- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093886949
作品紹介・あらすじ
アフリカゾウ虐殺の「真犯人」は誰だ!?
アフリカで、年間3万頭以上のゾウが、牙を抉り取られて虐殺されている。
野生のゾウは絶滅の危機に瀕し、今後十数年のうちに地球上から姿を消してしまうと言われている。
その犯人は、象牙の国際密猟組織。
元アフリカ特派員の筆者は、密猟で動くカネが過激派テロリストの資金源になっている実態に迫り、背後に蠢く中国の巨大な影を見つける。
そして問題は、象牙の印鑑を重宝する私たち日本人へと繋がっていく。
密猟組織のドン、過激派テロリスト、中国大使館員、日本の象牙業者。
虐殺の「真犯人」とは、いったい誰なのか――。
選考委員満場一致の第25回「小学館ノンフィクション大賞」受賞作。
◎高野秀行(ノンフィクション作家)
「ショッキングな現実が勢いある筆致で描かれ、『ザ・ノンフィクション』の醍醐味がある」
◎古市憲寿(社会学者)
「実は日本が加害者だった? ゾウと我々の意外な関係性が明らかになる」
◎三浦しをん(作家)
「私は、今後も象牙の印鑑は絶対作らないぞと決意した」
【編集担当からのおすすめ情報】
開高健ノンフィクション賞、石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞も受賞した筆者による、
すべてのノンフィクション好きにお読みいただきたい一冊です。
感想・レビュー・書評
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「牙」とは象牙のこと。年間3万頭ものアフリカゾウが無惨に殺されている。その多くが、群れ丸ごとの大虐殺だ。象牙をとるため、顔ごとチェーンソーで抉り取られて。このままでは、十数年でアフリカゾウがは絶滅してしまう。
象牙の国際的な密猟組織があり、実行犯の多くは貧しい現地の人。そして賄賂を貰う役人たちと腐敗した政治家と行政機構。そして、その裏には政府ぐるみの中国の影が見え隠れする。
そもそも象牙の需要の多くは日本である。象牙といって思いつくのは、印章とか将棋の駒、仏像などの細工品か。昔は象牙のハンコなどは、よほどのお金持ちしか持っていなった。柘とか良くて水牛(の角)製だった。巧みな宣伝に踊らされ、一般庶民まで欲しがるようになった。別に象牙でなくても。用は足りるものばかりじゃないか。日本人は加害者なのだ。
第25回「小学館ノンフィクション大賞」受賞作。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【感想】
本書の帯に「虐殺の真犯人は誰だ!?」とあるが、犯人は「全員」だ。地元の猟師だけでなく、警察、野生生物公社、自然保護区のレンジャー全員が賄賂によってつながり、アフリカゾウの密猟を直接的・間接的に支援している。政府だけではなく、現地で暮らす殆ど全ての人間が密猟から何らかの利益を得て生きている。そしてその象牙は中国と日本の市場に卸され、高値をつけて取引される。
本書は、モザンビークやタンザニアで横行する象牙の密猟を追い、その裏に存在する「真犯人」を解き明かすノンフィクションである。
モザンピークに生息する野生ゾウは、過去5年間で、2万頭あまりから約1万300頭へと48%も減少している。密猟者がゾウを狩る理由は一つ。東洋の国に高値で売れるからだ。
密猟は現地政府と中国政府の支援のもとで行われている組織的犯行である。現地住人、地元当局、中国大使館、さらには自然保護区のレンジャーまでもが密猟に加わり、1本20キロほどもある牙を盗み出している。
本書を読んでいて驚愕したのは、賄賂さえ渡してしまえば全てが闇に葬れるという事実だった。ケニアの裁判所が過去五年間に下したゾウやサイの密猟事案に関する判例では、法律では最大10年の懲役刑が科せられているにもかかわらず、実際に禁錮刑に処されたのはわずかに7%だったという。多くの密猟者は現地警察に連れていかれた後、「その日のうち」に解放される。警察や裁判官にまで賄賂が行き渡っているからだ。
