消えゆく左官職人の技鏝絵 (ショトル・ミュージアム)

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  • 小学館
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (127ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784096063019

感想・レビュー・書評

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  • 昔、わけあって1年間ほど左官の修行をしたことがある。その経験をもとに言わせていただくと、鏝絵(こてえ)は、1年間修行したくらいで造れるものではない。西洋のレリーフとは根本的に違う。ノミで彫って後はサンドペーパーで均せばOKというような代物ではなく、日に日に状態が違う漆喰をさまざまな鏝(こて)で、神業のように塗りつけて、形を作ってゆくのである。当然、100年経っても壁と一体になっていなくてはならない。粘土のようにこねくり回して作るのではなく、凡ゆる工程は鏝(こて)を使い、何度も何度も塗り重ねて最後は仕上げ鏝で塗り重ねた跡が残らないように自然な曲線を描くように仕上げなくてはならない。わたしは全然出来なかった。鏝絵ではなく、基本中の基本、ナマコ壁(白壁の町を構成する格子柄の白い盛り上がった漆喰)を作る時に、どうしても曲線が歪になり、鏝の跡がついてしまうのである。歪になってもいいじゃないか?バカなこと言うんじゃない。実際ホンモノを見ればわかるように、みんな機械で作ったように全部均等で少しでも歪ならば直ぐにわかる。しかも決して機械では作れない。跡なんてペーパーで削れば?バカなこと言うんじゃない。艶が出ないし、近づいて見れば誰でも直ぐにわかる。私は不器用だったので簡単なナマコ壁さえ仕上げることができないのである。七福神や竜の形をあんなに綺麗に仕上げるなんて、ましてや、見本がなくて独創で絵を仕上げるなんて、「神業」以外の何者でもないだろう。

    藤田洋三さんは、鏝絵に魅せられて、全国の鏝絵を写真に収めた。岡山市の有名な仙女鏝絵が無いことからもわかるように、その多くは網羅されてはいないが貴重な情報である。しかし残念ながら藤田氏は鏝絵を「消えゆく左官職人の技」であることを前提に書いていて、鏝絵がどのように描かれ、「世界美術」の中で、どのような意義があるのか、ほとんど言及しない。大いに片手落ちだと思う。こんなビジュアル本の任務では無いと言えばそうなのかもしれないが、なんか無駄な文章が多すぎた気がした。

    私としては、名人が鏝絵をつくる過程を見たかったし、左官の雑誌編集長の方が指摘していた、「雪国で左官の仕事ができない3ヶ月の仕事」として描いたり、「長い左官の仕事の最後のサービスとして描いた」という部分をもっと膨らませて欲しかった。

    名人長八の美術館は一度は行きたいとは思うが、鏝絵の本当の味は、民衆美術として無名の人の想いが出るところにあり、そこを大判の写真で紹介して、詳しい解説で深めて欲しかった。詳しい場所も分からなくて、この本片手に訪ねようもない。

    それでも、鏝絵に特化した本は貴重であり面白かった。教えてくださったmyjstyleさんに感謝。

    • 佐藤史緒さん
      あと、つい最近、隣の家との境のブロック塀の修繕をやってもらったばかりなのですが、確かに傾斜のある土地なのに、ブロック塀はぴしっと水平に建てら...
      あと、つい最近、隣の家との境のブロック塀の修繕をやってもらったばかりなのですが、確かに傾斜のある土地なのに、ブロック塀はぴしっと水平に建てられています。職人さんが一人でやってきて、大した道具も使わず数時間で綺麗に完成したので、流石!と思いました。
      ああいう名もなき職人さんたちが日本のインフラを支えてるんだな〜と感心しました。
      2020/09/19
    • kuma0504さん
      佐藤史緒さん、こんばんは。
      こういうのを書いていると、いろいろ思い出して、ついつい書いてしまうのですが、この後書くのは独り言だと思ってくださ...
      佐藤史緒さん、こんばんは。
      こういうのを書いていると、いろいろ思い出して、ついつい書いてしまうのですが、この後書くのは独り言だと思ってくださると幸いです。

      建て売り住宅の駐車スペースは、最近は3割以上はコンクリートを平に塗っているのが見られます。狭い範囲ならば、わたしでも塗れそうかな、と思いながら見ていますが、それでも技が要ります。決して鏝の跡を残さないこと。それはその日その日の温度湿度を見ながら最後の仕上げコテを使う時を見定めなくてはなりません。それともう一つ、最後の最後にわずかに傾斜をつけて、水の流れを一箇所にまとめることをしなくてはならない。これらは全て機械ではできないことです。敷石を並べるのも、コンクリートの上に並べるので、考え方は一緒です。

      そういう左官で一人前になるのは、やはり10年近く必要で、そういう意味では50すぎての修行者には需要が無い、不良で真面目でなくても、中学生出のヤンチャな若者の方が引く手数多な現実がありました。

      わたしの就職した建設会社は、労基法違反が10幾つはありそうな会社で、夏前に辞めたのですが、今年のような殺人的な酷暑の中で、あの先輩たちは生きて夏を越せたのか、何度か思いました。

