小津安二郎

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 76
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103524724

作品紹介・あらすじ

小津のキャメラが捉える原節子の向こうに、戦死した天才・山中貞雄がいる! 「晩春」「麦秋」「東京物語」――世界に誇る傑作群には、盟友への鎮魂歌がいつも静かに流れていた。鶏頭、麦畑、未亡人、粉雪、京都東山、龍安寺、そして壺……。激動の戦後史の中で、名匠は画面のディテールに秘められた想いを託す。生者と死者との間の「聖なる三角関係」が織り成す静寂の美の謎を解き明かす決定的評伝!

感想・レビュー・書評

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  • 全国小津安二郎ネットワーク
    https://ozu-net.com/

    受賞者は小津安二郎の名作「東京物語」の主人公? 司馬遼太郎賞が決定〈週刊朝日〉 | AERA dot. (2022/12/08)
    "第26回司馬遼太郎賞が11月30日、平山周吉さん(70)の『満洲国グランドホテル』(芸術新聞社刊)に決まった。"
    https://dot.asahi.com/wa/2022120700015.html?page=1

    平山周吉 『小津安二郎』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/352472/

  • ▼書名を見ただけだと、「はいはい、またまた小津本ですか」という印象だったんです。実は個人的に、20代の若いころに「小津本」を絨毯爆撃をするように読み漁った時期があり、全般食傷、もうあまり新刊が出ても読まないのです。正直、ほぼ知ってる話の焼き直しばかりですし。

    ▼ところが筆者名を見て「?」と興味が。「平山周吉」。これは、終盤の小津作品で頻繁に出てくる役名なんです。「・・・これは、かなりの小津マニアが書いてるんだな」と、購入。

    ▼結果、面白かったんです。大変に。DVD世代というか、ねっとり何度でも映画を見直せる強みを活かして、そしてとにかく「小津日記」をはじめとして同年代の新聞雑誌などのインタビューほかを丹念に丹念に読み解いて、書いてはります。そしてなにより、大胆な仮説を軸にして書いておられる。

    ▼仮説は、

    ・小津安二郎さんは、出征して戦地を踏んでいる。作家性の高い有名映画監督の中では、非常に例外的に、そうである。

    ・そして、盟友であり愛しい後輩の山中貞雄さんが中国戦地で病死しており、それは小津さんに強烈な喪失感とショックを与えた。

    ・そして山中貞雄さんは「河内山宗俊」で少女の頃の原節子さんを美しく撮った。原節子さんと山中貞雄さんは、その一点で分かちがたい記号になってしまっている。

    ・小津さんの、戦後の、いわゆる「原節子主演の紀子三部作(晩春・麦秋・東京物語)」を筆頭に、多くの映画が・・・・

    ・山中さんへの哀惜と、山中さんを通したいびつな形での原節子への憧憬・慕情が隠れた主題として、反復して描かれている。

    ・それは戦争の時代への鎮魂歌であり、戦争の時代を世間は忘れたかのように流れていくが、自らは(多くの人が)個人的に決して忘れ得ぬ中でどう生きていくか、という主題である。

    というようなことだと思います。

    ▼それらを、小津の日記と、同時代での小津の発言と、周囲の人の証言と、何よりも小津映画の画面の細部を検証して語っていきます。ちょっとした探偵小説です。でも、かなりの状況証拠があります。映画を手段として持っただけで、問題は小津さんという生活人が、何を経験して、どういう情緒を持って、何を語りたかったか。黒澤さんはじめほとんどの映画作家が「戦場」を知らぬ。自分はそこで何年も浪費し、文字通り泥を啜った。ヒトを殺したかもしれない。それでも今、亡き人を思いながらも平和と向き合って日常を生きねばならぬ。そんな小津さんが浮かび上がってきます。正直に言って個人的には涙モノの感動だったりしちゃいました。

    ▼小津さんが原節子に惚れていた、愛していた、みたいな男女スキャンダルな物語にもっていこうとは、しないんですね。小津さんの私生活の研究は没後にそうとうすすんじゃったので、「小津=原節子、愛情説」は、面白いけれど、「小津さんには別途、長い間の恋人っていうか愛人さんっていうか、そういう女性がいた」みたいなこととかがもう暴かれちゃっている。そういうのは当然、踏まえて描かれています。

    ▼「今更なあ」と思って読んだんですが、大大大満足してしまいました。平山周吉さん、というのは無論、小津マニアであるゆえのペンネームなんですが、他のネタを書かれても結構、好きかもなあ、と思いました。同時代にこういう姿勢と価値観のライターさんが居るのは、ちょっと嬉しいな、と。

  • 小津安二郎ファンは必読の書。
    産まれた日に死んできっちり60年の生涯を生きた名監督。
    朋友の山中貞雄(監督)の才能を認めその死を(28歳の若さ戦病死)嘆き悲しんだという。
    表紙の写真も小津監督と山中貞雄監督(確かにあごが長い、それを隠すために顎ひげを生やしていたそうな)と、お気に入りの女優、原節子の写真。
    ふたりは何度も噂になっていたみたいだけど、好意はあったのはもちろんだけど形にはなっていなかったような気がする。
    小津監督は生涯独身を通したけど、元芸者の森栄という器量良しの愛人さんが長年いたそう。
    大昔「秋刀魚の味」「晩春」は観た記憶があるけど、
    「東京物語」は録画したまんま、この映画についてすごく書かれているので観たあともう一回読みたくなるかも。
    佐野周二のことをのんきな感じを出せる俳優として、重宝していたよう、しかもなんの映画かわすれてしまったけど自身を投影していたのではないかと。
    私に敬愛する中野翠しの「小津ごのみ」が無性に読みたくなった。
    ちなみに著者の”平山周吉”は東京物語に笠智衆の役名。

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著者プロフィール

平山周吉(ひらやま・しゅうきち) 1952年東京都生まれ。
1952年東京都生まれ。雑文家。慶応大学文学部卒。雑誌、書籍の編集に携わってきた。昭和史に関する資料、回想、雑本の類を収集して雑読、積ん読している。著書に『昭和天皇「よもの海」の謎』(新潮選書)、『戦争画リターンズ 藤田嗣治とアッツ島の花々』(芸術新聞社)、『淳は甦える』(新潮社)。『戦争画リターンズ 藤田嗣治とアッツ島の花々』で第34回雑学大賞出版社賞、『江藤淳は甦える』で第18回小林秀雄賞受賞。

「2022年 『満洲国グランドホテル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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