- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094031713
作品紹介・あらすじ
「十九歳の誕生日の日、おれは江戸川河口の浦安の飯場にいた」この書き出しで始まる「河口へ」。自らの体験をもとに、建設現場で働く外国人労働者の姿を骨太にしてユーモラスに描く表題作。本作品は時代の底辺で肉体を駆使して力強く生きる男たちの心情、その愛憎のしがらみを描いたエネルギッシュな作品として注目を浴びた。表題作の他「入水の夏」「待ち針」「菩薩」「ありふれた一日」の短編を収録の文庫オリジナルである。
感想・レビュー・書評
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「河口へ」
85年のプラザ合意以来、内需拡大路線を走ってきた日本は
バブル経済を迎えて、外国人労働者(ジャパゆき)を多く雇用した
最低賃金の上昇していくなか
いわゆる3K(キツイ・キタナイ・キケン)労働を低コストでまかなうには
国内だけでは人材が足りないのだった
そこに、老オカマや相撲くずれも加わって
浦安の飯場は、ちょっとした異文化のるつぼと化していた
「入水の夏」
飯場の周辺で、楽しいことといえば飲む・打つ・買う
酒に博打に女であった
黒人兵との間に生まれた赤ん坊を抱え
入水自殺した女の呪いかなんか知らんけど
お楽しみにまつわる
いくつかの国際問題が、飯場周りで持ち上がってきた
「待ち針」
河口の飯場から見える対岸には東京ディズニーランドがあって
別れ話をするために、そこのホテルで妻と待ち合わせている
作業中のケガで仕事ができず
売血で稼がないと外出もろくにできやしない男は
なにをやっても上手くいかなかった人生を振り返ることで
気分を高めていくのだった
「ありふれた一日」
バブル崩壊後、不景気におそわれた日本では
みるみる仕事がなくなって
借金の返済をできない人が激増した
すると当然のことながら、資金を回収できない人も激増した
最初から踏み倒すつもりで借金する人はそうそういるもんじゃないし
希望に満ち溢れる未来のビジョンを描いてみせた者たちだって
こんなことになるとは思っていなかった
だれにも悪意があったわけじゃない
それで無責任な人たちばかり生き残った
「菩薩」
背中に菩薩の刺青を入れてからというもの
銭湯に行くと、人々が恐怖のまなざしを向けてくるようになった
布団を前にしては、スナックの姉さんにも怖がられた
人は見た目じゃわからないというのに…詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
先日読んだ佐伯一麦さんとどこか似ています。
主人公達は皆建設作業員。言い方は失礼ですが、どこか社会の底辺に居る人たちです。その人たちの数日間を丁寧に切り出すように描かれます。
絵画でいえば写実派です。数ある風景の中から、そこを切り取ったということに意味があるようです。何かを声高に主張するのではなく、淡々と一つの風景が語られます。文体に特徴があるわけでは有りませんが、美味さは感じられます。
何故か引き込まれる作品です。