軌道 ――福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101026817

作品紹介・あらすじ

なぜ、この事故は起きたのか──。2005年4月、JR福知山線で快速電車が脱線。107人が死亡し、562人が重軽傷を負った。妻と妹を亡くし、娘が重傷を負った、淺野弥三一。豊富な経験を持つ都市計画コンサルタントだった。淺野は、JR西日本の企業風土と効率最優先の経営に原因があると考え、加害者側の新社長らと共に、巨大組織を変えるための闘いを始める。講談社 本田靖春ノンフィクション賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 松本創『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』新潮文庫。

    2005年4月に起きたJR福知山線の脱線事故の原因に迫るノンフィクション。

    飛行機や新幹線、電車、バスと言った大量旅客輸送交通は利便性の裏に大きな事故につながり兼ねない危険と常に隣り合わせの宿命にある。107人が死亡し、562人が重軽傷を負ったJR福知山線の脱線事故は運転士が70㎞で曲がるべきカーブを116㎞で走行したというのだから、ヒューマンエラーや企業体質の問題とは言えない。最早、無知や無能では片付けられず、無謀、或いは故意、殺意が有ったと言っても過言ではないだろう。

    JRや日本郵便やNTTなど無理矢理民営化した巨大組織が企業風土や体質を変えることなど出来る訳が無い。安穏と過ごして来た過去がある以上、また過去から続く既得権益がある限り、特にトップは変わろうとする訳が無い。いずれ同様の事故が起きるのは間違いなく、我々は如何にしてそういった場面で生き永らえるかを考えるしか無いのだ。

    本体価格750円
    ★★★

  • なぜ、この大事故は起きたのか──。2005年4月、JR福知山線で快速電車が脱線。107人が死亡し、562人が重軽傷を負った。妻と妹を亡くし、娘が重傷を負った、淺野弥三一。豊富な経験を持つ都市計画コンサルタントであった。淺野は、JR西日本の企業風土と効率最優先の経営に原因があると考え、加害者側の新社長らと共に、巨大組織を変えるための闘いを始める。

    この事故には以前から興味があり、いろいろと調べたことがある。JR側にも血の通った人たちがいたことがわかったのが救い。

  • 2024年正月の羽田空港JAL衝突炎上事故に警察の捜査が入ったことに対し、原因究明には責任追及すべきでないという議論があり、そこで本書が紹介されていて知った本。
     
    文章が読みやすいし、主人公の遺族・淺野弥三一(やさかず)氏の振る舞いも感動的だが、著者があとがきに書いているジャーナリストとしてのアプローチも良くてJR西日本の内情に踏み込めていた。
    「淺野氏の主張や行動、折々の心境を聞き書きするだけなら、そう難しくはない。だが、彼のやってきたことが加害企業のJR西日本にどう響き、誰が反応し、それによって安全思想や経営手法にどんな変化があったのか、組織の内情まで書かなければ意味が無いと思っていた」(p411)
     
    JR西日本の関係者がしっかり描かれている。特に「並の官僚とは違う――」、天皇と呼ばれた井手正敬のインタビューが迫力あって良い。1987年の国鉄改革を否定されたくないという思いだったのがよく分かった。一方で、組織やシステムでなく個人の責任を追及して安全を達成するという彼の安全思想は全く理解できなかった。
     
    また2005年福知山線脱線事故だけでなく、その原点の1991年信楽高原鉄道衝突事故と、安全対策後の2017年新幹線台車亀裂事故の3つの事故を取り上げてJR西日本の変化をよく描けている。亀裂事故に対して「互いに相手が判断するだろうと責任を押し付け合い・・・」と原因がきちんと分析されていて、組織の安全レベルが上がっていることが分かった。

  • 【316冊目】奥様と妹さんを亡くした遺族である浅野さんの闘いを中心に、JR西とともに福知山線事故がなぜ起こったのかを追及していくノンフィクション。遺族である浅野さんがJR西の歴代社長と向き合い、事故の社会化を通じて、二度と悲惨な事故を繰り返さないようにしようとする試みについては全然知らなかった。

     JRの天皇と呼ばれた井手正敬さんのインタビューとか、ヒューマンエラーは原因ではなく結果だという遺族とJRの議論結果とか、大変興味深い。また、福知山線事故に先立つ信楽線の事故などJR西の事故の歴史や、現在ではかなり有名になった事故調査委員会の成り立ちなどもまとめてあり、勉強になる。

     それでも、どうにも総論的な話になってしまっており、とても印象に残る本だったかと言われるとなんとも…汗
     もちろん、あれだけの大事故なのでその原因や構造も単純なものにはなり得ない。だから、総論的な話になるのは仕方ないのだけれど…