賄賂を駆使して動き回る組織のボス格は中国商人である。現地での密猟に携わっていた人たちの証言によれば、中国人とのビジネスには警察やケニア野生生物公社が絶対に口を出してこないという。バックに中国政府がついており、相当な額の賄賂を支払っているからだ。
経済力を使ってアフリカ諸国を意のままに懐柔する中国政府の闇取引は、現地住人のニーズと相まって、ますますその数を増している。なにせアフリカで暮らす人々には「生活」がかかっているのだ。目の前の象一頭が一か月分の給料になると分かったら、違法と知っていても手を出したくなるのもうなずける。そして、密猟が決して無くならない理由もこの「賄賂」にある。
本書では、暗躍する中国人商人たちのビッグボスである「R」という人物を明るみに出すため、筆者と助手のレオンが追跡取材を重ねていく。しかし、本書の中では結局「R」の正体を掴むところまで至らなかった。
てっきりこのまま未解決事件として本が終わるかと思っていたのだが、ここで思いもよらない展開が筆者を待ち受ける。新たな敵が登場するのだ。その敵は、なんと日本政府である。
南アフリカで開かれる第17回ワシントン条約締約国会議の場で、中国自らが全世界における象牙市場の完全閉鎖を訴えた。今まで違法取引にどっぷりだった国とは思えないような態度の変えようである。一方で、印鑑をはじめとして象牙を使用し続け、世界有数の違法象牙市場を有している日本は、なんとこの完全閉鎖に異を唱えたのだ。
日本政府は古くから伝わる日本の象牙に関する伝統文化や、それを受け継ぐ象牙業者の生活を維持するために、国内における象牙市場の継続を訴えていく。その裏には「日本の象牙はクリーンな象牙」と信じている政府のプライドがあった。
正直に言えば、日本で出回っている象牙が「違法」なのか「適法」なのか判断する方法は難しい。政府は「日本国内の象牙市場はワシントン条約以前の古い象牙のみ使用、もしくは死亡した象の牙のみを現地政府の許可のもと輸入して使用しており、厳格なルールに従って合法的に取引が行われている」と主張しているが、現状のシステムは違反業者を取り締まれるほど適正に機能しているとは言えない。
というのも、日本では違法象牙を簡単に合法扱いにできるからだ。なんと、所有者は写真を何枚か撮り、家族や友人に協力してもらって「これは1990年より前から持っていました」という文書を書けば、適法として通ってしまうのだ。売買契約書だとか、炭素年代分析などで牙の年代を証明する必要はなく、実物を提出する必要すらない。こんなずさんな方法でよく「日本は厳格なルールを設けている」と言えたものだ。
実際、野生生物取引を監視する団体「トラフィック」によると、2011年から2016年にかけて、日本から国外へ持ち出そうとして没収された象牙の量は2.4トン、そのほぼ全てが中国向けだったという。
また、日本や南部アフリカの国々が築き上げようとしている循環システムが東アフリカ諸国や中国によって悪用されている限り、日本に国内市場が残されていれば、日本を隠れ蓑にして「合法象牙」として中国で取引することもできる。ロンダリングのための格好の地となってしまうわけだ。
結局のところ、象牙を必要としている国がある限り密猟業者は消えることはないのだ。それは10gで2万円もする印鑑を「伝統文化」という建前で(そもそも、象牙が印鑑として使われるようになったのはたった40年前からであり、印鑑以外の象牙利用に関しても、比較的近代に始まったものである)堂々と取引する市場が存在するからであり、そして日本人が、アフリカゾウの現状に無関心なまま象牙品を買い求めるからなのだ。犯人は密猟組織だけではなく、我々日本の消費者でもあったのだ。
そうした責任をよそに、日本は「国内市場は閉鎖の対象外である」との見解を全世界へと発信したのだった。
本書の中で繰り返し出てくる「This is Africa(それがアフリカ)」という表現。これは金と権力があればあらゆる違法行為を握りつぶせる世界だ、という意味である。
本書のクライマックスでは、日本政府が「密猟または違法取引に寄与している市場を閉鎖する決議案」を批准しながらも、国内象牙市場を維持するという矛盾した宣言を行ったことについて、筆者が環境保護団体のスタッフに詰め寄られる。筆者は苦し紛れにこう説明する。
