逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白 (小学館新書)

  • 小学館 (2022年6月1日発売)
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本 ・本 (216ページ) / ISBN・EAN: 9784098254255

作品紹介・あらすじ

「どうりで捕まらないわけだ」(道尾秀介)

自転車全国一周に扮した富田林署逃走犯、尾道水道を泳いで渡った松山刑務所逃走犯、『ゴールデンカムイ』のモデルとなった昭和の脱獄王……彼らはなぜ逃げたのか。なぜ逃げられたのか。
異色のベストセラー『つけびの村』著者は、彼らの手記や現場取材をもとに、意外な事実に辿り着く。たとえば、松山刑務所からの逃走犯について、地域の人たちは今でもこう話すのだ。
〈不思議なことに、話を聞かせてもらった住民は皆、野宮信一(仮名)のことを「野宮くん」「信一くん」と呼び、親しみを隠さないのである。
「野宮くんのこと聞きに来たの? 野宮くん、って島の人は皆こう言うね。あの人は悪い人じゃないよ。元気にしとるんかしら」
「信一くん、そんなん隠れとってもしゃあないから、出てきたらご飯でも食べさせてあげるのに、って皆で話してました。もう実は誰か、おばあちゃんとかがご飯食べさせてるんじゃないん、って」〉(本文より)


【編集担当からのおすすめ情報】
『つけびの村』で山口連続殺人放火事件を「村人たちの噂」という視点から見つめ直した気鋭のライターの、新たなテーマは「脱走」。警察に一度は捕まりながら、脱走に成功してしまった者たちの告白や足跡は、読む側に“禁断のスリル”をもたらすことでしょう。なぜ人は脱走にスリルを感じてしまうのか、それはいけないことなのか。著者はこの本でそう問いかけます。特別収録された作家・道尾秀介氏との対談でも、犯罪とフィクション・ノンフィクションとの距離感について議論を交わしており、そこも読みどころの一つとなっています。

感想・レビュー・書評

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  • 以前にこの著者の「つけびの村」を読んだことがあるが、実際の出来事なのにまるで小説を読んでいるかのような気持ちになったことを思い出した。

    こちらの書は、しっかりと取材を元にしているが、TVでのワイドショーの記憶もまだ新しいので、そんな事があったなぁといくつか思い出す。

    特に大阪富田林署から逃走して、自転車で日本一周中と自ら言いながら瀬戸内まで走っていたというのは、よく覚えている。

    だが、第5章の最強の男 白鳥由栄の逃走が、4度もあり、小説『破獄』の佐久間清太郎、『ゴールデンカムイ』の白石由竹のモデルになったとは知らなかった。

    序章の小説家・道尾秀介との対話の中で「事実は、小説より奇なり」の件を触れていたが、確かに想像を超える事実がある。

  • 富田林署逃走犯が知りたくて読みました。
    他はついでです。

    〈女装して新宿に潜伏している説に捜査員が引っ張られ、それをメディアが報じるなか、当の山本(仮名)は騒動をあざ笑うかのように自転車旅を装い、逃走を続けていた。
    周防大島では、和歌山から自転車旅を続ける「櫻井潤弥」なる人物になりきり、人や自然とのふれあいを謳歌していたようだ〉

    山本が逃走したころ、周防大島では2歳の男児が行方不明になり、スーパーボランティアの尾畠春夫さんが山中で発見するという大騒動が起こったそうです。
    (高岡の男の子も早く見つかってほしいです)

    一週間ほど山本が滞在していた「サザンセトとうわ」では、サイクリストたちが多く訪れるようになった。
    『聖地』とかいうぐらいに言われて。
    など、その後のエピソードもいろいろ面白かったです。

    私も瀬戸内海ゆっくり旅したくなりました。

  • 高橋さんのノンフィクションは最後の章がいい。丹念な取材を重ねたレポートを読んだあとに、「事件の詳細を知りたい」という読者の好奇心を肯定してくれる。人間は、面白い。

  • 文字通り脱走犯の話。

    脱走の仕方は元より、彼らにも信条があるのがわかって面白かった。

  • 近年の脱獄犯2件のルポと戦時中に網走刑務所等を4度も脱獄した人の話。始めのは逮捕された場所が広島で見知った所なので本当に怖かった。
    2篇目も、自転車で日本一周中、と多くの人を騙した犯人が気に入って長く滞在した山口の道の駅もよく行く場所なので目に見える様。ただ終章はガラッと変わって日本の司法制度や自白偏重主義への警鐘など、題材とは違う面もあった。この方の別な著書を読みたくなった。

