国家の尊厳 (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106109089

作品紹介・あらすじ

混迷の時代、この国のアイデンティティを問う。暴力化する世界、揺らぐ自由と民主主義――日本が誇りある国として生き延びるために、国と個人はいったい何に価値を置くべきなのか。令和を代表する、堂々たる国家論の誕生!

感想・レビュー・書評

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  • 戦後、日本のアイデンティティーとは、自由と民主主義、成長主義、個人主義。これに対して新しい国家像、令和の日本のデザインを考える。キーワードは、「尊厳」だ。

    コモンセンスは多数の人間がよしとする価値観に支えられているが、それを持たない個人は、自分の中に閉じ込められてしまうとハンナアーレントは言う。明確な価値基準がないと、他人の芝生が青く見え、他者に翻弄される状態であり、自己の中に閉じ込められてしまう。社会に共有されている価値観を自分が物事を判断する際の支えや視座にすることで安心して判断を暮らすことができる。他者からの「承認」で満足を得られる。非正規雇用が何よりつらいのは、彼らが社会から正当な評価を受けられないからだ。個人単位では、こうした「尊厳」という意味が分かりやすい。著者の主張は、人間の尊厳を国家の尊厳に置き換えて考えられる。

    しかし、これは東西に揺るがされず、またはバランスを取りながら、尊厳を見出すべきだという提言になってくるのだが、言っているのは、トップの人間が骨太な指針を示すこと。尊厳ある国づくりが求められている。というトートロジーであり、尊厳が必要だから尊厳が必要だ、と。何やら背後に小泉進次郎でもいるようだ。ちなみに、ここでの東西は中国とアメリカを指す。

    というのも、尊厳が重要なのは自明であり、ならば著者の考える尊厳とは、経済的独立なのか、軍事的自立なのか、国体のコントラストを強めたいのか、国際社会における承認なのか、その点が様々な他者の著作の引用の中で見え難い。

    コロナになって見えた事に対して、多感に分析しても、特別な状況下における当然の社会反応が示されたに過ぎず、平時の環境設定に戻れば、人間の尊厳や不要不急と言われた生きがいのような事も自然に戻ってくる。コロナ禍の閃きは、コロナがいつかは終わるまでの忍耐を約束事とした社会反応を見たに過ぎない。従い、それを根拠には人の本質は尚、語れないものである。そして日々の欲望を管理する忍耐もまた、人の尊厳と言える。

  • 久々に頼もしい人が現れましたね。戦後の民主主義を生業にされている者達で溢れており、大衆への忖度及び優越感からの傲慢な言論に終始するマスコミ及び御用学者達からの感染リスクに晒されている私達。これらの者達をコロナウイルスと捉えれば、まさに武器となる方が現れたと…正に正常化、清浄化へとこの日本が変わる為の恒常的な哲学、思想をこれからも提供して頂きたいです。
    感謝動画期待です。



  • 例外状態の常態化
    遅さよりも速さを

    独裁すらない民主主義

    リベラリズム、レーガン的保守主義の克服

    ⚫︎物理的に子どもを産んでない父親が、共同体を維持するためのフィクションとしての物語
    男は物語を生む?

    共同体が都市国家になる。
    血縁関係としての父は、王に代わられる。
    家族共同体が都市共同体になる。
    そこで、所属意識を失った個人によって民主主義が生まれる。


    民主主義とは、そのイメージとは反対に、集団化が希薄になり、個人がバラバラな存在になることで始まったからです。

    民主主義はバラバラの個人の衆愚政治にすぎないということ。攻撃性を抱えた個人が、王に私利私欲の実現を要求し、受け入れられなければ革命と政変をつづけてしまう不安定な政治体制

