれた「元木早苗」の両名が登場するのですよ。
    とはいえ両名の主たる活躍の舞台である学生時代を扱った作品を知らずとも話は理解できるのでご心配なく。特に早苗さんの方は先の話で頼りになることがわかるので先入観を抜きにした楽しみ方もできる、と言えます。

    元木早苗さん本人を出す前の前哨として「火曜日」で娘の「元木香苗」を出して母親の示唆を行い、水曜日のラブちゃんの話の中で触れて段階を踏んでからの、満を持しての本人登場というのは演出として理に適っています。
    その辺につきましては多数の作品世界の集合体ですけど、入り口はどこからでもいいという『学怖』ワールドの入り口の広さに感服しきりだったり、ですね。

    ところでこの話、内容としてはストレートな心霊物件が話の題材になっていますが、むしろそれを取り巻く近所の人間の方が問題になってくるという変わった観点を取っています。
    この世界では霊が実在し、またこの巻で早苗さんの霊能力が本物であることを読者は知ることができます。

    ですが、そんな確証を持つわけではない世間は「霊媒者」という職業に向ける白眼視を向けるわけです。
    悲願のマイホームを手に入れたはいいものの、ナーバスになっている妻果家の人々の、住む方の「家」には現実的で世知辛く、生々しい事情が付きまとうわけですが早苗さんはその辺の問題をくみ取ってくれます。

    その上で心霊的な問題と人間的な問題の両面からリスクを提示して、きちんと解決法を提示してくれます。
    この辺にきちんと子どもたちを守り庇護する大人の視点が働くほか、事態の解決を依頼したのが児童の側だということもあって、彼らにも寄り添い歩み寄った落としどころになっているのも綺麗な構成だと思います。

    仕事でやっている以上は付きまとう金銭の問題も上手く落としているのが上手い。
    単独の話として味わえる一方、彼女たちの学生時代を知っている身としては子を持つ親になった彼女たちの風格に嘆息をつくことができる、一粒で二度おいしい話であると感じました。

    『飴玉婆さん』:富樫黎雄
    そういったわけで「水曜日」の最後を飾るのは『学怖』発の怪談・都市伝説を教えてと言われれば、指を五本曲げるまでに万人がその名を挙げてくるだろう、魔女めいた老婦人「飴玉婆さん」です。
    教えてくれるのは『学怖』の姉妹作『探偵局』の主要人物「富樫美波」さんの弟さん「富樫黎雄」くん。

    現代の民話とも称される「都市伝説」は怪談、怖い話だけではない包括的な概念のようですが、今回は児童向けなだけあってわかりやすくもショッキングな教訓話としての性質を強めています。
    シリーズも息長いだけあってこの話も語り手を何度も変え、語る人の性格によって大きく話の装いを変えてくるのですが、今回は童話の残酷さと今を生きる子供への激励が奇妙に合わさった独自のバランスが冴えます。

    小学生向け怪談でもこれくらいのグロさは許容範囲なのかな? と当時の自分を振り返りつつ思います。
    とはいえ、今回の飴玉婆さんも人体の一部を奪う都市伝説の定番ではあっても理不尽さは薄めです。「ルール」を破れば罰則がやってくる「因果応報」の話運びは物語の基本に立ち返ったようでまさに基本にして奥義ですね。

    最後に希望を残してくれる構成にしたってとってつけたようでなく納得感がありました。
    その辺は好奇心と良識の両方のバランスが取れており、噂だけで片づけずきちんと当事者から聞き取り裏を取ってくれる黎雄くんの語りあってのものと考えれば、数ある『飴玉婆さん』の中で最も万人向けの話かもしれません。

    舐めるだけで夢を叶えた時の最高の味を味合わせてくれる飴玉を無償で配る飴玉婆さん……。
    未来に夢見る時間が今こそ盛りである小学生だからこそ、夢の味の尊さがわかるとともにそれを掴むために費やす人生の苦い味、涙の味、酸いも甘いもわからない……と考えれば今までで一番人の悪い話、とも思いましたが。

    総じて。
    新旧合わせた「都市伝説」についての話や、あくまで語る側の雰囲気が許した不思議な話。
    最新テクノロジーが生んだ出会いと別れの話に、今も昔も世知辛い話などなど……。

    バリエーションという意味では月曜日、火曜日に遜色ないと感じましたが、やはり週の半ばだけあって比較的抑え目ですね。一方「じんわりとした不安」でなく「明確な救い」を結末に持ってくる構成はこれはこれで好きです。
    ここから週後半に向けてボルテージを上げていくのだろうと、半可通の想像ながらにそう思いました。

    あと冒頭部分の補足として申し上げますが、もし価格が高騰していたら無理にご購入されることはありません。
    「火曜日」のレビューでも少しばかり触れましたが『バグを見つけた方、ご連絡ください』、『わすれない』の二本に関しましてはプロの声優を起用したボイスドラマが配信されていますのでご興味が許せばどうぞ。

    と、この辺でいいでしょうか? いつか何事もない日に挨拶を交わし、何事かがあった日について教えてもらえる時がやってくるのだろうと、願いを込めてこのレビューを閉じさせていただくことにいたしますね。
    それでは「また」木曜日にお会いしましょう。どうかそれまでは良い日を。

  • ケータイやネットと近代的な怖い話。面白い。
    ただ、ネットティーチャーの話はもっとえぐいサイコパス的な展開を期待したのに。

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