涙をなくした君に

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 178
感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103530510

作品紹介・あらすじ

私は、最愛の息子を支配しようとしている……? 人間の逃れられない性を抉る長編小説。両親の愛を享受できなかった記憶に抗い続けながらも、いまだに過去から逃れられないカウンセラーの橙子。テニスインストラクターの夫・律と小学一年生の息子・蓮と、一見平穏な生活を送っている。だが、父が病に冒され、やがて再婚し、そして――。愛された記憶のない人間に、「家族」を大切にすることができるのか。

感想・レビュー・書評

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  • 両親の愛を享受できずに育った姉は、カウンセラーとして働きながら夫の息子と暮らす。

    心理学を学ぶことは、自ら心になんらかの傷を持っていると大学時代に誰かが言ってたと…思いながら他人のカウンセリングをする。

    母は再婚し、妹はバイトしながらシェアハウスで暮らす。
    父が連絡してくるのは姉だけ…
    結婚後も支配してくるのが、疎ましい。
    その後、父は肺癌を患い亡くなるのだが…

    親の愛情とは、いったい何なのか?
    目に見えるものでもなく、与えられる物でも無いのでは…。
    答えを明確にはできないと感じた。

  • 両親から支配されてきて、愛情を感じた事があるのか自分で分からない女性が、結婚、出産によって出来れば関わりたくない両親と関わらなければならない。好きになれない親からの遺伝子を感じてしまう自分の行動や心境で、自分の愛する夫と子供への行動を自分で疑ってしまう。これは愛なのか、支配欲なのか・・・。
    さしたる事件も起きず淡々と進んでいきますが、色々考えこんでしまうテーマの小説です。
    可愛い、愛おしいと感じる心と、めんどくさいと感じる心は両方同時に発生しますよね。心の底の底から愛おしさが湧き上がって、自分の事は何もかも最後でいいなんて思えないだろうし思う必要も無いです。
    しかし、どこかかみ合わない親子関係を長年続けると、ぶつかる事が怖くなって遠巻きにする事しか出来ない関係になるのって分かる気がします。ケンカして仲直りしてっていう関係は、芯に信じられるものが有るからぶつかれるんですもんね。
    そういう経験が無い状態で親になった時、正解が知識としてしかない不安感は想像できます。研究結果でも親子関係での負の連鎖はあると言われていますから、不安に感じて当たり前かもしれません。

  • ワーカホリックで外では良き教師、内では暴力を振るい自分の価値観を押し付ける父親を反面教師に、カウンセラーとして人の内面に向き合う主人公。
    仕事でも家庭でも、父親の価値観を否定する事に囚われ、自覚しながらも逃れられずにいる。
    人の内面の弱さが随所に出てくるので、爽快さは無いが、感じる部分はあった。

  • 今回藤野さんの作品を三つまとめて読んだのだけれど、なぜだかこれはあまり主人公が好きになれなかった。
    主人公は心理カウンセラーで、他者の心理を読み解くことを仕事にしていて、その思考は自分自身にも向いている。
    物語も、一方で現実の世界を描きつつも、ずっとその精神世界の中をただよっているようで、DV男だった父に対する葛藤を最後までなんともできずに結論を先送りにしている。同じようにDVに悩むクライアントがきちんとした別れに踏み切れないのをもどかしく見ている思いは、そのまま自分自身にも向いている逆転移構造があって、その問題をうまく解決できずに、自分自身の中にとどまってしまっている。小説全体がそうした、なんだかもどかしい話になっているようで、物語の力学で動き出していないように感じた。

  • 終始、どんよりとした空気が漂う作品。

    主人公は両親の愛情を享受出来なかった記憶に縛られ自らカウンセラーとして働く宮沢橙子。
    テニスインストラクターの夫・律と結婚し、小学一年生の一人息子・蓮と3人で暮らしている。

    穏やかな生活を送りながらも過去の記憶に囚われ足掻く橙子。

    外面だけ良く、家庭内で妻や娘にDVを繰り返す橙子の父親には軽蔑と嫌悪しかない。

    母親や妹に身勝手さを感じるも実際経験した人でしか解らない感情があるだろうし父親を見限る態度を否定出来ない。

    血が繋がっているからこそ許せない親子関係もある。

    血縁の闇は深い。

  • 評価が低いのは、幸せな人生を送ってきた人が多いのかな、と感じた。
    この著者、藤野恵美氏の本を読むのは、ショコラティエ、以来2冊目だと思うが、前作より断然よかった。

