- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106108235
作品紹介・あらすじ
世界一うまい羊肉はもう食べられない――。チグリス川の鯉の塩焼き、ソマリアのパパイヤ、カラシニコフ氏の冷凍ピロシキ―戦場で、紛争地帯で口にした「食」から考える国家の姿。ノンフィクションで辿る文明論。
感想・レビュー・書評
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『アフリカを食べる』が面白かったので、こちらも読んでみることにした。
紛争の絶えない中東、ホテルの門を護衛なしに一歩でも出たら打ち殺されるソマリア、チェルノブイリの放射能汚染の残るベラルーシなどなど。「食べる」と表題にしているが、「食べる」ことが難しい所ばかり。
筆者があとがきでも書いているように、
食べ物の背後に広がる光景は、日本の私たちの生活とあまりに違っています。
「食べる」ことの背景にある「国家」についても、
「国家」とは「国民に安全な生活を保障すること」
とある。
日本でぬくぬくとクリスマスのごちそうを食べ、お節を食べ…。私たちは幸せなのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
元朝日新聞社の記者が、主に物騒な中近東やアフリカに駐在していた頃に食べた異国の料理の味と同時に、15の国や地域の歴史と現状を考察した本。
イラクの羊肉やチグリス川の鯉など、取材の最中に口にしたご当地料理の数々も旨そうだが、料理にまつわるエピソードをきっかけにその国がたどってきた悲惨な歴史に思いを馳せていく部分が本書の中核となっている。
特に欧米の勝手な戦略が現地に残していった傷跡や、一部の権力者の圧政による貧富の格差に対する著者の目は厳しい。
カイロの炭水化物満載の「コシャリ」と警官の仕事、ソマリアのホテルで食糧が尽きた時にボーイが調達してくれた「パパイヤ」、エチオピアの辛い「インジェラ」と難民の親子、なぜかオーストラリアで流行っている南アフリカのソーセージ料理「ブルボス」、サハラ砂漠の基地で食べた砂利入りの「クスクス」…と、その時の味と同時に、その料理でもてなしてくれた人々や政治情勢がリアルに書かれていて、単なるグルメ紀行では味わえない奥深さを堪能することができた。 -
【書式】
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
底本 雑誌『考える人』から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 238ページ
ISBN 978-4-10-610823-5
C-CODE 0226
整理番号 823
ジャンル ノンフィクション
定価 858円
〈https://www.shinchosha.co.jp/book/610823/〉
【目次】
目次 [003-007]
地図 [008-010]
一 世界一うまい羊肉――イラク 011
固くてまずい牛肉、アクが強いラクダ肉/逃げてしまった入管職員/戦時下でも営業中/ボルト引く音に「撃つな!」/ふたが開いたパンドラの箱
二 チグリス川の鯉――イラク 027
塩味だけのあぶり焼き/便器まで外して持ち去る/エレベーターの△▽ボタンも/窓の下、弾丸飛び交う/開いていた鯉屋/登校途中の女児が誘拐される/独裁の方がまし、と国連事務総長
三 羊ひっくり返しご飯――パレスチナ 045
羊肉、タマネギ、ナス、トマト、ナツメグ/大鍋いっぱいの炊き込みご飯/4回のバス自爆テロ/21世紀につくられた壁
四 カラシニコフ氏の冷凍ピロシキ――ロシア 057
シカの骨のコンソメスープ/麦刈りの傷/焼きリンゴ入りのピロシキ/過剰生産された完璧な銃
五 昼食はパパイヤだけです――ソマリア 071
門外で車を降りたら即死/フィクサー頼み/学校に行ったことがない
六 エクソダスと血詰めソーセージ――南アフリカ・オーストラリア 083
肉そのものの粗挽き/ケープタウンにそっくりの気候/ビールとブルボス/南アフリカの中華焼きそば
七 ブドウの葉ご飯と王様――ヨルダン 097
ヨルダンでギリシャ料理/国王から「サー」/「国王は死んだ!」/国王の好物だったドルマ/国民の6割が外国人/国などなかった
八 モロヘイヤ・スープはウサギに限る――エジプト 113
