全部ゆるせたらいいのに (新潮文庫 い 136-2)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101021225

作品紹介・あらすじ

夫は毎晩のように泥酔する。一歳の娘がいるのに、なぜ育児にも自分の健康にも無頓着でいられるのだろう。ふと、夫に父の姿が重なり不安で叫びそうになる。酒に溺れ家庭を壊した父だった。夫は、わたしたちはまだ、立ち直れるだろうか――。家族だから愛しく、家族だから苦しい。それでもわたしが夫に、母が父に、父が人生に捨てきれなかった希望。すべての家族に捧ぐ、切実なる長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 全部許せることはないと思うんです。

    アルコール依存症の父親と娘の長く、壮絶な戦い。娘は、夫のアルコールへの依存にも悩み始める。
    娘は幼児の頃から 暴言と暴力と理不尽な要求に耐えながら成長していく。働き始めても、一人暮らしを始めても 家族からの呪縛は解けない。
    父親を説得して病院へ連れて行くが 移動中でさえ飲み続ける。
    彼女は、許せない父親をなぜここまで治そうとできるのか。酒に溺れる前の幸福な時間への執着なのか。たぶんどこかに残る愛情なのかとは思う。
    家族だった義務感である方が、生きやすいだろうな。
    無理難題を突きつけ愛情を確認する試し行動をとる大人もいる。対応を誤るとより深刻になる。
    前作の「恩にも時効があっていい」それで良いのではと思う。

    一木さん、好きだわ。

    • 1Q84O1さん
      内容と関係なくてすみません…w
      表紙好き(*´ω`*)
      内容と関係なくてすみません…w
      表紙好き(*´ω`*)
      2024/04/20
    • おびのりさん
      娘もすぐにこうなるよd( ̄  ̄)
      娘もすぐにこうなるよd( ̄  ̄)
      2024/04/20
    • 1Q84O1さん
      えぇ〜!_| ̄|○ il||li
      えぇ〜!_| ̄|○ il||li
      2024/04/20
  • 一木けい『全部ゆるせたらいいのに』新潮文庫。

    読んでいて、昔懐かしいささやかな家庭の描写に喜びを感じる一方で、切なさと悲しさで心が痛くなるような小説だった。

    一種のアル中小説と言っても良いだろう。

    酒で憂さを晴らすとか、酒は百薬の長とか、適度な酒ならとか都合の良いことを言うが、酒は一滴でも身体にも、精神衛生にも良くない。本書に描かれている通り、酒は家庭崩壊の原因にもなる。どうして法律で禁止されないのか不思議でならない。

    毎晩のように泥酔する夫の宇太郎に自身の父親の姿を重ね合わせ、不安に押し潰されそうになりながらも、何とか家庭にすがる千映。

    娘の恵が産まれてから、より一層、仕事に力を入れる夫の宇太郎だったが、その反動なのか日に日に酒量が増え、泥酔し、物を無くしたり、警察の世話になったりと不安を募らせる千映。

    千映の父親がアルコール中毒だった。大学院に通っていた時に母親と知り合った父親は子供が出来ると、バイト生活から一転、大学院を辞めて、名の知れた企業の正社員になる。その反動で、酒量が増し、泥酔したり、暴力を奮ったりと家庭崩壊の危機にあった。

    宇太郎や千映の父親が酒に溺れる気持ちも解らないではない。自分も会社で仕事が忙しく、毎日のように深夜残業が続き、酒を飲んでいた時期がある。深夜に仕事を終え、飲みに行き、飲み屋から会社に出勤したこともある。記憶を失ったり、物を無くしたり、翌日は起きれなかったりということもあった。あのまま飲み続けていたら、今の人生は無かったかも知れない。酒を止めて10年になる。酒を止めてから、身体も心も楽になった。

    本体価格590円
    ★★★★★

  • アルコール依存症の父親。
    娘の千映。
    それから千映の夫と娘。
    家族の葛藤の物語でした。

    アルコール依存症の父親
    仕事の付合いやストレスで飲酒が増える夫。
    そんな彼らを
    許す? 諦める? 認める? 理解る?
    どれも簡単には出来ないのではないだろうか。
    アルコールでの家庭の崩壊、夫婦間の危機
    読んでいて、どちらも恐ろしく気持ちが沈んだ。

  • 親子とアルコール依存症の話だった。タイトルが身に染みる内容。
    父のことがあってもなくてもあの旦那の調子だと辟易するのも分かるけど過去はずっと着いて回るなと思う。

