令和元年のテロリズム

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103538714

感想・レビュー・書評

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  • 事件に重ねて世相を語る文章は時に牽強付会となりがちであまり好きではないのだが、本書は8050問題や氷河期世代の問題と令和元年に起こった事件を重ねながらも、個別の事件の背景をきちんと読み取っていて、雑に世相をまとめていないところが好感を持てた。
    特に元農林事務次官長男殺害事件は裁判の様子まで追跡して、加害者擁護となりがちだった世論に対してどうしても抗わないといけない部分にかなりの確度で迫っており、読みながら力が入った。

  • やっぱり磯部涼さんの作品は好きだなと思った
    自分の価値観や正義のようなものを押し込むことなくそのまま書かれている
    筆者視点でのストーリー?もあって良かった
    内容もすごかった、
    その事件たちについてちゃんと調べてからもう一度読み直したい

  • 以下、引用

    ●ポピュリストたちが隆一に投げつけた「一人で死ね」なる言葉は、遺族の怒りを代弁しているつもりだったのだろう。しかしそこには、7040/8050問題をはじめとする社会的背景から隆一を引き剥がし 、個人に問題を抱え込ませ、彼をもともといた深く暗い穴の底にもう一度突き落とすかのようなー事件を社会的なものとして受け止めてなるものかというような強い意志が 感じられた。更にその言葉はまた別の男の背中を押し、もうひとつの殺人事件を起こすことになるのだ。男とは、元農林水産省事務次官=熊澤英昭である。あるいは彼こそが、誰よりも真剣に岩崎隆一の事件を”テロリズム”として受け止め、営業されたのかもしれない。悪意は伝染していく。
    ●あるいはそこでも被害者=熊澤英一郎と、川崎殺傷事件の容疑者=岩崎隆一とが重ねられてはいないだろうか。つまり、犯人が意図を説明することも罪を裁かれることもなく死んだ、川崎殺傷事件に対する世間の行き場のない感情が、熊澤英昭の殺人によって発散されたのだ。英昭に同情や共感、尊敬の声が寄せられるのに対して、英一郎は被害者であるにも拘わらず批判や揶揄の対象となっている。 マスメディアでは直接的な言い回しは避けられるものの、両親の資産に頼りながら彼らに暴力を振るっていたことが繰り返し報道され、それが「熊澤(英昭)氏を責められない」 という印象を強化する。
    ● 英一郎はエリート街道から外れてしまった自身の男性性の欠如を埋めるものとして、英昭に”強い父性” というイメージを求めたのではないか。もしくは周囲も英昭をそう見る中で、相互補完的に妻には”悪い母性”というイメージが着せられてしまったようなところがあったのではないか。そして英明自身も”強い父性”というイメージに押し潰されるように最終手段として子殺しを選び取ってしまう。
    ●京都アニメーション放火殺傷事件は実際にテロに応用されたのだ。これを受けて政府は、ガソリンを容器で販売する際には身分証明書の確認を徹底する事などの規制強化を決定する。
    ●青葉は昭和53年生まれ、加藤は昭和57年生まれで、共に就職氷河期世代にあたる。後者の事件と前者の事件との間には約10年の時差があり、その期間における青葉の経歴を検証すると、同時代の政治や労働運動が救うことができなかった人間の姿が浮かび上がってくるだろう。もしくは同じく改元直後に起きた川崎殺傷事件の犯人・岩崎隆一と、元農林水産省事務次官による家庭内殺人事件の被害者・熊澤英一郎も共に一般的な働き方からドロップアウトしてしまった人物だが、昭和50年生まれでやはり就職氷河期世代にわたる後者に対して 、前者は昭和42年生まれと世代がずれている。一方で、岩崎隆一が引きこもり始めたのは平成10年前後とみられ、就職氷河期と時期が被っているという意味では以上4つの事件は同時代性を持っている。
    ●確かに数々のエピソードから伝わってくるのは、英一郎はどうしようもない面を持つ人間だったということだ。しかし彼のそのどうしようもなさは、菊池の見解によればアスペルガー症候群と密接な関係があった。また事件の要因となったのは、英昭が様々な試行錯誤をしながらも最終的に問題を家庭の中で抱え込んでしまったことだ。それならばやるべきなのは、熊澤家の事件を、横田が書くように「この家庭の「悲劇」」「「家庭」だけの問題」としてではなく、「現在の社会そのものから必然的に生じた事件」として捉えること―彼らを包んでいた分厚い繭を切り開き、社会の側へ折り返すことだろう。あるいは前日のような子殺しにおいて、加害者がむしろ同情を集め、被害者が二の次にされてきた歴史を踏まえるのならば、熊澤英一郎という一人の人間についても思いを馳せるべきだ。繰り返しになるが、ツイートを始め彼が残した言葉から浮かび上がってくる人物像はどうしようもない。そしてそのどうしようもなさについて考えなくてはならない。(中略)裁判で取り上げられた「僕の44年の人生は何だったんんだ」という発言や「#子供の頃怖かったもの。成績が悪いと大切な玩具を叩き壊す愚母。エルガイム MKーⅡのプラモためらいも無く壊された、あのショックは30年以上経っても忘れられない…。私の性格がゆがんだ原因の1つですよ…」というツイートからは、テロリストの原点である孤独な少年の実存をはっきりと感じることが出来る。。ちゃんと生きたかったという叫びを聞くことができる。そこに耳を傾けなければいけない。

