つけびの村: 山口連続殺人放火事件を追う (小学館文庫 た 43-1)
- 小学館 (2023年3月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094072358
作品紹介・あらすじ
“うわさ”が5人を殺したのか? この村では誰もが、誰かの秘密を知っている。 2013年7月、わずか12人が暮らす山口県の限界集落で、一晩のうちに5人が殺害され、2軒の家が燃やされる事件が発生した。凶行に及んだ男が家のガラス窓に残した貼り紙に書かれてあった「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」。メディアはこぞって「犯行予告」と騒いだが、真相は違った……。 気鋭のノンフィクションライターが、拡散された「うわさ話」を一歩ずつ、ひとつずつ地道に足でつぶし、閉ざされた村を行く。発表のあてもないまま書いた原稿を「note」に投稿したところ思わぬ反響を呼び、書籍化。事件ノンフィクションとしては異色のベストセラーとなり、藤原ヒロシ、武田砂鉄、能町みね子ら各界の著名人からも絶賛の声が上がった。 事件から10年という節目に、新章となる「村のその後」を書き下ろし加筆して文庫化する。 【編集担当からのおすすめ情報】 若手ノンフィクションライターの発表の場がなくなりつつあるなか、腐らず丹念な取材を続け、自ら未発表原稿を「note」に投稿し、書籍化の道を開いた高橋さんの存在は、ノンフィクション界の一筋の希望となりました。新たに現地取材を行い、新章を加筆しバージョンアップされたこの文庫版が、さらにノンフィクションの未来を明るくすることを願います。
感想・レビュー・書評
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噂をただの噂だと思うことと、それを被害妄想的に捉えることと。
わたしは後者だ。
職場で誰かがわたしの名を出すとピクっと反応し、ふざけて「なになに悪口~?」なんて言って同僚を困らせている。
だいたいそれは悪口ではないのだけれど、でもそうやってふざけて自分の気持ちを外に出してみるだけで、自分もその場も和んだりする。
たぶん、「あれは悪口だ」と一人ふさぎ込んで思い込んだりすると、病む。
わずか12人が暮らす限界集落で、一夜にして5人の村人が殺害された。
「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」
犯人は、奇妙な貼り紙を残したまま姿を消した。
警察が犯人のボイスレコーダーを発見。
中にはこう吹き込まれていた:「うわさ話ばっかし、うわさ話ばっかし」「田舎には娯楽はないんだ、田舎には娯楽はないんだ。ただ悪口しかない」
P294「メディアやSNSからこの事件のうわさを得る我々と、『コープの寄り合い』に集まり、うわさ話を仕入れていた村人たちに、はたして何の違いがあるだろうか。私自身、この取材にのめり込んだきっかは、うわさだったのだから」
娯楽のない田舎やSNSに限らず、職場や保護者同士の繋がりだったり、人が集まるところにはいつだって噂話は存在する。興味なしとする人もいれば、そこにしか興味がない人もいる。そして、その噂話の被害に遭う人もいる。悪意のない噂話を、「悪意」のある「悪口」と捉える人だっている。そして、その人が置かれた環境によっては、精神疾患を発症したりもする。そして、もしその精神疾患を発症した状態で何かしらの事件が発生したとしたら、その事件で一番裁かれるべきは誰なのか。
以前、堀田らなさんのことを紹介した(https://www.u-gakugei.ac.jp/pickup-news/2023/03/post-1026.html)けれど、人を裁く立場にいる裁判官は、どの程度精神障害を理解しているのか。
P276「市民に身近な裁判員制度」の「市民に身近」とはどの程度のものなのか。
精神保健福祉士の試験に合格したわたしでも、精神疾患についての理解はちゃんとできているかと問われると、まっすぐに首を振ることは憚られる。それだけ複雑なことを知っているからだ。
P275「専門家でも意見の割れる“責任能力”についての判断を、彼らの意見を元に、精神医学を専門に学んできたわけではない裁判官や裁判員らが下さなければならない」
こうなってくると、人が人を裁くということは、もはや運ゲーに近い。
裁判員の中に精神障害に理解がある人がいればラッキー、なんらかの事件の被害者になったことがある人がいればラッキー、よくわからないまま裁判員になりました、という裁判員ばっかりだったらアンラッキー。
同様に、被告人に理解をしめす裁判官に当たればラッキー、理解をしめさない裁判官に当たればアンラッキー。
司法がこれでいいのか。
司法は全てに対して平等であるべきではないのか。
取材をすすめてきた、高橋ユキさんの並々ならぬ覚悟に溢れた一冊でした。