      とか、いろいろ書いて懐かしくなりました。ありがとうございました!
      2020/09/19
    • 佐藤史緒さん
      kuma さん、お話どうもありがとうございます。
      子どもがいるのでなかなか時間が取れず、いつもレスが遅くてなってしまうのですが、お話とても...
      kuma さん、お話どうもありがとうございます。
      子どもがいるのでなかなか時間が取れず、いつもレスが遅くてなってしまうのですが、お話とても興味深くうかがっています。
      そう、水捌けの問題があるのですよね。幸い私が敷いた敷石は大した面積ではなかったので、あまり水溜りの問題は起きなかったのですが、そういうことも考えなくちゃいけないんだなーと思いました。
      10年で一人前とは、外科医並みの大変さですね。
      ヤンチャな若者を束ねるには、若者以上にブラックになって舐められないようにしなきゃならんってことですかね。たぶん熱中症になっても使い捨てですよね(>_<)
      2020/09/22
  • 鏝絵(こてえ)は消えゆく左官職人の技です。長野県の諏訪の集落にある蔵には鏝絵が様々な飾られていて、楽しく眺めた記憶があります。津和野の太鼓谷稲成神社にも立派な奉納鏝絵がありました。素朴で味わいのある文化ですね。こうやって全国に点在する鏝絵を紹介してくれるのはありがたい。長岡のサフラン酒本舗や伊豆の長八美術館には足を伸ばしてでも見に行きたくなりました。

    • kuma0504さん
      こんにちは。左官職人修行を訳あって1年間したことがあるので、読んでみたいです。
      この本に書いてあるかどうかは楽しみですが、鏝絵は素人が面白そ...
      こんにちは。左官職人修行を訳あって1年間したことがあるので、読んでみたいです。
      この本に書いてあるかどうかは楽しみですが、鏝絵は素人が面白そうだからと言ってすぐにできるモノではありません。いわゆる、海鼠壁を作るときの応用なのですが、海鼠壁を作るには、1年間では商売になるようなものは遂には作れませんでした。粘土をこねるように作る訳じゃないんです。鏝で、少しづつ塗っていく訳ですが、上手くないと、直ぐに跡が残ったり歪になったりします。ましてや、それで立体的に絵を描くなんて、私には想像だにできません。
      つい、懐かしくなって書いてしまいました。
      2020/09/08
    • myjstyleさん
      kuma さん
      貴重な思い出を披露いただきありがとうございます。鏝を扱うのが非常に難しいとは聞いていましたが、本当のことでしたか。長八は名...
      kuma さん
      貴重な思い出を披露いただきありがとうございます。鏝を扱うのが非常に難しいとは聞いていましたが、本当のことでしたか。長八は名人と言われた左官職人だそうです。不便なところに美術館はありますが、その技を間近に見たいものです。
      2020/09/08
  • 鏝絵(こてえ)は、左官職人の芸術。漆喰を塗った上に、鏝で浮き彫り風に描き出した絵のこと。左官仕事の延長線上で、職人たちは粋な遊び心を存分に働かせてきたんだって思うと、その余白の大きさとか、技を持つひとの豊かさとか、ひとの生きる深さをとても感じるんです。いまでは古い家が壊され、見ることのできる鏝絵が減ってきてとてもザンネン!(虔十の会・坂田昌子)

  • 2018/11/19 詳細は、こちらをご覧ください。
    『あとりえ「パ・そ・ぼ」の本棚とノート』 → http://pasobo2010.blog.fc2.com/blog-entry-979.html

    古石場文化センターに行ったら、鏝絵と入江長八の紹介ビデオが流れていて、
    すっかり 魅了されてしまいました。

     漆喰(しっくい)を用いて盛り上げた造形を作る鏝絵(こてえ)。左官の職人技術から派生した「芸術」です。
    多くは左官職人が活躍する建築内部の装飾に取り入れられました。
     絵画とも彫刻ともいえる鏝絵にスポットをあてると共に、幕末・明治前期に深川で活躍した、知る人ぞ知る鏝絵の名匠「伊豆の長八」こと、入江長八も紹介します。

  • 日本各地の鏝絵を画像入で紹介。

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著者プロフィール

1950年大分県生まれ。別府市在住。写真家。
幼い頃より職人仕事に興味を持ち、1976年より大分を拠点に、全国の鏝絵、土壁、石灰窯、藁塚、石積み等の撮影と取材を続けている。
著書:『近代建築史 ゲニウス・ロキ』(編著、産研出版、1993)、『消え行く左官職人の技・鏝絵』(小学館、1997)、「大分の昆虫」(私家版1994)、『小屋の力』(共著、ワールドフォトプレス、2001)、『鏝絵放浪記』(2001)、『藁塚放浪記』(2005)、『世間遺産放浪記』(2007)、『世間遺産放浪記 俗世間編』(2012、以上石風社)、『浜脇・HAMAWAKI』(2013、SABU出版)など。

「2015年 『世間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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