シカネーダー伝: 魔笛を書いた興行師 (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106004117

作品紹介・あらすじ

モーツァルトのオペラ『魔笛』の台本作家シカネーダー。ある者は天才と呼び、ある者は単なる興行師と呼ぶ。だが、彼こそは、18世紀末のヨーロッパを嵐の如く駆け抜けた、希代の劇場人だった。モーツァルトとの一瞬の交錯を含めて、その光と闇の全生涯を探る決定版評伝。

感想・レビュー・書評

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  • 評価:★★★★☆

    オペラにも魔笛にもモーツァルトにも全く興味がないのになぜこの本を手にとったのか自分でもよくわからない。

    狙って打ったというより、ボールが来たからとりあえず振ってみたという感じだが、結果的にはヒットだった。

    シカネーダーは18世紀半ばにオーストリアで生まれた、興行師で、劇作家で、演出家で、俳優で、歌手で、なにより破天荒な人生を歩んだ時代の寵児だった。

    ド派手でスペクタクルな舞台を作り上げるためにありとあらゆるものを使い、気球まで上げた。

    当時のオペラは僕らが現在思い描くものとは違い、もっと大衆的でポップで、混沌のエネルギーに満ちていた。

    それは江戸時代の歌舞伎が持っていた猥雑さと現代の歌舞伎との違いとでも言えば近いか。

    シカネーダーは春団治や藤山寛美といった昭和の芸人に似ている。

    稼いだ以上に金を使う。

    それで観衆が喜ぶなら破産など気にしない。

    女性にも次々に手を出す。

    当然奥さんには見捨てられる。

    が、なんだかんだあってまたヨリを戻すあたり、憎めないところがあったのだろう。

    本作が面白いのはシカネーダーの人生に触れるだけでなく、彼が評価されていた(もしくは批判されていた)のはなぜかということをその状況込みで説明してくれるところだ。

    魔笛が上演されたとき、人々はまだモーツァルトの天才に気づいていない。

    死後、彼の名声が高まるにつれて人々はその矛をシカネーダーに向ける。

    「あいつはモーツァルトの才能を搾取したペテン師だ」と。

    それはまるで自分たちがモーツァルトの天才に気づけなかった“後ろめたさ”をひた隠しにしたいが為にも見える。

    とにかく大衆受けを狙ったシカネーダーは評論家にはクソミソに貶される。

    悲しいかな、彼を支持した大衆には寿命があるが、評論は時代を超えて残る。

    評価の物差しが時代を越えて存在するクラシック音楽と、同じ時間・空間を共有し評価を感じるしかないポップミュージック。

    前者をモーツァルト、後者をシカネーダーとすれば、魔笛はまさに両者が同じ舞台の上で共存できた奇蹟のような時間だったのかもしれない。

    同時代の熱狂の中にしか存在し得なかった人物、シカネーダー。

    その人物像を、時代の臨場感込みで読者に伝えようという本書の試みには手放しで拍手を送りたい。

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著者プロフィール

1949年生まれ。東京大学文学部ドイツ文学科卒業。同大学院人文科学研究科ドイツ文学科修士課程修了。大妻女子大比較文学部教授。ドイツ文学。著書に『グロテスクの部屋』(作品社)、『シカネーダー』(平凡社)、『オペラ座』(講談社)、訳書にノイバウアー『アルス・コンビナトリア』(ありな書房)、ズレーデカンプ『ライプニッツと造園革命』(産業図書)など。

「2016年 『形象の力 合理的言語の無力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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