- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101047218
作品紹介・あらすじ
世界を愛することと、世界から解放されること――詩はこのふたつの矛盾した願いを叶えてくれる。南仏・ニース在住の俳人である著者は、海を空を眺めながら古今東西の先人たちの詩(うた)を日々の暮らしに織り交ぜて、新たなイメージの扉をしなやかにひらく……。杜甫、白居易、夏目漱石、徐志摩らの漢詩を優しく手繰り寄せて翻訳し、いつもの風景にあざやかな色彩を与える、全31編のエッセイ集。
感想・レビュー・書評
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良い本はその予感がするものである。勿論、後付けであるが。本作も表紙の清冽な意匠に惹かれ、表題の耳慣れない言葉に興味が湧き、裏表紙のあらすじで、これは間違いないと確信する。南仏在住の俳人による漢詩や俳句を交えたエッセイ。
彼女の日常に自然に溶け込む漢詩や俳句の滋味深さを味わう。何気ない日常の描写もしなやかで話題も洗練されており、だからといって素人の私を置いてきぼりにしない親しみやすさもある。よくある、小難しい学術書とは一線を画する。
表題にある『たこぶね』とは、タコの一種で、メスが作り出し、住まいとする宮殿のような貝がらの造形は繊細で美しい。子どもたちの揺籠期を終えると、母のたこぶねはこの貝がらを捨て、一介のタコとして生き直すという。
たこぶねの生き様から敷衍して、原采蘋の詩の生命力の強さなどに話を転じ、また日常に戻る。こうした先人達の言葉と彼女の日常をつなぐ話が31編綴られる。自分の世界が広がる新鮮な読書体験だった。座右の書として繰り返し読みたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本の感想を詩的表現で書くのはずるいと思う
この本を読み終わった人は誰だって詩情を刺激されて何となく深い思考をするからです。
文章の一つひとつや言葉の使い方に深く考えることのかっこよさが詰まっていると思う。かっこつけるのではなく、自身が好きなことをありったけの語彙と知識と感性でぶつけられることの心地よさは何にも変え難い体験だった。
また忘れた頃に新しい気持ちでもう一度この本を開きたいです。 -
著者が、言葉をただひたすら愛しているのが伝わってくる。
寝る前に、1章ずつ味わうのがよい。
豊かな表現に出会う幸福に溢れている。
小津さんを通じて漢詩を咀嚼するのは心地よく楽しい。
表紙の白とブルーのような、静謐な気持ちになる。
言葉を味わうのは世界を味わうことだなと、まざまざと思い知らされる。
丁寧な表現を味わっていると、自分の心が凪いでいくのがわかる。
世界は、こんなにも色鮮やかで、豊かに広がっているものだとは。
詩が、時空を超えて、作者と気持ちを分かちあえるものだとは。
読み終わったとき、思わず、「良い本だった…」とため息が出た。
解説は「水中の哲学者たち」の永井玲衣さん!この解説がまた素晴らしい。
小津さんの新作、ロゴスと巻貝も読んでみたい。
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どなたがXで絶賛されていたので気になり、たまたま図書館で借りました。漢詩に全くの興味がない私に、昔から文字言葉を使ってその感性を紡いできた詩人への敬意をこの本が教えてくれました。
小津さんの感性、言葉選び、頷けたと思ったら引き離されて、とゆらゆらしながら読了。久々楽しく詩に触れることができました。 -
文化の伝統と、"遠い異郷に逃げざるをえなかった「もたざる者」"とを慮っている。真っ青な空と海の彼方で時に流す涙が、漢詩を身近なものへと誘う。
"存在は非存在に支えられている。"
この一文に惹かれ、白居易と道真に魅せられた。もっと読みたい。
文庫版の装丁が素敵だと思う。 -
2024年1月
漢文を読み下し文で日本語として摂取していた時代の文化もおさえつつ、漢詩に現代語訳と、その漢詩にまつわる著者の思い出のエピソード。素敵なエッセイ集だった。
漢詩だけの本はなかなか敷居が高いけれど、等身大で楽しめる漢詩の本。 -
私が信頼する編集者にして読み手の友人が激賞していたので手に取る。
ニースに住む俳人が紡ぐエッセイ。
各々の小品は、古今東西の漢詩を引用することで、より深みを増す。
俳句という作品は、三十一文字で表されている以上の深み、そして歴史を含んで鑑賞するものだと思う。
従って優れた俳人には、それらのものについて深い造詣が求められる。
その深い引き出しは、俳人の今と組み合わされて、深みのあるエッセイとなる。
一つ一つの文章を読みつつ、うーむとか、ふーんとか思いながら読む。読んで考える。
濃密な時間。 -
いいな。こういう、自分の感じ方を大事にしよう、という方向。今まで目を向けていなかった詩、しかも漢詩の目を開いてもらった感あり。漢詩って高校でやったんだったか。やったことあったから今こうして出されても少しとっつけるわけで。やはり若いうちに少しでも触れておくのはとても大事だ。
漢詩は、漢字一字で意味を表していくので、詩との相性が良い気がする。助詞とか接続詞とかの雑味が入らなくて。作った人の気持がストレートにくるような。それが千年以上前の人でも。
とはいえ解説がいかにも「先生」だと楽しく読めないわけで。センスの良さそうな女性、というのがミソだな。 -
そばにいてくれるような気がする
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(176ぺージ)あいさつもなく、いきなり始まっていきなり終わる、異次元から転生して降ってきたみたいな手紙。こみ上げる思いを絶頂の手前でスッと収めたひなびた噴水みたいな手紙をもらってそれを読んでみたいな、と思った。小津夜景さんと文通出来たら手紙が届くのが楽しみで、郵便のバイクが去ったらすぐにポストに走っていく自分の後ろ姿が見えるようだった。とにかくどの章も素敵。難しくてわからなくてもだいじょうぶ。詩がすっと生まれて羽化してトンボみたいにスッと飛び去って行く感じが気持ちいいの。ゆっくり読んだ。