「宗谷」の昭和史―南極観測船になった海軍特務艦 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (509ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101332222

作品紹介・あらすじ

南極へ日本初の観測隊を乗せた「宗谷」は、戦中には日本海軍の特務艦だった-。昭和13年、ソ連発注の耐氷型貨物船として建造されながら、曲折を経て海軍へ編入。戦後も引揚船、灯台補給船と姿を変えていき、時代の波に揉まれていた。そして、復興の証となる南極観測が計画されたとき、観測船に選ばれたのは…。激動の昭和に残したその航跡を追う。

感想・レビュー・書評

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  • 南極観測に関連して日本人が忘れられない出来事といえば、3次隊に発見されたタロとジロの話ですが、その頃に南極観測船として活躍していたのが、宗谷です。この書は、その宗谷を巡る数奇なもの語りが表されています。

    宗谷が、自衛隊ではなく海上保安庁の船であったという事は知っていたんですが、そもそもが旧ソ連からの発注により建造された船であるということは知りませんでした。旧ソ連だから砕氷船と言うのは、理解できます。この船の数奇な運命の大部分は、この件で表されるでしょうね。その後、日本と旧ソ連の国際問題となりながらも、日本側が違約金を支払うことで日本の船となったと言うことです。その後は、御多分にもれず旧日本海軍の船となり戦地に赴くわけですが、海図制作を任務とする特務艦となったことから、激しい戦闘には参加することもなく(巻き込まれることはあったようですが)、無事終戦を迎えています。

    もう一つ、この本で知ったことは、宗谷丸と言う非常によく似た名前の鉄道連絡船があったこと。宗谷丸も、稚内航路で使用された船なので、砕氷船として作られていて、日本が南極観測隊を送り込むときの南極観測船の候補にもなったと言う事で、よく宗谷と宗谷丸は混同されるようです。

    その他、南極観測隊を巡るゴタゴタ騒ぎは、アクの強い学者たちにはありがちな話かなとは思いました。

    53次隊が南極に到着し、現在52次隊からの引継ぎの最中の南極観測隊。いまの南極観測船は、宗谷の6倍もの排水量を誇るしらせ(二代)になっています。

  • あれやこれやで面白い本でした。
    宗谷ってそもそもソ連が発注した船なのね。しかも、契約した性能を満たしていないとか完成日が遅れるとか、あれやこれや揉めに揉めたうえで国策で買い上げたような形で収拾をつけたという。
    サイドストーリー満載で大作になった。本筋だけならもっとコンパクトにできる。でもサイドストーリーが面白い。
    初代南極観測隊長をネガティブに描いているのがよい。それが事実と決めつけはしないが、南極観測ってあまりにも美談として描かれすぎ。そろそろ学閥とか人間的欠陥の話をしてもよいでしょう。

  • 日本初の南極観測船「宗谷」の物語。宗谷は、太平洋戦争直前にソ連が発注した耐氷型の商船だった。この船はソ連への引渡し時のトラブルの末、地嶺丸と名付けられて国内で貨物船として使われた。その後、構造の特異性から海軍が特務艦として採用し「宗谷」と命名され、島々の測量業務の担当として太平洋戦争に参加する。戦後は引揚船として多くの邦人を輸送し、その後は灯台の補給船として活躍する。
    宗谷のハイライトは南極観測船としての活躍だが、南極観測隊の送り込みや観測船の選定には紆余曲折があったようだ。製造から20年が経った老朽船だったが、耐氷性能の向上や機関を刷新して南極に向かう。最初の航海で氷に閉じ込められ、ソ連のオビ号に救出されたり、南極に残されたアラスカ犬タロ・ジロの話も宗谷が絡んだエピソードだった。その後、北洋の巡視船として活動した後に退役する。宗谷は、昭和の激動の時代を生き抜いた大変幸運な船だった。この本では宗谷の生い立ちから、船に関わった人々、軍人や戦歴、南極観測隊派遣の経緯など多くの人物やエピソードを紹介していて大変面白かった。
    ちなみに、自分は南極観測船としての宗谷は知っていたが、軍艦として太平洋戦争にも参戦し、戦後の引揚船、灯台の補給船として使われたことは知らなかった。この船を製造した川南造船は、母の故郷の長崎・香焼島にあって、自分も長崎生まれということで、この本で知った宗谷にとても親近感を感じた。自分には、本で描かれた出来事に繫がりを求めてしまう妙な癖がある。この本を読んで、またお台場に展示されている宗谷を見に行きたくなった。

  • 戦前から戦中、戦後と、数奇な運命に翻弄されながら長い時代を生き延びた、初代南極観測船として有名な「宗谷」の記録。

    これは一級品の資料であります。

    船自体の歴史のみならず、時代背景や周囲の状況、関係人物など綿密に調査をされています。
    情報量がてんこ盛り。
    正直、読み通すのはナカナカ大変でした。

    • Pipo@ひねもす縁側さん
      宗谷には、たしか引退前のサヨナラ航海のときに、近所の港に来たので乗りに行きました。デッキとブリッジをちょっと見せてもらえましたが、もう時のか...
      宗谷には、たしか引退前のサヨナラ航海のときに、近所の港に来たので乗りに行きました。デッキとブリッジをちょっと見せてもらえましたが、もう時のかなたなので、あほとんど覚えてなくて…と役に立たないプチ情報を。
      2012/03/23
    • ほんやだワンさん
      コメありがとうござります。

      そのサヨナラ航海のエピソードも収録されてますよぉー。
      各地で大歓迎されたとのコト。
      Pipoさん、ソコ...
      コメありがとうござります。

      そのサヨナラ航海のエピソードも収録されてますよぉー。
      各地で大歓迎されたとのコト。
      Pipoさん、ソコにいたのですね。すげー。
      2012/03/23
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著者プロフィール

大野芳(おおの・かおる)
一九四一年愛知県生まれ。ノンフィクション作家。『北針』で第一回潮賞ノンフィクション部門特別賞受賞。
著書に『近衛秀麿――日本のオーケストラをつくった男』(講談社)、
『絶海密室』『瀕死の白鳥――亡命者エリアナ・パブロバの生涯』(以上、新潮社)、
『8月17日、ソ連軍上陸す――最果ての要衝・占守島攻防記』『「宗谷」の昭和史――南極観測船になった海軍特務艦』(以上、新潮文庫)、
『死にざまに見る昭和史――八人の凜然たる〈最期〉』『無念なり――近衛文麿の闘い』『裸の天才画家 田中一村』(以上、平凡社)、
『天皇は暗殺されたのか』(二見文庫)など多数。

「2020年 『伊藤博文を暗殺したのは誰なのか 安重根と闇に隠された真犯人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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