    両親の愛を受け育てられた、とは思えないカウンセラーの宮沢橙子。
    テニスのインストラクターをしている夫の律と、小学一年生の息子の蓮と、見た目は平穏な生活を送っている。
    ただ、心の中では自分よりも収入の低い夫に遠慮し、息子に(カウンセラーである知識のもとに、いけないと理性ではわかっているのに)怒りをぶつけてしまう。

    幼少の頃、小学校教員の父親が家庭内では絶対的な采配をふるっていた。暴力行為もあり、母親は後に離婚して元々の夫より高収入の男性と再婚。妹は、絶縁して住まいも教えていない。橙子は高校の頃、機能不全家庭であると認識、カウンセラーを目指し、父親より高学歴になり、無事その職につく。
    やがて、父親が肺癌になりその後亡くなる。
    喪主は、母親が出ていった後、ヘルパーをしていた女性。父親が実の母親とは別の人と再婚し、看取られたことも、遺産も何もかも、心の奥底で認めていないのだろう。

    カウンセラーにかかっていた経験もあり、両親の話も、その後の交流も、自分の話か、と思うことが多かった為、読んでいて思い出したこともあり辛かった。心の奥底をえぐり出すような。

    最後の、墓参りに行き、ありがとうの墓石を見て……のくだりは、うまくまとめようと持っていった感じで自分は嫌だと思った。そもそも、四十九日の夜の橙子の夫への絡み具合、あれをそのまま受け入れてくれる夫、というか人っているのかな。読んでいて、自分は夫の逆鱗にふれるから止めて!と思うほどだった。それは自分がそういう人としか、出会えていないということか…

  • いろいろと思うことがあり…
    図書館でふと、目に止まった本。

    読んでいて、自分とリンクしすぎていて、息苦しくなった。

    私自身は、暴力での苦しさはなかったけど、圧倒的な支配、共感性のなさ、母や妹との、どうしようもできない、価値観の相違…。
    そういうものは、すごくよくわかった。

    そして、息子に対しての関わり方…。

    私も、子供がいるので。よくわかる。
    時々、自分でふと冷めている事があり、私は子供や主人に、本当は愛情なんて持ってないんではないか…。すごく、冷たい人間なんじゃないかと、自分で自分が嫌になる。

    この主人公が、ラストに、少しでも泣けてよかった。そして…うらやましい…。

  • 家族について
    親子について

    改めて考えさせられました。

  • ジャケを見ると爽やかな話かなと読むが、重たかった。。厳格なのか小学校教諭の父親の暴力的な支配のもとに育った橙子と桃華の姉妹。父親が肺癌になり入院手術、そして亡くなるが、子供の頃の憎む記憶に上書きができず親身になれない。橙子は長女でありカウンセラーである職業との葛藤があるが、桃華は頑なに嫌悪感を現し拒否する。家族として完全に分裂し、いかにも昭和の父親像を垣間見る。母親も逃げ出し、夫婦は別れてしまえば他人に戻るが、父娘関係はと思うが。極端に憎む気持ちを露にする姉妹だが、墓に手を合わす姿に少しはホッとした。

  • 心理的な分野だと思います。
    主人公の変化していく気持ち…
    夫への感謝…
    たくさんの思いや考えが交錯していく物語

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著者プロフィール

1978年大阪府生まれ。2004年、第2回ジュニア冒険小説大賞を受賞した『ねこまた妖怪伝』でデビュー。児童文学のほか、ミステリーや恋愛小説も執筆する。著書に、「2013年 文庫大賞」(啓文堂大賞 文庫部門)となった『ハルさん』、『初恋料理教室』『おなじ世界のどこかで』『淀川八景』『しあわせなハリネズミ』『涙をなくした君に』、『きみの傷跡』に連なる青春シリーズの『わたしの恋人』『ぼくの嘘』『ふたりの文化祭』などがある。

「2023年 『初恋写真』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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