「閉じないが、維持するとも言わない。2つに1つの回答じゃない。日本はそういう国なんだ(This is Japan)」。
そう、汚職ばかりのアフリカを断罪できるほど、日本は立派な行動をしていない。
今この瞬間にも、日本には新たな象牙が「適法象牙」として登録されている。
<参考>
象牙の違法取引を日本が助長か
中国の取引全面禁止で、抜け穴だらけの日本が違法象牙の温床に
https://www.nationalgeographic.com/animals/article/japan-illegal-ivory-trade-african-elephants-jp
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【まとめ】
0 まえがき
アフリカ大陸では今、安価なカラシニコフ銃や毒入りのカボチャ、ゾウの通り道に張り巡らされた粗末なワイヤーによって、一日100頭前後の野生ゾウたちが密猟者たちの手によって殺されている。密猟者たちの目的はただ一つ、「サバンナのダイヤモンド」と呼ばれる牙だ。犯罪組線は一キログラム2000ドル(約20万円)で闇取引される象牙を狙ってアフリカゾウの群れを皆殺しにし、中国へと密輸して膨大な利益を稼ぎ出している。その過程にはアフリカ諸国の政治家や役人や野生保護団体の職員までもが密接に関与し、利益の一部はテロリストの手に渡って無辜の市民を虐殺するための活動資金として使われている。
そして、その負の循環の仕組みはかつて日本が作り上げたものなのだ。
このままのペースで密猟が続けば、アフリカゾウはあと一世代、わずか十数年でこの地球上から消滅してしまう。
1 アフリカゾウの消失
2015年のAFP通信は、ゾウの個体数に関して以下のような記事を出している。
(5月27日AFP)モザンピークに生息する野生ゾウが過去5年間で、2万頭あまりから約1万300頭へと48%減少したことが政府支援の調査で判明した。(中略)特に北部での被害が大きく、同地域で殺害されたゾウの頭数は全体の95%を占めている。
(6月3日AFP)野生動物取引の監視団体「トラフィック」は2日、タンザニアに生息するゾウの個体数が過去5年で約6割もの「壊滅的減少」になったと発表した。トラフィックによると、タンザニア政府が一日に発表したゾウの生息数は2009年の10万9051頭から2014年には4万3300頭に減少している。
モザンビークにあるキリンバス国立公園には、かつて「ゾウの楽園」と呼ばれるほど周囲にたくさんのゾウが生息していた。しかし、テレビがゾウの楽園を放映したことをきっかけに、隣国から密猟組織が流れ込み、わずか3年間でゾウが根こそぎ狩られたのだった。
密猟組織はゾウに銃弾を打ち込んで動けなくした後、生きたままチェーンソーで顔面を削り取って、牙を盗んでいく。その牙は木材と共に船に載せられ、中国や日本(印鑑用)に輸出されていく。
密猟組織の上層部を仕切っているのは白人であり、南アフリカの犯罪組織と直結している。モザンビークやタンザニア、南アフリカの政府は腐敗しており、政府高官が中国人から賄賂を受け取って象牙転売ビジネスをサポートしている。
2 日本が密猟を間接的に後押ししている
西洋諸国が日本の象牙の消費行動に懸念を訴えた結果、1989年にワシントン条約で象牙の国際取引が全面的に禁じられた。
しかし1997年、南部アフリカのジンバブエで開催されたワシントン条約締約国会議で、日本と南部アフリカの国々はそれまでの「野生動物はそれぞれの国が自由に利用できる 『資源』である」という主張に加え、「象牙の国際取引が生み出す経済的利益が、ゾウの保全や地域住民のための経済開発に貢献しうる」といったゾウの持続可能な利用を強調するキャンペーンを展開し、結果としてボツワナ、ナミビア、ジンバブエの三カ国で自然死したゾウの牙50トンを一回に限り、日本に試験的に輸出することを「例外的」に認めさせてしまう。
