- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103510710
感想・レビュー・書評
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どこで「弾性」を使い、
どこで「塑性」を使うのか、
自我を削り取って削り取って、
最終、譲れないものはなんなのか、
知っていきたい。 -
物をつくるなかでデザインが大きく誤解されている。カッコよくすることではない。既存のものとものをつなぐ、物の本質を知る。著者が伝えたいデザインと世間一般で思われているデザインは大きく違う。
物を深く掘り下げてその背景に思いをはせることで、もっと気づかいの出来る世界になるのでは。
塑する思考とはそんな考え方だと思った。 -
養老孟司先生が新聞の書評で「この本を読んで、自分もデザイナーになってみたくなった」と書かれていたのを読み、自分もこの本を読んでみたくなった。
これは、ニッカウィスキーの「ピュアモルト」明治の「明治おいしい牛乳」ロッテの「クールミントガム」などのデザインを手がけ、日本を代表するグラフィックデザイナーの一人である著者が(私は門外漢でお名前を存じませんでしたが)、それらの仕事を通じて思考し、たどり着いたデザイン論である。そのポイントを一言で表すとすれば題名にあるとおり「塑する思考」という著作オリジナルの言葉になるのだろう。「塑」とは、外部からの力に従ってどのような型にもなるが、決して元の型に戻ろうとしない、そもそも元の型というものがないという意味で、同じ「柔軟」ではあっても絶えず元の型に戻ろうとする「弾力」とは分けて考えるべきだという。柔軟に思考することは大切だが、デザインにおいては「塑する思考」すなわち、自分とか個性を表現しようとするのではなく、そのものに内在する価値を引き出すこと、いわゆる付加価値とは逆の発想こそが大切だというのである。和食の職人が素材の味を引き出すとか、仏師が仏様を彫るのではなく、木の中から仏様が現れる、などと語られることがあるように、いわゆる達人が語る言葉には分野を超えて通じるものがあるようだ。そもそもデザインとは絵画とか工芸とかいわゆる芸術の一分野に分類されるものではなく、人が生み出すあらゆるものに関わっており、その意味で人と物を仲介する「水」みたいなものだという。水は方形の器に隨う、たしかに「塑」だし、この惑星では普遍的に存在する生命の源でもあるから、デザインを論じるととても深い世界のことまで想像力が働いてしまう。養老先生がデザイナーになってみたくなったというのも、あながちお世辞ではないと思える。
この本にはグラフィックスという2次元の世界を超えて、奥行きと含蓄に満ちた言葉が溢れている。 -
21_21 DESIGN SIGHTのショップでたくさん並べてあったのと、この間までの「グラフィック展」で少し触れられていたので気になって読んでみました。
おいしい牛乳の人だとは知らず、読んで初めて知りました。
デザインを通して仕事、人生、生き方を視ていて気付かされることが多かったです -
すっごい面白かった。というより、とても重要な視座と言葉をいただいた、という感覚が強いかも。
まさに実用的な視座「構造」と、染み込む言葉の綺麗さ「意匠」を兼ね揃えた本。
物事の本質を「問い」から見出すこと。おそらくそれが、良い意味で自我と戦う一番の術なのかも。 -
本館 県立
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塑は「そ」と読む。力を加えても元に戻る「弾性」に対して、相手によって自在に形を変える「塑性」。著者はデザインというものを「塑」であるべきだと考える。
私もデザイナーの端くれなので、著者の言いたいことはよくわかる。著者が自分と同じような考えであることを知って、嬉しくなった。
デザインは自己表現の場ではない。たとえば、商品のデザインを考えてみる。消費者はお店に並んだ商品の中から気に入ったものを選んで買っていく。ならば、商品のデザインは「自分がどうしたいか」ではなく、「みんながどう思うか」が大事である。
この「塑である自我」という考え方が、養老孟司先生の個性に対する考え方とよく似ている。押さえつけていても出てきてしまうのが自我や個性で、そういうものはいい仕事の邪魔になる。なぜなら、仕事は世の中のニーズに合わせて存在するもので、あなたの欲求を満たすために存在しているのではないから。
この本はデザインの本ではなく、デザインそのものについて考えた本である。豆腐屋が「なぜ豆腐を作るのか」と考えるような本である。養老先生も解剖学者でありながら、「解剖とは何か」を考え続けた。そういう意味では、のちにお二人が「虫展」で一緒に仕事をされたのは、必然という気がする。 -
養老ブックガイドから。簡単に使うとたしなめられそうだけど、デザイン職者の手になる読みものを味わう機会はこれまで殆どなかったから、だいぶ新鮮な読書体験となった。