日本的ナルシシズムの罪 (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106106712

作品紹介・あらすじ

「頼られたい」という病、消えない「甘えの構造」、私たちの民族的宿痾とは? 個人より集団、論理より情緒、現実より想像……うつ病の急増、ブラック企業や原発事故など、あらゆる社会問題に通底する日本人特有のナルシシズムの構造とは。

感想・レビュー・書評

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  • 南相馬市で精神科医をしている著者が、これまでの症例を具体的な例に挙げながら、日本人の自我と社会との向き合い方の傾向について論じた本。


    とっても興味深く読みました。

    私は学校現場で教員として働いているのですが、自分自身や周りの生徒保護者同僚の行動と、この本に書いてある内容が「繋がる」部分が多々ありました。
    「この行動の根本には、こういう自我の在り方があると思うと納得がいくなあ〜」と。


    例えば、著者が診察したAさん。
    Aさんは職場で頑張りすぎて精神に不調をきたしています。だから、職場から精神的に距離を置いて休養をとることを著者は勧めます。

    しかし、
    『Aさんは、診療場面では医師のことを立てながら、良い雰囲気を保ちつつ一生懸命にその「場」に参加します。しかし、そこを離れてしまうと、担当医の私から与えられた指示を遵守するよりも、会社の「場」の雰囲気に沿って必死に頑張ろうとするのでした。』(本文14ページより)

    こういう人、周りで良く見ます。
    というか、私自身こういうところがあります。
    グサッときました。



    著者は更に、この傾向の根本にあるのは、乳幼児期の自我の形成にあるのではないかと論じていきます。
    物事には良い面も悪い面もあるということ。
    母親や周りの環境と、自分自身は別個の個体だということ。

    これを受け入れて、葛藤して初めて「自我」が芽生えるというのです。

    とどのつまり、現代の日本人にはここを上手に通過して確固とした、独立した「自我」を形成していない人が多いのではないかというのです。
    (著者はこれを否定しているわけではなく、この傾向が社会に与える良い面や、なぜ日本人がこのような傾向を持つにいたったのかを歴史的に考察しようとしています)


    自我がしっかりしていないと、周りの環境と自分を一体化させてしまう。著者はこれを「未熟な自我」としています。
    物事には良い面も悪い面もあるということを受け入れられないので、0か100かの幼稚な議論、判断になってしまう。



    たしかに、思い当たることがあるなぁーと思いました。


    自分の働き方がそうです。学校現場と一体化して自分の身を蔑ろにした働き方をしている。
    気が合わないクラスメイトと距離をとることができず、あくまで排除しようとする中学生がいる。

    社会を見渡すと、原発再稼働に関する議論、憲法改正(特に9条)に関する議論も0か100かの平行線に思えます。
    「ツイフェミ」と「ネット民」の論争にもこれを感じます。



    1回目の読了ではここまで考えました。
    面白いんですが難しい本だったので、消化しきれていません。
    2回目を読もうかなと思っています。

  • 日本人の精神性について論じた本。精神的なカロリー消費がやばいのでこころがだいじょうぶな人が読めば良いと思う。でも多くの日本人に読んでほしい。

    本書において「日本的ナルシズム(自己愛)」はおおむね以下のような性向を指し、(運が悪ければ)それが日本的なうつ病を引き起こすと主張する。
    ・社会(場)との想像上の一体感(不十分な自己)
    ・具体的状況への愛着と普遍的・理論的なものへの嫌悪(キリストは嫌いでもクリスマスは祝う)
    ・具体的状況の愛着ゆえの葛藤の先送り(平和と軍事力、憲法と安保法)
    このような性向は政府・企業・ご近所等、あらゆる組織において観測できる。これらが日本語の特性や農耕民族としての歴史から紐解かれていくのは大変興味深かった。

    日本と西洋近代が対立軸として書かれている。どちらが優れているとかないけど、政治や経済は近代西洋のロジックで回っているんだし葛藤を乗り越えて和洋折衷しなきゃね、って結論です。

  • ・想像上の一体感=曖昧な空気
    ・集団への過度な依存、自我の未確立
    ・ルールがない、第三者の適切な介入がない
    ・オモテとウラ(建前と本音)の使い分け

  • 個人より集団、論理より情緒、現実より想像…。日本人には今も昔も固有のナルシシズムが息づいている。昨今の社会問題すべてに通底する、民族的宿痾としての「日本的ナルシシズム」の構造を明らかにする。

    気分変調症については興味深かったけど,最終的には話が大きすぎる。

  • 自分に超当てはまるよと思ってしまうが、そもそもこの書を手に取る時点でバイアス掛かってるのは否定しない。何かしらのモヤモヤを抱えている人にとって、解決の糸口になるのではないか。その視点なかったわーと首肯しながら認知の幅を広げる。

    自分の美学にがんじがらめになって、それに殉じることさえ厭わない。それって生まれ育った環境に結構影響されてたのね、と腑に落ちたのはとても良い収穫!

  • 福島在住の精神科医である著者が、3.11の経験を含めて、臨床学的見地と精神科医としての初見から、日本人の個の病理から会社を含む集団の病理、はたまた国家を含む国全体の病理について見解を述べたものである。その根本が日本的ナルシシズムにあるとした著者の説明はなるほどと思わされるものであった。ナルシシズムが現実よりも自分にとって自分がどう感じられるか、他人からどう見られるかというイメージに起因するという説明は、当方が最近感じる「日本人は日本教という新興宗教に感染している」との説を強化してくれることになった。

    新型うつ、ブラック企業、原発事故後の推進派と反対派の相克、日本政治の今を鋭く切り込んでくれた著者の論調は爽快感を一瞬与えてくれたが、その解決のための処方について、その果てしなさについて、一挙にダークな気分に落ち込んだのであった。絶望の中からしか、希望は生まれないのだろうか。

  • うーんなんというか、子育て的にも、うつ病的にも、自分の性格形成的にも、もろもろおもしろい考察でした。

    p146 自我の確立は社会を否定するだけで成し遂げられるものでなく、

    p148 「他人のもたらす不快に耐える」という労働としての体験をしているたm

  • 新書にしては少し読みづらいところもあったが、普段思っているいろいろなことが本書を読んで腑に落ちた。そして、自分の中にも日本独特のナルシシズムを「良し」とする部分が多少あることもわかった。これを全否定するのではなく、あることを認めた上で何が問題かを考えていく。この作業が重要ということを改めて感じだ。

  • 真ん中でまったく違う本になっている。
    前半のところは参考になるのだが・・

  • 日本型ナルシシズムは、「頼られたい」と「甘えの構造」とし、うつ病との関連から、ブラック企業や原発問題関連まで幅広く論評、又日本人の伝統的心性の社会学的要素も加味した分析も的を得ている。

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著者プロフィール

ほりメンタルクリニック院長,精神科医。
1972年東京都台東区生まれ。私立麻布高等学校,東京大学医学部医学科を卒業。14歳の時にプロテスタントの教会で洗礼を受けたが,20代前半で無宗教の人間として生きていくことを選択した。東京大学医学部附属病院分院神経科で研修医となり,現象学や精神分析学を踏まえた精神病理学を学んだ。その後は東京都や埼玉県の精神科医療機関に勤務。2011年の東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故に衝撃を受け,2012年から福島県南相馬市で暮らす。2016年に同市でほりメンタルクリニックを開業。
著書に『日本的ナルシシズムの罪』(新潮新書)がある。

「2019年 『荒野の精神医学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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