「いらっしゃいませ」と言えない国: 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂 (新潮文庫 ゆ 11-2)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101344928

作品紹介・あらすじ

日本鬼、死ね――。彼らは蔑まれた。相手にされなかった。商習慣の違い。根強い反日感情。モラルの欠如。その全てが、94年に中国へ進出したイトーヨーカ堂の壁となった。客はおろか、従業員にすら裏切られる日々……。撤退の瀬戸際まで追い詰められながらも、絶対に諦めず「お客様のためのサービス」を追求した日本のサムライたちが「中国で最も成功した外資」となるまでの全記録。

感想・レビュー・書評

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  • イトーヨーカ堂が中国へ進出したときの苦労話・成功した話(1994-2010年)までを取材した内容をまとめた本です。現地(成都と北京)に派遣されたイトーヨーカ堂の社員の苦労が伝わってきました、特に黒字になるまでの5年間は死ぬ思いだったのでしょうね。

    2010年に出版された本なので、そこまでの活動で終わっていて、現在の中国においてもイトーヨーカ堂が活躍していることを願っていますが、以前NHKでやっていた「プロジェクトX」を見ている気分でした。

    私がこの本を読んで感じたイトーヨーカ堂の中国での成功は、日本人が中国の文化を吸収しようと身を挺して、それも最低限の睡眠時間は全て注ぎ込んだこと、成功した後には中国人スタッフを学歴に関係なく(本には書かれていないですが、多分、戸籍の種別・有無に関係なく)経営に参加さ(p289)せて、中国人のお店・会社にしたことです。

    反日暴動の時も、中国人スタッフがデモに参加している中国人を説得したのだから強力だったと思います。また進出した都市(成都)からも外資系企業として表彰される等の実績も挙げていることは、そこで働く従業員達に夢を与えています。

    また、ライバル店に引き抜かれた人が戻ってくる時の対応(戻ってきた時には以前より2ランク落して採用、但しその後の成績で昇進させる)は素晴らしいやり方だと思いました。

    今後の中国は不安な面もありますが、中国人による手で中国内のイトーヨーカ堂がさらに発展してくれると良いですね。

    以下は気になったポイントです。

    ・日本のやり方をそのまま押し付けようとしている、教えてやっているんだという態度、それだと反発がある。押し付けでなく、本当に理解させるために、挨拶・接客に関わる寸劇をさせた(p51)

    ・中国では、「食事はもう済ませましたか」というのは、親しい人だけなのに日本では誰にでも言うのがおかしい(p53)

    ・成都の水は硬水(カルシウムが多量含有)であり、それが古い水道管を伝わると更に高くなる(日本:7-50、それが150→360度)それで米を炊いても柔らかくならずにボロボロになる(p64)

    ・中国の百貨店が、店中店なのは、盗難防止のためもある(p106)

    ・中国における新聞の宅配の対象先は、大企業・政府系企業・政府の幹部宅のみで、配布部数はせいぜい1万部(p115)

    ・当時の北京(1996-1998)で食品を扱うのは、超市と呼ばれる倉庫型の安売りスーパーのみ(p145)

    ・混乱を収拾させた警官が後日カネをよこせとやってきた、その要求には断固拒否をしたが、何日かして店が落ち着いてから、感謝の気持ちを込めて、彼等をレストランに招待、御馳走してすっかり仲良くなった(p155)

    ・北京では冬至に一伏、二伏、三伏とあり、それぞれ、餃子・麺・肉を食べる習慣があった(p202)

    ・中国の紀元前16世紀から11世紀における商(または殷)の時代、商の人達はモノを動かすことで利が生じることに気づき、これを専業とする人達が現れ、商人という名前の由来といわれる(p218)

    ・中国人は性悪説で容易に人を信じないが、一旦信用すると、トコトン信用する、これが人脈主義社会(p224)

    ・2000年くらいまで北京では一人っ子政策による産児制限があり、地域ごとに出生割り当てがあり、大きな事業所には政府の機関から通達された(p232)

    2013年10月20日作成

  • 2018/03/31 15:49:11

  • 中国が今よりももっと未発達だった時代に進出し中国国内からも認められる存在となった伊藤洋華堂の記録。
    日本と同じやり方ではうまくいかないのは当たり前だと思うが、それに耐え柔軟に対応してきた日本人社員たちの努力が中国人からの信頼を得、売上も上がるという形で報われたのは本当に喜ばしい。
    日本人が中国で仕事をするうえでの心構えが、中国は理解できない国であることを前提とする、というのには苦笑いである。