  • 前半は2018年当時けっこう話題になった今治の開放型刑務所を出て瀬戸内の島に潜み海を渡った例と、富田林署を出て自転車旅を装っていた例が紹介される。これがめっぽう面白い。どちらも飄々と巷を移動していく。つかまりそうでつかまらない強運もあるのか。潜伏先の島の人々や接点をもった人たちが両例の「脱走犯」たちのことを、ある種の親しみをもって語るのも印象的。そして、捕まるときはわりとあっけない。
    彼らによれば逃げたのは刑務所での扱いが不満で理不尽なものだったからだという。それはこの両者の例の後に紹介されている昭和の脱獄王・白鳥由栄も同じ。こういう動機によるものか、いやそれが明かされる以前から妙に人々は彼らを慕わしく思い、一方で捜索に手こずる警察の傍若無人さにはあきれぎみ。そんなところが、脱走犯への親しさを増させもするのだろう。
    後半は保釈制度や自白偏重主義や人質司法といった日本の司法制度のあり方に疑問を呈す。それは翻れば人々の意識の問題でもあるだろう。以下を引用しておきたい。
    海外からのみならず、日本国内においても、自白偏重主義や人質司法に対する批判はある。しかしこれらが高い有罪率を支えていることも事実だ。不思議なことに日本では、被疑者が起訴されれば、本来はまだ未決……有罪か無罪か決まっていない立場であるにもかかわらず、その被告人に対して〝ほぼ有罪〟という印象を、多くの者が持つ。これは、高い有罪率を誇る日本の検察を、実際には信頼している証ともいえるであろう。「推定無罪の法則」という言葉は知られていても、生活には溶け込んでいないのだ。国際的なスタンダードを求めながら、日本特有の自白偏重主義や人質司法から成る高い有罪率によって、日々の生活に安心を得ているという矛盾が、ここに見える。あらゆる手続きが完璧でなければ非難の対象になる空気もあり、むしろ日本では100パーセントの有罪率が求められているようにすら思えることもある。(p.207)
    またも15年ほども前、某矯正施設の所長さんが、刑務所は矯正するための施設なのに人々は隔離しておくことを求めるというようなことを言っていたのを思い出した。容疑者となっただけで人々はその人との間に一線を引き、見えないもののようにしたがる。警察や検察の横暴ともいえる事象が多発しているように思えるが、世のなかの反応が薄いことが、横暴を助長させてもいるに違いない。
    愉快な逃亡譚を期待していたので前半は満足。後半はがらりと印象が変わって一冊の構成としてどうかと思わんでもないけど(冒頭には作家・道尾秀介との対談も収載してあるし)、司法やこの国の人々の意識に一石投じる重要な意見が述べられている。

  • なんか、やはり、とびぬけた人というのは居るんだな。逃げるってすごい。やっぱり、平均から離れたところはある。

  • ふたりの脱走犯との、手紙のやりとりや、脱走王の異名を持ち、4度の脱走歴をもつ白鳥由栄。そして、カルロス・ゴーン。

    松山刑務所が塀のない刑務所で、日本には4つしかないということをはじめて知りました。比較的、自由であるからこそ、人間関係に辛くなり逃げ出したということでしょうか。最後に脱走犯が捕まるときに、ホッとしたというのは印象的でした。

    自転車で2ヶ月近く、逃げ回ったひとも凄いと思うけど、逃げるには運も必要かもしれませんが、お金こそが必要だと感じました。

    いつかは捕まるとは言え、警察の失態というものも、決して終わることがないなと思いました。脱走王の話に、人の油断があるからこそ、脱走ができるみたいな話もあり、人である以上、完璧を望むのは難しいのかなと感じた部分もあります。それたと困るのですが。

    日本の司法が自白編重主義の話や、保釈金の話、海外の保釈後のGPSを付けて監視するなど、人権との兼ね合いもあったりするかもしれませんが、日本でも考えても良いのではと思う視点もありました。

  • まあ新書。若干好奇心は満たしてくれたかな。行って来たばかりの向島に脱獄犯が潜伏してたあたりは面白かった。サイクリストに化けてた逃走犯も面白かったかな。チンコクサイは出てこない。

  • 著者の淡々とした文章が好き。冒頭の小説家の方との対話が面白かった。小説家から見たノンフィクションとは、、このルポを読んで、現実のあり得なさに(多分悔しくて?)泣いた、と買いてあって、面白いなあと思った。事実は小説より奇なり、、フィクションだったらありえないだろーって言われるような展開が現実だとあるのが面白い。
    こうゆう犯罪もののルポって、ここでこんなもの食べてました、とか急に身近で現実感があるものが登場するのが面白いと思う。犯罪者がどんな心理でその行動を起こしたのか、ということに興味があってノンフィクションを読んでいるので、人間ぽい一面がみれると、その心理が少し分かったような気持ちになる。

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著者プロフィール

高橋ユキ
1974年生まれ、福岡県出身。
2005年、女性4人で構成された裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。
殺人等の刑事事件を中心に裁判傍聴記を雑誌、書籍等に発表。現在はフリ
ーライターとして、裁判傍聴のほか、様々なメディアで活躍中。著書に、
「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(新潮社)
「霞っ子クラブの裁判傍聴入門」(宝島社)
「あなたが猟奇殺人犯を裁く日」(扶桑社)(以上、霞っ子クラブ名義)
「木嶋佳苗 法廷証言」(宝島社、神林広恵氏との共著)
「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)
「暴走老人・犯罪劇場」(洋泉社)ほか。
Web「東洋経済オンライン」「Wezzy」等にて連載中。

「2019年 『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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