ロスト・トレイン

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 317
感想 : 80
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  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103120827

作品紹介・あらすじ

誰も知らない場所行きの列車が、いま、目の前で動き出す-なつかしくなる、旅に出たくなる、じんわり切ない大人の青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • 「平間さん、今、幸せですか? 」

    小河内線の廃線跡でたまたま知り合った平間さんは「ぼく」にとって鉄道を通じ、年齢差を超えて語り合える人となったが、その平間さんがあるとき突然失踪する。平間さんがかつてネットで話題になった「まぼろしの廃線跡」を訪ねて消えたという確信を得た「ぼく」は、旅行代理店に勤め同じように平間さんと鉄道を通じて友情を結んだ「鉄女」の菜月とともに、かつて東北に存在したという草笛線の廃線跡に平間さんの行方を追う。だが、そこで二人が見たものとは…。

     廃線マニアは「禁断のテツ」だ。廃線はたとえそこにレールが残っていようとも、基本的には廃線だからいくら待っても現実にはそこに列車は来ない。だが「来ない故に待つ」というレールに寄せる熱い思いは逆にそのまぼろしの列車を呼んでしまうということがあるのではないか。

     仮にそんな列車が目の前に着いたとして、現実の世界で自分の居場所を失った者が自分を「ここではないどこか」へ運んでくれる鉄道に自身の人生を委ね、ここではない場所を求めてその列車に乗ってしまうことは確かに考えられる。鉄道に特別な想いを抱くものならばなおさらのこと。平間さん然り。菜月然り。それが二度と戻っては来れない旅とわかってはいても。

     同時にだからこそ、草笛線の駅伝言板に残された平間さんの言葉に絶句し、ロストトレインに乗ったまま自分の本当の居場所を求めてとうとう最後まで降りることをしなかった平間さんの覚悟を想う。自らの意思で列車に乗り戻らなかった人たちは果たして何処へ向かったのか?物語はミステリアスなファンタジーの様相を呈して意外な結末へ進んでいく。このクライマックスはちょっとジブリ的だ。

     廃線に列車は来ない。いくら待っても。でも来ないからこそそこにはロマンがある。ロマンはロマンのままに。廃線跡で仮に列車を呼び寄せてしまっても、決して乗ってはならない、と自分は思う。それはやはり現実逃避でしかない。「居場所がなければつくればいい」という「ぼく」の言葉は現実的だがまっとうなのだ。
    平間さん、今、幸せですか?

  • 不思議な気分になるお話。
    日常にありそうで、でも非日常。もしかしたら本当に実際その辺に転がっていそうな不思議な話。
    別世界への憧れは、誰しも少なからず持っているであろう気持ちだけれど、そこへ行くか行かざるか、それに焦がれて焦がれてそれでも大事なものはなんなのか。漠然と、でも確かに、私たちの心の中に草笛線は存在している。

  • 廃墟、廃線に心惹かれるものとしては、手に取らずにいられない本。
    廃線にまつわる不思議な噂話といなくなった男。
    そこから出発する物語。
    鉄道マニアの描写も楽しく、ワクワクしながら読めたな。

  • 「鉄道」がテーマのファンタジー、こりゃ鉄子としては読まないわけにはいかんだろう!!と期待して手に取った。
    そこを訪れると奇跡が起きると、一部でまことしやかに囁かれていた幻の廃線跡。そこに向かったと思われる主人公の知り合いの鉄道ファン・平間氏が失踪した。主人公の青年・牧村は、平間氏の知り合いである菜月(バリバリの鉄子)と共に、平間氏の足取りを追いながら幻の廃線跡の調査を始める。
    廃線跡を辿るという行為がどんなに大変か、ちょうど廃線跡を辿るルポを読んだばかりだったので、すごくリアルに想像できた。様々なテツ知識を絡めながら明らかになっていく廃線跡の謎。あまりにも鮮やかで、てっきり著者も筋金入りのテツなんだろうと思っていたら、どうやらそうじゃないらしい!いや、すごすぎます!!
    ミステリー的な前半。そして、廃線跡が存在する岩手に舞台を移してからの後半は、ファンタジー的要素が強くなってくる。岩手を設定したというのも、個人的にはうまいと思った。民話や伝説の宝庫、そして、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」。その要素も端々に感じつつ、廃線跡に奥深く踏み込むにつれ、驚くべき展開が…!
    後半はちょっと「999」のシーンを思い出したりもした。ファンタジーであるはずなのに、すごくリアリティがあって…まるで自分もその場にいるように感じられるほど引き込まれ、どういう選択をするのが幸せなんだろう、と考えさせられた。牧村と菜月の淡い恋も絡み、読みごたえ抜群!実在の鉄道、架空の鉄道が違和感なく描かれ、テツにとっては最高の小説なんじゃないでしょうか。ファンタジーといえど、ぞわぞわ怖い部分もあり、そして切ない部分もあり…。
    今度、長々揺られる鉄道の旅に出るときは、色んなことに思いを巡らせながら乗ってみよう。