象牙は一度輪入されてしまえば、それが「特例」によって輸入された「正規象牙」なのか、「密輸」によってもたらされた「密猟象牙」であるのかは見分けがつかない。それまでは出回っている商品のすべてが「密猟象牙」だったはずの象牙市場に、密輪輸業者が「正規輸入品」と偽りの商標をつけて「正式」に違法象牙を送り込めるようになったことにより、中国における象牙の市場は爆発的に拡大し、供給元であるアフリカ大陸で再びゾウが大量に殺されることになったのである。
象牙の売買によって得た金は、テロリストたちの資金源となっている。象牙を中国に密輸して稼いだ莫大な資金を使って、テロリスト達は武器を買い、戦闘員を育成して、市民を殺害している。象牙は今やアフリカの安全保障の問題なのだ。
3 キング・ピン
公権力による腐敗と汚職はアフリカ大陸に共通した疾患ではあったが、特にケニアではありとあらゆる政府機関がドロドロに腐敗し切っていた。賄賂がまるで社会の「潤滑油」のようになってしまっており、警官や役人はもちろん、裁判官までもが公然と賄賂を要求するため、公正な裁判など成立し得ない。その最たるものが直接人命に関わらない、野生動物の密猟案件であるとも言われており、AFP通信がケニアの裁判所が過去五年間に下したゾウやサイの密猟事案に関する判例を調べたところ、法律では最大10年の懲役刑が科せられているにもかかわらず、実際に禁錮刑に処されたのはわずかに7%。司法の「留め金」が完全に外れてしまっているのが実情だった。
筆者と助手のレオンは、密猟組織の「キングピン」と言われているフェイサルへの単独取材にこぎつける。インターポールに国際指名手配され逮捕された、ケニア最大の密猟組織の「ドン」だ。
フェイサルは鉄格子越しに「〈R〉のところに行け!」とまくし立てる。〈R〉はケニア在住の中国人であり、彼こそがこの国の象牙の密猟を取り仕切っている黒幕だ。押収された象牙のほとんどは〈R〉のもとに行く。そして、〈R〉は中国大使館に守られているため、絶対に捕まることがない。
4 象牙女王と中国からの圧力
筆者とレオンは〈R〉の正体を探るために、タンザニア警察に拘留されている、「象牙女王」と呼ばれた中国ビジネス界の超大物、楊鳳蘭への接触を試みる。楊鳳蘭はタンザニアの中国アフリカビジネス協議会の事務総長を務めており、その立場を生かして、タンザニア政府と中国政府と協力しながら堂々と牙の密猟を繰り返していた。
筆者とレオンは楊の事件を審議する裁判官と検察官の打ち合わせの日程を聞き込み、突撃取材を敢行する。
「〈R〉を知っているか」という筆者の質問に対し、楊は一瞬同様を見せたが、沈黙を貫いたままだった。
〈R〉の所在について調査を続ける筆者とレオンのもとに、「在ナイロビの中国大使館で象牙の密輸に携わっていた」と話す男が訪問してきた。男は中国大使館から国際空港まで、密猟象牙を輸送するドライバーの仕事をしていた。彼の運転するトラックは前後をケニア警察の4台のパトカーに守られ、空港で一度も検査されることなく、中国政府の代表団を乗せてきた専用機に直接、大きな箱を積み込んだという。
この男と接触した直後、筆者は中国大使館の従業員を名乗る男から訪問を受ける。行動が追跡されていることの証拠だった。
時を同じくして、ワシントン条約締約国会議の見通しが飛び込んできた。なんと、中国が世界中の象牙市場を閉鎖して、象牙の取引を完全に廃止するべきだと主張するようだ。そして同時に、日本はその提案に反対を表明するつもりらしい。
5 日本の孤立
2016年の9月に南アフリカで開かれる第17回ワシントン条約締約国会議の場で、中国自らが全世界における象牙市場の完全閉鎖を訴え、会議の主導権を握るのではないか、という臆測が飛び交った。密猟象牙の最大の消費国とされる中国が政府主導によって国内市場を完全に閉鎖すれば、象牙の闇市場価格はたちまち暴落し、ゾウの密猟も激減する。そうなれば、中国政府の決断がアフリカゾウの保全に大きな役割を果たしたことになり、国際社会における中国の地位は格段に高まる。
一方で、世界の実情や国際社会の流れをうまく捉えきれていない国があった。日本である。
近年中国の違法取引が相次いで暴露されていたが、実は日本における違法取引も公にされていた。ヤフオクで象牙が大量に売買されていることが世界的に明らかにされ、「日本には違法象牙売買の国内市場がある」と欧米各国から非難を受けたのだ。