ナイルのたまもの/他人が勝手に起こした離婚要求訴訟/「背教者」のレッテルは死刑宣告/殺された作家/オランダにはモロヘイヤがない
九 スパゲッティマカロニ豆ライス!――エジプト 127
炭水化物、炭水化物、炭水化物……/警官が違法駐車の管理/政府よりもムスリム同胞団/無料診療所/ムバラク元大統領がため込んだ5兆8000億円
十 インジェラは辛くてつらい――エチオピア 141
「雑巾色の薄焼きパン」はうまかった/マリア・テレジア銀貨/首都には十分な食糧があった/窓ガラスにしがみついた子どもたち
十一 砂漠の中のクスクス――西サハラ 153
肉煮込み汁かけご飯/熱々のアラブ風紅茶/砂の下の化石水/変わらない遊牧の習慣/野菜を育てるモロッコ軍捕虜
十二 ベラルーシのリンゴ――ゴメリ市 167
廃棄村に実る赤い果実/首に残る傷跡/増え続けた患者/虫がつかない/健常新生児は15〜20%
十三 断崖絶壁バーミヤンのナン――アフガニスタン 183
羊のあばら肉煮込み汁/破壊されたバーミヤンの石仏/丸パンは中東、縦長ナンはアジア/パトカーなんて来ない/谷ひとつ隣はよそ者/パンジシールの獅子/国家に必要なもの
十四 何がなくても覚醒葉っぱ――イエメン 199
イエメンの合法覚醒剤/元首から元首へ賄賂?/朝採れの新鮮な若葉/噛んでも噛んでも/映画館に武器預り所/誘拐する相談
十五 最高のフーフー ――ガーナ 215
キャッサバ粉や野菜バナナ/もんどり打った車/補修されない道路/180センチを超す大男/3LDKに住む国家元首/熱くて辛いから「フーフー」
あとがき(2019年6月 松本仁一) [231-236] -
面白い。
大体が、30年くらい前の、中東、アフリカの紛争地の最前線に飛び込んだルポ。そこで食ったものを描写するコオでむっちゃ日常感というか現実感というか生活感というか。
そういうものを感じさせてくれる。
ただ、メインは、そこにある戦場。不条理。
その時に世話になった現地の人たちにどんどんと連絡が取れなくなる。
文章も、乾いた感じだが読みやすくて良かった。
紛争が治らないのは、国が武力、暴力をコントロールできないから。
世界最悪の大量破壊兵器、AK-47がこんなに大量に世界中に出回ったのは、バカな計画経済で大量に作って、代金側にに莫大な数を世界中にばらまいたから。
それを、国家機関が管理できなかったから。
しかもその銃が、最高に性能がいい。
ため息しかない。
それが、世界の現実だ。
コントロールされない暴力。
見事に描いていると思う。
が。
突然、新興国家ゆえ、万系一世というストーリーは不要とか、無秩序な、人民不要の君主社会を日本の戦国時代に例えたりとか、流れに関係なく変な主張をぶっ込んで来るなあ、と思って著者紹介を見たら。
旭日社章の新聞社の関係者だった。
興ざめ。 -
羊、鯉、クスクス、コシャリ、ナン、など各章に出てくる食べ物にはどれも食欲をそそられる。パレスチナやヨルダン、エジプトでは、白ご飯ではないがご飯が登場するのにも親近感が湧く。
他方、登場する大半の国々では戦争や貧困のため凄惨な状況。「柔らかいイスラム・合理的な経済活動」ヨルダンの物腰柔らかな王様の章にほっとするぐらいだ。今年77歳の著者が現役記者だった頃の話なので10〜30年以上前の話ばかりだが、当時より治安や経済が良くなっていそうなのは経済発展を遂げているケニアとガーナぐらいで、イラクやパレスチナ、アフガンなどそれ以上多くの国では変わらないか悪化しているか。
著者は、イラクの章とあとがきで、国家の目標はまず住民の生活の安全だと述べる。米国がフセイン政権の独裁を除去したことで治安が悪化したことも。まず生活の安全がなければ民主主義や自由も語れないのか。本書の範囲外だが、監視社会化が進んでいるという今の中国の状況を念頭に考えた。 -
戦闘地域や紛争地域での食べる話だけど、当然そこには一般の市民がいて、その人たちは生きていくために食べていかなくてはいけない。
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東2法経図・6F開架:383.8A/Ma81k//K
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社会的情勢が不安定な地において取材の傍らで口にした印象に残る食事は?世界中を駆け巡ったジャーナリストならではの場所と食事。料理としては決して魅力あるものではないが、その背後にある状況、文化、宗教、習慣の実態が分かる。