題名のインパクトから手に取った本
表紙も意味深・・・
思っていた内容とは違ったけど、
とても新鮮だった。ミステリーの要素も強く、
母、園枝の死の謎に引き込まれた。
「やわらかい棘」で終わりでも成り立つけど、
この本の奥深さは正直ここからだと思う。
作者の実力を実感、このあとの作品もぜひ読んでみたい。
幸仁のセリフ「知ってる?奇跡って、あとから奇跡ってわかるんだよ」
これだけでもドキッとした。
読んだかいがあるというものだ。
40の年の差の恋愛(60代と25歳)あるのだろうか・・・と半信半疑
もう一つ、気になったのは、ヘルパーの平沼さんの態度。
珠美子が母がお世話になったことへのお礼と死因について、
尋ねた時、「金切り声で「私は何も知りません!」」と答えたあたり、
どうにも怪しい・・・と感じた。
そして「砂の日々」へ繋がる。
私が知りたかった「なごみの手、ヘルパーの平山さん」の話、
切なかった。いかにもでもあるけど、ありそうな設定に
少し心が苦しくなる。
窓の外は日が暮れ、向かい側の団地に灯りがともる。
ささやかな明るさは家族の息吹のようで、他人には我が家も尊い明るさに
映っているのだろう。
「尊い明るさ」上手い表現だなと思う。
陽花や元旦那との微妙な関係や歴史など、この一言で表されている。
すごいね。
そのほかにも「罪悪感で細胞という細胞が脈打った」
「園枝の爪は短く切りそろえられているが、あるかなきかの色で染まっていた」
「限度を超えた無垢と無知は、間抜けと紙一重なのに」
「背中の火傷の跡。出産や火傷の激痛は捨て、収集車がゴミとして持ち去ったのに、まだ痛みがくすぶっている。あるいは痛みも飽和して、歩むごとに沈んでいく、砂の日々だ」
瑠衣に食べさせることを想像して作るクッキーには、
園枝の家から持ち出した正体不明の赤い実を混ぜてあった。
間一髪、陽花は食べずに済んだらしいと分かってホッとし、終わる。
でも、なぜ??新たな疑問でこのあたりから、完読を覚悟し、夜更かしコース、
ページをめくる手が止まらなかった。
そして「花園」園枝と雪仁との関係が少しずつ、判明していく。
まさか、クッキーは瑠衣の手で、園枝の家の冷蔵庫に戻ってくる。
意外にも自然な流れだった。
これまでの、ヘルパーと介護される側の関係性が上手く、描かれていたせいか、
園枝のとる行動が妥当に映るように、ちゃんと彼女の考え方や人生の期し方が
描かれていたからか・・・
園枝の甘やかな気持ち、切実な願いの描写もいたるところに、ある。
ベッドマットの下からノートを引っ張り出し、すかさず頬をよせた。昨夜のベッドの軋みを、このノートはまだ覚えている。
秘密の中のラブホテルも、こんな風に素知らぬふりをしたリネンだった。
私はここに、雪仁との日々を綴ろうと誓った。私の記憶が粉々になって、私自身が振り返って味わえなくなっても、確かに現実だと、時間を閉じ込めておけるように。
このあたり、よくわかるなぁ。私も思ってる。だから、このブクログもそうだけど、
記録するこに労力を惜しまない。
流れていく日々とともに、記憶はどんどん薄くなり、寂しくなる。
若い人同士の交わりは、肌質が類似しているから、心がついていかなくてもたいてい上手くいく。衝動も後悔も、その処理の仕方も、きっと早くて移り気だ。
この一文も、若さを通り過ぎた今だからわかる。
妙な説得力だ笑
終わり方は少し不完全燃焼だけど、母親病が根底にあったとしても、
表題としてはこれで良いのか?
ちょっと疑問、ミステリー、サスペンス的要素としても
十分に楽しめた。