日本政府は古くから伝わる日本の象牙に関する伝統文化や、それを受け継ぐ象牙業者の生活を維持するために、国内における象牙市場の継続を訴えていく方針だ、と伝えられていたが、代表者の説明を聞く限り、どうやら理由はそれだけではなさそうだった。最大の障壁は「プライド」ではないのか、と筆者は代表者の説明を聞きながら感じる。もっと踏み込んで言えば、我々は間違ったことはしていない、という「自負」であり、それに起因する「自信」でもある。
確かに、日本の象牙市場は中国に比べれば遥かに適切に管理・運用されており、死んだゾウの牙のみを輸入しその資金を活用することで、ゾウをより手厚く保全することができる。日本政府が考える「国内市場の維持と禁猟」の両立は、そのようなロジックで成り立っていた。
「そもそも……」と発言の最後で代表者は本音を漏らす。「日本はこれまでずっとワシントン条約で決められた細かいルールを忠実に守りながら、国内の象牙市場の運営や規制に真面目に取り組んできたんですよ。南部アフリカの国々もそうです。だからこそ、ゾウの激減を免れている。それが何ですか?ずさんな運営を続けて密猟や密輸を野放しにして、アフリカゾウの激減を招いた張本人である東アフリカ諸国や中国がどの面下げて 『すべての市場を閉鎖しろ』なんて言うんですか?あきれて物も言えません。アフリカゾウを絶滅に追い込んでいるのは私たちじゃない、 『彼ら』なんですよ」
作業部会において「象牙の国内市場を持つ国々は、その国内市場が密猟や違法取引の原因とならないように、閉鎖する」という趣旨の修正決議案が配られる。ここに日本は待ったをかけた。「密猟および違法取引の一因とならないように」という表現は、密猟や違法取引の原因とならない市場は閉鎖の対象にならないという意味に理解してよいか」という質問を投げかける。それは「日本は違法行為による市場ではないので、今まで通り維持してよい」という玉虫色の解釈が可能かどうかという意図があった。
この質問に中国政府団は反論する。「どの国内市場が密猟や違法取引の原因になっているかなど、誰にもわからない。すべての市場が密猟、違法取引の原因になっていると言うしかない」。0か100かということだ。
しかし、日本政府は修正案を求め続け、「密猟または違法取引に寄与する(国内市場)」という再修正案の表現を「密猟を増加させる著しい違法取引の一因となる」に変更するよう求めたのだ。閉鎖するのはあくまで「密猟を増加させる著しい違法取引の一因となる」国内市場であり、些細な違法取引が発覚している日本のような国内市場には目をつぶれ、と条文の骨抜きを事実上求めるような修正だった。
最終的にここから大きな修正がなされることはなく、全会一致で採択された。
そして環境大臣を務める山本公一が、閣議後に東京で記者会見を開き、「日本の国内市場は密猟などで成り立っているわけではない」と述べて、日本の国内市場は閉鎖の対象外であるとの見解を全世界へと発信したのだった。
たとえ中国が国内市場の閉鎖を宣言しても、世界のどこかに象牙の市場がある限り、密猟は消えることはない。 -
アフリカ特派員記者による、アフリカ象の牙『象牙』の密猟について書かれたルポタージュ。
第25回小学館ノンフィクション大賞や、本屋大賞ノンフィクション本大賞ノミネートされていることから手に取った。
正直、この本を読む前は密猟なんて日本に住む私の生活とは離れており、知らない世界を知るために知識のため読もうと思っていた。もっと単純に、象牙の密猟や、市場なんてなくなればいいなぁなんて簡単に考えていた。
著者はNGO団体やレンジャー、そして密猟経験者を取材していく。そして、密猟はテロリストにも繋がり、そして中国、日本に繋がっていくことを突き止める。
特に中国では国家ぐるみとして密猟・密輸をやっているのではないか。そして取材を続けていくにつれまるで映画のワンシーンかのような「牽制」が入ってしまう。
アフリカ特有のT.I.A、アフリカ的文化はいろいろな本で書かれていたが、賄賂でどうにでもなる世界というのはとてつもなく混沌としている。