  • 令和になり話題になった事件について今一度考えた。高齢化、8050問題が顕在化して目を背けることはできないのは当然なんだけれど、日本が抱える一部の問題について自分ひとりに何が出来るんだろう。
    あとは神経科学や脳科学などのアプローチから事件関係者が抱える問題について知りたかったなあ。
    福祉も絶対に必要だが、根本的な解決策はそこな気もする。どうなんでしょう…?

  • 磯部涼さんの渾身のルポルタージュ、力作。いろいろあるが、第四章 元農林水産省事務次官長男殺害事件裁判
    は涙を禁じ得ない。令和元年前後の事件を取り上げているがその後も苛烈な事件は連綿と発生し続けており
    まだ令和3年なのかと思うと我を失う。

  • 特殊な人の特殊な出来事と感じるか、自分にでも起こり得るかもしれない、社会の問題として捉えるか。社内の責任という見方を学んだ

  • 1つの事件について深掘りされた本ではないが、社会全体の問題として大きく捉える視点で書かれている。背景となる平成という時代を考察する上で興味深い一冊だった。

  • いつの時代にでも
    陰惨な事件は起きている

    ただ
    その「事件」「事故」が
    どのように社会的に位置づけられるかは
    その時代に大きく影響されている

    本書では

    川崎での20人殺傷事件
    元農林水産省事務次官の長男殺害事件
    京都アニメーションの放火殺人事件
    東池袋自動車暴走死傷事故
    の四件を
    実に丁寧に取材し丁寧に思考しながら
    綴られた記録である

    どんな事件・事故でも
    その当座は大きく報道される
    しかし、
    検証、考察となると
    そこから位置的にも、心理的にも
    離れていしまうと
    ほとんど振り返ることもなく
    日常の意識からは遠ざかってしまう

    それだけに
    本書が世に出された意義は
    大きいと思う
    どんな事件・事故も
    その時代に生きている我々と
    無関係では無い
    そんな当たり前のことを
    思い出させてもらえる
    一書である

  • 令和元年に発生した未解決事件を追ったルポ。川崎殺傷事件、元農林水産省事務次官長長男殺害事件、京都アニメーション放火殺傷事件、そして東池袋自動車暴走死傷事故、報道や噂の裏にある真相は痛々しく絶望的になる。

  • 読んでいてしんどくなってきた。いつの時代にも陰惨な事件は起こるものだと思うし、時代の影響は受けるものだとは思う。令和の時代はこういう事件を生む背景を持っているというのがしんどい。元年の次の2年、3年はずっとコロナだし、何かロクでもない時代のスタートだなぁ。

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著者プロフィール

ライター(Twitter→ @isoberyo)。著書『ルポ 川崎』 『令和元年のテロリズム』。『リバーベッド』が初の漫画原作となる。

「2023年 『リバーベッド(2)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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