     経営の問題を指摘しているようにも思えるけれど、どちらかというと官僚的な答弁に終始する経営陣や、私鉄との競争のために安全よりもアーバンネットワーク構想等を優先したのではないか?という指摘があるけれど、もう少し深掘りしていただいた方が読み応えがあったかな〜と思ったり。

     個人的には、ミスした職員への懲罰的意味合いと労組対策の色彩を帯びた「日勤教育」にもっと焦点を当てて掘り下げてほしかった。事故を引き起こした運転士が日勤教育の懲罰を恐れるあまり無謀なスピードでカーブに突っ込んだというのは事故の直接的な原因だろうし、JR西の組織風土を端的に表す例とも言える。また、JRの利用者にすぎない我々も労働者であるから、「日勤教育」は自分の会社組織に引きつけて考えることのできる応用可能で身近な問題だと思った次第。

     同じ大規模事故モノなら日航機事故を描いた「沈まぬ太陽」、JRの闇ものなら経営と労組の暗闘を描いた「暴君」の方が読み応えがありました!

  • 超大企業の体質、被害者の遺族の戦い、それぞれが判りやすくかつ丁寧に表現されています。

  • 通学で毎日乗っていた福知山線。(事故当時はもう東京に住んでいたので当事者ではありませんが…)

    今年の節目の時期に、たまたま亡くなられた運転手の方に迫った記事を読む機会があり、そこからもう少しこの事故について知りたいなと思って手に取った本。

    淺野さんをはじめとしたご遺族の方々に寄り添い、10年以上の時間をかけてJR側の幹部、各方面への緻密な取材と分析をされてきた松本さんの真摯な想いが伝わる本でした。
    (本文中では元幹部の1.17時の功績にも触れていて、特定の1人を悪として断罪しないという姿勢が著書全体を通して貫かれていた)

  • 福知山線脱線事故をめぐる遺族とJR西日本とのやりとり。

  • 2005年4月に発生、107人もの死者を出したJR福知山線脱線事故のノンフィクション。この事故の原因は、収益向上のために安全性を軽視してまで過密ダイヤを編成しながらいざトラブルが起きると運転士個人に責任を押し付けるJR西日本の企業風土にあった。硬直した官僚主義、徹底した上意下達、被害者への謝罪より組織防衛を優先する姿勢、教育と言いながら実際にはミスした運転士への懲罰的な日勤教育などが取材を進めるうち明らかになっていく。

    本書は主に三つの視点から読むことができる。
    一つめは遺族のある男性が事故発生の原因究明とその改善を粘り強くJR西日本に働きかけ硬直化したこの組織のメンタリティを変えていった、いわば「プロジェクトX」的な視点。
    二つめは国鉄時代に遡るJR西日本の歴史。「JR西の天皇」とまで呼ばれ恐れられた元会長の存在と、彼の「誤った人間観、歪んだ安全思想」や利益追求の精神がこの組織全体にいかに影響を及ぼしたかの考察。
    三つめは失敗学というかリスクアセスメントというか、事故に対する科学的な視点。人間は必ずミスを犯す、それを懲罰によって更生しようとすれば隠蔽が蔓延する。大事なのはヒューマンエラーが起きなくするようなハード面での改良。そのための設備投資の重要性。福知山線の事故のほかにも信楽高原鐵道事故などが例として紹介される。この部分はブルーカラーの自分の日常業務と重なるところもあり勉強になった。が、やや専門的かつ冗長にも感じられたので一部読み飛ばした。

    組織的、構造的問題まで踏み込む「原因究明」より個人の責任を追求して罰する「犯人探し」「処罰主義」の方が日本人の思想に合うのだろう、という本書の指摘に昨今の自己責任論の蔓延を連想して頷ける部分があった。

  • 取材にほんの少し参加しただけだが、当時の空気感が思いだされる。事故だけど、すごく複雑なことをわかりやすく書いてある。井手さんが出てくるあたりはゾクゾクしながら読めた。

  • 事故の原因究明はもちろんですが、組織的な問題に対して、一人の遺族の方が立ち向かう様子が書かれています。辛い日々だったと思いますが、組織がその問題点を認識し、改善するところまで戦い抜いたところがよくわかりました。
    批判するのも、ダメ出しするのも言うだけなら誰でも出来ますが、ひるむことなく、冷静に闘う姿は感動してしまいました。

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著者プロフィール

1970年、大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、現在はフリーランスのライター。関西を拠点に、政治・行政、都市や文化などをテーマに取材し、人物ルポやインタビュー、コラムなどを執筆している。著書に「第41回講談社本田靖春ノンフィクション賞」を受賞した『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社、のちに新潮文庫)をはじめ、『誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『日本人のひたむきな生き方』(講談社)、『ふたつの震災――[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(西岡研介との共著、講談社)などがある。

「2021年 『地方メディアの逆襲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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