すべては海になる (小学館文庫 や 13-1)

著者 :
  • 小学館
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094084283

感想・レビュー・書評

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  •  著者はシナリオライターやテレビディレクターとして活躍している人だそうで、これは小説作品としては2冊目にあたるもの。

     書店員として働く20代の女性と、男子高校生の恋愛を描いた作品。ありがちな恋愛小説ではあるのだが、心理描写が繊細で素晴らしいし、文章が抜群にうまい。わかりやすくて読みやすく、映像的でテンポがいい。そして、むずかしい言葉は少しも使っていないのに、深いところまで表現できている。なかなかできることではない。

     ストーリーの本筋とは関係ないなにげない場面の中にさえ、メモしておきたいようなフレーズ、表現が多い。たとえば――。

    《本屋のレジは、あまり客の顔を見なくてすむ。ファーストフードの店員のように、安価な笑顔を振りまく必要がない。本は特殊な商品だ。ほしがる本は客の心を映している。ストレートに客のその日の心情が、欲望が、欠落があらわれている。ベストセラー本を買う客ですら、正面きって顔を見られるのを嫌う。本にカバーがかけられる理由はここにある。誰も自分の望みを知られたくないのだ。だから、本を受け取ったら、なるべく機械的に動く。あなたにもあなたの買い求める本にも全く関心がありません、というように。》 

     また、恋愛小説でありながら、恋愛というものの「どうしようもなさ」を作者が突き放して見ているようなクールな視点が、随所に感じられる。そこがよい。甘ったるくないのだ。
     たとえば、ヒロインがこんなセリフを言ったりする。

    「うちの親も恋愛結婚だったらしいけど、わたしが大学を卒業すると同時に離婚したよ。なんていうか、恋愛の残骸をおとなになる前にたくさん、見過ぎたのかな」(148ページ)

    「苦しいときに手近な愛情に溺れるのは人類がずっとやってきたことなんだと思う」(222ページ)
     
     「終わり方にもうひと工夫欲しかった」とか、「主人公の高校生の話す言葉が老成しすぎていて少年らしくない」とか、いくつか不満も感じたが、そうした瑕疵を補って余りある魅力をもつ作品だ。 
     恋愛小説の分野で売れっ子になっている某や某々の作品と比べても、少しも遜色ない。てゆーか、ヘタな売れっ子作家よりこの人のほうがうまい。

  • 20130827読了
    #本

  • 書店員の女と、万引きする母を持つ高校生
    上野千鶴子さん解説だったので借りたが……

  • 身も蓋もない書き方をするなら、セックス依存性の女の話。
    とにかく先が気になるし、読ませる本だと思うのですが、それでも「淋しさを埋める」「自分でも止められない」という主人公に共感は出来ませんでした。

    万引き犯の女性もその夫も、ただ他人(主人公であり、読者)を傷つける為に存在し、その息子(光治)がある意味ヒーローになれない正義の味方化している気がしますし、愛人もなんだかイラつきます。

    愛に本気になれないと謳っていながらも求めすぎ、出てくる人間の悪意も苛立ちも、これらによく似た感情は知ってはいるものの、全員がその感情に流されて生きている。

    作中に「小説なんだから」と、ラストをハッピーエンドに変えた話がありますが、同じ書き方をするなら、「小説なんだから」もう少し主人公には足掻いて欲しかったです。
    「なんとかしたい」と思いながらも同じ事を繰り返し、良い年をして書店のアルバイト。そして不倫やセックス。
    (バイトとはいえ)働いているから、とは言えず、バイトさえもルーティンワークのつまりは自堕落。
    現実にこういう事がありそうだからこそ、同じ事を繰り返して自己を守る言葉を紡がれるよりも、足掻いて結局同じ事を繰り返される方が読者としての気分は良いかと思います。

    同じく作中にアイドルのヌード写真集に嫌悪するシーンがありますが、この本自体が「主人公がヌード写真集に抱いた感情」と同じものの位置にある気がします。

    こんなに流されるだけの人を後書きにあるような精神学的に「被害者」とするのは如何なものか。
    ただ弱さに甘えているだけとしか見えません。
    多分、みんな弱いんです。でも何かの努力を繰り返してまた悩む。
    それを、弱さを肯定してしまうと努力している「強い人」を否定することになるのではないかと思います。

    光治は強い。
    まさに戦ってもがいてます。
    主人公は彼の強さに憧れ、最後に手をつなぐのを止めるけれど、ここに至るまでのインパクトが強烈すぎて、立ち直りかけるエンドが浮いて見えました。

    女性が書いていることもあり、感情に対する内容はとにかくエグいです。
    気分の良い話ではありませんでしたが、マイナスの感想でもこれだけ並べられるくらいの本の内容の勢いは感じました。

  • 書店員の夏樹。万引きした主婦の家へ行き高校生の光治と出会う。みんな何か問題を抱えて生きているのか。
    こういう小説は苦手かなと思いながら読んでいたが、光治の強さに引っ張られて、最後には爽やかささえ感じた。

  • 単行本でも読んだが、映画化後の文庫化で加筆修正があったらしいので購入。
    作中作が『小島小鳥の冒険』(映画パンフ参照)かと思ったけれど、変更なし。

  • 群馬などを舞台とした作品です。

  • 著者自身が監督している映画ならおもしろいかも。
    でも多分見ないなぁ、残念。

  • 暗から明へ・・・
    突き抜けるほどではないけど納得させる力がある。
    いい小説。

  • ものすごく映画の原作っぽい作品。
    話の流れが。

    光治のセリフがなかなか良かった。

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著者プロフィール

東京都生まれ。テレビディレクター、作家、映画監督。フジテレビジョンの番組『ザ・ノンフィクション』のディレクターとして「生きがい 千匹の猫と寝る女」「会社と家族にサヨナラ~ニートの先の幸せ」「犬と猫の向こう側」などを手がける。2015年、監督、製作、脚本を手がけた映画『犬に名前をつける日』が公開。また、同名のノンフィクション『犬に名前をつける日』(キノブックス刊)を刊行。保護犬のハルとナツと暮らす。

「2018年 『犬と猫の向こう側』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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