  • アルコール依存症の父のもと育った千映。
    自分の夫もまた、アルコールに溺れようとしている。
    夫に父の姿が重なり、『ああなっては欲しくない、娘の恵に自分と同じ道は歩ませたくない』と神経をすり減らす日々を過ごしている。

    『全部ゆるせたらいいのに』とは、つまり、ゆるすことができない部分があるということだ。
    全部ゆるすことができたら楽になることは理解しているけれど、ゆるすことができない。
    許すは、何かを行うことを認めること。
    赦すは、既に行った罪や過ちを責めないこと。
    平仮名で表すことでそのどちらの意味も含有しているのだとすると、過去も未来もひっくるめてあなたの行為をゆるしたい、ということなのかな?
    諦めとはまた違うんだろうし、なんだか難しい。
    私が千映と同じ環境に育ち、同じ境遇に今立っているとしたら、絶対ゆるせないけどなぁ。
    そもそも、ゆるせたらいいのに、とも思えるだろうか。

    気力がないと読めない作品かもしれない。

  • 愛ってなんなのか。
    家族ってなんなのか。
    他人から見たら異常なものでも、本人からすると普通なのか。
    見たいものを見たいようにしか見ていないからなのか。
    愛、家族にはどうして人をこんなに執着させるのだろう。

  • 重度のアルコール依存症の父親をもつ千映。
    そして夫にも酒への執着が見られる…

    他人から見て、千映が置かれてる状況を考えたら、ゆるすなんて不可能だと思う。だけどそこで「全部ゆるせたらいいのに」と思うのは家族だから、愛がある(あった)からであって…なんとももどかしくて、切ない気持ちになる小説だった。自分の努力でどうにもならないことと向き合うのは、難しいよなあ…。幼い頃、父からたしかに全力で愛されていたのに、本人はそれを覚えていないのも、悲しかったな。
    宇太郎と千映の物語だと思っていたら、千映と父親の壮絶な人生の物語だった。
    切なく重いけど、目が離せない展開に夢中になって読んだ。

  • 「許す」ことができれば、
    と思うことは、日常的によくある。

    でもなかなか譲れず、
    相手を非難してしまうことが多い。

    しかもそれを受け入れてもらえなかったら、
    もっと「許せない」気持ちになる。

    全部許せたら、どんなことになるのか、
    考えながら読み進めました。

  • どうして主人公はこんなにも夫の飲酒へ過敏になっているのだろう?と匂わせながら次章では父親目線や自分の幼少期の目線で話が進んでいく。
    2人のボタンの掛け違い、或いは掛け違いに気付いていてもどうしようもないことへの切なさが読んでいて苦しかった。確かに、愛はあった。選択したことのひとつひとつ、気持ちの弱さや脆さが積み重なり心が壊れていく、家族が壊れていく。
    最後まで宇太郎目線で話が進むことはなかったから、主人公が一番大切な人を信じることに気付いたラスト、宇太郎が、今の家族が、どうなっていくかは千映のこれからの"ゆるす"形なのだと思う。
    ゆるすことは、酒を許すことではない。
    酒を許すことは、"あきらめ"。
    あきらめと、ゆるすは似たようで全く違う。
    ゆるすことは、寄り添うこと。ひとりの人間として彼の弱さもみとめること。プレッシャーを背負う彼の逃げ場をつくること。それが酒ではないように一緒に考えてあげられること。

    自分にも言い聞かせようと思う。

  • 書店でタイトルが目に入り『それな』と思い迷わず購入。中弛みもせずさくっと読了。

    夫の深酒に悩む千映の「今」の話から始まり、第二章は千映の母の物語、続いて千映の父視点の物語、ラストは「今」から数年後の千映が、父の晩年を振り返るという構成。

    目新しいテーマではないけど飽きることもなく。
    最後数ページ、千映が罪悪感から後悔するシーンで少し泣いてしまった。
    ああ、千映は、父を諦めきれなかったんだろうな。
    諦められないけど五感から締め出すことで平穏を保とうとしたのかもな。
    諦められないこと・許せないこと、それもまた、愛のひとつなのかな。私にはまだわからないけど。読後、そんな風に思いました。

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著者プロフィール

1979年福岡県生まれ。東京都立大学卒。2016年「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2018年、受賞作を収録した『1ミリの後悔もない、はずがない』(新潮文庫)でデビュー。他の著書に『愛を知らない』『全部ゆるせたらいいのに』『9月9日9時9分』がある。

「2022年 『悪と無垢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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