  • 2013(底本2010)年刊行。イトーヨーカドーが中国北京・成都に出店し、血反吐を吐く販促活動や試行錯誤を経て、地域に浸透していく様を活写。全体を通して、プロジェクトX的な奮闘・感動・成功譚として語られるが、斜めから読むと種々炙り出される。まず①中国人の長短。確かに、治安やモラルの問題を抱えているが、一度信用するとトコトン尽くすという点。性悪説と過剰信頼が同居。②現地に乗り込んだ日本人の行過ぎたワーカーホリックである。確かに、やりがいはあるかも。が、疾病を生じさせる仕事が、人生80年ある中で適切か?
    寿命を相当縮めるかのごとき仕事ぶり、さらには、発症してしまったように思える記述もわずかながら存在する。これを経営者的という一言で済ます著者の見識もやや偏頗の感。定年後20年ある先の人生を考えると果たしてそのような処遇の適否は迷うところ。③現地に根付くことの意味。やはりSARS騒動と四川大地震での対応が相当影響したのでは。危機にどのように具体的に手を差しのべられるかが問われるよう。他にもあるが、多くの意味で、良くも悪くも先例的な意義を持つ取組みであるように思われる。
    なお、塙昭彦成都イトーヨーカ堂董事長(専務取締役中国室長)の「殴られた方はいつまでも忘れない」と部下を一喝した点が、感慨深い。

  • 素晴らしい。私にはそこまでの気概もなければ、体力もない。さみし~い!

  • 20150118

  • イトーヨーカドー中国進出の裏側がよくわかる本。日本的な接客サービスを生かしながら、中国の生活習慣を徹底的に分析した商品ラインナップを充実させたことなどにより、現在では一定の成功を収めているが、それまで苦労の連続だった。たとえば従業員の教育では、タイトルにあるように「いらっしゃいませ」と言えずに辞めていく中国人が続出し、日本人と同レベルに達するまで2年を要したという。そのほか、盗みの多発や、いい加減な商品管理など、解決すべき問題が山ほどあった。そうした問題の一つ一つをつぶしこみ、愚直な努力を続けてきた日本人駐在員たちには感服する。特に成都などは、食事などの面で、日本人が住むのに本当に過酷な環境だったと思う。そんななかでひたむきな努力を続けていた日本人駐在員の努力は、徐々に中国人従業員にも伝わっていったことが、中国人従業員に対するインタビューでわかる。日本人・中国人両者の視点からイトーヨーカドー発展の経緯を知ることができた。

  • イトーヨーカドーの中国進出記。天津時代の98年にヨーカドー成都1号店に行きましたが、成都のような内陸に天津にもない立派な店がある事に驚いた記憶があります。ちょうどその時期は開業時の産みの苦しみから、1日100万元売上を達成するあたりの飛躍前の時期だった事が、本著を読むとわかります。
    中国進出時の悩みはいずれも似たようなものですが、ローカル人材を育て、成功を果たしたヨーカドーの記録には涙。

  • ちょっと古い本だが、今の中国もそう変わらないのだろうか?

    であれば、商品をまともにあげて欲しいと仕事で依頼することは、
    間違っているように思った。

  • 「いらっしゃいませ」と言えない国 湯谷昇羊(著)
    中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂

    伊藤忠が中国政府から、スーパーの進出を要請された。
    それで、イトーヨーカ堂の鈴木敏文に依頼。
    1996年5月の株主総会で決まった。
    常務取締役 営業本部長塙昭彦が、中国進出の担当を命じられた。

    塙はいう。
    『私と一緒に中国に行って苦労したい人は、立候補してほしい。
    ただし、条件がある。
    1.利口なものはいらない。行動しないで頭で考える者は必要ない。
    2.バカもいらない。足手まといになる者も必要ない。
    3.私が求めているのは、大バカ者だけだ。
    大バカ者とは、ひたむき、ひたすらとか、バカの一つ覚えでもいいから
    精一杯努力する人だ。』

    何もないところから、立ち上げるには、
    大バカ者でしか、できないだろう。
    半径五キロという商圏で、徹底して顧客を作り上げる。
    地域に根ざした、大きな小売業。それが、一番の戦略の正しさですね。

    そこから、全てを始める。
    流通業とは、しのぎをケヅリ、あくまでも、
    正直に立ち向かう。
    あんぱんから、始まったんですね。

    それにしても、手を打つのが早いのは、驚く。
    そのスピーディ感がなんとも言えない。

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