2016年のワシントン条約締約国際会議では、中国は全ての象牙市場の閉鎖を宣言し、各国に求めた。
今までの密猟の元凶である、中国がである。
中国が何を考えているのか正直わからない。
日本の代表者がいった、今更どの面下げて行っているのかという言葉がとても印象に残った。
さまざまな国や立場の思惑があり一概に何が正解というのは導き出せない。しかし、アフリカ象を守っていかなければいけないのは明白な事実である。
顔面をくり抜かれた象の死体の写真は衝撃的だった。
密猟などなくなり、アフリカ象が絶滅しない世界になるよう何か動がなければいけない気がした。 -
象牙というものは生活から遠く、日本とはあまり関係ないじゃないかと思っていました。
日本ではで主に印鑑に使われるけれど、ワシントン条約前に入ったものが流通しているんだろうと軽く考えていたのです。
現在象の密猟が後を絶たず、あと十数年でアフリカから象が消滅するであろうという実態が書かれています。
密猟の方法は、銃で群れごと皆殺しにして、顔を抉り取って象牙だけ持ち去る。小象も何も全て虐殺します。
通信機器と武器が発達した現在、ひとたまりもなく群れごと消滅させられる象達。1970年代には130万頭ほどいたのに2016年には40万頭余りに減少しました。主に人間が虐殺した事によって1/3になってしまったのです。
密猟は主に地元の人達によって行われています。そしてその象牙を買い上げる中国。さらにその象牙を世界で一番消費しているのは何と”日本”なのです。大事な事なんでもう一度言います「「「日本」」」です。
買う人がいるから売る人がいる。これは経済の基本です。誰も買わなければダイヤモンドだって金だってゴミでしかありません。「これからは象牙は輸入しない取引全面禁止」と何故ならないのか。実際に国際的に取引を禁止しようという動きになり、当事者の中国自身が取引全面禁止という方針をぶち上げ、中国の象牙女王と言われている人物まで逮捕したのに、日本は、違反している訳ではないから取引を継続するという。
世界中で完全に取引禁止になれば、全てが闇取引になる為マーケットが縮小していつか虐殺が無くなるはず。なのに日本一国が頑なに取引を続けることによって、値段が下がっても現地の人は虐殺を止める事はないのです。何しろ他に現金を得る方法が無いから。
日本さえ全面取引禁止にさえ同意すれば、アフリカゾウが殺される事は激減するはずなのに、それでも象牙を使いたいですか?そういう風に僕らが他国の人から聞かれたらどう答えればいいのでしょう。
これ相当重要な国際問題だと思うのですが、誰も知らない事ですよね。日本国内では報道しないようにしているのでしょうか。本書には顔を抉り取られた象の写真も載っています。これを見ても象牙の印鑑欲しがる人いるんですかね。
最後に書かれている無知と無関心によって引き起こされている事だという意味の言葉が印象的です。僕らはくだらないニュースばかり与えられて飼育されているんではないでしょうか。お笑い芸人の不祥事なんて正直どうでもいい事です。
しかもこの象牙売買の利益は、現地テロリストの最大の資金源となっているそうです。罪深い、本当に罪深いです。
本屋大賞ノンフィクション部門にノミネートされています。是非この事実を広めるために大賞を取って頂きたい本です。 -
このままだと絶滅してしまう…アフリカにて象牙の密輸組織を追う。
最後の方にありましたが、やはり、無関心。注目されないと気付かないものがある。この本を読んで、像のこと、象牙のこと、現状を知りました。無関心なのかもしれません。気づきが必要でした。衝撃的な事実、真相に迫る著者、なかなか興味深い本でした。象の頭がえぐられ、なんて思いつきもしなかった。こんなにも象が殺されていたなんて。黒幕を追う内容で読み応えがありました。そして、玉虫色の日本。象、象牙の実情を語る貴重な一冊。 -
第25回小学館ノンフィクション大賞受賞作。
悠々とした体躯、長い鼻、大きな耳。
巨大な哺乳動物、ゾウは、動物園でも人気者だ。
だが、野生のアフリカゾウは現在、1日100頭もの勢いで狩られている。
彼らのもう1つの大きな特徴、そう、「牙」のために。
このままでは絶滅も時間の問題と言われる。
