幸四郎的奇跡のはなし (新潮文庫 ま 43-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101265216

作品紹介・あらすじ

歌舞伎十八番「勧進帳」。08年、奈良東大寺で九代目松本幸四郎演ずる弁慶は1000回を迎えた。二月堂の鐘や秋の虫の音が響く中、大仏殿の甍ごしに昇る美しい満月――。舞台に立ち続ける傍らには、いつも家族がいた。「襲名とは命を継ぐこと」と語った父。個性豊かな三人の子供。一門を切り盛りする妻。小さな奇跡を積み重ね、見果てぬ夢を抱いて駆け抜けた半生を綴る自伝的エッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の二代目・松本白鸚(1942年~)は、初代・松本白鸚の長男で、3歳で初舞台を踏み、二代目・松本金太郎、六代目・市川染五郎、九代目・松本幸四郎を襲名した。早大第一文学部文学科演劇専修中退。屋号は高麗屋。「勧進帳」の武蔵坊弁慶役は1,200回という現役最多。現代劇やミュージカルなどでも活躍し、NY・ブロードウェイで「ラ・マンチャの男」、ロンドン・ウエストエンドで「王様と私」で、いずれも主役を英語で務めた。また、NHK大河ドラマの「黄金の日々」、「山河燃ゆ」で主演を務め、連続ドラマへの出演も多い、万能型の役者でもある。女優・松本紀保は長女、十代目・松本幸四郎は長男、女優・松たか子は次女。紫綬褒章、文化勲章受章。日本芸術院会員。文化功労者。
    本書は、2010年に二ヵ月に亘り東京新聞・中日新聞に連載された「幸四郎的奇跡のはなし」をまとめ、2011年に出版され、2015年に文庫化された。
    私はノンフィクション物を好んで読み、一芸に秀でた人(芸術、科学、ビジネス等々、分野は問わない)の伝記・半生記やエッセイはその中でも好きなジャンルの一つで、本書は偶々新古書店で見かけて手に取った。私は、これまで歌舞伎を見たことはなく、松本白鸚についても、子供の頃に「黄金の日々」の呂宋助左衛門役で見、「ラ・マンチャの男」が評判になっていたのを聞き、最近では松たか子の父として知っている程度なのだが、それでも、この万能型の役者が、何を思い・考え、何にこだわり、どのような道のりを歩んできたのかは、とても興味深く読むことができた。
    また、私は、本書を読んだこととは関係なく、これまで観たことのない古典芸能(能・狂言、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎、等)を一通り観てみようと思っているのだが、著者が、次のように書いていることは一つの気付きとなった。
    「歌舞伎劇には文楽を基とする浄瑠璃をはじめ、能、狂言を原点とする松羽目物等、数多くの古典芸能を歌舞伎化したものがある。しかし、それらはすべて当然ではあるが歌舞伎になっていなくてはならない。・・・素養として能、狂言、義太夫を学ぶのは役者であって、歌舞伎を上演し、見ていただく以上、舞台の上で訳者が演じるのは紛うことない歌舞伎劇でなくてはならない。・・・能、狂言でも浄瑠璃でもない、それらを原典とし熟成させ舞台の上の全部が歌舞伎化された本当の「大歌舞伎」をお見せするのが、我々歌舞伎関係者の義務だと思う。そしてそのことを感覚的に一番よくわかっているのが、毎回劇場に足を運んでくださるお客さま方だ。歌舞伎は型の演劇だといわれる。しかし、その型が生まれ、残るというのは、その演じ方がその時代時代の観客に受け入れられてきたからである。・・・本当にいい古いものは新しい。そういうことのわかる人たちが、今日の日本の古い、いいものを残してきてくれたのである。」
    自伝的エッセイに加えて、本人・家族の写真や自作の絵・スケッチも多数掲載されている。
    (2023年7月了)

  • 歌舞伎役者9代目、のエッセイ。

    知っている歌舞伎の題材が出てきたり
    知らないものが出てきたり。
    そんな話だった、と思い出すのも面白かったです。

    歌舞伎だけでなく、ミュージカルもしていたり
    ドラマにも出たいたり。
    色々してるんだな、というのも。
    途中、絵や写真もあって、こんな状態だ、というのも
    分かりやすかったです。

  • 高飛車な言い方かもしれないけど、文章に添えられている俳句がわるくない。
    「幸せを小脇に生きる今日の春」とか。
    台詞の話、松羽目物についての考え(本当の大歌舞伎)は、やはり幸四郎!
    歌舞伎、文楽、能…つながっていることは頭でわかっているけど、実感まではほど遠い。この本を読むと、ちょっとその距離が近づいたような気がする。

  •  四半世紀ほど前、駆け出し編集者だった私の最初の仕事は、某企業から委託されたアンソロジー編纂のための下読み作業だった。多数の有名人に新たなエッセイの寄稿を依頼する予算がないため、雑誌やエッセイ集に既出のエッセイを片っ端から読み漁ってめぼしいものを候補に挙げる。その時読んだエッセイはおそらく1000本を下らないと思うが、あちこちの媒体で遭遇する松本幸四郎の文才に瞠目したことが強く印象に残っている。染五郎時代から好きな役者だったが、文章もうまいとは嬉しい驚きだった。おまけに筋金入りのロマンチストだ。
     久しぶりに幸四郎丈のエッセイを読み、あらためて名文家(そしてロマンチスト)であることを確信した。とにかくすらすらとよどみなく読める。ロマンティックで含蓄深く、エピソードは多彩で面白い。4色刷りの写真をふんだんに挿入したこんな贅沢な文庫本を作ってもらえる人は、今どき有名作家でもなかなかいない。この本のおかげで、文章どころか俳句や絵までものしていることがわかった。どこまでマルチな才人なんだ?!
     これからも幸四郎の芝居はジャンルを問わず極力観に行く。どうか長生きしてほしい。

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著者プロフィール

松本幸四郎( まつもとこうしろう )
1973年1月8日東京生まれ。二代目松本白鸚長男。息子に八代目市川染五郎。6歳で三代目松本金太郎を名乗り初舞台、8歳で七代目市川染五郎を襲名。
2018年1月・2月、歌舞伎座にて『勧進帳』武蔵坊弁慶他で十代目松本幸四郎を襲名。
2019年6月、三谷幸喜作・演出の新作歌舞伎『月光露針路日本 風雲児たち』大黒屋光太夫役で主演。
映画『阿修羅城の瞳』『蝉しぐれ』など。日本舞踊松本流家元、日本舞踊協会理事。
著書に『染五郎の超訳的歌舞伎』、監修書に『歌舞伎のかわいい衣裳図鑑』『歌舞伎のびっくり満喫図鑑』(いずれも小学館)などがある。

「2019年 『歌舞伎はじめて案内手帖』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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