  • 少しだけ不思議なファンタジー。
    居場所に疑問を抱いていた人たちの、自問自答の旅と言ってもいいか。

    主人公がラストにヘタレっぷりをみせてしまったので、少し評価は低め。それでも、話自体は面白く、読みやすいので星は3つとした。

  • 誰も知らないまぼろしの廃線跡がある。それを最後までたどった者は、奇跡を目にすることができる、そんな噂を聞いたあと行方不明となった「鉄」の友人を追い、彼らは「まぼろしの廃線跡」を探すことになった。
    おおお面白かった!前半分は東京でのミステリ、後半分は「まぼろしの廃線跡」を追っていく様子が幻想入りつつも語られる「奇跡」がまた……これ……鉄だったら絶対だよね!(^_^;;)いや、本作は鉄ではなくても楽しめます。なぜなら、主人公が鉄ではなく、ちょっとした廃線好き、ぐらいだからです。主役が鉄だと、そうでない読者おいてけぼりになりそうですが、そうでないので、距離感感じながらも熱を楽しめる。面白くて、読み終わるまで眠れませんでした。読み終わっても余韻を楽しむことができて幸せでした。すこし切ない話が好きな人には特におすすめ!私はこのラストけっこう好きです。選択がそうであっても、不安を残すところが絶妙。ぐふふ。そうでなくては。せいぜいがんばってくれたまへ。

  • たまたま手に取った雑誌の記事を読んで廃線跡に興味を持った牧村。そんな彼は廃線跡を見にいった先で出会った鉄道マニアの平間老人と、世代を超えて友情で結ばれることとなります。ところが平間は、始発駅から終着駅までたどれば奇跡が起こると廃線マニアのあいだでまことしやかに語りつがれている「まぼろしの廃線跡」のことを牧村に話してから間もなく、消息を絶ってしまいます。彼はどこへいってしまったのか?彼の手がかりを追って、テツ仲間だという菜月とともに東北へ向かうのですが…。

  • 廃線跡を巡るちょっとした冒険譚。
    パートナーである倉本さんが、無邪気なようでいて狂気を秘めており、それが終盤なんだか唐突に姿を現すので、前半の話が全部吹っ飛んでしまった。
    なんだろう、もうちょっと伏線というか、予兆のようなものが欲しい。
    何かを手に入れようとする「ぼく」と、何かを捨てにきた倉本さんの対比というか。
    捨てることをひとまず先送りにした倉本さんに対して、「ぼく」の方にそれに対応する何かが足りない。
    お互いに何かを先送りをしてバランスが取れるんじゃなかろうか。上手く言葉にできないけれど。

  • 20160603読了
    #鉄道

  • 国産初めて作者本読了!
    職場本にしては近年まれに見るヒット……良かった良かった、そうでないとうちの書棚墓場に見えてくるもんね(T_T)

    主人公はちょっと廃線ウォークに興味ある、まだ若い社会人。
    ひょんなことから鉄道ファンのダンディな老人と知り合って交流していくのですが、あるとき老人はふっつりと消息を絶ってしまいます。
    「日本のどこかにあるまだ知られてない廃線路の始めから終わりまで辿れば奇跡が起きる」
    そんな話を主人公に残して……
    ヒロインを始め鉄ちゃんネタが目白押しで、よくわからない所もありつつも、電車とファンタジーって結構相性いいと思います。
    「銀河鉄道の夜」しかり、「千と千尋~」とか「イバラード」とか……電車がここではない違う世界に連れていってくれる感じ。

    それとは別に、図書館でがっつり調べものをしているシーンとかが文句つけるところなくて好印象。
    司書が利用者の秘密を簡単にばらしたりする作品とかちょいちょいあるけど、これにはそういうのがなく、ちゃんと検索やレファレンスを使い倒してる。
    著者が調べものをよくして書くタイプみたいだから、普段こうしてるんだと思う。
    うちには彼の作品はこれしかないのですが、地元で他のみつけて設定が嫌いじゃなければまた読みたいかな。

    装画 / 松岡 潤
    装幀 / 新潮社装幀室

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著者プロフィール

一九六二年、東京生まれ。國學院大學文学部卒。二〇〇八年、選考委員から絶賛を浴びた『天使の歩廊』で第二十回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。綿密な取材と精緻な文章で紡がれる哀切感溢れる世界は、読者の心を優しく掴んで離さない。本作は、ファンタジックな企みとサスペンスフルな展開を融合した、著者の新境地を示す野心作。他の著書に『ロスト・トレイン』がある。

「2014年 『伝書鳩クロノスの飛翔』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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