密猟者たちは、食用にするためにゾウを狩るのではない。
牙を得るためだけに殺すのだ。
手っ取り早く牙を取り除くために、顔を抉られた痛ましいゾウの写真を目にした人もいるかもしれない。
大きな牙(tusk)を持つ「タスカー」と呼ばれる雄は、どんどん減ってきている。
本書ではこの実情を丁寧に追う。
さまざまな証言から浮かび上がってくるのは、「密猟組織」の存在だ。組織には、ゾウの生息域の政府の内部の者も関わっている。賄賂やコネ、利権。その裏には、外部の者が容易に切り込むことのできない、意思決定プロセスがある。
牙を手に入れれば大金が手に入る。
元々はレンジャーとしてゾウを守る仕事についていた者が、失業して密猟に手を染めることもある。背に腹は代えられぬのだ。
黒幕として存在していたのは、中国資本である。中国人は金払いもよく、象牙市場の大きな支え手であり続けた。
しかし、2016年、中国政府は1つの重大な決断をした。国内の象牙市場を閉鎖するというのだ。このニュースは世界的にも大きな驚きを持って迎えられたが、実際、2018年以降、中国での象牙取引は違法となった。
ではこれでアフリカゾウは絶滅を免れたのかといえば、残念ながらどうもそうではないようだ。象牙取引が引き続きなされている国もあるからだ。金が動くのならば、取引はなくならない。中国国内でも闇の取引が続くことにもなろう。
そして引き続き象牙取引を行っている国の1つは日本である。
著者は、実際に現地で自ら象牙取引の「闇」に迫っていく。
密猟のキーマンに、もう一段、迫り切れなかった部分はあるのだが、そこも含め、緊迫した状況がよく描き出されているノンフィクションと言えるだろう。
現地の取材助手に対する敬意にも、著者の誠実な姿勢が感じられる。 -
「自然保護区の状況を察する限り、タンザニア国内の『資源』はあと数年で枯渇するだろう。タンザニア政府は今も裏では密猟を容認しているし、中国はもうコントロールが利かない。アフリカゾウはもう絶滅するしかないんだよ」
――ダルエスサラームでハンティング会社を営む元密猟者の言葉
この本は、タイトルからも分かるとおり、アフリカゾウの密猟の実態を追ったノンフィクション。著者は朝日新聞社の記者で、マサイ族の非常に有能な取材助手、レオン氏の献身的な協力を得て、レンジャーや密猟者を含む様々な立場の人々に取材する。
取材を受けた人たちは、ゾウを守る側にいる人も密猟者側も皆、ある点で意見が一致している。
「おそらく数年でアフリカゾウは絶滅するだろう」という点で。
私は、読んでいる途中、何度かこらえきれずに泣いてしまった。泣くような本じゃないし、泣いてもしょうがないんだけれど。
私たちは取り返しのつかないことをしている、彼らは、ではなく、「私たちは」取り返しのつかないことをしている、という激しい思いに胸をつかれて泣けてしまったのです。
「私たち」人間は、どれほど愚かなのだろうか、と。
非常にあいまいな記憶なので、もしかしたら記憶違いかもしれないが、ほんの10数年前、確かCNNか何かで「アフリカの東海岸にゾウが増えすぎて、ゾウの群れに遭遇した地元住民の事故が多発し、また、あらゆる木や植物が食い荒らされて困っている」というような記事を読んだ記憶があったので、この絶滅寸前、という事実に私はまず驚いた。
違う場所の話なのだろうか、と一瞬思ったが、この本の冒頭で、「モザンビークとタンザニアというアフリカ南東部の二つの国で、野生のアフリカゾウがわずか5年間で5割から6割も生息数を減らし、その原因が象牙を目的とした密猟である可能性を示唆」している、とあり、衝撃を受けた。
たった5年で5~6割減少、というのは尋常じゃない数字だということは、さすがに生物オンチの私でも分かります。(数字は2015年のもの)
この本が日本人によって日本語で書かれているということは非常に意義あることだと思った。ぜひ、多くの人に読んでもらいたいと思う。
なぜなら、もし誰かこの事態を止められる人がいるとするなら、それは日本人以外にないと思うから。
残念ながら、現地の密猟者を止めることも、アフリカ諸国の政府の汚職をなくすことも、中国人の犯罪組織を摘発することも、今の時点では不可能だと思う。
