ツァイス激動の100年

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105314019

作品紹介・あらすじ

われわれは頭脳を獲るのだ-一九四五年六月、八四名の優秀な人材が連合国側に移され、東西ドイツに二つのツァイスが生まれた。顕微鏡、望遠鏡、カメラ…ドイツの科学技術を象徴する最高の光学企業が苦難の道を歩み始める。ナチス時代の弾圧、東西分割、そして再統一。激動の百年を支えた科学者と経営者を描く歴史ドラマ。

感想・レビュー・書評

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  • 働いている眼鏡店で取り扱っているメインレンズがカールツァイスなので手に入れてみたものの、最初の数十ページで止まったまま、何年か読まずにいた。
    その間に、世界の歴史について色々な本を読むうちに(同志少女よ敵を撃て、で独ソ戦、ベルリンは晴れているか、で大戦後のドイツの分割統治、など)1940年代世界への興味が増し、この本の冒頭が第二次世界大戦終戦直後の描写から始まることを思い出して数年ぶりに開いた。
    読み始めたら止まらない。
    まさに激動。

    眼鏡屋なら誰でも知っている「アッべ数」。
    レンズの屈折率が高くなるほど「色収差」(レンズで像をつくるときに光の波長によって像にずれ(色ずれ)を生じること)が大きくなる、その程度を数値化したもの。

    これを発見したその名もエルンスト・アッべこそ、カールツァイス財団最高の立役者だったとは全く知らなかった。
    カールツァイスは光学機器の腕利きの技師だったが、職人の勘のようなものでの物作りに限界を感じていて、若き物理学者アッべと出会い、理論に裏付けられた技術を得て、生産効率も大幅に向上する。
    1889年に「カールツァイス財団」が発足されるのだが、正直エルンスト・アッべ財団だよねこれ、と感じるくらいにアッべの功績は素晴らしい。
    頭脳面ではもちろん、会社ではなく財団にして社会貢献をすることに重きをおいたり、当時は休みなく1日16時間労働が当たり前だった時代において1900年から8時間労働を取り入れたり、退職金や年金制度、休暇など、様々な定款を4年がかりで作り上げた超絶民主主義人間。
    財団名にカールツァイスを付けたのは、自分が前に出るのは違う、ツァイスの職人の手あってこその財団だから、と、実際に手を動かす技能があってはじめて頭で考えられた理論が活きるという考えから。

    そんなアッべの素晴らしい定款も、ナチスが台頭する1935年頃に強制的に書き換えられたりもする。
    近代的な思想や芸術は退廃の象徴だ、これはドイツの物理ではなく北欧系人種の物理だと批判される。。なんだか、文化大革命に似ている。
    そして第二次世界大戦敗戦、ツァイスは冒頭のシーンに戻り、アメリカ側が統治する地域に主要な科学者達が連れて行かれてしまう。
    そのときのアメリカ兵が言った言葉が、
    「We take the brain.」

    東西ドイツに分断されたツァイス、裁判の記述あたりはちょっと眠くなってしまったが、そこから加筆された1990年10月1日の東西ドイツ統一後のツァイス再統一まで、かなり濃密にオタク愛溢れる筆致で進んでいく。

    正直、難しい言葉も多数出てきたり専門的な話も多い為万人受けはしない本だとは思うが、カメラ好き眼鏡好き、研究職エンジニアさんなんかは読むと楽しいと思います。

    個人的に面白かったのは、終盤に作者がアーレンにある眼鏡レンズ工場に見学に行き、レンズに反射防止コートをのせるためにフッ化マグネシウムの薄い膜を蒸着させる真空容器を見たときに、
    「アレクサンダー・スマクラ!」と叫ぶシーン。
    1935年に、Tコーティングという名でこの蒸着法を開発した博士の名前。もちろんツァイスの人。
    (ツァイスは、「光学大学」でもあり、その分野での一流の科学者を育ててきた歴史もある。)
    作者のオタク愛がここにも垣間見られて非常に良かった。

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