噂の元となる人など、ここに出て来る人がこの作品に触れたらどう思うだろう、と思いながら読み進めていたのだけれど、その想いはきっと著者である高橋さんが一番お持ちだっただろう。だけど、それでも出版する覚悟というものが、ぎゅっと詰まってた。
著者の取材の熱量と努力。
ここまで掘り下げるか、というほどのエネルギーに、圧倒された。
なんで、どうして、っていう探求心みたいのって、どうやって培われるんでしょうね。わたしもある方だとは思いますけど。
そして、だからこそ時々ノンフィクションに触れると、ぐいぐいのめり込んでしまう。
有給中は家で単行本を読み漁ろうと思っていたけれど、ついつい圧倒されて、没頭して読了。 -
高橋ユキ『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』小学館文庫。
2013年に起きた山口連続殺人事件の背景に迫るノンフィクション。事件から10年という節目に新章となる「村のその後」を書き下ろし、加筆、文庫化。
何かテーマを持って事件についての大きな謎を解き明かすという訳ではなく、報道では伝えられない細部に肉付けしたようなノンフィクションだった。
2013年7月、僅か8世帯12人が暮らす山口県の限界集落で、一晩のうちに5人が殺害され、2軒の家が燃やされる事件が発生した。被疑者として逮捕された保見光成は裁判で死刑を言い渡される。
著者は取材を通じて、犯人である保見の異常な性格と行動と、住人の噂が飛び交い、村八分と犯罪が半ば常態化した閉ざされた異様な集落の実態を明らかにする。
本体価格720円
★★★ -
気になっていたタイトル。
以下、ネタバレ含みます、注意。
山口連続殺人放火事件を追って、限界集落に踏み込む筆者。
残っている村人との会話から、見えてくる男の背景とは……。
「真相」を冠した章があって、どんな内容が語られるかとドキドキしたのだけど。
読み終わって、色々考えさせられることがある。
それぞれの人の主観の中で事件は語られていくんだなぁというのが、最初の感想だった。
たとえば、それが「被害妄想」に端を発したことだったとして、それは環境的要因や社会的要因が悪化させたとも言えるんじゃないか、とか。
集落にある「噂」と「孤立」という抜けられない図式がもたらしてきた不幸って何なんだろう、とか。
ニュースでは犯人という個人の、生い立ちや原因に焦点が当てられがちだけど、この本を読んでいると、もう少し広く、世間みたいなものの怖さが潜んでいる。 -
行ったことはないが車で2時間位の場所が事件現場の集落でずっと読みたかった本。ど田舎の集落は街育ちの人間には想像もつかない現実があるのは耳にはしていたが
村八分や集落の風習だったりどこの県の所謂限界集落はこんなもんだろうだけど此処は特に香ばしい
集落の住民の言動に対する作者の"一体何を言っているんだ"的な反応が笑える。 -
祭りのこと、村の歴史など何か真相に繋がるのかと読み進めたが、結局、直接的には関係していなかった…。
妄想が事件の引き金となったという結論において、噂や悪口は実際に存在しており、それは妄想でないという点について、しっくりこないという筆者の気持ちは理解できた。 -
どうしようもなさが漂って終わる。しんどい
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限界集落で起きた連続殺人放火事件の闇に迫る。と言いつつ、もうひとつ犯人に迫り足りなかった感が…でも、限界集落って日本中にあると思うと、ちょっと怖い。
こんばんは♪
新しい職場はいかがでしょうか?
ブクログに寄る時間もないかもしれませんが、お体だけは気をつけて下さいね。...
こんばんは♪
新しい職場はいかがでしょうか?
ブクログに寄る時間もないかもしれませんが、お体だけは気をつけて下さいね。
この本、私もだいぶ前に読み、限界集落の現実(限界集落がどこもこうだというわけではないですが)、人口流出と村文化の衰退など、色々と考えさせられました。
若い世代に定住してもらうことを推進している自治体もありますが、そんなに容易なことではないな、と感じたことを思い出しました。
こんにちは!
コメントありがとうございます^^
新しい職場、皆さん優しくしてくださって、体質もホワイトで、今のところ安心して...
こんにちは!
コメントありがとうございます^^
新しい職場、皆さん優しくしてくださって、体質もホワイトで、今のところ安心して働けています!
そして、通勤時間が短くなったことでなかなか読書の時間が取れていません…
この事件、実はこの作品に触れるまで知らなかったのですが、非常に興味深いです。
どこの限界集落も同じとは限らないですが、少なからず似たような事はあるんでしょうね。
限界集落に限らず、日常がこうした事件に繋がってしまう、ということはあるのかもしれないですよね。「何かがおかしい」という感覚はどうやって培われるのかな、なんて思いました。