    民主主義は、歴史と時間の否定
    連続性の否定

    瑞穂の国の資本主義 by安倍
    =米作りの生き方をモデルとした価値観や死生観

    ⚫︎令和日本のデザイン
    脱アメリカのアイデンティティの模索

    ⚫︎戦後民主主義
    =国家と市民は対立するもの
    をどう超えるか

    経済的豊かさだけでアイデンティティを規定することは「中間色の日本by三島」である。

    文化とは本来有毒な行動様式である
    三島由紀夫

    「文化概念としての天皇」
    三島の考えた近代日本全体への処方箋
    =戦前戦後の民主主義を否定

    全体意志の中から生まれる統一的意志
    一般意志
    ルソー

    ルソーは、人間社会とは深刻な分裂を抱え、他人同士が理解しあえない世界だと思っていた。

    書くことで自我の世界に立てこもり、
    理想を夢想する

    三島の「速さ」の危険性


    「〜からの自由」から、
    「〜への自由」へ。
    ベンヤミン
    =組織に所属してこその自由
    =精神的な安心あっての創造性

    自助だけでなく互助の回復

    菅義偉
    中間集団を奪い、個人主義化をうながし、政府や海外市場と直接むすびつきあうことを、徹底化するもの

    孤独より孤立がこわい

    ロンリネスという最大の課題に、
    個人主義はそぐわない

    社会構造を変えるためには「われわれ」を組織するテーマが必要?
    2012年は脱原発

    小熊の主張は三島同様美的すぎる

    日本的時間の厚みを再認識して中間集団を組むこと

    デモクラシーは、アメリカには理念たりうる「目的」だが、日本には「手段」にしかなりえない。なのにアメリカは普遍の名の下にそれを支配理念にしようとしている。


  • ●今から70年以上前、戦争中の市井の人々もまた、同じような雰囲気中にいたのではないかと言うことです。最前線で戦う医療関係者を英雄に祭り上げ、尊敬の眼差しを送る光景は、戦時中家を往来する兵隊さんに向けられた視線と同じではないでしょうか。
    ●私たちは平穏な生活を続けられることを前提に、私権の侵害はもってのほかだと言ってきた。しかしそこで求める自由とは、平穏が瓦解し想定外の事態にさらされた際、都会の片隅で給付金の支給を待つ1人親家族を、2ヶ月以上にわたり路頭に迷わすことを前提とした自由なのです。2つの自由が今回天秤にかけられた。
    ●長年の蓄積によって作り上げた巨大企業や、集権的な権力が乗っ取られていくことを、モイセス ・ナイムは「権力の終焉」と名付け、現代社会を読むとくためのキーワードだと主張した。

  • 「違和感の正体」「バッシング論」に続き、手にした先崎先生の著書。
    自由と民主主義の揺らぎ、令和の日本のあり方、ポストコロナの国家論などに明快に切り込む。

    ポピュリズムvs民主主義、自由主義vs民主主義、効率性と個人主義を追求した結果もたらされたもの、そして人の尊厳とは?

    先崎さんの言葉はいつもすんなりと入ってきて、ストンと胸に落ちる。目先の政策も大事だけど、政治家には対局的な国家像を語って欲しいと思う私に、今の日本の課題を言葉にして示してくれた著作でした。

  • 論文を読まされるのってつらいよね

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著者プロフィール

1975年東京都生まれ。東京大学文学部倫理学科卒業。東北大学大学院文学研究科日本思想史専攻博士課程単位取得修了。フランス社会科学高等研究院に留学。文学博士。日本大学危機管理学部教授。専攻は近代日本思想史・日本倫理思想史。
主な著書に『高山樗牛――美とナショナリズム』(論創社)、『ナショナリズムの復権』(ちくま新書)、『違和感の正体』『バッシング論』(ともに新潮新書)、『未完の西郷隆盛――日本人はなぜ論じ続けるのか』(新潮選書)、『維新と敗戦――学びなおし近代日本思想史』(晶文社)、『吉本隆明「共同幻想論」』(NHK100分de名著)、現代語訳と解説に福澤諭吉『文明論之概略』(ビギナーズ日本の思想・角川ソフィア文庫)などがある。

「2020年 『鏡の中のアメリカ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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