- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101301822
感想・レビュー・書評
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本書の主人公は、サブタイトルにもありますやうに、秋田県の自殺者減少に尽力してゐる、佐藤久男氏。
佐藤氏は、NPO法人「蜘蛛の糸」を立ち上げ、自らカウンセリング活動をしてゐます。犍陀多真ッ逆さま。
何でも秋田県はかつては自殺率ワーストだつたといひます。中小企業の経営者が、倒産に追ひ込まれ困窮した結果、自殺を選んでしまふケイスが多かつたとか。
佐藤氏が「蜘蛛の糸」を立ち上げた当時(2002年)、秋田県では自殺者が537人もゐたさうです(うち自営業者が89人)。それが2016年には263人(うち自営業者が20人)まで減少したさうです。
佐藤氏は、なぜかかる活動を始めたのか。実は佐藤氏自身がかつて経営者として会社を潰してしまつた経験があるのでした。。
追ひ詰められた佐藤氏は、精神に異常を来たし、娘の声の幻聴により自殺直前まで行きますが、門衛の呼びかけにより我に返り危機を脱した事も。
そんな経験もあつて、経営者が会社を倒産させたからといつて命まで失ふのはをかしいとばかりに、経営者向けに無料のカウンセリングを続けてゐるさうです。
佐藤氏は別段カウンセリングの専門家ではありませんでした。しかし「ゆっくり、きっちり、じっくり」をモットーに、時間をかけてもいいから、兎に角相談者の話を聞く。二時間三時間に及ぶこともあるとか。相談の結果、何も問題は解決しない事もありますが、それでも相談者としては、誰にも話せなかつた事を人懐こい笑顔の佐藤氏に告白することで、少しずつ心がほぐれていくのだといふ。さらに佐藤氏は相談の最後に、必ず次回の面会予定を入れるのです。必ず来週もう一度来てね、と約束してもらひます。これで、少なくとも次回までは自殺しないでくれるだらう。
サブタイトルに、「秋田の自殺を半減させた男」とありますが、無論佐藤氏ひとりの力だけではありますまい。秋田県庁、秋田大学などもこの問題に力を注ぎ、いはば民・学・官のトライアングルで成果を挙げてきました。このスタイルは「秋田モデル」と呼ばれ、他の自治体なども注目してゐるさうです。
しかし佐藤氏の尽力がなければ、ここまでの盛り上がりを見せなかつたでせう。
ところで、自殺をすれば無に帰ると思ふのは大間違ひでありまして、確かに肉体は滅びるが、心は浮遊霊などの因縁霊としてさらなる苦しみが続きます。何より、残された家族の迷惑を考へたら、さういふ無責任は事は出来ぬ筈であります。
それだけに、佐藤氏の活動には敬意を表するのでした。
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