大恐慌を駆け抜けた男高橋是清

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120040009

感想・レビュー・書評

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  • 首相・日銀総裁のほか、いくつもの内閣で蔵相を務め、最期は2・26事件で暗殺された高橋是清という人物にスポットを当てた一冊。
    ですが、高橋是清の人物像に深く切り込むというよりは、彼を基軸にして明治維新から太平洋戦争開戦までの日本の財政・金融史を俯瞰することに重きが置かれています。
    通常「歴史」を語る際に政治史や社会・文化史の陰に隠れがちな財政・金融という観点でこの時代を改めて振り返ってみると、一般的な日本近現代史とはまたちょっと異なる側面が見えたりして、なかなか興味深かったです。

    この時代の財政を理解するにあたって重要な意味を持つキーワードが「金本位制」。
    現在の変動相場制に慣れ切っている身には、金本位制の時代の感覚やメカニズムを理解するのがなかなか難しい。
    読んでいる途中、当時の経済の動きを追う中で「この場合為替レートがこう動いて…」などとついつい考えてしまったりします。

    当時、金本位制を採っていることは、その国の経済の信頼性・安全性の証であり、外資を呼び込み殖産興業を図るために必要なことであった。
    一方で、金本位制の下での輸入超過は正貨流出を招くものであり、明治時代を政府は徹底した緊縮財政志向であった。
    この本で振り返られている当時の政府の健全財政志向・デフレ志向には、「景気対策」としての財政出動が当たり前のように肯定されている現代の我々からみると驚かされるものがあります。

    軍事的には勝利した日露戦争は、賠償が取れなかったことから、財政的には負け戦であった。
    第一次大戦の特需で一時的に好景気に恵まれるもののバブルははじけ、さらに関東大震災が追い討ちをかける。
    震災手形の処理を契機に深刻化した昭和恐慌下、国は税負担を地方に押し付けたために農村は窮乏し、都市と農村の格差による社会不安が軍部台頭の遠因となる。

    高橋是清が絶命するまで、昭和8年〜11年にかけての「高橋財政」下では金輸出再禁止と低金利政策による産業振興により、農村疲弊や軍部対応の暗いイメージと裏腹に、日本経済は絶好調であった。
    好況を背景に軍部は軍事予算の拡張を要求するが、公債発行の限界を読み取っていた高橋はこれに応じない。
    そのことにより、高橋は軍の憎悪の対象となり、2・26での暗殺を招くことになる。

    高橋財政が好況をもたらしたことは世間には理解されず、専ら満州事変が景気拡幅を実現したと信じられる。
    高橋没後、軍事予算の拡張には歯止めがかからず、日本の財政状況は急激に悪化する。
    一般に、日本は「持たざる国」であり、欧米の「持てる国」の敵対政策により追い込まれたとの構図が、現在でも信じられているが、昭和10年前後の好景気時代には日本はけっして「持たざる国」ではなかった。
    軍部暴走による財政悪化と日満ブロック化などの国際的な孤立政策が、自らを「持たざる国」へと追い込んでいったのである。

    …というのが、この本が俯瞰する大まかな流れです。
    一点留保しておかなければならないのは、著者が現役の財務官僚であり、この本自体「ファイナンス」という財務省の広報誌に連載されたものをまとめたものであること。
    財政均衡主義への肩入れ感など若干のバイアスは差し引く必要はあるのかもしれませんが、理屈としては正しいことが書いてあると思うし、基本的には客観的な立場で論じられている印象です。

    財政肥大による公債負担増や、格差社会による社会不安の増大・右傾化は現代にも通じるものがある、などと通俗的なまとめ方をするつもりはありませんが、当時も今も、経済や財政のメカニズムは一般世間にはなかなか理解されないものであり、それがポピュリズムと結びつくと不幸な結果を招く恐れがある点は同じだな、という感想です。

  • 読了。日清日露戦争から太平洋戦争に繋がる歴史を日本の財政面から解説する。基本的な知識が無いから読むのが大変だった。高橋是清もそんなに登場しない。是清ファン(?)としては高い壁を感じた一冊。

  • 本書は、財務省職員の筆者が、戦前の財政政策を引っ張った高橋是清の生きた時代を通じて、国際社会、国内の社会情勢の変化に財政政策がどう対応してきたのか(特に軍備拡大の要求に対する高橋是清)、当時の世相なども織り交ぜて分かりやすく書かれた良書だと思います。

    <興味深かった点>
    ・国際連盟脱退などに関わらず、関東軍による満州事変、特に上海事変がなければ中国との全面戦争、欧米との大戦は避けられたのかもしれなかったこと。
    ・現地での利権、資源確保を目的とする意味で当時から経済戦争であったこと。
    ・当時の国民は国際情勢を理解していなかったことから戦争を支持したが、一方で都市と田舎、富める者と貧しい者の格差が拡大し、社会的不満が高かったことも原因となっていたことから、適切に情報を伝えることの重要性と社会不安をなくす努力の必要性を感じたこと。
    ・高橋是清の経験に基づく確固とした考え、毅然とした態度により軍部の強い予算要求にも対抗できたが、その直截的な態度がやがて2.26事件での惨殺につながったこと。

  • 金融の知識がチンプンカンプンなので、わかりやすく理解できるかなと思って手にしたけれど、やっぱりチンプンカンプンだった(笑) 諦めて金融論の本を読むことにしました。とはいえ、明治から昭和にかけて財政を中心に内閣の動きをまとめてあるのは、授業や他の本を読むときの参考になった。舌鋒するどく相対した井上準之助と高橋是清であったが、認める部分は大いに認めていた辺りは、足の引っ張り合い"ばかり"にみえる今の政治家も見習ったらどうだ。

  • 時系列に沿って書いていないことから、まったく理解しにくかった。
    高橋是清が主人公のようなタイトルなのに、その時々でスポットがあたる人物が変わるので、その人物がとった施策・行動になんの背景・意味があるのか解らなかった。

    これなら伝記を読んだほうが良かった。
    タイトル負けの作品。

  • 5章まで読む。以前読んだ高橋是清伝は個人伝記ゆえ時代・人物背景がいまいち良く分からんかったがこの本では日本の置かれている状況・内憂外患(内は財政不足・外は不平等条約に外敵(中国・露西亜))がはっきりくっきりわかりもう一度高橋是清伝を読み直したくなった。植民地や移民に対する時代による価値観の(保護国としての役割や植民地に対し産業発展の寄与)などまあ、無論支配された方からすれば激怒しそうだが納得がいった。

  • 高橋是清の伝記というよりは、高橋是清が生きた時代の経済、財政政策について書いた本。
    この当時の論調は思想的に軍国主義になりやすかった、と書く本が多いが、この本はその理由には経済、財政面からの影響が多大にあったんだと教えてくれる。
    私にとっては、戦前史を見ていくうえで欠けていた視点だったので、非常に参考になった。

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著者プロフィール

第二次安倍政権で内閣府次官を務め、アベノミクスの旗振り役として活躍したエコノミスト。

「2019年 『日本経済 低成長からの脱却』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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