でも、密猟の隠れ蓑となっている日本の象牙市場を全面禁止することなら、世論の力でなんとか実現可能な気がする。
象牙を売買しないこと、それが今残された唯一のゾウを救う方法だとこの本は教えてくれている。
ところで、2016年開催の第17回ワシントン条約締約国会議における日本政府の「プライド」についての記述と、中国政府の「真意」についての著者の見解は非常に興味深かった。
「日本政府のプライド」とは、「我々は間違ったことはしていない、という『自負』であり、それに起因する『自信』」だと言う。一方、「中国政府の真意」とは、「アフリカゾウを取り巻く現状を極めて的確に把握し、ゾウの激減を招いた最大の原因が自国にあることも、ここで象牙市場の維持をどんなに主張したところで、それらの要求が決して認められることはなく、象牙市場の閉鎖に踏み切ることしか実質的な選択肢は残されていないことも、どの国よりも熟知した上で、自らの立場を『悪』から『善』へと転化させ、国際社会をリードすること」。
あれ、この状況、最近どこかで耳にしたぞ? けっこう似た状況を…と記憶をたどって、思い出した。
BS-TBS「関口宏のもう一度!近現代史」で見た、アメリカが参戦する直前の中国と日本の外交政策の違いがこんな感じだった。
完全に世界情勢を読み間違えている日本と、的確に把握している中国と。
話がそれましたが、この本を読み始めたときは、こんな方向へ(日本の政策などへ)話が進むとは思っていなかったので、驚くと同時に、日本政府の見解にはいらだちを覚えた。
象牙細工の伝統は、違う素材でいくらでも守れるんじゃないだろうか。仮に象牙じゃないといけないとしたら、なおさらゾウを絶滅させるのは本末転倒ではないか。自分たちのそのかたくなな態度が、絶滅への道を間接的に作っている、ということは子供でも分かる論理なのに。
要するに、日本政府はゾウの絶滅と密猟の問題については本気で気にかけてなどいないように思える。
少なくともそういうメッセージを全世界に放っている。
「こんなに美しいゾウたちを象牙目的で殺すなんて信じられないよ。象牙をほしがる人間はさ、きっと象牙よりもゾウの方が何十倍も美しいことを知らないんだと思うんだ」(環境NGO職員の白人青年)
「象牙の輸送に携わったことは事実なので仕方ありませんが、今でも深く後悔しています。私はケニア人ですし――野生動物が好きなんです。ケニア人なら誰だってそうです。ケニアの国と大地を愛しています」(元現地旅行社職員)
あとがきで、著者が、助手のレオン君に、どうしてそんなにゾウの問題に熱心なのかと何度も尋ねた、という記述があったが、「えー、そんなの聞くまでもないじゃん。答えを聞くまで分からないの?」と笑ってしまった。
自分の国の資源が、とてもくだらない理由で、信じられないくらい残虐な形で搾取されていたら、誰だってなんとかしたい、と思うに決まっている。
自分のルーツというのはそういうものだ。
地元の国立公園については、ガイドなんかよりよほど詳しい、というレオン氏。きっと日本から赴任する人は変わっても、彼はずっとこの問題には取り組み続けるんだろうなと思った。
どうかあんまり危ないことはしないでね、と願うばかり。
ゾウの問題は一つの象徴であって、日本政府が象牙市場を閉じたからといって、この問題の底に流れる根本的な問題――汚職、貧困、世界の富の不均衡、弱者からの搾取など――はまた別の問題を別の形で引き起こすだろうということは、もちろん私にも分かる。
あーあ、私たち、戦争なんかにお金を使っている場合じゃないのになぁ、と今日もニュースを見ていて思う。 -
アフリカの象牙の密売組織に迫ったノンフィクション。
末端の象狩りをしている人たちは一般人。だが、全滅の危機にある象の顔をえぐる蛮行を犯す。だんだんとその先の犯罪組織に近づいていき、さらにそれが中国政府とつながっているかもで。。。
と、最後にそこからこのノンフィクションは意外な展開を見せる。象牙の取引の全面禁止を提案する中国とそれに反発するわが日本。日本政府の言い分も分かるが、これは厳しい。
結局、密売とは消費する末端がいる限り続いてしまうのだ。象牙の密売を巡るこの物語が自分達の物語であるこの結末は見事。